ラットの鉄状態とヘプシジン発現の性差 Kong WN et al. Biol Trace Elem Res. 2014; 160: 258-67 多くの研究で、男性と女性では鉄状態に関して著しく異なることが示されている。しか し、鉄の蓄積と分配への性別の影響は十分に証明されていない。本研究では、雌と雄のSD 系ラットを4カ月齢で屠殺した。血液サンプルは、赤血球(RBC)数、ヘモグロビン(Hb) 濃度、ヘマトクリット(Hct)、赤血球容積(MCV)を測定するために分析した。血清サ ンプルは、血清鉄(SI)、トランスフェリン飽和率(TS)、フェリチン、可溶性トランス フェリン受容体(sTfR)、エリスロポエチン(EPO)の濃度を測定するために分析した。 組織非ヘム鉄濃度は、肝臓、脾臓、骨髄、腎臓、心臓、腓腹筋、十二指腸上皮、肺、大脳 皮質、小脳、海馬および線条体で測定した。肝臓のヘプシジン発現は、リアルタイムPCR 分析によって検出した。肝臓、脾臓、腎臓、および骨髄におけるフェロポーチン1(FPN1) の合成は、ウエスタンブロット分析によって測定した。十二指腸上皮における十二指腸シ トクロムB561(DcytB)の合成は、二価金属トランスポーター1(DMT1)、FPN1、ヘファ エスチン(HP)の合成は、ウエスタンブロット分析によって測定した。RBC、Hbおよび Hctは雄ラットで雌ラットよりも高かった。SIおよび血漿TSレベルは雌ラットよりも雄ラッ トで低かった。血清フェリチンとsTfRのレベルは雌ラットよりも雄ラットで高かった。雄 ラットにおけるEPOレベルは雌ラットに比べて低かった。雄ラットの肝臓、脾臓、骨髄、 および腎臓における非ヘム鉄の含有量も低かった(それぞれ雌ラットの56.7、73.2、60.6、 61.4%)。心臓、腓腹筋、十二指腸上皮、肺および脳中の非ヘム鉄濃度は両性別で同様で あった。肝臓のヘプシジンmRNAの含有量の中等度の低下が雄ラットで観察された(雌ラッ ト56.0%)。肝臓、脾臓および腎臓におけるFPN1タンパク質のレベルは、雌ラットに比べ て雄ラットで高かった。骨髄中のFPN1発現に有意な変化はなかった。十二指腸上皮におけ るDcytB、DMT1、FPN1およびHPタンパク質レベルは雌雄間で有意差は認められなかっ た。これらのデータは、鉄が雄および雌ラットにおいて異なって分布していることを示唆 している。鉄分布の差は、ヘプシジンレベルの差によるのかもしれない。(2015年2月24 日 助手 藤井嵩子) 生理的反応にはいろいろ性差がある。しかし、多くの研究は動物実験も含めてオスで行 われている。運動による筋肥大に必要なタンパク質量ですら女性に関してはほとんど分かっ ていない。性周期によるホルモンの変動が実験結果に影響することや、予期せぬ実験によ る副作用が妊娠・出産によって子孫に伝わらないようにすることなどが、女性で実験しな い理由だろう。しかし、いろいろな研究課題で性差は取り上げられるべきだと思う。(岡 村浩嗣)
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