Genome-wide shRNAスクリーニング法による エイズウイルス感染制御因子の探索 東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 ウイルス制御学分野 武内 Interview report 寛明 先生 ――エイズウイルス感染制御因子の探索に 殖し、別の細胞に新たに感染伝播するまでに multiplicityof infection)の 設 定 で す。MOI genome-wide short hairpin RNA(shR- 一定の時間がかかります。レンチウイルスベク が大きすぎると、細胞傷害を引き起こすリス NA)スクリーニング法を導入した経緯を教え ターを用いることで、それに内包(パッケージ クが増大する可能性があります。最適なMOI てください。 ング)されたshRNA発 現カセットがゲノムに は細胞の種類や実験の目的によって変わるの 組み込まれ、標的遺伝子を安定的に抑制でき で、各自で十分に検討する必要があります。 武 内 先 生(以下、敬 称 略):ある病 原体 が 引き起こす感染症の病因解析においては、病 るのです。 原体と宿主との攻防に注目し、どのような感 染 制 御因子(宿主因子)が関わっているのか なお、本研究の場合、75のサブクローナル ―― MISSION shRNAライブラリーが最適 な理由は何でしょうか。 なHIV感 染耐性 細 胞 集団を得ることが出来、 それらの細胞集団で遺伝子発現制御されてい を明らかにする必要があります(図1)。その 武内:10種類の独立したサブプールに分割 る遺伝子群を同定する目的で、各々の細胞集 ためには、HIV生活環に関わる宿主因子を網 されて提供されているのが大きなメリットだと 団から得られたshRNA配列を含んだPCR産 羅的に探索する必要があります。そこで、宿 思います。shRNAコード領 域は、細 胞に 組 物 を、そ れ ぞ れ50 ∼ 100個 の プ ラス ミド 主因子の遺伝子 発 現を抑制するshRNAのラ み込まれやすいものもあれば、組み込まれに DNAにクローン化しました。大規模なスクリー イブラリーを使うことにしました(図2)。 くいものもあります。このバイアスは、プール ニングに見えますが、「これだけで済んだ」と 型の欠点ですが、10種類のサブプールに分割 いう印象です。siRNAを使うと導入量が予想 はなく、レンチウイルスベクターのshRNAを ―― small interfering RNA(siRNA)で されているので、1つのプールで行うよりも、 しにくいのですが、本手法では候補がかなり 採用した理由は何でしょうか。 バイアスのリスクを大幅に軽減出来る可能性 絞り込まれます。 武内:理由は3つあります。まず、遺 伝 子 導入 効率の高さについてですが、HIVの感染 が高いと考えられます。これは網羅的解析に おいて大きなアドバンテージの一つです。 標的細胞であるTリンパ球やマクロファージと いった浮遊細胞や非分裂細胞は、一般的には ――スクリーニングの結果どのように研究が 発展していくのでしょうか。 ――スクリーニングを進めたときに一番困難 だったこと、その突破方法を教えてください。 武内:PCRとクローニングのバイアスです。 どの機能 遺伝 子を標的としたshRNA配列を 遺伝子導入効率が低いといわれています。し 武内:スクリーニングの結果、HIVの 生 活 含んだPCRクローンが何個出てきたかではな かしレンチウイルスベクターは、こういった細 環をサポートする酵素が見いだされました。現 く、そのshRNAが標的とする機能遺伝 子の 胞にも遺伝子導入できます。 在、この酵素の阻害剤となるリード化合 物を 発現がHIV感染耐性細胞集団で実際に抑制さ 見出しており、さらに改良して医薬品への開 れたレベルで優先順位を決めるほうがよいで 発につなげようとしているところです。 しょう。高次構造をとる配列でも伸長しやす 次に、遺伝子導入量の制限です。siRNAで は細胞への導入量を制限できず、最終的に目 的とする 宿主 因 子 の 特 定に時 間と労力がか ―― 新しくスクリーニングを始める先 生 方 かってしまいます。その点、レンチウイルスベ に、実験のコツについてのアドバイスをお願い クターは、ゲノムに組み込まれるshRNAコー します。 ド領域は多くても数種類なので、その後の解 析は比較的容易です。 いPCRキットを検討するのも一つの手です。 あるいは、次世代シーケンサーを使用でき る場合には、その結果に基づいて優先順位を 武内:まずは、研究対象として取り扱う細胞 つけることも可能かもしれません。各自の実 に対し、レンチウイルスベクターを用いた遺伝 験環境に合わせた方法を考える必要がありま 最後に、安定的に標的遺伝子を抑制できる 子導入システムが適用できるかの条件検討を行 す。 ことも重要です。病原体は、感染してから増 う こ と で す。あ わ せ て、感 染 多 重 度(MOI: 図1 HIVの複製様式 図2 ヒトT細胞株ライブラリーの樹立およびHIV感染耐性細胞株の選択法 ①吸着・侵入 ⑤成熟 ウイルス粒子の 出芽・放出 shRNA レンチ ウイルスベクター shRNA- レンチウイルスライブラリーを HIV 感 染感受性細胞である MT-4/CCR5 細胞 ( ヒト T 細胞 ) に 48 時間感染 ウイルス RNA 及び 蛋白質の集合 ピューロマイシンで 2 週間選択培養 ②逆転写 プレインテグレーション 複合体 核内移行 ④翻訳 ウイルス 蛋白質 shRNA 発現 ヒトT 細胞 HIV NL4-3 株を 12 日間感染 核外移行 HIV 感染耐性細胞 限界希釈して 2 週間培養 ③組み込み 転写 ヒトT 細胞 HIV 感染耐性 T 細胞株 (サブクローナルな集団) SAJ1955
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