平成26年度 自然植生マット「ソイルキャッチ」性能試験 中間報告

平成26年度 自然植生ネット「ソイルキャッチ」性能試験 中間報告
平成26年9月 望月編織工業株式会社
目的
・ 当該ネットを実際に屋外に設置することで、周辺に生育する在来種による緑化と表
面侵食の抑制が達成されるか検証した。
・ 試験は、山梨県森林総合研究所の技術指導のもとで実施している。
・ 本報告では、試験を開始してから12か月目の中間報告を行う。
調査方法
調査地
・ 山梨県森林総合研究所(山梨県南巨摩郡富士川町)の実験林内にある作業道沿いの
切土法面で、斜面長 6m、幅 4mの範囲
・ 年平均降水量 1135.2mm、年平均気温約 12℃
・ 標高 740m
・ 周辺はスギ・ヒノキ人工林。林道沿線にウツギ、木イチゴ類などの木本種が生育し
ている。
・ 勾配は1:1(45°)
。斜面方位は東。
・ 法面斜面部の土質 主に砂土で、レキも一部にみられる。斜面部は表土が絶えず流
出する不安定な環境。
そのため周囲に低木類、草本類が生育しているにも関わらず、
少なくとも 5 年間は斜面部に植生が成立せず、ほぼ裸地の状態が継続していたとさ
れる。
野外調査
・ 2013 年 7 月上旬ネット区と対照区を設置(写真1)。
ネット区→試験地法面の縦半分に、縦 6m、幅 2mの植生ネットを、アンカーピン
約 50 本を用いて地表面に固定した区。
対照区→残り半分のネットを敷設していない区。
・ 調査は土砂移動量の計測と植生調査の2つを実施。
・ 土砂移動量の計測→ネット区と対照区の法面下部に、横幅 40cm 高さ 25cm 奥行き
30cm の土砂受け箱をそれぞれ 2 個並べて固定した(写真 2)
。ほぼ 1 か月ごとに、
土砂受け箱内の土砂を回収し、乾かして重量を測定。最後に 2 個の土砂受け箱内の
土砂重量を合計。
・ 植生調査は毎年 8 月に行い、それぞれの区内に出現した種とその種の被度(植物体
が地表面を覆っている割合)を記録した。被度は以下の階級値を記録。
【被度階級値】
r:単独で生育
+:まばらに生育し被度はごく小さい(1%未満)
1:1~10%
2:10~25%
3:25~50%
4:50~75%
5:75~100%
写真 1.試験区の様子。左側がネット
写真 2.土砂受け箱の設置状況。
区で、右側が対照区。
結果
土砂移動量の変化
・ 12 ヶ月経過後の平均土砂移動量はネット区 0.23kg/m、対照区 3.54kg/mとなり、
対照区よりもネット区の方が移動量は少なくネットによる土砂流失防止の効果が出
ている。
・ 12 ヶ月間の合計した土砂移動量も、ネット区は対照区の 14分の 1 以下である(図
1)。
45
40
土砂移動量(kg/m)
35
30
25
20
15
10
ネット区
5
対照区
0
図 1.ネット区および対照区の累積土砂移動量。
単位は法面幅 1m あたりの土砂量(kg)を表す。
2014 年 2~3 月は大雪のため未計測。
植生の変化
調査開始から 12 ヶ月目で、ネット区、対照区ともにタケニグサ、ニガイチゴなど
の在来植物の定着が進んでいた(表 1)
。定着した種数はネット区が 2 種数から 19
種、対照区が 2 種から 8 種に増加しており、対照区よりもネット区の方が種数は多
くなった。
・ 12 ヶ月目の植被率はネット区でも 4%とまだ低かった(表 1、写真 5、6)
。
表 1. 試験区に出現した種の被度の変化。
ネット区
調査年
対照区
2013
2014
2013
2014
全体の植被率(%)
1
4
0.5
2
ニガイチゴ
+
+
+
1
木本種
○
タブノキ
+
ヒノキ(当年生)
+
+
○
モミ(当年生)
+
+
○
アカマツ(当年生)
+
○
ヤマザクラ
+
○
クマヤナギ
+
○
ウツギ
+
○
アカシデ
+
○
クマノミズキ
+
○
モミジイチゴ
+
○
タケニグサ
+
1
○
+
+
エノコログサ
+
+
タチツボスミレ
+
+
ススキ
+
コナスビ
+
ヒカゲスゲ
+
スイカズラ
+
アキメヒシバ
+
ボタンヅル
+
カスマグサ
+
出現種数
2
19
写真5.試験開始12ヶ月目の試験区の様子。
2
8
写真6.ネット区内に定着した木本種の実生。
まとめ
・ 試験開始より 12 ヶ月目の時点でも土砂移動量は対照区よりもネット区の方が 14 分
の1以下と少なく、浸食効果は十分出ている様である。
・ 定着した植物の種数も対照区よりもネット区の方が多かった。しかし定着した植物
の植被率はネット区も 4%と低かった。調査地の土壌は流れやすく非常に不安定で
あるため、植物の定着が比較的進みにくい可能性はある。
したがって、現時点では表面浸食の抑制は、植生よりもネットそのものの効果によ
るところが大きいと考えられる。
・ 引き続き調査を続行し、在来種の定着・生長にネットが与える影響を評価していく
予定である。
・ なおネットの耐久性であるが2月の大雪(甲府気象台発表、(甲府)積雪 114cm)
にも関わらず、ネットのダメージは少なかった。調査地(山梨県森林総合研究所実
験林(山梨県南巨摩郡富士川町))は標高が 740mあり積雪 150cm はあったかと思
われる。
平成 26 年 9 月
望月編織工業株式会社