加速器の先端応用的 ~次世代X線イメージング~ 日本大学量子科学研究所 電子線利用研究施設(LEBRA) 早川 恭史 2006年10月 5日 LEBRA 放射線と加速器 • 放射線(粒子線) 高エネルギー粒子の総称 • 荷電粒子(電子, 陽子, イオン・・・) • 中性粒子(光子, 中性子) • 加速器 荷電粒子を電場で加速する装置 一種の放射線発生装置 • 加速粒子 電子, 陽子, 陽電子, イオン・・・ • 加速器のタイプ 直線加速器, 円形加速器 (高周波加速) 静電加速器 LEBRA X線とは何か? 放射線の一種 X線は波長の短い電磁波(高エネルギーの光子) Photon Factory (KEK) のサイト( http://pfwww.kek.jp/ )より引用 LEBRA X線の定義 • X線 (原子中の)電子の状態変化によって生ずる 電磁放射( 特性X線, 制動放射 ) • γ線 原子核の状態変化によって生ずる 電磁放射 (原子核の遷移, 原子核反応) 慣例としてエネルギーで区別する場合が多い 特に1MeV以上をγ線 100keV以下程度をX線 LEBRA X線の研究・発見の歴史 1895年 1896年 X線の発見(レントゲン) (放電管の研究) ウラン放射能の発見(ベクレル) 1908年 計数管の発明(ラザフォード, ガイガー) (測定技術の進歩) 1931年 サイクロトロンの発明(ローレンス , リヴィングストン) 高電圧加速器の発明(コッククロフト, ウォルトン) 1932年 LEBRA X線を用いるメリット 何故X線を使うのか? •透過力が高い 特に短波長(高エネルギー)のX線は物質を 透過しやすい 物質を構成する元素の種類でコントラストが つきやすい (レントゲン写真, ラジオグラフィ) •波長が短い 原子レベルの微細な構造を見ることが できる (X線回折実験) (見えるサイズの限界~光の波長) LEBRA 一般的なX線源 •X線管(放電管の延長) 静電加速した電子(<100keV)を金属ターゲット に照射(特性X線, 制動放射) 回転陽極(ローター)による高強度化 (研究, 医療, 非破壊検査, etc …) 低エネルギー加速器 によるX線源 LEBRA 加速器を用いたX線源 •小型電子加速器 電子線形加速器(リニアック)やベータトロンから の電子ビーム(> 1 MeV)をターゲットに照射 ⇒ 制動放射 (医療, 癌治療, 大型非破壊検査) •大型放射光施設 シンクロトロンで発生する制動放射を利用 偏向電磁石: 白色, アンジュレータ: 準単色 ⇒ 波長選択可能, 高輝度 (研究) LEBRA 特性X線 原子の内殻軌道に空位がある とき、外側の軌道電子が遷移 して光子を放出する 最も内側のK殻(重い元素の 場合はL殻)が空いていないと 光子のエネルギーが数keV 以上にならない 輝線スペクトル(単色)のX線が得られる (等方的に放射) LEBRA 制動放射 観測者には電荷の振動 つまり 交流電流として見える (電気双極子放射) 高エネルギーの荷電粒子が外場(磁場, クーロン場) によって加速度運動(減速, 曲がる)をする時、運動の 接線方向に電磁波を放射する 指向性のある白色X線が得られる LEBRA シンクロトロン放射 円形加速器中で電子ビームが磁石の磁場によって 偏向をうけるときに発生する制動放射 •指向性 ~1/ 接線方向に放射 ビーム加速という観点からは厄介者 4/ρ •放射パワー ∝ γ ↓ ( ρ: 曲率半径 ) 光源(線源)として見てみると、 E: 電子エネルギー メリットがいっぱい! •臨界周波数(波長) (高輝度、指向性が良い、波長選択可能・・・) = E/mec2 3 / 2ρ ω = 3cγ c 相対論ローレンツ因子 •直線偏光 電子のエネルギーが高くなるほど、 短波長&ハイパワーの放射が起こる LEBRA 加速器のエネルギーと臨界波長 短波長高輝度化するには 電子エネルギー → 大 あるいは 曲率半径 → 小 電子エネルギーを上げる ほうが効率が良い (施設の大型化 GeV領域) LEBRA X線源の進歩 第4世代光源(ERL? XFEL?) 第3世代光源(SPring-8@播磨) 第2世代光源(PhotonFactory@KEK) シンクロトロン放射 LEBRA 大型放射光施設 大型のシンクロトロン蓄積リング を用いることにより、 高輝度、単色(波長選択)、 複数光(X線)ビームライン を実現 第2世代 Photon Factory (日本) 兵庫県播磨 SPring-8 http://www.spring8.or.jp/ 第3世代 SPring-8 (日本) APS (米国) 予算規模は1000億円レベル ESRF (フランス) ⇒ 国家プロジェクトにならざるを得ない LEBRA 放射光施設のビームライン 複数の光、X線ビームライン を並列に運用可能 用途に合わせて、光源 を選択できる (波長、光源の質は様々) LEBRA 加速器で用いられる光源・線源 偏向電磁石放射 電子が曲がるときに接線 方向にシンクロトロン放射 赤外~(軟)X線の準白色 光源となる 結晶分光器との組み合わ せにより、連続的にX線の 波長が精度良く選べる SPring-8のサイト http://www.spring8.or.jp/ より引用 一般に曲率半径は大きい ⇒ 短波長化は難しい LEBRA 加速器で用いられる光源・線源 アンジュレータ放射 磁石を交互に並べたアンジュレータ (挿入光源)により、電子は(正弦的 な)蛇行運動 ↓ シンクロトロン放射が準単色化する (一種のドップラー効果) 特定の波長の輝度が飛躍的に向上 SPring-8のサイト http://www.spring8.or.jp/ より引用 日本大学電子線利用施設 近赤外用(0.8~6μm)アンジュレータ (アンジュレータに比べて)大き目の蛇行を http://www.lebra.nihon-u.ac.jp/ ウィグラー放射 数回起こしてやる 白色スペクトルが短波長にシフト (フーリエ高周波成分が増える) LEBRA X線イメージング(レントゲン写真)の原理 I = I0 exp ( -m x ) 吸収により線量は 指数関数で減少 吸収係数 × 厚さ ( X線が透過する物質の密度に比例 ) LEBRA X線イメージング(レントゲン写真)の原理 • 物質を透過する際の吸収の 強さが「影」として見える (非破壊検査への応用) • 吸収の強さは物質の種類や 厚さに依存 (内部構造のイメージ化) • 試料物体内部の密度の 積分情報が得られる 吸収コントラストイメージング レントゲンによる初のX線像 (1896年) 1901年に最初のノーベル賞 LEBRA 従来のレントゲン写真の問題点 • X線源は白色制動X線が一般的 ⇒ X線吸収の元素依存性が使えない (吸収特性は実効的、経験則的に決定) • X線吸収を検出原理としている ⇒ 吸収の弱い軽元素物質(生体軟組織)は コントラストが得にくい(見えにくい) 照射する線量が結果的に多くなる X線吸収によって引き起こされるダメージが問題! LEBRA X線吸収端のふるまい Cu (K-edge: 8.981keV) Zn (K-edge: 9.661keV) LEBRA 吸収端を利用した元素同定イメージング 恐竜の卵の化石 エネルギー可変単色X線のメリット Sr(K吸収端:16.1keV)が存在 LEBRA 光の屈折による可視化 透明な物体は目に見えるか? 屈折により吸収に頼らなくても見える! LEBRA X線位相コントラストイメージング 位相コントラスト(差)イメージング X線がサンプルを透過する際に 受ける位相シフトによって、僅かな構 造を検出するイメージング手法 • 軽元素物質に対して高感度 • X線の吸収によるダメージが小 (吸収に頼らない) R. Fitzgerald: Phys. Today 53 (2000) 23 • 試料物体の密度の微分情報が 得られる 医療応用に大きな期待! LEBRA X線位相コントラストイメージングの例 高エネ研(KEK): 安藤正海教授 他 回折強調型位相コントラスト イメージング(暗視野法) 乳頭腺管ガン 通常の吸収コントラスト像 透過力の高いX線で高コントラストが得られる! しかしながら・・・ 空間コヒーレンスに優れたX線源が必要!! LEBRA コヒーレントなX線源(現状) 放射光自体のコヒーレンシーは良くない(カオス光源) 第3世代 放射光 厳しいコリメーション(点光源化)&単色化 距離が離れると・・・・・ 届いたX線の波面が平面波的に揃ってる! 伝播コヒーレンス(空間コヒーレンスが良い状態) レーザのような光源レベルのコヒーレンスをもつ X線源は(地球上には)まだ存在しない LEBRA 新しいコヒーレントX線源 •ERL(エネルギー回収型リニアック)放射光 電子ビームは1回で使い捨て (常に新鮮なビーム) エミッタンス向上(点光源化) ⇒ 空間コヒーレンス↑ LEBRA SASE-FELによるX線源(XFEL) 数m 数10m~数100m? 共振器を用いる代わりに 非常に長いアンジュレータ (場合によっては複数直列) を用いると、実効的には 同じような働きになる 自己増殖自発放射光(SASE)タイプのFEL 鏡が不要 → X線領域でも可能 (XFEL) LEBRA 日本大学電子線利用研究施設(LEBRA) 理工学部船橋校舎(物理実験B棟) 近赤外自由電子レーザ(FEL) 125MeV電子線形加速器(リニアック) LEBRA パラメトリックX線放射 (PXR) ~ ~ パラメトリックX線放射(PXR) 数10~100MeV程度の電子でX線の発生が可能 結晶の回転により波長を連続的に変えられる LEBRA 2結晶型PXR発生装置 LEBRA LEBRA PXR発生装置 PXRによる連続波長可変X線源は世界初の試み LEBRA PXRによるX線吸収イメージ 18keV: IC 波長が自由に選択可能 PXRとしては2004年現在世界で唯一 (実績: 6keV~20keV) 13.5keV: ICガード 平行性が高い(発散が小さい)ため、イメージングに適している リニアな波長グラデーションを持っている LEBRA PXRによる回折強調型位相コントラストイメージング ~0.6 m ~8 m サンプルを透過したときに生ずるX線の屈折をアナライザー結晶による 回折を利用して検出する(屈折コントラスト法) (A): 通常の吸収コントラスト (B): 吸収コントラスト+屈折エッジ強調 (C): 回折強調型位相コントラスト(屈折コントラスト) LEBRA 位相コントラスト像 (ジグモ) 2Hz 30min. by IP ジグモ 吸収コントラスト @ (A) 吸収コントラスト+ エッジ強調@ (B) 通常の吸収コントラストとは見え方が異なる アナライザーの回転によりコントラストが反転 (位相反転) LEBRA 位相コントラスト像 (ファイバー) プラスチックファイバー ( 直径 2mm ) 吸収コントラスト+エッジ強調 @ (B) PXRエネルギー: 14 keV LEBRA PXRによる回折強調型位相コントラストイメージング 吸収コントラスト パラフィン封入 した葉っぱ 位相コントラスト LEBRA まとめ • 100年以上にわたって、X線イメージングは社会 に大きく貢献してきた • 加速器はX線源として重要なものになっている • 従来の吸収法とは異なる原理の、位相コントラスト イメージングが脚光を浴びている • パラメトリックX線放射は位相コントラストイメージング の実用化・普及において鍵となる可能性 日本大学LEBRAは先駆的な役割を果たせるかも LEBRA Fin. LEBRA Appendix LEBRA 加速器によるコヒーレントな光源 電子バンチ (高周波加速されたビーム) 放射光源である電子の塊(バンチ) と同じくらいの波長だと、異なる電子 から放射された光の位相が揃う コヒーレント放射 通常の偏向電磁石放射、アンジュレータ放射 には光源コヒーレンスがない 通常波長は0.1~数mm (ミリ波, サブミリ波, THz波) 蓄積されたアンジュレータ放射光 との相互作用で電子ビームが光の 波長で集群(マイクロバンチング) ↓ 自由電子レーザ(FEL) 光源コヒーレンスを獲得 輝度、単色性、指向性向上 現状は遠赤外~紫外領域まで(X線領域は未踏) LEBRA LEBRAリニアックによるX線源の可能性 電子エネルギーは最大で125MeVが限界 電子エネルギー 臨界波長 曲率半径 磁場 8 [GeV] 10 [keV] 113 [m] 0.24 [T] Spring-8 30 [keV] 37 [m] 0.72 [T] 2.5 [GeV] 10 [keV] 3.5 [m] 2.4 [T] PF 30 [keV] 1 [m] 8 [T] 125 [MeV] 10 [keV] 4×10-4 [m] 1×104 [T] 日大LEBRA 30 [keV] 1.4×10-4 [m] 3×104 [T] 必要な磁場は現実的なものではない ↓ 他の可能性を探ろう LEBRA 世界のXFEL計画(目標は波長 1Å) LCLS (SLAC : 米国)(2009年運転開始を目標) (主に米国内の)複数の機関の合同プロジェクト 既存の2マイル線形加速器を有効利用 予算:~400億円 TESLA (DESY : ドイツ) (2012年運転開始を目標) 欧州共同プロジェクト(リニアコライダーに便乗) 真空紫外領域でのSASE-FELで先行(数10nm) 予算:~1200億円 SCSS (SPring-8 : 日本)(2010年運転開始を目標) 後発で出遅れ(ゼロからのスタート) 予算:~400億円 巨大プロジェクト(素粒子物理などとプロジェクトと抱き合わせ) LEBRA 次世代のコヒーレントX線源の候補 •従来のレーザ方式(原子物理的) 軟X線(波長~10nm)までは可能(イオンプラズマ等) 1keV (波長~1nm)より短い波長は困難 高反射率の鏡が無い、共振器の精度が厳しい 原子の最内殻の束縛エネルギー領域(ポンピングが難しい) 第4世代放射光源 •ERL(エネルギー回収型リニアック)放射光源 第3世代光源の改良版 比較的低予算(数100億円) •XFEL(X線自由電子レーザ) 光源(時間的)コヒーレンス実現の(現在)唯一の候補 10keV(~1Å)以上の短波長領域も原理的に可能 予算規模は桁違い LEBRA 分極放射 荷電粒子の電場によって物質を構成する 原子が分極(変形)する(仮想励起) チェレンコフ放射 ⇒ 分極の緩和(脱励起)に伴い、電磁波放出 均質な媒質中を荷電粒子が光速度以上 (電子雲の振動 i.e. 電気双極子振動) で進むときに発生 LEBRA PXRによるイメージング 電子顕微鏡用金メッシュ @ 11keV ワイヤー太さ: ~25mm ワイヤー間隔: 100mm (XCCD) 葉っぱ(たんぽぽ?) @ 7keV (Imaging Plate) LEBRA PXRによるイメージング 人間の歯 @ 13.5keV ウサギの骨 @ 7keV LEBRA PXRの応用の可能性(XAFS) XANES structure XCCD image Cu CuSO4 Cu x-ray energy high chemical shift LEBRA 結晶分光光学の応用 (+,-)配置: 平行度が高い (エネルギー広がりは少し大きい) (+,+)配置: 単色性が良い 非対称反射: X線ビームサイズの拡大・縮小 LEBRA ビームライン 100MeV electron linac PXR beam line FEL beam line X-ray exit LEBRA 2nd gonio e-beam 1st gonio permanent Q-magnet LEBRA LEBRA
© Copyright 2024 ExpyDoc