抗凝固療法中の重大な出血事象の頻度とその管理-ORBIT

 2015年11月7~11日,米国・オーランド
抗凝固療法中の重大な出血事象の頻度とその管理-ORBIT-AF II Registryより
2015.12.4
リアルワールドでのNOAC服用中の重大な出血事象発現率は1.8%と,臨床試験結果と同
程度-11月8日,米国心臓協会学術集会(AHA 2015)にて,Benjamin A. Steinberg氏
(Duke University Medical Center,米国)が発表した。
●背景・目的
非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)は,心房細動患者における脳卒中発症抑制に有
用である。しかし,リアルワールドでのNOAC服用中の重大な出血事象の頻度,管理方法
についての報告はほとんどない。そこで本研究では, NOACおよびワルファリンの重大な
出血事象発現率および背景因子を比較するとともに,重大な出血事象発現時の管理方法
について,中和剤の使用の有無を含めて検討を行った。
Benjamin A Steinberg氏
●対象・方法
ORBIT-AF II Registry IIは,新規に心房細動と診断された,もしくは新たにNOAC投与が開始された成人の外来心房細動
患者を対象とする,米国の前向き登録研究である。登録は進行中であるが,本解析は2013年2月20日~2015年2月6日に
登録され,ベースラインデータが入手できた6,306例を対象とした。ISTH出血基準重大な出血事象の発現率について,服用
薬剤別(NOACまたはワルファリン)で層別解析を行い,追跡期間は平均213日であった。
●結果
1. 重大な出血事象発現率
追跡期間中,全体で6,306例のうち103例,110件(再発含む)に重大な出血事象が発現した。NOAC群は90件/4,986例(発
現率[非調整,時間非依存]1.8%),ワルファリン群は20件/1,320例(1.5%)であった。NOACの種類ごとでは,ダビガトラン
12件/455例(2.6%),リバーロキサバン57件/2,838例(2.0%),アピキサバン21件/1,852例(1.1%)であった。
重大な出血事象110件について,出血部位別発現割合をみたところ,いずれも消化管出血が最も多く,NOAC群で50件/90
件(53%),ワルファリン群8件/20件(40%)であった。その他,頭蓋内出血はそれぞれ5.6%,15%,泌尿生殖器が8.9%,
10%,血管アクセス部位が2.2%,0%,周術期出血が7.8%,25%であった。このことから,NOAC群はワルファリン群に比
べ消化管出血が多い傾向があったが,頭蓋内出血が少ない傾向にあった(p=0.1)。
また2g/dL以上のヘモグロビン低下は,重大な出血事象発現110件中85件で発生していたが,群間差は認めなかった(そ
れぞれ77%,80%,p=0.7)。
2. 重大な出血事象発現の有無別患者背景
重大な出血事象発現の有無により,出血NOAC群(84例),出血ワルファリン(19例),非出血群(3,493例)に分けて解析し
た。出血NOAC群は出血ワルファリン群に比べ,わずかに若齢であった(年齢中央値はそれぞれ76歳,80歳)。非出血群は
72歳であった。女性の割合はそれぞれ45%,32%,42%。
消化管出血の既往は出血NOAC群12%,出血ワルファリン群21%,非出血群4.1%,冠動脈疾患既往はそれぞれ43%,
37%,28%,脳卒中/一過性脳虚血発作既往は24%,26%,12%であった。
平均CHA2DS2-VAScスコアは出血NOAC群4.4,出血ワルファリン群4.6,非出血群3.5であり,出血リスクスコアである
ATRIAスコアは,出血NOAC群では低リスク(0~3点)39%,中等度リスク(4点)21%,高リスク(≧5点)39%,出血ワルファ
リン群ではそれぞれ42%,11%,47%,非出血群では64%,14%,22%であった。
また,アスピリン併用はそれぞれ38%,37%,26%,平均クレアチニン(mg/dL)は1.1,1.4,1.1,国際標準比治療域内時間
中央値は,出血ワルファリン群43%,非出血群41%であった。
3. 出血の管理
出血の管理については,濃厚赤血球はNOAC群46/90件(51%),ワルファリン群10/20件(50%)とほぼ同等に使用されて
いたが,それ以外の血液製剤は,ワルファリン群でより多く使用されていた。血小板製剤はそれぞれ2/90件(2.2%),4/20
件(20%),p=0.002,新鮮凍結血漿製剤(FFP)8/90件(8.9%),11/20件(55%),p<0.0001,クリオ製剤0%,1/20件
(5%),p=0.03であった。
中和剤については全体で8件使用されていた。NOAC群ではヘパリンの中和剤であるプロタミンが1件(1.1%)使用されたの
みで,残りはワルファリン群において,ビタミンKが5件(25%)に,プロタミンが2件(10%)に使用されていた。プロトロンビン
複合体製剤,遺伝子組換え活性化第VII因子製剤,アミノカプロン酸,トラネキサム酸,アプロチニン,デスモプレシンはい
ずれも使用されていなかった。
●結論
NOAC服用患者でのリアルワールドにおける重大な出血事象の発現率は,これまでの臨床試験の結果と同程度であり,ワ
ルファリン服用患者に比べ頭蓋内出血が少なく,消化管出血が多い傾向がみられた。重大な出血発現時の管理としては
濃厚赤血球の投与が半数を占め,NOAC服用患者でプロタミンなどの中和剤は90件のうちの1件のみで,現状ではほとん
ど使用されていないことが示された。
Steinberg BA, et al. S 4088 - Frequency and Management of Major Bleeding in Atrial Fibrillation Patients Treated With
Warfarin and Non-vitamin K Oral Anticoagulants in Community Practice: Results From the ORBIT-AF II Registry.
抗血栓療法トライアルデータベース