⽴川相互病院医局勉強会 睡眠障害診療の最前線 名古屋市⽴⼤学⼤学院薬学研究科 神経薬理学分野 粂 和彦 2015/07/10 睡眠障害相談室 http:// sleepclinic.jp 2000年12⽉開設 アクセス147万回 相談件数︓ 2000件以上 Google 検索 睡眠で1位でした 2 睡眠障害の臨床 ちくま新書 眠りの悩み相談室 2007年6月発売 23人の典型的な悩みを 持つ方を紹介 3 本⽇のアウトライン 背景︓睡眠障害とその診療の現状 新ガイドラインの位置づけ 認知⾏動療法の紹介 睡眠薬治療のポイント GABAA受容体作動薬(Bz, ⾮Bz) メラトニン受容体作動薬 オレキシン受容体拮抗薬 (睡眠制御の基礎知識︓量と位相) • • • • 4 睡眠障害の診断と治療 睡眠障害の症状によるアプローチ 1.眠れない 2.眠たい 3.眠る時間がずれる問題 4.眠っている間の問題 5.睡眠についての症状はないが、 睡眠不⾜などの問題がある場合 6 1.眠れない 「眠れない」のいろいろ 1.眠る時間が⾜りなくて、眠れない 2.眠りたい時に、眠れない 3.眠れないけど、⽇中は元気 4.眠れなくて、⽇中に障害がある → 4.だけが「不眠症」 2.は「眠りたい病」 7 2.眠い、朝起きられない 過眠症状のチェックポイントは睡眠時間 →睡眠時間が⾜りない→睡眠衛⽣チェック →睡眠は取れている→睡眠時無呼吸症候群、 ナルコレプシー、PLMD,RLS,などチェック ⼩学⽣の授業中の居眠りは要注意 →ナルコレプシーは⼩中学⽣が好発年齢 8 3.眠る時間がずれる問題 寝付きの悪さ+寝起きの悪さ → ほとんどは、夜型+睡眠不⾜ (睡眠衛⽣の指導 =>詳細は後述) 稀に、器質的な DSPS, non24 など → 基本は、睡眠記録による判定 9 4.眠っている間の問題 1.睡眠時遊⾏症 2.夜驚症 3.夜尿症 4.寝⾔ 5.寝返り・寝相の悪さ 6.⻭ぎしり 7.いびき 8.睡眠関連⾷⾏動障害 10 5.睡眠の症状がない場合 1.睡眠時無呼吸症候群 → 昼間の落ち着きがないなどが、 唯⼀の症状の場合あり 2.不適切な睡眠衛⽣・睡眠不⾜症候群 → 睡眠の問題という⾃覚がない 3.その他、元気がないなどの⾮特異的な 症状のみの場合 11 医師(専⾨医)にご相談頂きたい睡眠障害 眠っているはずなのに、⽇中眠い →睡眠時無呼吸症候群 (SAS) 周期性四肢運動障害 (PLMS) ナルコレプシー 寝つきが悪く、元気が無い。学校・会社を休む →うつ病、睡眠覚醒相後退障害 (DSWPD,DSPS) むずむず脚症候群 (RLS) 寝ている間に異常がある、ねぼけがひどい →レム睡眠運動障害 (RBD) →PD、LBD 12 ナルコレプシーの特徴 発症年齢は⼩学⽣〜⾼校⽣が最多 従来は、診断まで10年以上かかっていた 中学⽣は、健常児でも居眠りが始まるので、 ⾒落とされやすい レム睡眠関連症状(睡眠⿇痺=⾦縛り、情動脱⼒ 発作=カタプレキシー、悪夢、⼊眠後幻覚等) 特徴的な症状がない場合もある 13 むずむず脚症候群(下肢静⽌不能症候群) 最近、特に注⽬されている(新薬が、続々) 原因不明→A11のドーパミン作⽤不⾜ ドーパミン受容体アゴニスト= 特にD3受容体に ⾼い親和性を持つものが有効 プラミペキソール(ビ・シフロールTM) ロチゴチン(ニュープロTM) クロナゼパム︓ベンゾジアゼピン系抗てんかん薬 ガバペンチン エナカルビル(レグナイトTM) ガバペンチン(リリカTM)のプロドラッグ GABA誘導体、Caチャネルα2δリガンド、 →鎮痛剤として開発 むずむず脚症候群の成因 視床下部 背側後側核 A11 (ドーパミン神経) 脊髄上⾏路 背側縫線核 (セロトニン神経) 脊髄下⾏路 脊髄反射反射⼸ Clemens, S., Rye, D., & Hochman, S. (2006) Neurology 67, 125–30 不眠症に戻って 1.眠れない 「眠れない」のいろいろ 1.眠る時間が⾜りなくて、眠れない 2.眠りたい時に、眠れない 3.眠れないけど、⽇中は元気 4.眠れなくて、⽇中に障害がある → 4.だけが「不眠症」 2.は「眠りたい病」 17 眠りたい病の「廃⽌」 2005年、不眠症の定義が変更 これまでの不眠症 =夜、眠れなければ、何でも不眠症 新しい不眠症 =夜、眠れない+昼、調⼦が悪い病気 18 不眠症の定義変更の影響 単に夜眠れないだけでは、不眠症ではない。 昼間が調⼦悪い。 → 症状の把握が昼間中⼼に → 治療の⽬的・効果判定も昼間に → まず、睡眠衛⽣のチェックが最重要 → 不眠症には、認知⾏動療法が最初 → 本来的には、薬は最後 19 不眠症治療の新ガイドライン発表 睡眠障害、特に不眠症診療 厚労科研・睡眠学会ワーキンググループ 21 睡眠薬の適正使⽤・休薬ガイドライン 三島和夫先⽣ 22 参考資料 • ⽉刊「薬事」2014年4⽉号 (¥2000) 特集「不眠症の薬物療法管理」企画・粂 • 睡眠薬の適正な使⽤と休薬のためのガイドライン 「出⼝を⾒据えた不眠医療マニュアル」 ⽇本睡眠学会 2013年6⽉,10⽉ (無料) http://www.jssr.jp/data/guideline.html • 睡眠薬の適正使⽤・休薬ガイドライン 三島和夫編・じほう (¥2500) 23 24 このガイドラインの特徴 • ごく簡単に、睡眠の概論 (10p)、診断 (15p)、治療(15p)をまとめた上で、 クリニ カルクエスチョン40問(120p)に、答える形 で、わかりやすく説明している • →内容は、是⾮、読んで下さい︕ 25 背景 1 • 不眠症状は⾮常にありふれた症状で、苦痛度も ⾼い。しかし「不眠症では死なない」と⾔われ るように、臨床的には軽視されがち • 睡眠時無呼吸症候群は、⽇本⼈にも頻度が⾼く (中⾼年男性の10%︖)、⾼⾎圧・糖尿病の 悪化要因で、単独でも死亡率を増加させる • 普通の不眠症も、⽣活習慣病悪化因⼦になり、 逆に、⽣活習慣病症状としての不眠も重要 • 不眠症は専⾨家も少なく、⼀般医が治療するが 他の疾患より、意外に治療上の留意点が多い 26 背景 2 • ベンゾジアゼピン (Bz)類、つまりBz系睡眠薬 や、⾮ベンゾジアゼピン (⾮Bz)系睡眠薬は、 GABAA受容体(別名ベンゾジアゼピン受容体) の作動薬として働き、安全な睡眠薬として頻⽤ • Bz類は、その薬理作⽤・安全性ゆえに、「眠 る⽬的」で使⽤すると効果不⼗分になりやす く、次第に過量になる • ⻑期間過量処⽅が続くと、反跳性不眠や持越し 性の不眠などにより、断薬が難しい • そのため、欧⽶では依存性が⾼い薬品として、 ⿇薬に準ずる扱いをされている。 27 背景 3 • ⽇本では、精神科領域の薬の多剤多量処⽅が、 問題とされているが、Bz類の慢性過量処⽅ も、問題視されはじめた(睡眠薬3剤制限な ど) • 不眠症治療は、不眠症の成因や⾃然経過をよく 理解し、可能な限り、睡眠衛⽣指導や認知⾏動 療法(CBT)などの、⾮薬物療法を⾏う。 • 薬物療法を⾏う場合、ゴール(=出⼝)を⾒据え た上で治療を開始し、漫然と⻑期間にわたり、 睡眠薬を続けるべきではない。 • そのためのガイドラインが発表された。 28 不眠症治療の特徴 医師の専⾨性 睡眠障害専⾨医は、ごくわずか(500名弱) ⽣命にかかわらないため、重視されない 睡眠は、⽇中の積極的な活動と異なり、受動的 な状態で、⼼理⾯を始めとする、様々な環境要 因による影響を受けやすい • 患者をトータルで診る・知る必要がある • 睡眠薬は、飲みかたが⾮常に重要 →不眠症治療は、服薬指導が主役︕ • • • • 29 不眠症治療の実際 30 不眠症治療について強調したいこと • 睡眠薬治療では、服薬指導が⾮常に重要 理由は・・・ 1. 不眠症の疫学的特徴 2. 不眠症治療の特徴 3. 睡眠薬処⽅法の特徴 4. 睡眠薬そのものの特徴 31 睡眠薬の特徴 • • • • Bz類は、⿇酔のように眠る薬ではない︕ Bz類では、めったに死ねない。 眠るために飲み続けると、必ず過量に。 不眠症治療は、睡眠衛⽣指導が主役で、薬物治 療は、あくまで補助的・急性期のみの⼀時的な ものであるべき。 →慢性疾患主治医に期待される 32 不眠症の疫学的特徴 • 全年齢に存在するが、加齢とともに増加 • 睡眠薬処⽅率は、加齢とともに急増 • 主訴としてより、他疾患の診療時に、不定愁訴 の⼀つとして、治療されるケースが多い。⾼齢 になると、他の⽣活習慣病で受診するケースも 増えるし、⽣活習慣病、そのものの随伴症状と しての不眠も存在する。 33 9:00 世界の国の睡眠時間 8:45 8:30 8:15 8:00 7:45 7:30 7:15 7:00 OECD – Society at a Glance (2009) 34 社会⽣活基本調査(男, H18年) 35 社会⽣活基本調査(⼥, H18年) 36 年代別 睡眠薬処⽅率 (%) 20.0 男性 18.0 37 ⼥性 16.0 14.0 12.0 10.0 8.0 6.0 4.0 2.0 0.0 0- 10- 20- 30- 40- 50- 60- 70- 三島和夫先⽣(国⽴精神神経センター)による 不眠症の認知⾏動療法 というと、難しそうですが… ⾃⼰学習書 ⾃分でできる 不眠克服ワークブック 〜短期睡眠⾏動療法 ⾃習帳 (2011) 1300円 創元社 39 不眠症の認知⾏動療法のテキスト 患者さん向けにも 医師・専⾨家向け 40 不眠症の認知⾏動療法(CBT-I) • 睡眠の基礎知識を学ぶ • ⾃分の睡眠の状態を知る→睡眠記録 • 適切な睡眠時間の⽬標を⽴てる →睡眠制御法(睡眠短縮法) • 睡眠に良い種々の⼯夫を学ぶ →刺激制御法 • リラックス法・運動など →筋弛緩法、⾃律訓練法 • 睡眠の状態を再評価→必要なら薬物治療 41 睡眠時間の記録 睡眠日誌 :名前 ( 記録日時 平成 年 夕方 4 5 6 7 8 9 ) ベッド/ふとんに入っていた時間 夜 深夜 朝 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 昼 10 11 12 1 2 3 寝付く までの 時間 睡眠時間 中途 目覚め 服薬 覚醒 の良さ 飲酒 回数 熟睡感など 月 日( ) 月 日( ) 月 日( ) 分 時間 分 分 時間 分 分 時間 分 分 時間 分 分 時間 分 分 時間 分 分 時間 分 分 時間 分 分 時間 分 分 時間 分 分 時間 分 分 時間 分 分 時間 分 分 時間 分 月 日( ) 月 日( ) 月 日( ) 月 日( ) 月 日( ) 月 日( ) 月 日( ) 月 日( ) 月 日( ) 月 日( ) 月 日( ) 43 アクチグラフ 44 アクチグラフを使った睡眠記録 45 睡眠不⾜症候群 17歳 火 水 水 木 木 金 金 土 土 日 日 月 月 火 火 水 水 木 木 金 金 土 土 日 日 月 月 火 46 ⻑時間睡眠者(起床困難) 18︓00 0︓00 6︓00 12︓00 47 18︓00 ⾮24時間型睡眠覚醒障害1(18歳男性) 48 ⾮接触型 睡眠モニター オムロン睡眠計 HSL-101: 市販品 HSL-102m: 医療⽤ 49 ⾮接触型睡眠計の計測技術 マイクロ波の電波(10.5GHz)を⽤い、⾮接触・⾮拘束で、 体動と呼吸に伴う胸郭の動きから睡眠/覚醒を判定する 電波センサ Respiration 睡眠/覚醒を判定 WWWSWSSSSSWS Activity 災害時救助活動⽤装置と類似技術で、 体動検出(寝具などに左右されない) 50 Setting and Specification Radio frequency sensor 10.525GHz (original 5.8GHz) 64Hz sampling rate Top view Setting Area pillow 50cm – 100cm Bed Side view Contactless sleep monitor <0.2 m Bed 51 男⼥別の全睡眠時間の分布 TST(min) Ave SD Male 358.7 74.9 Female 370.7 73.7 9 Frequency(%) 8 7 Male 6 Female 5 4 3 2 1 0 180- 240300360420Total Sleep Time (min) 480- 54052 年代別の就床時間 10's(40) 20's(369) 30's(867) 40's(1191) 50's(878) 60's(355) 70's(127) 80-(38) 22:00 0:00 2:00 4:00 6:00 Time(HH:MM) 8:00 10:00 53 曜⽇による睡眠時間のズレ Monday(3451) Tuesday(3451) Wednesday(3440) Thursday(3408) Friday(3402) Saturday(3423) Sunday(3446) 23:00 0:00 1:00 2:00 3:00 4:00 5:00 6:00 7:00 8:00 9:00 Time(HH:MM) 54 ⽇本国内でも、地域差がある Average Bed Time 23:30-24:00 24:00-24:30 24:30-25:00 n.a. 2013/1/1-1/30 Total 1941 data 55 不眠に対する認知 不眠症の認知の歪み 1.実際には、ある程度眠れているのに、眠れていない と思う 2.睡眠が浅く・短いことが、悪いことだと思う 3.体調の悪さを、不眠のせいだと思う 4.⾟いことが、眠れば解決すると思う 5.眠れないと思うと、焦ってしまって、ますます眠れ なくなる 57 不眠症の問診・診療のコツ 1.ラポールは、最重要 →眠れないことは、主観的にはとても⾟い 2.睡眠そのものの質問は、最低限にする 3.⽇中の活動・気分をしっかり尋ねる。 4.睡眠以外の治療⽬標を⽴てる →眠れることを、⽬的にはしない 5.睡眠記録をつける 6.あまりにも主観評価が悪い場合は、 客観的な検査を⾏う 58 睡眠衛⽣改善ポイント(⾮⾼齢者) 1.睡眠不⾜ 平均的な睡眠時間が短い 2.不規則睡眠 毎⽇の睡眠量が⼀定ではない 3.睡眠相後退 夜型化(⼊眠障害と起床困難) → ところが、⾼齢者は全く逆の問題が︕ 59 睡眠衛⽣改善のコツ(⾼齢者に) 1.夜は明るく、朝は暗く(遮光カーテン) 2.夜更し、深夜TVを推奨(不良⽼⼈の勧め) →若い⼈と、正反対の対応 3.お昼寝を推奨 →朝から深夜までは、体⼒が続かない 4.⼣⾷前後のうたた寝を禁⽌ 5.⼣陽の散歩、⼣⾷後の体操を推奨 6.睡眠薬は、内服時刻を注意する 60 睡眠⼒が落ちた⾼齢者の不眠は必然 10's(40) 20's(369) 30's(867) 40's(1191) 50's(878) 60's(355) 70's(127) 80-(38) 22:00 0:00 2:00 4:00 6:00 Time(HH:MM) 8:00 10:00 61 睡眠制御法 睡眠時間制限法 睡眠短縮法 62 ⾼齢者の不眠は「必然」 24:00 若い⼈ 眠っている時間 22:00 ⾼齢者 7:00 24:00 5:00 眠っている時間 ⼊眠困難 中途覚醒 早朝覚醒 63 睡眠短縮法1︓⼊眠困難 22:00 24:00 5:00 寝つきが悪いと 悩んでいる時間 23:30 5:00 64 睡眠短縮法2︓中途覚醒 22:00 24:00 5:00 ⽬が覚めて眠れないと 悩んでいる時間 23:30 5:00 65 睡眠短縮法3︓早朝覚醒 22:00 24:00 2:00 5:00 朝早く⽬が覚めて 悩んでいる時間 23:30 5:00 66 眠気の変化の波(リズム) 眠気の強さ 深夜 夜の眠気の⾕ =眠れない時間 午前 午後 夜 深夜 午前 67 睡眠の原理を知って、良く眠る 1.眠くなるためには、起きていること 2.眠気の波(リズム)を利⽤する 3.脳の仕組みを利⽤する → 脳の温度が下がると眠くなる 68 元気な⼈の1⽇ ⽇中、しっかり活動 夜は深く眠る 69 元気ではない⼈の1⽇ ⽇中、なんだか、 ぼーっとしている 夜も、眠りが浅くて、 よく⽬が覚める 70 不眠症の認知状態と⾏動変容の可能性 いつ病気になるかわからない。 将来が不安だ。 不安が続いて、夜、眠れない 昨⽇は全く眠れなかった 眠れなくて、⾝体がきつい。 動く気にならない 夜、眠れないと思うと、 不安になる。 どんな病気になるのか︖ その病気の対処法は︖ 不安内容の 具体化・具象化 将来、何がしたいのか︖ ⽅向転換 なぜ夜は不安になるか︖ ⽣物学的理解 知識の付与 本当に眠れていないのか︖ (アクチグラフなどで検査) 現状誤認の 是正 眠れないことで不調なのか︖ 認知の是⾮ 本当に動いてみたのか︖ 激励 夜眠ることが⽬的なのか︖ 思考の転換 71 睡眠薬治療のポイント 72 不眠症治療の経過 1 2 難治性(慢性)不眠症 5 4 重要度 不眠症 反跳性不眠 再発 3 再評価 臨床徴候 ゴール設定 不眠症状 6 正常 治療期間 再燃 未治療期 初期治療期 寛解 減薬 休薬 7 休薬・フォロー アップ期 維持療法期 回復 73 睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン.三島和夫 編 じほう,2014 睡眠薬の種類 1 古いもの︓バルビツール酸系睡眠薬 依存性・耐性形成がある 呼吸抑制が強い・安全域が狭く危険 現在︓ベンゾジアゼピン受容体に働くもの いわゆる精神安定剤から進化した 依存性なく安全、いろいろな作⽤時間 薬局で買える︓抗ヒスタミン剤 ⾵邪薬の成分 眠気よりボッーとする作⽤ 短期間・軽症のもののみ 睡眠薬の種類 2 現在︓ベンゾジアゼピン受容体に働くもの 基本的には、作⽤時間の⻑さで選択 超短時間作⽤型︓(3〜4時間) マイスリー、アモバン、ルネスタ、ハルシオ ン 短時間作⽤型︓(7〜10時間) レンドルミン、エバミール、デパスなど 中時間作⽤型︓(15〜20時間) ロヒプノール、ベンザリン、ユーロジンなど ⻑時間作⽤型︓(24時間〜 ) ドラールなど 75 睡眠薬の種類 3 新規作⽤機序︓ メラトニン受容体アゴニスト︓ ラメルテオン(ロゼレム、武⽥) オレキシン受容体アンタゴニスト︓ スボレキサント(ベルソムラ、MSD) 76 睡眠薬開発の歴史 1882 1962 1980 1996 フルラゼパム H3C N H3C O H N H3C CI ラメルテオン O CH3 O N バルビタール O H HCI H3C H3C O バルビツール酸系 HO2C O ベンゾジアゼピン系 N CH3 O H OH CH3 N CH3 スボレキサント N NH H3C N H ゾルピデム N F O 2014 CO2H Cl CH3 H O N N N H OH H3C 2 非ベンゾジアゼピン系 N N N メラトニン 受容体作動薬 オレキシン 受容体拮抗薬 稲田健 他. 薬局 2011;62(10):3338-3342.より作図 77 Bz, ⾮Bzの注意点 • • • • • 基本的には、全て同じ受容体に働く 作⽤は、受容体占有率90%程度で頭打ち 2〜3錠以上、100錠飲んでも、作⽤同じ そのため、安全だが、「眠れない」 ⾃然な眠気を、増強する作⽤ (ゼロは、何倍してもゼロ) 78 BzA の作⽤機構 GABAA受容体の ベンゾジアゼピン 結合部位に結合 し、 作⽤する。 松⽥⼀⼰先⽣監修︓スズケンDIアワーより http://medical.radionikkei.jp/suzuken/ 79 睡眠中枢と覚醒中枢の概略 眠る脳 (大脳皮質) A. 視床下部視索前野 (POA) G A H B B. 視床下部視索結節乳頭核 (TMN) C. 中脳腹側腹側被蓋野(VTA) D. 延髄⻘斑核(LC) E. 中脳背側縫線核(DR) E F C D 眠らせる脳 (起こす脳) (脳幹) F. 橋網様体、背外側被蓋核・脚橋被蓋核 (PRF,LDT, PPT) G. 視床下部外側部(Lateral hypothalamus) H. 視床下部視交叉上核(SCN) 80 睡眠と覚醒の伝達物質 A. 視床下部視索前野 (POA: preoptic area) 睡眠中枢(GABA, ガラニン) B. 視床下部視索結節乳頭核 (TMN, Tubulomamilary nucreus)覚醒(ヒスタミン) C. 中脳腹側被蓋野(VTA, venrtral tectam area) 覚醒(ドーパミン) D. 延髄⻘斑核(LC, Locus ceruleus) 覚醒(ノルアドレナリン) E. 中脳縫線核(RN, raphe nucleus) 覚醒(セロトニン) F. 橋網様体=中脳背外側被蓋核・脚橋被蓋核(PRF, LDT, Lateral dorsal tectam, PPT, pedunculopontine tegmental nucleus) 覚醒・レム(アセチルコリン) G. 視床下部外側部(Lateral hypothalamus) 覚醒(オレキシン) H. 視床下部視交叉上核(SCN, suprachiasmatic nucleus) 概⽇周期(AVP, VIP, GABA) G A H B モノアミン系︓ ヒスタミン、ドーパミン ノルアド、セロトニン E A H C F D 81 GABAA/Bz受容体の構造 第2膜貫通部位を中⼼に向け5量体形成 α1-6 β1-3 γ1-3 δ ε θ π ρ1-3 (19種類) BzR-ω1(α1β1γ2,high aff.,⼤脳⽪質/脳幹 /⼩脳),ω2(α2,3,5を含みlow/辺縁系脊髄) 19の5乗= 247万種︖ 82 結合サイトがいろいろ 83 GABAA受容体作動薬 • ⼀部の⿇酔薬、アルコール、バルビツレート 類、Bz系、⾮Bz系など多数 • 受容体への結合部位 • 機能の違い →開⼝時間延⻑と、開⼝確率増加 84 GABA 受容体に対する作⽤の違い 85 単⼀チャンネルに対する作⽤ GABA︓少ない BZ バルビツレート GABA︓中 GABA︓多い 86 お酒と睡眠薬が併⽤禁忌の理由 同じGABAA(Bz)受容体に働くが、 作⽤機序が異なるため、相乗作⽤により、 薬効が極端に強くなる危険性があるから 87 ⽤量反応曲線 Bz Barbiturate 97回国試問題 http://square.umin.ac.jp/ Licence-Exam/No97-Exam/ 88 作⽤機序の違い • BzとGABA, バルビツレートの違い • GABAに対する⽤量反応曲線(DoseResponse Curve)が異なる • Bzは、有効濃度を低くする →最⼤効果は変わらない →BZをいくら飲んでも基本は死なない • バルビツレートは、最⼤効⼒を⾼める →GABA作⽤が⾼まり呼吸が⽌まる 89 反跳性不眠︓睡眠薬性不眠1 • • • • 超短〜短時間作⽤型のBZを内服 内服中⽌した夜の睡眠潜時延⻑ 通常は1〜3⽇で元に戻る ⻑い場合、1週間程度続く • 元に戻っても、そもそも内服前に⼊眠困難が あった場合、その状態に戻る →よく なってしまうわけではない 90 持越し効果︓睡眠薬性不眠2 • 中〜⻑時間作⽤型のBZを内服 • 午前中に眠気が残ることで、寝坊、午前中の活 動度の低下 →夜間の眠気減少 • 翌⽇の⼊眠時にも、⾎中に⼀定量残存 • その状態が「起点」になるため、そこに、さら にBZが来ても、上乗せ効果が弱まる 91 メラトニン受容体アゴニスト ラメルテオン(ロゼレム) 92 メラトニン受容体アゴニスト 処⽅せん医薬品 ラメルテオン錠 93 睡眠の2つのメカニズム 睡 眠 恒常性維持機構 疲労や睡眠不⾜による 睡眠物質の蓄積から 誘導されるメカニズム 体内時計(概⽇リズム)機構 規則正しい睡眠-覚醒リズム =サーカディアンリズム により誘導される睡眠 「疲れたから眠くなる」 「夜になったので眠くなる」 ベンゾジアゼピン系睡眠薬 ⾮ベンゾジアゼピン系睡眠薬 ラメルテオン 94 宮崎総⼀郎(滋賀医科⼤学)ほか︓医薬ジャーナル,46,313-318, 2010. ロゼレムの作用機序 95 監修 内⼭真(⽇本⼤学医学部精神医学系 教授)︓ロゼレム印刷物(1-1-8101),2010年4⽉作成 ロゼレムの適応と効果・注意点 • 副作⽤が少ない︓抑制なく、転倒少ない →メラトニン︓男性の無精⼦症の報告 • メラトニン分泌の減少 ←加齢、昼の光︓少ない、夜の光︓多い • 良い適応︓⾼齢者、夜型(昼夜逆転) • 注意点︓抑制なく、⾃覚的眠気感少ない。容量 がやや多く、遅い時間の内服に注意。 96 オレキシン受容体拮抗薬 スボレキサント(ベルソムラ) オレキシンによる覚醒と睡眠の制御 オレキシン 活性化 睡眠システム 覚醒システム 睡眠システム 睡眠状態 覚醒システム 覚醒状態 櫻井 武 Brain and nerve 2012;64:629‐637.より改変 98 GABAとオレキシンの役割 GABA オレキシン 広範囲に分布 150~200億神経細胞1),2) 限局的に分布3) 10万神経細胞以下4),5) 鎮静作用6) 抗不安作用6) 筋弛緩作用6) 覚醒状態の維持作用7) 覚醒状態の安定化作用7) 中枢神経系に おける分布状況 睡眠および 覚醒に対する作用 1) van Spronsen M et al. Curr Neurol Neurosci Rep. 2010;10:207–214. 2) Mignot E. Science. 2013;340:36‐38. 3) Sakurai T. Nat Rev Neurosci. 2007;8:171‐181. 4) Thannickal TC et al. Sleep. 2009;32:993–998. 5) Mieda M et al. CNS Drugs. 2013;27:83‐90. 6) Rudolph U et al. Nature. 1999;401:796‐800. 7) Scammell TE and Winrow CJ. Annu Rev Pharmacol Toxicol. 2011;51:243–266. 99 睡眠中枢と覚醒中枢の概略 眠る脳 (大脳皮質) A. 視床下部視索前野 (POA) G A H B B. 視床下部視索結節乳頭核 (TMN) C. 中脳腹側腹側被蓋野(VTA) D. 延髄⻘斑核(LC) E. 中脳背側縫線核(DR) E F C D 眠らせる脳 (起こす脳) (脳幹) F. 橋網様体、背外側被蓋核・脚橋被蓋核 (PRF,LDT, PPT) G. 視床下部外側部(Lateral hypothalamus) H. 視床下部視交叉上核(SCN) 100 オレキシン産⽣神経系の模式図 視床下部 オレキシン 腹側被蓋野a 外背側被蓋核b 橋脚被蓋核b 結節乳頭体核a 青斑核a 縫線核a 橋 ●OX1受容体 ●OX1受容体およびOX2受容体 ●OX2受容体 a:モノアミン作動性システム : ノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミン、ドーパミンを産生 b:コリン作動性システム : アセチルコリンを産生 延髄 櫻井 武. 蛋白質 核酸 酵素 2007;52:1840-1848より改変 101 ⼊眠効果(主観的) ― ⾼齢者/⾮⾼齢者での⽐較 <国際共同試験/海外試験> (分) 0 入眠効果 入眠効果 (高齢者:65歳以上) (非高齢者:65歳未満) 1週時 1ヵ月時 3ヵ月時 (n=307)(n=198) (n=297)(n=191) (n=276)(n=182) 睡眠潜時( 主観的)の ベースラインからの変化量 睡眠潜時( 主観的)の ベースラインからの変化量 -5 -10 -15 -7.5 -12.4 -30 -15 -14.0 -16.0 -17.5 スボレキサント群† プラセボ群 LS Mean 1週時 1ヵ月時 3ヵ月時 (n=433)(n=281) (n=418)(n=272) (n=388)(n=243) -5 -10 -20 -25 (分) 0 -8.8 -14.6 -13.5 -20 -24.1 -25 -30 -20.5 スボレキサント群† プラセボ群 LS Mean -20.0 -25.5 †:15mg/20mg 102 主観的睡眠潜時平均(mTSOm) 主観的中途覚醒時間平均(mWASOm) 治療期間(月) 治療前 治療前 主観的総睡眠時間平均(mTSTm) 治療法 治療前平均 スボレキサント プラセボ スボレキサント プラセボ スボレキサント プラセボ 治療前 治療期間(月) 103 ベルソムラの適応と効果・注意点 • 副作⽤が少ない︓抑制なく、転倒少ない • 認知機能障害・前向性健忘はない • 悪夢などレム睡眠関連症状は増える可能性があ る(⼈⼯的なナルコレプシー) • 良い適応︓過覚醒型︖中途覚醒︖ • もしかしたら、RBD (全く未知ですが) • 注意点︓半減期が⻑い→持越し眠気 新薬なので、その他も未知数 104 不眠症治療のポイント 1. 安易に睡眠薬治療を開始しない 2. 睡眠記録をつけ、睡眠(床上)時間を短縮 3. ⽣活リズムを整える 4. ⽇中に注⽬して、睡眠を⽬標としない 5. 薬物治療では、⽬標を決める 6. ⾼齢者には、ロゼレムを試す価値あり 7. BZ・⾮BZは、2種・3錠以上は無意味 8. 睡眠薬性の不眠に注意 9. ベルソムラは、有望かもしれない 105
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