第5章 § 5-1 解説「盲斑の形に関する調査」 本実習のねらい 網膜上にある「盲班」の大きさは、眼球の外にある 理科総合では、生物が地球環境に適応しながら進化 円錐(コーン)との相似関係を利用して求めます。 してきたことを学習します。できれば実験や観察を取 実習の方法には、対象となる点を動かして領域の境 り入れたいところですが、機材や設備が十分にないの 界を推定する方法や、対象物の面積を変化させて推定 でテーマは限られてしまいます。そこで動植物や顕微 する方法などがありますが、本実習は前者の方法で行 鏡、薬品等を使わずにできるテーマとして「盲班」を います。手順は、次のとおりです。 選びました。 1) 内容は一般的なもので、ヒトの盲斑が視野の中央か 験者は机上に棒を置く。被験者は左目をつぶり、 棒の先端を右目で真上から覗き込む。 らどれだけ離れているか、またどのくらいの大きさか 2) を測定するものです。このテーマでは、生物学と工学 被験者は視線を動かさない。験者は棒を右にゆっ くり移動させる。 が「デザイン」というキーワードで結びつくことを示 3) すことができます。工学系の進路を希望する学生にと 棒の先端が見えなくなったら、その場所に×印を つける。さらに棒を移動させ、再び見えるようにな って、デザインと機能の関係について学ぶ良いきっか った場所にも×印をつける。 けになると考えました。 4) § 5-2 2つの×印の中点に棒の先端を置き、垂直方向、 45 °方向についても、先端が見えなくなる場所を 測定方法 探し、×印をつける。 実習用のワークシートは、「SOIL SHOP 生物教材製 作所」のホームページ(http://www.k4.dion.ne.jp/~soilshop/ )と「生物なんでもハンドブック(北海道生物教育会 編)」(http://habe.or.tv/)を参考にして作りました。 この方法では学生ごとに覗き込む高さが変わります が、それは重視しませんでした。まずは視線をしっか り固定し、集中してデータを取るよう指示しました。 盲斑は、次の方法で確認します。右目の前に親指を 立て、左目をつぶって右目で目の前の親指の爪を見続 網膜上に像を結ばない場所を特定するのは思いのほか 難しい作業だからです。 けます。視線の方向を変えず、親指だけを水平右方向 に移動させます。やがて、ある位置で親指の爪が見え § 5-3 なくなります。この、網膜上で像を結ばない領域が「盲 点」です。「点」と言っても実際はある程度の面積を 持つので「盲班」と呼ばれます。 この実習には正解がありません。ひとりひとり結果 が異なるので、正しさを評価の観点とすることはでき ません。そこで、まずは手順を守り、大きなミス無く 実習は、爪が見えなくなる領域の大きさと形を方眼 紙上に再現するものです。図1は再現された図形と「盲 班」の関係を模式的に表したものです。 評価の工夫 データが取得されていれば、評価をB=「概ね良好」 としました。さらに、適切な計算により網膜上の「盲 班」の大きさが導かれていれば、計算の観点もB=「概 ね良好」としました。 それでも、データが正しいかどうか、もしくは概ね 妥当な範囲内にあるかどうかは誰もが気になるところ です。それを点検できるよう、実習後に統計資料をま とめて公表しました。このことについては、次章で取 図1 円錐(コーン)と盲斑のイメージ り上げることとします。 - 25 -
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