2015年度学科共通科目 「哲学・思想の基礎」 自然法則とイデア論 担当:山口裕之 http://www.ias.tokushima-u.ac.jp/ shin-kokusai/index.htm 前回分の小テストの解答 問1 ここはどこか。 98% ① アリゾナ砂漠 ② アラル海だっ たところ ③ 富士サファリ パーク ④ 火星 NASA Jet Propulsion Laboratory, http://www-robotics.jpl.nasa.gov/projects/projectImage.cfm?Project=4&Image=66 問2 最初のアンケートで「自然だ」と いう回答が一番多かったのは? ① 火星 ② アラル海だった場所 ③ LHC ④ 里山 ⑤ 富士サファリパーク 83% 問3 「態度がわざとらしくないさま」と いう意味での「自然」という言葉の日本 における初出はいつごろか。 ① 平安時代 ② 鎌倉時代 ③ 江戸時代 ④ 明治時代 55% 問4 Natureの語源は何か。 ① 「人間」という言葉に否定の「not」が付いた。 ② 「おのずからしかる」という意味。 ③ 「ナスカ」という地名から。 ④ 「生まれる」という動詞から派生。 80% 問5 アリストテレスについて正し いのはどれか 77% ① 自然と人為を対立するものと考えた。 ② 自然は生成変化するものであると考えた。 ③ 自然は神が創造したので不変であると考え た。 ④ 宇宙の原理として「踊る動者」が想定される と考えた。 問6 パルメニデスはどのように考 えたか ① あるものはある。 ② 万物は流転する。 ③ 原子論。 ④ イデア論。 94% 平均 81% 前回のコメントへの応答 プリントを配ってほしい。 内容を忘れてしまう。配らない理由がクリッカー のネタバレが詰まらないということなら、それを 書かなければよいだけの話ではないか。 • 「メモを取る能力」を身につけるために練習し てほしいからだと言いました。 • スライドをウェブに掲示していますので復習に 役立ててください。 プラトンのイデア論 について調べてみたところ、「探求するとは忘れ ていた知識を思い出すこと(アナムネーシス)に 他ならない」(『メノン』)という解説を見つけた。 これを自分なりに解釈すると、私たちが生涯学 習するのは生まれる前の姿に戻ろうとするから ではないかと考えた。 • プラトン解釈には2000年以上の蓄積がありま す。勝手に解釈するのでなく、まずは調べま しょう。 真空恐怖 前回の授業で「ないものはない」ということか ら古代ギリシアでは真空が否定されたと言い、 真空の存在についてトリチェリの実験を挙げて いたが、トリチェリが示したのは「減圧された空 気が存在する状態」で、真空ではなかったので はないか。 • トリチェリ自身は「減圧された空気」とは考え なかったでしょう。 • 実験には必ず誤差や不十分な点があります が、方程式にされた法則にはありません。 イデアと経験 大人になった我々であればチワワを見てもセ ントバーナードを見ても犬だと分かるが、生まれ たばかりの赤ちゃんであれば犬だと分からない 。つまり、犬という概念は経験によって獲得され るものである。それゆえイデア論は間違ってい る。 親が犬を見せて「ネコだよ」と教えればネコだ と思うようになる。それゆえ… 新発見のイデア 私たちは犬を見て犬だと分かるのは、本質を 捉えているのではなく、その形から犬だというこ とをこれまでの経験から学んでいるからだ。だ から、初めて見る動物が何であるかは分からな い。 • ほんとうですか? 判断と知識 初回の授業で本物そっくりの犬のぬいぐるみ を多くの人が犬だと思ったということがあった。 「犬だと思う」ということと「犬である」ということ は違うということを、イデア論の話を聞いて再確 認した。 判断と知識 初回の授業で本物そっくりの犬のぬいぐるみ を多くの人が犬だと思ったということがあった。 「犬だと思う」ということと「犬である」ということ は違うということを、イデア論の話を聞いて再確 認した。 • そのとおりですね。ある特定の個人(こども) が、犬の概念を学ぶことと、犬の概念が存在 することとは別です。 • ある概念を「犬」と呼ぶか「DOG」と呼ぶかは 偶然(恣意的)です。 慣れればOK? 高校の倫理でイデア論を習ったときにはなぜ 知覚できない世界を想定するのかと疑問を覚え ていた。しかし今日の授業で自然法則も知覚で きないが我々は受容しているということから、自 然科学とイデア論とは同じではないかと気づい た。イデア論に抵抗を感じるのは、見慣れない ものへの抵抗からだろう。 • どんなことでも慣れれば納得するのか? • むしろ納得しないと慣れないのでは? 細長い生き物のイデア 犬のイデアは理解できるが、クリッカーと消しゴム とシャーペンをひとまとめにした○○という概念は 理解できないと言っていたが、それは犬には共通 点があるが○○には共通点がないからだ。 そこで「細長い生き物」という共通点からヘビとミ ミズとイモムシをひとまとめにした時に、私は「細長 い生き物」のイデアを把握したと言えるだろうか。 • 人間が勝手に共通点を見出しただけのグループ にイデアはない、とプラトンなら言うでしょう。 • どんな概念でも好き勝手に設定できるわけでは ない。 DNAとイデア 犬が犬であるのはDNAの構造にイヌ科独特 の構造があるからだ。 • DNAも個物です。 • いくつかのDNAをまとめて「犬のDNA」とする ということは、個々の犬を見て「犬」とすること と同じことです。 個人のイデア 新しく知り合いになった人がどのような人かが 分かることで、その人のイデアが把握できる。 • イデアは普遍的なので、個人(個物)のイデア はないと解釈するのが妥当でしょう。 正義のイデア 犬のイデアは普遍的だというが、たとえば「正義 」などの時代によって変わる概念についてはど うなるのか。イデア論によれば「正義」というも のも不変で普遍的だということになるはずだ。 • そうですよ。「正義」も「善」も「幸福」も普遍的 でしょう? 見えるものと実在 イデア界というものを嘘くさく感じた。見ること ができず、イデア界が存在することを証明でき ないからだ。 • 見えること≠実在すること 実在とは何か イデア論を否定するなら自然法則の実在も否 定しなければならない。ここで、そもそも「実在」 という概念を見直さなくてはならない。 • being・essence • existence・substance • reality・actuality… 地動説で火あぶり 高校の時に、ガリレイ裁判の話を聞いて、キリ スト教が自然科学を弾圧したのだと思っていた が、そうではなく、むしろキリスト教が自然科学 の発展の主な要因だと聞いて驚いた。しかし、 地動説を唱えたために火刑になった人がいたこ とも事実である。 • ジョルダーノ・ブルーノのことを言っているの でしょうか?彼は「三位一体」などカトリックの 根本的な教義を否定したため火刑になりまし た。 前回分の小テスト 問1 • この授業でプリントを配布しない主要な理由 は何か。 ① 大学の授業にプリントはふさわしくないから。 ② クリッカー問題のネタバレになるから。 ③ プリントの紙がもったいないから。 ④ メモを取る技術の練習のため。 問2 • 「自然法則」という言葉を作った人はだれか。 ① デカルト ② ロック ③ プラトン ④ アリストテレス 問3 • 「自然法則」という言葉の含意は、 ① 神が作った自然現象の法律である。 ② 自然界に内在するイデアである。 ③ 人間が設定した概念である。 ④ 人間には知ることができない。 問4 • イデア論の解釈として正しいのはどれか。 ① 犬のイデアは、幼児が経験することによって 作られる。 ② 犬のイデアを、幼児は生まれたときから知っ ている。 ③ 人間がそれを知るか否かとは関係なしに、 犬のイデアが存在する。 ④ それぞれの個人には「その人それぞれのイ デア」が存在する。 問5 • 「実在」に関連する言葉について正しいのは どれか。 ① 目に見えるもののことである。 ② existenceの語源は「外に向かって 立って いる」である。 ③ substanceの語源は「外に向かって 立って いる」である。 ④ realityの語源は「見える」ということである。 問6 • ジョルダーノ・ブルーノが火あぶりになった主 要な理由は何か。 ① 地動説を主張 ② 天動説を主張 ③ 三位一体説を否定 ④ 三位一体説を主張 問7 • 「正義」など時代によって変わる概念はイデア 論ではどう説明されるのかという学生の質問 にどう応答したか。 ① 「正義」は普遍的でしょう。 ② 「正義」は説明できません。 ③ 時代によって「正義」のイデアも変わります。 ④ 時代によって「正義」の概念は変わるがイデ アは変わりません。 前回のつづきから ヨーロッパの近代では、 • 自然法則Law of Nature(デカルト):神が世 界を創造した時に、世界が従うべき普遍的・不 変的な「法律law」として定めた。 • 自然は神が生み出したものと考えられた。 • 人間は、自然法則を探究し理解することで、神 の英知に触れることができる。 =自然科学の発生の動機。 ★「現象の背後の自然法則の実在」という考え方 は、ギリシア哲学やキリスト教の影響。 「キリスト教が科学の発展を妨害した」というのはウソ。 ニュートンもまた、 • 「万有引力の原因は神である」とほのめかしている。 • 「万有引力の法則」とは: – 物体間には、質量の積に比例し、距離の二乗に反比例す る引力が働く 。 – しかし、「質量」と「引力」の間には、論理的には関係 がない。 – どうして質量の大きな物体には強い引力が働くのか? →「神がそのように創造したからだ」と答える ほかない。 対して、ライプニッツは、 • 「神も自然法則や数学など普遍的な真 理には従うはずだ」と考えた。 • ものを考えるときに、法則や数学や論理を無 視する者は、愚か者だ。 • 神が法則に従わないというなら、神は愚か者 だということになってしまう。 • 神は、法則や論理に従って、最善の世界を創 造した。この世界は、神の製作した時計のよ うなものだ。 そこでマルブランシュは、 • 「そんな神はありがたくない」と反論。 • 神は全知全能であり、すべての現象の原因 である。 • この世の物体の運動が法則に従っているの は、神が法則に従うように動かしているから だ。 →マルブランシュの「機会原因論」。
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