Al-Si亜共晶合金鋳物の引張特性に及ぼす純度の影響

Al-Si亜共晶合金鋳物の引張特性に及ぼす純度の影響
小川 俊文 *1
春山 繁之 *1
恵良 秀則 *2
岸武 勝彦 *3
Influence of Purity on Tensile Property of Al-Si Hypo-Eutectic Alloy Castings
Toshifumi Ogawa, Shigeyuki Haruyama, Hidenori Era, Katsuhiko Kishitake
純度の異なる2種類のAl-Si亜共晶合金鋳物(L合金:純度99.89mass%,H合金:純度99.98mass%)を用いて,AlSi亜共晶合金の引張特性に及ぼす純度の影響について検討した。両合金とも基本組織は,初晶α相と共晶組織から
構成されていたが,H合金の共晶組織は,L合金のものに比べて微細であった。また,L合金中には,板状の粗大Si
が点在していたが,H合金では観察することは出来なかった。凝固組織におけるブリネル硬さ試験を行った結果,
両合金の硬さは,ほとんど違いがなかった。室温大気中で引張試験を行った結果,両合金の引張強さは,ほぼ同じ
であったが,H合金の伸びは,L合金の2倍近くあった。
1 はじめに
両合金の凝固組織の硬さは,ほぼ同じだった。引張試
アルミニウム合金鋳物であるAC4CHについて主用合
験の結果を図1に示す。引張強さは,ほぼ同じだった
金元素であるSiとMg以外の元素を低減させることで,
が,H合金の伸びは,L合金の約2倍であった。走査電
引張強さを著しく低下させることなく伸びを大幅に向
子顕微鏡による破断面観察の結果,H合金に比べてL合
上させることが出来る可能性があることを報告した。
金では,脆性破面の特徴であるフラットな面が多く存
しかし,その伸び向上のメカニズムについては解明さ
在していた。これは,L合金において,α相-共晶Si
れていない。また,Al-Si系合金の機械的性質は共晶
界面における大規模な剥離が多く起こったものと考え
の凝固組織に依存すると言われている。そこで本研究
られ,共晶組織におけるα相-Si界面の結合力が,H
では,純度の異なるAl-Si合金鋳物を溶製し,その引
合金に比べてL合金は弱いと予想される。
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
16
2 実験方法
に用い,コールドクルーシブル溶解炉で純度の異なる
2種類のAl-Si亜共晶合金を溶製した。インゴット外周
の急冷組織部分と中心引け巣部分を除いた均質組織部
分から,成分分析,硬さ試験,引張試験に用いる試験
Elongation (%)
市販のアルミニウムインゴットと粒状珪素を原材料
14
12
Elongation
10
Tensile strength
8
6
4
2
0
片を切り出した。成分分析は,JISで規定されている
L-Alloy
11元素と改良組織元素について行った。硬さ試験は,
図1
H-Alloy
引張試験の結果
ブリネル硬さ測定器で行った。引張試験は,室温大気
中,歪み速度1.4×10-3s-1 で行った。引張試験後,走
査電子顕微鏡で破断面の観察を行った。
4 まとめ
Al-Si亜共晶合金鋳物は,不純物を低減させること
で,著しい引張強さの低減もなく,伸びを改善させる
3 結果と考察
ことができる可能性があることが明らかになった。
金属組織は,L合金に比べH合金の共晶組織が微細で
あった。またL合金にだけ板状粗大Siが点在していた。
5 掲載論文
Materials Transactions, Vol.46, No.8, p.1771-
*1 機械電子研究所
*2 九州工業大学
*3 大阪産業大学
1774 (2005)
Tensile strength, σ/MPa
張特性に及ぼす純度の影響について検討した。