放射光特論講義 朝倉清高 1 1. 序文 1.1. 放射光とは、 放射光とは、 “光速に近い速度で運動する荷電粒子が加速度運動をした際に放出される電磁波“ である。 1.2 放射光の特徴 その光の特徴は、 1. 連続光であること 2. 強度が強いこと 3. 指向性が高いこと 4. 直線偏光 5. パルス性 こうした特徴を持つ光源は他にない。本講義の目的は、 放射光の発生の原理と発展 放射光の応用 を述べる。 1.3. 放射光の歴史 放射光は、最初に Sokolov や Schwinger らにより理論計算がなされ、放射光発生が予言さ れた。その後、リング型加速器を使って、荷電粒子(電子、陽子)を加速して、原子核や 素粒子の内部の構造を調べる際に、加速器から放出される放射光が観測されるようになっ た。加速される荷電粒子は絶えず放射光を出してエネルギーを失う。このため、放射光は、 リング型加速器を用いて荷電粒子を加速していくときに邪魔者扱いされてきた。 しかし、1.2 で述べたような特徴を持つ放射光は、これまでにない光源の性質を有している ため、物質科学を調べるための道具として、利用されるようになった。 最初の利用は、加速器で素粒子の研究を行う傍ら、そこに寄生して放射光をとりだすとい うもので、放射光専用でなかったため、電子の軌道が安定せず、又寿命が短かく、細々と 研究が行われてきた。しかしその有用性が認識されると、放射光専用のリング型加速器建 設の機運が高まり、日本、米国、ヨーロッパにおいて、放射光線用リングが建設されるよ うになった。日本においては、東京大学田無にあった原子核研究所に放射光専用リング INS-SOR が 1975 年に作られた。歴史的に言うと、素粒子研究に寄生して行われてきた放 射光リングを第1世代リング、放射光専用リングとして、設計製作されたリングを第2世 代リングと呼ぶ。INS-SOR はエネルギーが 0.38 GeV と小さいため、放出される光のエネ ルギーは低く、VUV 領域に限られた(現在、INS-SOR は、その役目を終え。Spring8 の展 示室でほぼ 完全に復元され、一般に公開されている。)1982 年に高エネルギー物理学研究 所(現在の高エネルギー加速器研究機構)に 2.5 GeV の放射光専用リング(KEK-PF)が建設 されると、X 線領域までの光を放出することができるようになり、放射光利用は本格化した。 2 PFは、臨界エネルギーが 4keV 付近であり、20keV 程度までの X 線を放射する。一方、 放射光はさらに進化した。1つは、アンジュレ-ターなどの放射光放出方式の進化である。 2つ目は、電子ビーム自身の軌道を制御し、高輝度化を実現することである。高度化され た放射光線用リングを第3世代のリングとよぶ。我が国には、SPring-8 がある。SPring-8 は 8GeV のエネルギーを持ち、世界最大の放射光リングである。一方、商用の小型リング の開発も続いた。超伝導マグネットを用いることで、小型の放射光リングが建設され、簡 易に利用する放射光リングが各地で建設されている。(大学では、立命館の RITS, 広島の HiSOR など)また、国家プロジェクトとして建設されてきた放射光リングも最近では、地方 自治体が主体となり、建設と運用がなされるようになってきている。兵庫県には、New Subaru があり、佐賀県には SAGA-LS が 2005 年度から運転され始めている。また、今年 名古屋で、1.2GeV の小型放射光が運転開始した。この小型放射光は、Superbend とい う特殊なベンディングマグネットを搭載しているため、小さいながらも高エネルギーの光 を放出することができる。こうした小型放射光リングは産業利用への貢献が大いに期待さ れる。 海外においては、Spring-8 のような大型の第 3 世代リングばかりでなく、 Diamond,SLS などの中型でかつ高輝度を実現したビームラインが次々と建設され、運用さ れている。これは、電子軌道の制御技術が向上し、高エネルギーにしなくても電子ビーム を絞ることが容易にできるようになったからです。昨年フランスの ESRF では、中規模の エネルギーをもつリングによる回折限界光(50-150pm)を実現できることがしめされ、中規 模計画が各地で目指されている。(SPring-8 II 70pm) 表 1.3-1 年表 •1898 Lienard 円運動する荷電粒子放射の理論計算 •1940s Sokolov (1948) Schwinger(1946) SR 光の理論計算 •1947 Elder First observation of SR •1960-70 Utilization of SR •1982 PF, UVSOR •1997 SPring8 3 図 1.3-1 INS-SOR ring の設計図 B がベンディングマグネット、Qは四重極子 がベンディングマグネット、Qは四重極子 図 1.3-2 INS-SOR の写真 4 図 1.3-3 PF 施設 図 1.3-4 PF 内部の配置 5 図 1.3-5 SPring-8 の外観図 図 1.3-6 SPring8 の外観図 6 図 1.3-7 内部の配置 1.4. 放射光の未来 次世代光源計画がいろいろ考えられている。2つの方向である。1つは、より強い光をと いう欲求である。もう一つは、安価で手軽な放射光という考えである。 前者の代表例として、FEL、自由電子レーザがある。光と電子を強力に相互作用させて放 出させる光は、放射光にない干渉性の高い光となる。この場合には、電子はリングの中を 走ることにより光を放出するのではなく、線形加速器内を高速で走ることで、電子が放出 される。光放出は一回きりの過程である。一方、同じ線形加速器を使うが、電子をリング に打ち込み、放射光を発生させ、その電子が回り終わったときに電子からエネルギーを回 7 収し、新たな電子の加速に用いる Energy recovery linac(ERL)計画も考えられている。後 者は、先の述べたあいちリング,佐賀リング、HiSOR, 立命館になろう。 超小型リングであるというのが別途立命館で開発されている。これは“みらくる”計画と よばれ、ヨーロッパでも注目を集めている。しかし、放射光とはその原理が異なるため, 高エネルギーが出るものの,十分な力を発揮しているとは言い難い. 問 1.4-1 現状の放射光の最大の欠点は何か指摘せよ。 問 1.4-2 あいち SR について、調べてみよ。 問 1.4-3 ERL, FEL について、発生原理やその光源特性をのべよ。 8
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