赤城山の山地帯における優占低木種リョウブ,ヤマツツジの岩石すべり

土壌環境からみたリョウブとヤマツツジの生育立地の違い
緑地生態学研究室 中村耕人
目的
リョウブとヤマツツジは本州の山地で同じような環境の場所に生育している。既存の
研究によると、リョウブは土壌の薄いところに生育していると言われている。一方、ヤ
マツツジは土壌の厚いところに生育していることが分かっている。これらのことから、
リョウブとヤマツツジが同所的に生育しているところの内部でも、土壌の発達度の違い
によってこれらがすみわけを行っていることが予想される。
リョウブについては岩塊地でも生育していることが知られている。地表に露出してい
る岩石が多い立地ほど土壌は未発達といえる。しかし、両種が分布する地域内で形成さ
れている岩石の露出が多い立地、ほとんどない立地にすみわけが行われているのかは明
らかにされていない。そこで本研究では、リョウブとヤマツツジが岩石の露出度の違い
によってすみわけを行っているのか明らかにする。
調査方法
調査はリョウブとヤマツツジが生育
しており、岩塊地が多く存在している
群馬県中央部にある赤城山で行った。
赤城山では岩塊地と安定立地が混在し
ていた(図 1)。岩塊地に 3 ヶ所、安定
立地に 4 ヶ所調査地点を設置した(図
1)。露岩率の違いによってリョウブと
ヤマツツジの個体数がどのように変化
するのかを調べるため、各調査地の両
種の個体数を比較した。その後、両種
の個体数を決定する要因と考えられる
露岩率を各調査地で測り、個体数との
対応を確かめた。
結果
岩塊地と安定立地で個体数に大きな差が出たのはヤマツツジで、1ha あたり岩塊地で
30 本、安定立地で 600 本以上だった(図 2)。安定立地の調査地に絞ってみると、調査地
D、E ではリョウブ、ヤマツツジともに 1ha あたり約 600 本、調査地 F、G ではリョウ
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ブが 200 本、ヤマツツジが 800 本以上とヤマツツジの方が多くなっていた。岩塊地の
調査地ではリョウブがヘクタールあたり 600 本となっており、リョウブの方が多くなっ
ていた。以上より、両種の個体数の
大小から各調査地は、リョウブの方
が多くなっている、リョウブとヤマ
ツツジがほぼ同数、ヤマツツジの方
が多くなっている、と 3 つに分類で
きた。
次に、各調査地の地表に露出して
いる岩石の面積割合、すなわち露岩
率を見ていく。露岩率は岩塊地では
75∼85%、安定立地では 40∼50%と 10%の調査地に分かれた(表 1)。したがって、リョ
ウブの方が多くなっていた立地は露岩率が約 80%と高くなっていた。リョウブとヤマ
ツツジがほぼ同数であった立地は露岩率が約 50%とある程度高くなっていた。ヤマツ
ツジの方が多くなっていた立地は露岩率が約 10%と低くなっていた。
表1. 各調査地の露岩率と多かった方の樹種
岩塊地
安定立地
調査地
A
B
C
D
E
F
G
露岩率(%)
80
85
75
50
40
10
10
多かった方の樹種
リョウブ
リョウブ
ヤマツツジ
ヤマツツジ
考察
多くなっていた方の樹種は露岩率によって決まっていた。露岩率の高いところではリ
ョウブの方が多く、露岩率がある程度多いところではリョウブとヤマツツジがほぼ同数、
露岩率が低いところではヤマツツジの方が多くなっていた。露岩率が高いところは土壌
水分の流出量が多いため、一般に乾燥した立地になっている。立地が乾燥しているとこ
ろでは微生物による落ち葉の分解が抑えられ土壌が発達していない。これらのことから、
リョウブは土壌が未発達な立地、ヤマツツジは土壌が発達している立地を選択して生育
する樹種であることがわかる。
したがって、山地の樹木としてひとまとまりに扱われてきたリョウブとヤマツツジは、
共存する場所があるものの、リョウブは岩の露出が多いところ、ヤマツツジは岩の露出
がほとんどないところ、と地表の岩の露出度合いによってすみわけていることが明らか
になった。
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