未履行契約の処理に関する 破産管財人の権利および義務

未履行 契約 の処 理 に関す る
破 産管財人 の権利 お よび義務
原
秀
ハ
I は じめに
契約 上の義務 が被産前 にお い て履行 されて しまった場合,例 えば,偏 頗行為
があ った として,否 認す るな ど,管 財人が登場す る余地 はあ る ものの,基 本的
には,管 財人が契約関係 を処理す る必要性 は必ず しも存在 しない。 それに対 し
て,契 約 上 の義務 が破産時 におい て履行 されてい ない場合 ,す なわち,契 約上
の義務 が未履行状態 で あ る場合 にお いては,契 約関係 は財団 に引 き継がれ,管
関
財 人が処理す る必要性 が生 じて くる。未履行契約 (executory contract)に
成立 した直後 の
しては,厳 密 に考 えれば,片 務契約 (unilateral contract)が
おける一方 の当事者 のみが履行 を完
状態や ,双 務契約 (bilateral contract)に
了 して しまった直後 の状態 では,未 履行契約 とい えるのか,あ るい は,倒 産 と
い う局面 にお い ては別個 の考察 が必要なのか等 ,検 討余地 はな くもないが,通
常 は,将 来 において履行 されなければならない債務 が残存 してい る状態 をさす。
米国 にお い て倒産処置 のための主 たる制定法 で ある合衆国連邦法典第11編は,
§365にお い て,財 団 の利益 に最 も資す るよ う,管 財 人 に対 して,未 履行契約
を処理す る権限 ・義務 が手当 て してい るが ,他 の利害関係人 の権利 にも配慮 し
てい る。本稿 は,具 体 的 には管財 人に対 して どの ような権限 ・義務 が手当て さ
れて い るのか,当 該法制度 を概 観 し,不 当 に債務者 でない もう一方 の契約当事
者 ・そ の他 の債権者 は当人達 に起 因 しない事 由 によ り不利益 を強 い られる こと
にはな らないのか等 の点 を考慮 しつつ ,そ の具体的運用状況 につい て も,検 討
を加 える ことをね らい とす る。
彦根論叢 第 324号
工 未 履行契約 の定義
管財 人 は, 裁 判所 の承認 を条件 として, 未 履行契約 ( e x e c u t o r y c o n t r a c t )
を引 き受 け るか拒絶す る ことがで きるが , こ の未履行契約 に関 して は, 定 義 が
必ず しも明確 にされてい るわけではない とい う状況下, 基 本的 には, 契 約 の両
1)
当事者 で履行 が なされるべ きである よ うな契約 が ,考 えられてい る。支払 いの
みが残 ってい る場合 には,約 束手形 は,通 常 ,未 履行契約 とはな らない。
一方 の契約当事者 のみが完全 に履行 を終 えてい る場合 には,も はや,こ の契
2)
約 は未履行契約 としては分類 されない と考 え られてい る。例 えば, 債 務者 の側
のみが破産 の時点 まで に債務 を履行 して しまった としよう。 その場合 には, も
う一 方 の契約当事者 の債務 は, §5 4 1 によ り, 単 に財 団 に属す る財産 となって
しまうだけであ ると考 えられる。反対 に, 債 務者が未履行状態 であ る場合 には,
一
当該債務者 の債務 は, もう 方 の契約当事者 にとつては, 債 権 となる。 ここで,
後者 のみが完全 に履行 を終 えてい た としよ う。 この場合 には, 配 当が , 債 権 の
種類 に応 じて, こ の後者 に対 して比例分配 されるだけで あ る。
それゆえ, 申 立 時点 にお い て履行期 日が到来 してい るにもかかわ らず重要 な
未履行債務 が契約当事者 の両側 にある場合 にのみ, 未 履行契約 として分類 され
る ことになろ う。ただ, 実 際 の運用 にお い ては, 必 ず しもこの考 え方 が厳密 に
貫 かれてい るわけではな く, 財 回や債務者 の利益 が考慮 されつつ , 柔 軟 な対応
が なされてい るよ うで あると 例 えば, ① 土地 の 占有 が , 売 主か ら, 当 該土地売
買契約 によ り将来数年 にわた つて売買代 金 を返 済す る ことにな った買 主 に, 移
買主に移す ことのみが売主の残 された債務 と
り,そ の結果,② 権原 (tide)を
なって しまっていたところ,③ 売主が破産を申し立てたが,④ 財団が,売 買後
値上が りした当該土地を取 り戻 し,よ り高値で売却できるように,売 主の管財
人が当該契約 を拒絶 しようとする場合,買 主が代金全額 を完済 しておらず,売
1 ) 1 l U . S . C . A . § 3 6 5 ( a ) , N o t e s o f C o m m i t t e e o n u dt ih ce i」a r y , S e n a t e R e p o r t N o . 9 5 989.
2)Notes of Committee on the」udicia呼,Senate Report No.95-989.
3)In re Booth,19B.R.53(Bankr.D.UTah 1982)。
未履行契約の処理に関する破産管財人の権利および義務
101
主 の 唯 一 の残存 債務 た る権原 移転 が 未 だ行 われて い ない段 階 で は, ( a ) 売主 の未
履 行 の債 務 は重 要 で あ る ( m a t e r i a l ) と構 成 し, 未 履 行 契 約 で あ る と して 管財
人 は拒 絶 す る こ とが で きる と考 える こ とが で きる し, ( b ) 売主 の未履行 の債務 は
4)
重要ではな く,未 履行契約 とはな らない とも考 える ことがで きる。 これは,契
約解釈 の問題 とい うことになろ う。 あ るい は,土 地売買契約 は,抵 当権 によ り
担保 された財産 の信用売買 に類似 してお り,財 団 に対す る担保付債権 (secured
ciaim)あ るい は財 回の有す る担保付債権 として扱 われるべ きで あ り, §365の
もとで扱 われるべ きではない と考 える ことがで きる し,明 文 が ないか ぎり類似
5)
的取扱 は容認 されえない とも考 える ことがで きる。
Ⅲ 財 団 による引受 と拒絶
もし契約 が未履行契約 ではない な らば, 契 約上の権利 は財回の権利 となるで
あ ろ う し, も し契約 が未履行契約 で あ るな らば, §3 6 5 にもとづい て取 り扱 わ
れる ことになろ う。 この §3 6 5 は管財 人 に対 して, 未 履行契約 を引 き受 け るか
あ るい は拒絶す るかにつ き, 選 択権 を与 えてい る。
もし管財人が未履行契約 を引 き受 け る ことを選択 した場合 には, そ れによ り
一
当該未履行契約 は財 団の契約 となって しま う。 その結果, 財 団 は, も う 方 の
契約当事者 か らの履行 を受 け る ことがで きるようになる一方 で, 債 務者 の債務
も引 き受 けね ばならな くな る。 この財 団 による債務 の履行 に関 しては, 管 理費
6)
基 づ き第 一 の優先順位 が 与
用 ( a d m i n i s t r a t i v e e x p e n s eして
) と , §5 0 スa x l ) に
7)
え られ る こ とにな る。
4)In re Streets&Beard Farm Partnership, 882 F.2d233(7th Cir.1989).
1989).
5)In re Terrell, 892F.2d469(6th Cir。
6)管 理費用 には,財 団 を維持す るための現実 の必要 な費用 (手続 開始後 の役務 に対す る賃
金 ・俸給 ・手数料 を含 む),財 団負担 の税金,罰 金 ・違約金等が含 まれる (1lU.S.C.A.
§50訳b))。
7)す で に述 べ た よ うに,管 理費用 には第一順位が付与 されて い るが ,例 えば,手 続 開始後,
布時 のいずれ か早 い時 までの間にお い
管財 人選任 時 または救済命令 (order for relief)発
て,債 務者 の営業 の通常 の過程 にお い て生 じた債権 (1l U.S.C.A.§ 50スax2), §
50スf))
には,第 二 順位 が ,休 暇手 当 ・医療休暇手当な Dの 請求権 を含 む賃金 ・俸給 ・手数料 (11
U.S.C.A.§ 50スax3))に は,第 三 順位 が ,従 業員福 利厚 生 プラ ンヘ の拠 出金 に対す る
請求権 (§50スax4))に は,第 四順位 が ,付 与 されて い る。
彦 根論叢 第 3 2 4 号
102
も し管財 人が未履行 契約 を拒 絶す る こ とを選択 した場 合 には, 申 立 前 の債務
8)
一
者 による契約違反 がある ことになる。 また, もう 方 の契約当事者 は, §1 0 1
9)
い う ところの債権者 となる。当該契約違反 に対す る損害賠償請求権 は,
QOXB)で
さ
)と
§5 0 スg ) によ り, 申 立前 の一般債権 ( g e n e r a l u n s e c u r e d c l a i mして分類
れる ことにな り, 配 当が比例配分 される ことになる。 もし, 財 団が最初 に未履
行契約 を引 き受 け, そ の後拒絶 した場合 には, 当 該拒絶 は財 団 による契約違反
とな り, もう一方 の契約当事者 の損害賠償請求権 は, §3 6 駅g x 2 ) によ り, 管 理
1 0 )
費用 として扱 われる ことになる。
管財人 は,当 該未履行契約 を引 き受 けた場合 と,拒 絶 した場合 とを,比 較 し
つつ ,い ず れに した方 が財回 の利益 になるか を考慮 して,意 思決定す る ことに
なる。 もし当該未契約 が有利 なもの ・収益 の多 い ものであるならば,あ るい は,
会社更正 とい う事例 にお いては債務者 の会社更正計画 に とって有利 であ るな ら
ば,管 財人 は,引 き受 け るべ きで あ ろ う。反対 に,当 該未履行契約 が有利 な も
のではない,当 該未履行契約 のために,財 団が容認 しがたい負担 ・リス クを被 っ
て しま うよ うな らば,管 財人 は,拒 絶すべ きで あ ろ う。
I V 引 受 ・拒絶 の手続及び基準
前述 した よ うに, §3 6 5 は, 拒 絶 ( すなわち, 契 約違反 となる) が , 財 団 に
とって効率 的で ( e f f i c i e n t )あ
でるな らば, 管 財 人 の当該違反 を容認 して しま
うことになる。財 団が拒絶 した場合 , 取 引相手方 は, そ の犠牲者 となって しま
い, 財 国の無担保債権者 に対す る分配割合 で支払 われる損害賠償 を, 受 け取 る
ことになる。そのため, 倒 産法以外 の法制度 の もとで はそ う簡単 に違反す る こ
8)1l U.S.C.A. §365(gxl).
9)そ の他,① 債務者 に関す る救済命令 の時点 までに発生 した債権 を債務者 に対 して有す る
もの,② 当該財産が手続開始時点 において現存す るか どうかにかかわらず,債 務者 と債務
上にある手続開始時点での
者 の配偶者 との間の夫婦共有財産 (communtty property)の
差押対象 とし,か つ,手 続開始前 に発生 した,
権利関係 (1l U,S.C.A.§541(ax2))を
債権者 に含 まれる。
債権 を有す るもの も, §10100の
10)損 害の評価 は,基 本的 には,拒 絶 の時点 を基準 として行 われる (1l U,S,C.A.§365
(
g
)
)
。
未履行契約の処理に関する破産管財人の権利および義務
103
とがで きない契約 で も,管 財人 は,手 続 きにお いてはい とも簡単 に拒絶す る こ
とがで きて しまう。管財 人 は,日 和見的態度 を取 ればよいこ とになる。 しか し,
後述す るよ うに,裁 判所 によつては,契 約 の履行 が財 団側 に不 当 な負担 を課す
ことにな らないか ぎり,財 回 の拒絶 を認 めないので あ る。
第 7章 手続 にお いては,管 財人 は,救 済命令後60日以内にあ るい は裁
が
モ1戸
延長 した期 間内 に,契 約 を引 き受 け るかあるい は拒絶 しなけれ ばな らない。 当
該期 間の終結 までに行動 を取 らない場合 には,当 該契約 は拒絶 された もの とみ
・
・
なされ る。ただ,管 財人 は,第 9章 。第 11章 第12章 第13章の手続 の もとで
は,計 画承認 の時 までな らばいかなる時点 におい て も,引 き受 け る こともで き
る し,拒 絶す る こと もで きる ことになるが ,当 事者 か らの 申請 によ り,裁 判所
1 2 )
は当該期 間 を短縮す る こと もで きる。
管財 人 は, 規 則 に も とづ き, 申 立 ( m o t i o n ) に よ り, 未 履行契約 を引 き受
け るかあるい は拒絶す るかの要求 を行 うことになるが , 他 の契約当事者 に対す
)も
る合理 的 な通知 ( n O t i c e ) 及び聴 聞 ( h e a t t n g ) の機挙 提供 されなけれ ばな
らなぷを もし引受あ るい は拒絶 が管財人 の積極的 な行為 によ りなされたのであ
るな らば, 当 該引受 あ るい は拒絶 は裁判所 によ り承認 される必要がある。 しか
拒
し, 管 財人が所定 の期 間内 に必要な行動 を取 らなか つた場合 には, 自 動
鳴│ こ
絶 した もの と扱 われる ことにな り, 裁 半J 所の承認 が不要 とい うことになる。
未履行契約 を引 き受 け るかあるい は拒絶す るのかに関 して下 され た管財人 の
意思決定 に対 して承認 を与 えるか どうかの裁判所 の基準 として, 経 営判断原則
挙 げ る こ とがで きよ う。 この基準が , もっ
(business judgement rule)を
とも広 く受 け入 れ られてい る もの と考 えられてい る。す なわち, 管 財 人の意思
決定 が , 善 意 かつ財団 にとつて利益 になる よ うに思 われる合理的 な経営判断 に
もとづい て, な された場合 には, 裁 判所 は, 管 財 人の意思決定 には介入 しない
65(dXl)
1 1 ) 1 l U . S . C . A .3 §
65(dX2)
1 2 ) 1 l U . S , C . A .3 §
13)BKR R6006.
14)BKR R9014.
15)Sea Harvest Corp, vo Riviera Land Co., 868F.2d1077(9th Cir.1989).
16)In re Arizona Appetito's Stones, Inc., 893 F.2d 216 (9th Cir.1990).
104
彦
根論叢 第 324号
のである。
しか し, 裁 判所 によっては, よ り厳格 なテス トが課 される こともでて くる。
当該 テ ス トの も とで は, 未 履行契約 の引受 が財 団 に とつて過度 に ( u n d u l y )
厄介 な もの とはならない ならば, 裁 判所 は, 当 該解除 を承認 しないこ とになる。
い う債務者 の一般的 な義務 は,
この テス トにお い て も, 善 意 ( g o o d f a t t h ) と
重要 で ある。例 えば, 申 立 とい う行為 が , 望 まない契約 か ら逃れるために拒絶
1 7 )
権 を行使 したい とい う欲求 に もとづい て,な された とい う事件 では,拒 絶 は,
裁判所 によ り承認 されなか った。当該事件 にお い ては,連 続 ホーム ドラマ のス
ターが ,現 在 の出演契約 を拒絶 し,よ り多 くの富 と名声 をもた らす ものに出演
で きるようにす るために,第 11章手続 を申 し立てた。第 7章 手続 や第11章手続
1 8 )
にり申立後 の収入は財団から除外 され, §3 6 5 の目的
においては, §5 4 1 ( a x 6 )よ
は, 債 務者の将来収入の増加 に役 に立たせることではなく, 財 団 を利す ること
1 9 )
で あ る との理 由 で , 裁 判所 は , 拒 絶 を承 認 しなか った。
V 債 務不履行 とな つた契約 の引受
)の 状態 にある契約 を引 き受 け るためには,管 財人 は,
債務不履行 (defau比
一
債務不履行 によって生 じた損害 を補償 し, もう 方 の契約当事者 に対 して将来
の履行 (future performance)に
提供 し
十分 な保証 (adequate assurance)を
て, §36駅bXl)の規定 をに従 う必要 があ る。手続 の 申立 による契約不履行 以外
の契約不履行事 由のあ る契約 を引 き受 け るためには,当 該契約引受時点 の前 に
お いて,(A)その債務不履行 を治癒す るか,そ の債務不履行 は直 ちに治癒 される
とい う十分 な保証 (adequate assurance)を
提 供 し,か つ口 その債務不履行 に
1986).
17)In re Carrere, 64B.R.156(Bankr.C.D. Cal。
18)財 団 の財産 を構成す る もの として, §541(ax6)は
,財 団財産 の売得金 (prOceeds),財 団
財産か ら作 られ る製造物,財 団財 産か ら生 じる もの ,財 団財産 か ら得 られる地代 ,財 回財
産 か ら利益 を,挙 げ る とともに,手 続後 にお い て個 人債務者 の提供 した労務 か ら得 られる
収入 を,除 外 して い る。
19)当 該判決 は,第 13章手続 (定収入あ る個 人 の債務 の調整)の もとでは,申 立 後 の収入 は
財 国 の一部 となるので , う ま く機能 しないが ,衡 平法 は 同様 な結論 に賛成す るであろ う と
示唆 して い る。
未履行契約の処理に関する破産管財人の権利および義務
105
起 因す る現 実 金銭 損 害 (pecuniary loss)を補 償 す るか ,当 該 現実 金 銭損 害 が
直 ち に補償 され る とい う十分 な保証 (adequate assurance)を提供 し,さ らに,
0将 来 の 履 行 の 十 分 な保 証 (adequate assurance of ttture performance)
を提 供 しなけれ ば な らな ぼそ この 規 定 は ,「 破 産 条項 (bankruotcy Clause),
す なわ ち破 産手続 の 申立 を債務 不履行事 由 と して これ に よ り契約 を終 了 させ る
,す なわ ち破 産手 続 の
権 利 を認 め る条項 や ,「 当然 条項 (lpso factO Clause)」
含
3ど
各
予
を
累
母
麿
縁
署
螢
:融
密
雪
替
言
腎
居
堺
螢
得
民
塁
岳
警
雪
獣
音
暑
を
緑
譴
↑
履行 があ ったか どうかは, 契 約条件 と倒産法 以外 の法律 との関連 で決定 される
ことになるだろ う。
一
この 「
十分 な保証」 とい う概念 は, 統 商事法典 §2 - 6 0 9 にお いて も登場す
一
るちミ
, こ れは, 売 買契約 の 方 の当事者 の履行能力 の不確実性 に合理的な理 由
一
があ る とい う場合 には, も う 方 の 当事者 に, 期 日到来 の履行 の十分 な保証
る権利 が , 付 与 される とい う もので あ る。
( a d e q u a t e a s s u r a n c e )請求す
を
W I 引 受不可能 な契約
一
例 えば, 契 約 が もう 方 の契約当事者 による個性 的な履行 に着 日 してい る場
合 には, 履 行す る義務 の引受 が不可能 となる。例 えば, 有 名 な歌手が破産 した
場合, 管 財人が引 き受 けて 自 ら歌 った り, 引 き受 けた後 に他 の歌手 に歌 う権利
を譲渡す るような場合 で あ る。 また, 一 方 の契約当事者 による履行す る権利 の
一
譲渡 が もう 方 の期待 に反す る ことになる場合 には, こ の権利 の譲渡 も不可能
となる。
倒 産 法 以 外 の 法 律 の も とで この よ う な場 合 の 非 譲 渡 性
§3 6 5 ( C ) ( 1 ),は
(nontrasferablity着
) に目 して, 倒 産法 以外 の法律 の もとで契約 の譲渡 が不
一
可 能 で あ る場 合 には , も う 方 の 契 約 当事者 が財 団 に よる 当該 契約 の 引受
65(bXl).
1 l U . S , C . A .3 §
Senate Report No.95-989.
Notes of Corllmittee on udiCiary,
the」
Uo C.C.§2-609.
106
彦 根論叢 第 324号
( a s s u m p j o n ) を 認 め な い こ とを許容 す る。 す なわ ち , 債 務 者 以 外 の 契 約 当
事 者 に, 債 務 者 以 外 の 者 か ら履行 の提 供 を受 け た り, 債 務 者 以 外 の者 に対 して
履行 を提 供 す る義務 が な く, か つ , 当 該契約 当事 者 が 当該契約 を引 き受 け た り
譲渡 した りす る こ とに 同意 しな い場 合 には, 管 財 人 は , 未 履行状 態 にあ る 当該
2 3 )
契約 を引 き受 けた り譲渡す ることがで きないので ある。
また, 管 財 人 は, 債 務者 に対 して貸付 を行 う契約 ・債務者 のために他人資本
を調達す る契約 ・債務者 の証券 を発行す る契約 を, 当 該契約 が未履行状態 にあ
2 4 )
る場合 には, 引 き受 けた り譲渡す ることがで きない。
V l l 部分的既履行 の契約
契約 が完全 に未履行状態 で あ る場合 には, 拒 絶 は, 明 確 な断絶である。損害
賠償 の問題 は残 るが , 契 約上の権利 ・義務 は契約両当事者側 において消滅す る。
しか し, 債 務者 の倒産 の前 に履行 が始 ま り, 申 立 時点 までに実際上契約上の権
利 を獲得 した場合, 管 財人 の拒絶 によ り, 履 行部分 につい て生 じた既得権 も消
減す るのか, そ れ と も, 拒 絶 の効果 は, 将 来 の履行 に対す る権利 に及 ぶだけな
のか。 限 られた局面 にお い て, §3 6 5 は契約 上の既得権 を保護 し, 拒 絶 の効果
を財 団の将来 の履行 に限 つている。
例 えば不動産 の リース賃貸人が債務者 である場合 , リ ース賃貸人 は, 拒 絶 を
リース契約 の終了 と取 り扱 うか, 契 約期 間の終了 まで リース物件 の 占有 を継続
す るか, 選 択す る ことになる。賃貸人 に関 しては, 合 意 した期 間の 間その権利
は, 保 護 される ことになる。 リース賃貸人が , 契 約期 間の終了 まで リース物件
2 3 ) 管 財 人 による引受 は認 め られないが , 占 有債務者 ( 日本 の会社更正 にお い ては管財人 が
選任 されるが , 第 十 一 章 の場合 には, 旧 経営陣 の不正 ・無能力等 の場合 に限 られ, 旧 経営
陣が継続 して会社再建 に当たる こ とになる。 これが , 占 有 を継続す る債務者, す なわち,
d e b t o r i n p o s s e s s i ことで
o n の あ る。
) は 引 き受 け ることがで きるのか , 問 題 となったこと
事 件判決 は, 引 受 を
があ る。I n r e W e s t E l e c t r o n i c s , I n c . , 8 5 2 F . 2 d 7 9 ( 3 d1 9C8i8r)。
認 めなか った。
2 4 ) 1 l U , S . C . A . § 3 6 駅C X 2 ) 。§3 6 駅C X l ) のもとでは, 引 受不可能 な契約 ももう一 方 の 当事
者 が 同意す れば引 き受 け られる こ とになるが , §3 6 駅C X 2 ) のもとでは, もう一 方 の 当事者
による 同意 をもって して も引受可能 とはな らない ( I n r e S u n , R u n n e r M a r i n e , I n c . , 9 4 5
F 。2 d 1 0 8 9 ( 9 t h C i r . 1 9 9 1 ) ) 。
未履行契約の処理に関する破産管財人の権利および義務
107
の 占有 を継 続 す る こ とを選択 した場合 には ,財 回 は将来 にお け る メ ンテナ ンス
等 の役 務 につ い て は免 除 され るが , リ ー ス賃貸 人 は ,不 動 産使 用料 を支払 う際
に,こ の不動 産使 用料 と,リ ー ス賃貸 人が メ ンテナ ンス等 の役 務 を履行 しな い
2 5 )
ことに起 因す る損害 とを, 相 殺す ることがで きるが , 拒 絶 に起 因す る拒絶後 の
損害 に関 しては, 財 団 に対 して, 積 極的 な権利 は有 しない。
分割払 い契約 に基づいて不動産 を購入 した者 は, 当 該契約 が拒絶 された場合 ,
当該物件 の 占有 を継続す ることがで きる し, 当 該契約 を終了 した もの と取 り扱
うこともで きる。 もし買主が占有 を継続す る場合 には, 各 期 日ごとに決 め られ
た額 の支払 い を続 けなければな らないが, 拒 絶 の後 に生 じた損害 と相殺す る こ
とがで きる。 当該不動産売却後 の管財人 の義務 は当該不動産 の権原 ( t i t l e ) を
移転す る ことである。 当該契約 を終了 した もの と取 り扱 った買 主は, 実 際 に支
2 6 )
払 われた購入価格 の限度 で 当該物件 の上 にリーエ ンを, 付 与 される。
また, 債 務者 が知的財産権 の実施許可者 で あ る場合 , 被 許可者 は, 拒 絶 され
た契約 を終了 した もの として扱 うか, 契 約期 間の間権利 を保有 し続 け るか, 選
2 7 )
択す ることがで きる。
その他 の契約形態 に関 しては, 拒 絶 によ り契約上の権利 はすべ て終了 し, も
う一方 の契約当事者 は無担保債権 たる損害賠償請求権 しか有 しない とい う解釈
と, 裁 判所 が契約 を履行済 の部分 の未履行 の部分 とに分 け る ことがで きる場合
には, 拒 絶 は未履行部分 にのみ 限定 し, 既 得権 を保護す る とい う解釈 とが , 対
2 8 )
立 して い る 。
WIll 渡
譲
財 回 は引 き受 け ることもで きるが , た とえ有利 な契約 であ って も, 履 行 の煩
わ しさ等 を考慮す れば履行 しない ことが もっとも財 団の利益 になる場合 には,
管財 人が契約 を引 き受 け, そ れ を第三者 に譲渡す る とい うことが考 えられる。
25)1l U.S.C.A. § 365(h)
26)Notes of Committee on the Judiciary,Senate Report No.95-989.
27)1l U.S.C.A.§ 365(n)
28)Leasing Services Corp. v. First Tennessee Bank, 826 F.2d434 (6th Cir.1987).
108
彦
根論叢 第 324号
このようにすれば, 財 団は, 履 行義務 を負担せずに契約上の権利の価値 を, 実
現することができる。
2 9 )
管財 人 には, 二 つ の制約 が課せ られてい る。
まず第 一 に, 管 財 人 は, §3 6 5 に規定 されてい るすべ ての制限 に従 って, 当
該契約 を引 き受 けなければな らない。
第二 に, 譲 受人 による将来 の履行 の十分 な保証 が , も う一方 の契約当事者 に
提供 されなければならず , こ の制約 によって, も う一方 の契約当事者 は, 財 政
的 に不安定 な者 との契約関係 や , 契 約 に従 った履行 を提供 しそ うにない者 との
契約 関係 を強 い られる ことにな らず , 保 護 される ことになる。た とえ譲受人が
違反 した として も, も う一方 の契約当事者 は譲渡後 は財団 に対 して償還請求権
を有 しないの で, こ の第二の制約 は, もう一方 の契約当事者 にとっては重 要 と
な って くる。
契約 が譲渡 された後 は, 契 約違反 が発 生 した として も, 管 財人 ・財団 は当該
3 0 )
契約違反 の責任 を負 わない。
この よ うに, S 3 6 駅f ) は, 譲 渡 を禁止す る契約条項 や適用法規 の規定 が存在
した として も, 一 定 の制約 の下 にお いて, 未 履行契約 を譲渡す る ことを可 能 に
の関係 上 , こ の §3 6 5
してい るが, §3 6 駅C ) の規定 の適用 を除外す る §3 6 駅f X l ) と
(F)と
, 管 財 人 による未履行契約 の引受及 びその後 の譲渡 を禁止 してい る S 3 6 5
の 関係 が問題 となって くる。条文 か らは, §3 6 駅C ) は倒産法 以外 の法規
(CXl)と
が 手当 てす る譲渡禁止法規 を有効視 し, §3 6 駅f ) は無効視 してい るよ うに も解
3 1 )
釈 で きる。
では, どの ような事例 を想定す れば よいのであ ろ うか。例 えば, 会 員権 が極
2 9 ) 1 l U . S . C . A .3 §
65(f)
3 0 ) 1 l U . S . C , A .3 6 §
5(k)
…whether or not
31) 「The trustee may not assume or assign any executolγcontract・
Ⅲ
。
such contract…
v ex―
(lXA)if applicable
la、
prohibits or restricts assignment of rights…
・
from accepting perforln―
cuses a party, other than the debtor, to such a contract…
a n c e f r o m o r r e n d e A n g p e r f o r m a n c・
e・
o規定
d eして
b t oいr る
・§3 6 5 ( C X l ) び
,及
」tと
,
・
…notwithstanding a provision in an executory contract…
・
or in applicable la、
v, that
「
c oとn規定
t r aして
c tい
…る §3 6 5 ( f X l照)。
参
p r o h i b i t hs e… a s s i g n m e n t o f s u c h 」
未履行契約の処理に関する破産管財人の権利および義務
109
め て 限 られ た数 の 人 々 に しか付 与 されず , 現 会員 が退 会す る まで何 年 も何 十年
も待 た なけれ ば 会員権 を取得 で きな い ゴル フクラブ の会員権 を有 して い る債務
エ
者 が , 倒 産 した場 合 を, 考 えてみ る こ とにす る。 クラブ側 は , 次 回 は ウ イテ
一
イ ング リス トの 番 上位 に位 置 す る者 に しか会員権 は付 与 され えない と主 張 し
一
ているとい う状況下 において,管 財人は,ウ エイテイ ングリス トの 番上位 に
位置 しない者で高値 で購入 してもよい と考 えている者 に,よ り多額の資金を財
団 に注入す るとい う目的で,当 該破産者の会員権 を引 き受けて譲渡す ることが
で きるかが,問 題 となって くる。 この点 に関 して,裁 判所 は,債 務者 は会費の
支払義務 を負 い,ク ラブはゴルフ施設の提供 とい う義務 を負 っている関係ti
ー
当該債務者の ゴルフメ ンバ シップを未履行契約であると法的評価 を示 した上
一般的なルールを規定 しており,② 問題 となっている契約の
で,① §36駅f)1ま
譲渡が債務者ではない当事者の権利 に悪影響を及ぼすことにな り,か つ,倒 産
法以外の法規が債務者以外の当事者による譲渡の拒絶を認めることにより,当
ー
一
,① の 般的なル ルに
該権利 を保護 しようとしている場合 には, §36駅C)は
ー
対す る例外 となる と, 判 示 したと す なわち, 裁 判所 は, ゴ ルフメンバ シップ
の譲渡 は, 早 く申 し込 んだ者 に空 きとなった会員権 を提供す る ことによ リクラ
ブの維持 を図 ろ うとい う点で, 悪 影響 を与 える ことにな り, か りにそ うなれば,
ゥ ェイテイ ングリス トに載 ってい る者 に対す る義務違反 を引 き起 こす ことにな
る と, 判 断 したので あ る。言 い換 えれ ば, 州 法 は任意団体 におい て発展 して き
た合理的 なル ールを支持 してお り, そ れ故, 当 該州法 の もとではクラブ側 は ゴ
ル フメ ンバ ー シ ップの譲渡 を承諾 しな くて もよい と, 考 えたのであ る。
32)In re Wiagness, 972F.2d689(6th Cir.1992).
f)が
3 3 ) 譲 渡禁 止条項 は倒 産局面 の外 にお い ては有効 で あ る とす る法 よ りも, §3 6 駅 , 優 先
ー
C)の
す る ものの , 特 定 の タイプの契約 の譲渡 を禁止す るル ルは, §3 6 駅 下 では倒 産局面
F.2d27
にお いて有効 であ る と, 解 されて い た ( I n r e P i o n e e r F o r d S a l e s ,,I7n2c9。
(lst Cir.1984)。
彦根論叢 第 324号
IX む すび にか えて
以上 ,米 国倒産法 にお け る未履行契約 の定義 ,未 履行契約 に関す る財回の引
受権 や拒絶権 に対す る規制,債 務不履行 となった契約 を引 き受 け るための手続
き,債 務者 の個性 的な能力等 のために引受 けが で きない契約 の取扱,部 分的 に
履行 が完了 した契約 を拒絶 した場合 の効果,財 団 による契約 の引受及 び譲渡 に
関す る問題点 ,と い う順序 で,未 履行契約 に関す る米国倒産法規制 について,
見 て きた。紙幅 の関係 上 ,例 えば倒産法59条以下の 日本法 の規制 との比較 ,そ
3 4 )
の他 , 倒 産法 上未履行契約 の取扱 が例 えば動産担保制度 に及 ぼす影響等 に関 し
ては, 検 討 を加 える ことがで きなか ったが, 別 稿 に委ね る こととす る。
34)例 えば,デ イー ラーが 車 を販売 し,当 該販売 に際 して生 じた動産担保証券 (chattd pa_
per;金 銭債務 と特定物 を目的 と した担保権 を証す る書面)を ,以 前 に棚卸資産 たる当該
車 につ き資金 を供給 した とい う経緯が ない銀行 に,譲 渡 した とす る。その後,当 該車 の購
入者が ,合 法的 に契約解除 し,当 該車 を返 品 した とす る。
債務者 が販売 したがその後何 らかの理 由で (理由 は間 わない)債 務者 に返 品 された物 品
につ き,担 保権者 が何 らかの権利 を主 張 で きるか ど うかは,担 保権者 が返 品 された物 品 を
分別 して所持す る よ う要求 したか どうか に掛 か っている と,解 す る立場 もある (Benedict
v.Ratner,268U.S.353(1925))。
しか し,U.C.C.§ 9-30駅5Xa)は,こ の立 場 を否定
した。す なわち,担 保権者 と債務者 の管財 人 (あるい は単 に債務者)と の 間に関 しては,
もともとの担保権 は返 品 された物 品 の上 に継続す る と,規 定 して い る。銀行 がデ イー ラー
の他 の債権者,あ るい は,営 業 の通常過程 での購 入者 を除 い た買主 に対 しては,別 途当該
車 を占有す る こ とに よってか ,貸 付証書 を一 定 の官庁 にファイル して対抗要件 を具備す る
必 要があ る。動産担保証券 上 の もともとの権利 につい て,対 抗要件 を具備 したか らといっ
て ,自 動 的 に,返 品 された当該車 の上 に,引 き継がれ る とい うわ け ではな い (U,C.C.
§9-3060血 cial Comment 4)。