カーボンブラック添加 AZ91D 合金成形品の機械的性質と微細組織の関係

平成 26 年度
修 士 論 文 要 旨
機械プロセス・エネルギー工学領域
6625001
赤澤 誠一
カーボンブラック添加 AZ91D 合金成形品の機械的性質と微細組織の関係
1 緒言
成分に Al を含むマグネシウム合金鋳物の結晶粒
微細化処理として,C2Cl6 のホスホライザによる炭
素添加法が工業的に使用されている (1)~(9).しかし
近年になって,C2Cl6 はダイオキシンが発生する環
境負荷物質に指定されたこともあり,その使用が
制限されている(10)~(12).本研究では,これに代わる
方法として,マグネシウム射出成形プロセスにお
いて炭素粉末を溶湯中に添加する手法を開発した.
この手法によって得られたマグネシウム合金成形
品の機械的性質と微細組織を調査するとともに,
これらの関係を明らかにすることを目的とした.
2 実験方法
供試材として射出成形用にチッピングされた
AZ91D 合金(0.5×1×4 mm,STU 製)および炭
素主体の微粒子であるカーボンブラック(以下 CB
と略,三菱化学製)を用いた.成形材料(以下
AZ91D+CB と略)は,これらを 3 条件の異なる重
量割合で磁製ボールミルに投入し,乾式混合によ
り AZ91D 合金の表面に CB を付着させて作製した.
本研究では,AZ91D 合金の表面に付着した CB の
重量を別途測定し,これを成形品への CB 添加量と
定義した.測定の結果,成形品は CB 添加量で区別
して AZ91D(CB 無添加),0.12mass%,0.23mass%
および 0.48mass%と呼称する.成形には,マグネ
シウム射出成形機(JLM75MG,日本製鋼所製)
を用いて,成形品(2.5 mm 厚平板)の固相率が
5%以下となるようシリンダ温度を AZ91D では
620℃,AZ91D+CB では 630℃に設定した.また,
金型温度および射出速度はそれぞれ 210℃,2.0
m/sec とした.
得られた成形品から,
図 1 に示す JIS Z 2201 14B
号に準拠した引張試験片(標点距離 17.8 mm)を
作製した.引張試験は油圧サーボ式疲労試験機を
用い,試験速度を 0.025 mm/sec,有効試験片数(n)
は 3 以上とした.また,引張試験片の平行部に相
当する部位(図 1 中 A-A 断面)について,組織観
察および結晶粒度試験を行った.組織は光学顕微
鏡および電子線マイクロアナライザ,結晶粒は電
子 線 後 方 散 乱 回 折 ( Electron BackScatter
Diffraction:EBSD)法による結晶方位解析を用い
て観察を行った.成形品の結晶粒度試験は JIS に
規定がないため,圧延板に関する規定 JIS H 0542
マグネシウム合金圧延板の結晶粒度試験法を参考
に,観察画像から結晶粒径を求めた.
3 実験結果および考察
図 2 に試験片平行部における光学顕微鏡組織を
示す.AZ91D において,黒く見えるところは大部
分が空洞である.AZ91D+CB においても,サイズ
の小さいものは空洞であるが,これとは別に直径
10-50 m の黒く見える組織が存在していた.この
組織を高倍率で観察したところ,約 1 m 以下の多
数の粒子から構成されており,アグロメレートと
呼ばれる CB の凝集体(13)であると考えられる.ま
た,その個数とサイズは CB 添加量の増加に伴って
大きくなった.
図 3 に試験片平行部における電子顕微鏡組織を
示す.白い部分は粒内または粒界近傍に分布して
いる母相に未固溶の共晶である.電子顕微鏡組織
では 0.23mass%の母相中に直径 1-3 m の粒子が
分散している様子が観察された.これらの粒子は
AZ91D に お い て も 観 察 さ れ た が , そ の 数 は
0.23mass%と比較して極端に少なかった.共晶の
ミクロ偏析を考慮すると,粒子は結晶粒の中心に
存在していると判断でき,初晶マグネシウムの核
生成物質あるいは何らかの核生成物質を包含する
組織であると推測される.図 4 は図 3(b)中の粒子
について面分析を行った結果を示したものであり,
粒子は C の濃度が著しく高く,母相とは明らかに
組成が違うことが分かった.また,それらの箇所
は Al の濃度も高かった.このことから,粒子は C,
Al の元素から形成された化合物として存在して
(a)
Fig.1 Schematic drawing of tensile test
specimen.
(b)
Fig.2 Optical micrograph of (a) AZ91D and (b)
0.48mass%.
子も見られた.このことから,この組織は光学顕
Fig.3 Scanning electron micrograph of (a) AZ91D
and (b) 0.23mass%.
(a)
(b)
Fig.4 Result of EPMA area analysis at particle
in Fig.3(b). (a) carbon and (b) aluminum
いると考えられる.これまでに報告されているよ
うに,炭素添加法は,C を含む物質を添加するこ
とにより,分解された物質中の C と合金成分であ
る Al が化合物を形成し,それが核生成物質となっ
て微細な結晶粒が得られると言われている (10)~(12).
このため,本手法も従来の炭素添加法と共通した
微細化機構を有すると考えられる.
画像解析により結晶方位マッピングから結晶粒
径を算出したところ,平均結晶粒径は AZ91D と比
較して CB 添加によって微細化し,0.23mass%に
おいて最小となった.また,これ以上の CB 添加を
行っても微細化効果は増大しなかった.これは鋳
造時の冷却速度に起因し,核生成物質の生成速度
と比較して粒成長の速度が速いためと考えられる.
このため,本研究の成形条件では 0.23mass%の添
加条件で最も微細化効果が得られると言える.
図 5 に応力-ひずみ線図を例示する.0.2%耐力,
破 断 ひ ず み は , AZ91D と 比 較 し て す べ て の
AZ91D+CB で向上した.0.2%耐力は,0.23mass%
以下の添加条件で大きく向上し,0.48mass%では
0.23mass%のそれと比較してやや低下した.また,
その向上割合は,AZ91D(平均 150 MPa)と比較
して最大で 15%程度であった.破断ひずみは,CB
添加量の増加に伴って緩やかに増加し,
0.48mass%において最も向上した.また,その向
上割合は,AZ91D(平均 2.9%)と比較して最大で
70%程度であった.一方,0.48mass%において破
断ひずみが大きく低下したものも見られた.そこ
で,破面を観察したところ,約 1 m 以下の多数の
粒子の集合から成る直径 10-50 m の組織が点在
していた.この組織は,0.12mass%,0.23mass%
においても存在していたが,特に,直径 30 m を
超えるサイズのものは 0.48mass%で多く観察され
た.また,図は省略するが,粗大なものの組織内
部にき裂が進展し,破面に沿って割れている様
微鏡組織で見られたアグロメレートであり,直径
が 30 m を超える粗大なアグロメレートが破壊の
起点となり,破断ひずみが低下したと考えられる.
図 6 中破線にて本研究で得られた 0.2%耐力と平
均結晶粒経との関係を示す.本研究で得られた関
係は,その絶対値に違いは見られるものの,千野
らによって報告された AZ91 合金押出品(図 6 中
実線(14))と同様の結晶粒経依存性を有しており,
Hall-Petch の関係に従うことが分かった.また,
結晶粒微細化は粒界すべりを伴う変形機構の活動
を促し,延性を向上させることが報告されている
(15)~(20).これらのことから,本研究においても CB
添加による結晶粒微細化が 0.2%耐力および破断ひ
ずみ向上の要因であることが示唆される.
250
Tensile stress [MPa]
(b)
200
150
100
AZ91D
0.12mass%
0.23mass%
0.48mass%
50
0
0
2
4
6
8
Tensile strain [%]
10
Fig.5 Example of stress-strain diagrams in
tensile test.
10
8
Grain size [m]
6
4
250
AZ91 (Ref.14) −1/2
y = 130+210d
Yield stress [MPa]
(a)
200
150
100
50
0.3
Present study
−1/2
y = 79.8+210d
AZ91D
0.12mass%
0.23mass%
0.48mass%
0.4
−1/2
−1/2
(Grain size)
[(m) ]
0.5
Fig.6 Influence of carbon black addition on
between yield stress and average grain size.
4 結言
AZ91D 合金へのカーボンブラック添加は,成形
品の結晶粒微細化を促し,0.2%耐力および破断ひ
ずみの向上に有効である.ただし,カーボンブラ
ック添加量の増加に伴って粗大になるアグロメレ
ートが破壊の起点となり,破断ひずみが低下する.
このため,本手法におけるカーボンブラック添加
量は 0.23mass%程度が適当であると判断する.
(参考文献省略)