市場環境レポート 2015年10月

CELEB RAT ING 40 YE ARS
2015 年 10 月
市場環境レポート
本書はモルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのグローバル・マルチ・アセット・グループが作成したレポートを邦訳したものです
世界に広がるデフレショック
図 1:中国株式相場の急落
中国の株式時価総額(10 億米ドル)
中国政府は債務を高めて投資支出を拡大する経済から、サ
ービス業と国内消費を原動力とする経済への転換を図ろう
としているが、その実現には経済の減速が避けられないだ
ろう。政策担当者たちは、つい最近までさまざまな手法で
比較的健全な成長を維持することで何とか「その場を切り
抜けて」きたが、当面はこれまでほど明るい前途が広がっ
ているわけではないようだ。2015 年 6 月以降の株式市場の
急落は、中国政府が自国経済を制御できず、また急速に減
速する可能性を示す兆候であることはほぼ間違いない。こ
れは中国に限らず、世界の経済と市場のボラティリティに
出所:Bloomberg
2015 年 9 月 13 日現在
ついてもいえることである。
中国式社会主義政策の目的は、重要な政策イニシアチブを
中国政府による現状への対応に落胆しているのは中国人個
達成しながら、リソースをより効率的に配分することであ
人投資家だけではない。FRB のジャネット・イエレン議長
る。以前はこの手法が機能していたが、2015 年現在、国民
は「中国経済の下降リスクへの懸念と、その懸念に対する
の資産を拡大し、主な国有企業のエクイティファイナンス
政策担当者の対応能力」についての発言であからさまに中
を成功させるために株式市場を利用するという手法は機能
国政府を批判した。こうした懸念が FRB の 9 月の利上げ見
していない。以下のチャートからも分かるように、中国株
送りという決断の一因になったことは明らかだ。中国政府
式市場の時価総額は 2014 年 6 月以降飛躍的に増加し、1 年
が株式市場を下支えするために費やした 2,000 億米ドル超の
後には 10 兆米ドルを超えた。しかし、2015 年 6 月以降の急
資金も、他の分野で使った方が有効だったのではないかと
反落で、時価総額 4 兆 5,000 億米ドルを失ったばかりか、市
さえ思えてくる、例えば、当面の景気浮揚策としての建設
場の強大な力を前に、中国政府が株式市場に対するコント
プロジェクトなど、たとえそれが時代遅れで望ましくない
ロールを失った状況が露呈した。投資を始めたばかりの大
政策だとしても、そちらに費やした方が良かったのではな
半の個人投資家にとって、これはある種の衝撃だった。
いだろうか。
長期的な投資家にしてみれば、最近の株価下落は評価損を
世界的な需要減少と米国の原油増産を背景に、2014 年中盤
膨らませただけで、その評価損の多くはこの株価急落の局
以降の原油価格が下落したことで生じているデフレの影響
面で実現されることはない。さらに、投資家のおよそ 80%
が、中国の経済成長の減速懸念でより深刻化している。原
は個人投資家であり、市場で損失を被ったことで、とりわ
油価格下支えのための減産を見送るとする OPEC(石油輸
け高額商品の消費水準を下げることが考えられる。そうし
出国機構)の発表を受け、2014 年の年末に向けて原油価格
た影響は中国経済ばかりか世界経済に広く波及し、デフレ
の下げは加速した。2015 年に入ってからも原油価格は下げ
ショックを引き起こす可能性がある。
止まらず、ICE ブレント原油先物価格は 2009 年の過去最安
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値まで下落した。国際エネルギー機関によると、供給過剰
図 3:米国消費者は貯蓄よりも消費を好む傾向に
が徐々に解消されるとしても、2016 年上半期の原油価格の
-原油安による利益
上値は重いという。
個人貯蓄率(%)
原油価格低下にはプラスとマイナスの影響がある。マイナ
スの影響を最も大きく受けているのが石油会社である。と
りわけ原油価格の急騰期にハイイールド債で多額の資金を
調達し、原油価格の急落で損失を被っている石油会社であ
る。原油安を受けて、産業界では雇用削減と設備投資の延
期または中止による経費削減がすでに始まっている。こう
した状況は、米経済統計局発表の非住宅設備投資が 2014 年
第 3 四半期以降急速に下落していることからもみてとれる。
産油国は、原油安による歳入減に応じた歳出計画を再考す
る必要があり、中にはベネズエラのように深刻な財政逼迫
に陥っている国もある。
以下のチャートからも分かるように、こうしたデフレショ
出所:米セントルイス連銀、米商務省経済分析局
2015 年 9 月 13 日現在
ックは前倒しで、つまり原油安のプラス効果が実感される
前にやってくる傾向がある。インフレ予想の指標である米
直近発表された中国の経済指標では、第 3 四半期の GDP 成
国の 5 年先スタートの 5 年物フォワードレートはブレント
長率(年率)が 6.9%と政府目標の 7%に近い水準で拡大を
原油の値動きに近い動きをしており、最近の原油価格の急
続けている。この数値は一見したところ、中国政府が経済
落がデフレの初期段階を示しているとする見方を裏付けて
をコントロールしていることを示しているように見える。
いる。
だが、経済成長のほとんどが成長の著しいサービス業に依
拠し、製造業は大幅に減速している状況もうかがえる。サ
図 2:デフレの影響は前倒しで
ービス業の著しい成長が株式相場の調整による影響を受け
米 5 年物フォワード・ブレイクイーブン(左軸)%
ブレンド原油(右軸) 1 バレル当たりの米ドル価格
(1 バレル当たりの米ドル価格)
(%)
るのではないかとの懸念を抱く投資家もいるだろう。また、
実際そうした状況に陥れば、中国発「デフレ」の影響が今
後さらに拡大することを懸念する材料となるだろう。一方
で、エネルギーセクターでは原油安によるマイナス効果は
ほとんど出尽くしているようだ。中国の成長減速とエネル
ギーセクターの経費削減によるデフレショックは今後も世
界の市場を揺るがすであろうが、原油安が世界のエネルギ
ー消費者にとって景気刺激策の役割を果たし、市場のボラ
ティリティを収め、世界経済の拡大に寄与する可能性もあ
るだろう。
出所:Bloomberg
2015 年 9 月 13 日現在
米国
やがて原油安のプラス効果は現れるだろう。思いがけない
収入が長続きしそうだとの確信が強まるにつれ、消費者は
経済
その収入の一部をさまざまな消費財に費やすようになるだ
9 月下旬に米商務省経済分析局(BEA)が発表した確報値に
ろう。例えば、個人貯蓄率が低い(約 5%)米国の家計は高
よれば、2015 年第 2 四半期の米 GDP 成長率は年率換算ベー
い限界消費性向を示していることから、経済成長率は徐々
スで 3.9%となった。2015 年第 1 四半期の GDP 成長率は年
に上昇するだろう。
率換算ベースで 0.6%であった。BEA は、個人消費支出、輸
出、州政府や地方政府の支出、非住宅設備投資と住宅設備
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圏の製造業 PMI は、8 月の 52.3 から 52.0 へとわずかに低下
した。フランスの製造業セクターは成長を取り戻している。
広い分野で加速しているとの見解を示した。10 月初めに米
ユーロ圏内で唯一製造業の業況悪化が続いているのがギリ
サプライマネジメント協会(ISM)が発表した 9 月の米製造
シャである。EU 統計局が発表した 2015 年第 2 四半期の
業の購買担当者指数(PMI)は、8 月の 51.1%から 50.2%に
GDP 改定値は、ユーロ圏内、EU 全体いずれも前期比 0.4%
低下した。新規受注、生産、雇用の成長はどれも減速した。 増となった。前年同期比では、ユーロ圏が 1.5%増、EU 全
米国勢調査局が発表した 8 月の小売売上高は 4,477 億米ドル
体が 1.9%増であった。EU 統計局が別途発表した 7 月のユ
(季節調整済み)で、前月比は 0.2%増、前年同月比では
ーロ圏の鉱工業生産指数は前月比で 0.6%上昇し、前年同月
比では 1.9%上昇した。また、EU 全体の鉱工業生産指数は
2.2%増となった。米労働統計局(BLS)が発表した 9 月の
前月比 0.3%上昇し、前年同月比は 1.8%上昇した。EU 統計
非農業部門雇用者数は 14 万 2,000 人増加し、失業率は 5.1%
局が発表した 8 月のユーロ圏年間インフレ率は 0.1%に低下
と変わらずであった。「雇用者数はヘルスケアと IT で増加
し、EU 全体のインフレ率は 0.0%であった。
したが、鉱業では減少した」。BLS は消費者物価指数(CPI)
投資といったプラス要因が貢献し、2015 年第 2 四半期は幅
も発表し、8 月のインフレ率(年率)は 0.2%(季節調整前) 欧州中央銀行(ECB)は 9 月初めに開催された政策決定会
であった。また、食料品とエネルギー価格を除くコア指数
合で政策金利を据え置き、リファイナンス金利は 0.05%で
維持された。会合後の会見で、マリオ・ドラギ ECB 総裁は、
はプラス 1.8%だった。
ECB は月額 600 億ユーロの資産買い入れプログラムを継続
9 月の特筆すべき出来事は、FOMC が「最近の世界経済、金
することを確認した。だが、資産買い入れプログラムの発
融動向は経済活動をやや抑制し、(米国の)インフレに目
行毎の購入上限を 25%から 33%に引き上げた。また、ECB
先一段の下向き圧力を加える可能性がある」としてフェデ
はインフレ予測を下方修正した。
ラルファンド金利を 0.00~0.25%に据え置いたことである。
リティに投資家の関心は集まった。
英国では、全般的に好調な経済と業況が続いている。マー
クイット社と CIPS(英公認購買部協会)が 10 月初めに発
表した 9 月の英製造業 PMI は 8 月の 51.6 から 51.5 に低下し、
業況改善のペースがごくわずかながら減速していることを
示した。英国家統計局(ONS)は、7 月の鉱工業生産指数が
前年同月比で 0.8%上昇したと発表した。この改善を牽引し
たのは鉱業と採石業であった。9 月下旬に ONS が発表した
確報値によれば、2015 年第 2 四半期の英 GDP 成長率は前期
比 0.7%増となり、2015 年第 1 四半期を 0.3%ポイント上回っ
た。前年同期比では 2.4%増であった。9 月半ばに ONS が発
表した労働市場調査によれば、7 月末までの 3 カ月間の失業
率は 5.5%で、4 月末までの 3 カ月間の失業率と変わらずで
あった。また ONS が別途発表した 8 月の CPI インフレ率
(年率)は 0.0%で、7 月の 0.1%からわずかに低下した。
債券
イングランド銀行(BoE)金融政策委員会は 9 月初めに開催
直近数カ月間を通して、米国経済は完全雇用と物価安定の
達成に向けて順調に進んできたにもかかわらず、金利据え
置きの判断が下された。FOMC のメンバーであるリッチモ
ンド連銀のジェフリー・ラッカー総裁は、25bps の利上げに
賛成票を投じた。FOMC のメンバーの大半は依然として年
内の利上げを予想している。
株式
9 月、米国の主要株式指数は続落した。例えば、MSCI 米国
株式インデックスは 2.82%下落した。多くの先進国経済で
減速の兆候が見られることと、中国の金融市場のボラティ
9 月は先進国の国債投資家にとって好調な 1 カ月となった。
米国債利回りは、2 年債と 30 年債で 11bps 下落し、5 年債と
10 年債では 18bps 下落した。今月は、リスク回避姿勢を維
持した投資家が多かったため、米国のクレジット市場では
ほぼすべてのクラスでスプレッドが拡大した。ハイイール
ド債はアンダーパフォームした。
された会合で、バンクレートを 0.50%に、また資産買い取
りプログラムの購入枠を 3,750 億ポンドに据え置いた。しか
し、今月もまた同委員会メンバーのイアン・マカファーテ
ィー氏が 25bps の利上げに賛成票を投じた。その理由とし
て、インフレ圧力の上昇がすでに始まっていることを示す
兆候に、英国の労働市場の指標が加わったと述べた。また
同氏は、バンクレートの緩やかな引き上げ開始時期を先延
ばしすれば、より大幅な引き上げを迫られるリスクが高ま
欧州
る可能性も示唆した。全メンバーは、当面の間、バンクレ
ートが過去の平均水準を下回る状況が続くだろうとの見解
経済
では一致した。
経済指標の多くはユーロ圏経済が全般的に改善しているこ
とを示している。マークイット社が発表した 9 月のユーロ
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株式
債券
9 月の MSCI 欧州株式インデックスは米ドル・ベースで
9 月の日本国債のイールドカーブはほとんど変化しなかった。
4.74%下落した。MSCI 欧州株式インデックス(英国を除く)
は 4.81%の下落、MSCI 英国株式インデックスは 4.58%の下
落であった。この 1 カ月で、英ポンドは 1.41%、ユーロは
0.30%対米ドルで下落した。多くの多国籍企業で業況が悪化
していることに投資家の関心が集まった。
債券
前述のとおり、9 月は先進国市場の国債投資家にとって好調
な 1 カ月であった。英国債は 2 年債と 30 年債の利回りがお
よそ 11bps 下落し、5 年債と 10 年債は 20bps 下落した。ユー
ロ圏では、ドイツ国債の利回りが、2 年債で 5bps、5 年債で
13bps、10 年債と 30 年債では約 20bps 下落した。利回りが
急低下したギリシャを除いて、ユーロ圏諸国の国債はおお
むね同様のパフォーマンスとなった。この 1 カ月間リスク
回避姿勢を維持した投資家が多く、欧州のクレジット市場
では、ほぼすべてのクラスでスプレッドが拡大した。ハイ
イールド債はアンダーパフォームした。
アジア太平洋地域(日本を除く)
経済
財新が発表した 9 月の中国の製造業およびサービス業の
PMI は、経済活動の減速を浮き彫りにした。財新総合 PMI
は 48.0 で、2009 年 1 月以来最も早いペースで減速している
ことを示した。中国以外のアジアの新興国市場の PMI は、
直近数週間の業況悪化を示すものが多かった。日本経済新
聞社が発表した 9 月のインドの製造業 PMI は例外的に 51.2
だったが、これは 7 カ月ぶりの低水準であった。
株式
9 月の MSCI エマージング・マーケット・アジア株式インデ
ックスは、米ドル・ベースで 1.77%下落した。過去数カ月
の急落に続き、今月も MSCI 中国 A50 インデックスは
3.02%の下落となった。 MSCI 韓国株式インデッ クスは
1.76%上昇し、また MSCI インド株式インデックスは 0.39%
日本
上昇した。両者はアジア太平洋地域のアウトパフォーマー
であった。一方、インドネシア株式インデックスは 13.27%
経済
下落した。
10 月初めに日本経済新聞社が発表した日本の 9 月の製造業
PMI は、8 月の 51.7 から 51.0 に下落し、経済活動の減速が
明らかになった。同調査によると、購買活動が 2014 年 4 月
以来最も早いペースで減速した。総務省統計局が発表した
8 月の世帯あたり消費支出の平均は 291,156 円で、名目ベー
スでは前年同月比 3.2%増、実質ベースでは同 2.9%増となっ
た。総務省統計局が別途発表した 7 月の CPI インフレ率は、
前月比 0.1%下落したこともあって、前年同月比で 0.2%とな
った。経済産業省(METI)が発表した 8 月の鉱工業生産指
数(季節調整済み)は、前月比で 0.5%下落し、前年同月比
では 0.2%上昇した。内閣府が発表した改定値によれば、
2015 年第 2 四半期の実質 GDP 成長率は前期比 0.3%減、年
率換算ベースでは 1.2%となった。速報値では前期比 0.4%減、
年率換算ベースは 1.6%であった。
株式
9 月の MSCI 日本株式インデックスは米ドル・ベースで
7.40%下落した。円高が進んでいなければ(円は対米ドルで
1.11%上昇)、下げ幅はもっと大きくなっていただろう。
ラテンアメリカ
経済
ブラジルの中央銀行は 9 月初めの会合で政策金利を 14.25%
に据え置いた。一方、ペルーの中央銀行は、政策金利を
25bps 引き上げて 3.50%とした。これは、インフレ予想の高
まり、ならびに食品価格の上昇と直近の通貨安によるイン
フレの影響に対応するための措置であった。マークイット
社が発表したメキシコの 9 月の製造業 PMI は、8 月の 52.4
から 52.1 に低下した。同じくマークイット社が発表したブ
ラジルの 9 月の製造業 PMI は引き続き経済活動の後退を示
した。
株式
先月に引き続き、ブラジルの株式市場と通貨レアルの下落
が MSCI ラテンアメリカ株式インデックス下落の一因とな
り、同インデックスは米ドル・ベースで 7.92%下落した。
MSCI ブラジル株式インデックスはこの 1 カ月で 12.11%下
落したが、対米ドルで約 2.60%下落したレアル安がその一
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因であった。MSCI ペルー株式インデックスは 2.36%下落し
長国連邦(UAE)の非石油部門の直近の PMI は、両国の経
たが、ラテンアメリカ地域のアウトパフォーマーとなった。 済成長が引き続き堅調であることを示した。
東欧、中東およびアフリカ
株式
8 月の MSCI 東欧株式インデックスは米ドル・ベースで
経済
4.80%下落した。同インデックスの下落の一因は、米ドルが
マークイット社発表のチェコの製造業 PMI は、2015 年第 3
ロシアのルーブルをはじめ(1.77%下落)、東欧の現地通貨
四半期の平均が 56.5 となり、2011 年第 2 四半期以来最高と
に対して上昇し続けていることがあげられる。MSCI エジプ
なった。9 月のロシアの製造業 PMI は、8 月の 47.9 から 49.1
ト株式インデックスは 2.39%上昇し、相対的にアウトパフ
に上昇し、業況の安定を示唆した。ポーランドの製造業
ォームした。通貨の変動と株価の下落を受けて、MSCI 南ア
PMI は 50.9 となり、経済活動の拡大を示す水準ではあるが、 フリカ株式インデックスは 7.04%下落した。
この 1 年間では最低となった。サウジアラビアとアラブ首
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CRC1349062 Exp. 11/11/2016
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