経験は真理を保証できるか

2015年度学科共通科目
「哲学・思想の基礎」
自然法則とイデア論
担当:山口裕之
http://www.ias.tokushima-u.ac.jp/
shin-kokusai/index.htm
前回のコメントへの応答
単なる感想
• 「面白かった」
– どこがどうして面白かったのか説明する。
• 「パルメニデスに興味を持った」
– どの点にどうして興味を持ったのか説明する。
• 「~と知って驚いた」
– どうして驚いたのか説明する。
「思う」「感じる」「考える」「印象を
持った」「気がする」
• これらを消して、理由や根拠を書く。
– 「~思うからだ」は理由にならない。
具体的に書きましょう
• 「~考え直した」
– 具体的にどんなことを考えたのか?
• 「自然という言葉にはいろいろな意味がある
のだと学んだ」。
– 具体的にどんな意味があるのか?
• 「自然とは何か、分からなくなった」
– 語源を把握し、そこからの意味の派生を追跡する
ことで多義語を理解する。
疑問の言いっぱなし
• 「アリストテレスは、正しさについてどう考えた
のだろうか」
– 疑問を持った理由:
• 理論のどの点にどのような修正を迫るのか?
– 自分なりの解釈
– そう解釈する理由
調べるのは結構ですが…
• 「調べてみると~」
– 出典を書きましょう。
• ウェブページの場合、制作者とサイト名を明記
する。
• 「辞書を引いてみると~」
– 「辞書に、本質とは物事の本来の性質や姿だと
書いてあった。だとするとパルメニデスは…」
– 「本質」という言葉の語源を説明したはず。
大学入門講座
「学術的発想と書き方」
その1:コピペから引用へ
『コピペ本』を買いましたか!
1.
2.
3.
4.
買って読んだ!
買った。
買う予定はない。
なんですか、それ?
17%
3%
59%
20%
1
2
3
4
人手が加わっても自然
• 人間も動物の一種であり、自然の一部である
から、人の手が加わっても自然である。
– 「自然」は「人為」の対立概念なので、「人間も自
然」というなら、「自然」という概念の意味がなくな
る。
– ビーバーがダムを作って景観を改変することと、
人間がダムを作って景観を改変することとは同じ
か?
介入しすぎ
• 人間も自然の一部であるが、人間の影響力
は大きすぎるので、自然への介入しすぎない
ようにすることが大切である。
– 具体的にどの程度の介入なら許されて、どの程
度からは許されないのかを特定してください。
– その根拠も示してください。
憶測
• 日本では人手が加わった里山も自然と呼ば
れる。他方、アマゾンでは人手が加わった結
果、自然破壊と呼ばれる。この二つの違いは
一神教か多神教かの違いだと考える。
– まったく関係ないでしょう。
人工的な形
• アリストテレスの説明のところで、木を彫って
クマにしたら木彫りのクマになると言っていた
が、木がクマになるわけではないので、自然
の生成変化ではないのではないか。
– 「素材と形」という発想を説明するために、材木と
彫刻の例を挙げた。
– 彫刻の形は「人為的な形」。生物の形は「自然に
形成される形」。
アリストテレスの生成変化
• アリストテレスの生成変化の説のほうが説得
力がある。もし真の実在が不変で普遍だとい
うなら、たとえばシャボン玉が消えてしまうこと
は説明できないだろう。
– シャボン玉が「消え」ても、その物質が消滅したわ
けではありません。
パルメニデス
• 「あるものはある」、存在は不変で生成変化な
どしないというのなら、子どもが大人になるな
ど、実際の世界で様々なものが変化している
のはどのように説明されるのか。
– 真の存在のあり方ではない、ということでしょう。
前回分の小テスト
問1 ここはどこか。
① アリゾナ砂漠
② アラル海だっ
たところ
③ 富士サファリ
パーク
④ 火星
NASA Jet Propulsion Laboratory, http://www-robotics.jpl.nasa.gov/projects/projectImage.cfm?Project=4&Image=66
問2 最初のアンケートで「自然だ」と
いう回答が一番多かったのは?
① 火星
② アラル海だった場所
③ LHC
④ 里山
⑤ 富士サファリパーク
問3 「態度がわざとらしくないさま」と
いう意味での「自然」という言葉の日本
における初出はいつごろか。
① 平安時代
② 鎌倉時代
③ 江戸時代
④ 明治時代
問4 Natureの語源は何か。
① 「人間」という言葉に否定の「not」が付いた。
② 「おのずからしかる」という意味。
③ 「ナスカ」という地名から。
④ 「生まれる」という動詞から派生。
問5 アリストテレスについて正し
いのはどれか
① 自然と人為を対立するものと考えた。
② 自然は生成変化するものであると考えた。
③ 自然は神が創造したので不変であると考え
た。
④ 宇宙の原理として「踊る動者」が想定される
と考えた。
問6 パルメニデスはどのように考
えたか
① あるものはある。
② 万物は流転する。
③ 原子論。
④ イデア論。
前回のつづきから
アリストテレス
自然の生成変化
’
• 可能性(潜在力δυναμις)が現実化(現実態
’ ’
ενεργεια)していく。
– 柿の種は柿になる可能性を持っているが、まだ
柿そのものではない。
– しかし、柿にしかならない。
=生成変化は、ある形相を実現するプロセスで
あり、「自然」とは、そうした生成変化の原理
である。
西洋哲学の祖
パルメニデスは、
• 「あるものはある」か、「ないものはない」か。
– 生成変化していくようなものは本質的では
ない。
– 「正しい知識」は不変で普遍的でなくてはな
らない。
⇒プラトンの「イデア論」につながる。
イデア論
• イデア論の基本的発想=「物事を正しく知る
とは、イデアをつかむことだ」
• イデアは、人間が想定した観念や言葉ではな
く、何らかの形で「実在」する。
しかし、「イデア」とは?
• 我々は、柴犬を見てもセントバーナードを見
ても、さらにはチワワを見てもチャウチャウを
見ても、「犬」だと分かってしまう。これ
はなぜだろうか?
→「個々の犬という現象(仮の現われ)を通じて、
真の実在である「犬のイデア」を把握す
るからである。 」
どうして「イデア」が見えるのか?
「想起説」:
• 我々は生まれる前は、純粋なイデアの世界に
住んでいるのだが、この世に生まれたときに、
生みの苦しみによってそれを忘れてしまう。
• でも、なんとなくイデアを覚えているので、こ
の仮の世の現象を見ても、なんとなくイデア
が想起される。
・・・ずいぶん乱暴なまとめ方ですが(汗
こうした考え方は、
1. もっともなものだ。
2. ひょっとしたら、そう
かも。
3. ちょっと違うんじゃな
いか。
4. わけが分からない。
4%
40%
33%
24%
1
2
3
4
ところで、
• 自然科学においては、「現象の背後に自
然法則が実在する」という考え方をする
科学者がたくさんいます。
• たとえば F=ma といった運動方程式は「実
在する」。
• 万有引力の法則F=G・Mm/r2 は「実在する」。
自然科学における「現象の背後に自然法
則が実在する」という考え方は、
1. もっともなことだ。
2. ひょっとしたらそう
かも。
3. ちょっと違うんじゃ
ないか。
4. わけが分からない。
15%
30%
13%
43%
1
2
3
4
しかし、
• 「現象の背後」って、具体的にはどこか?
• 法則が「実在」するとは、どういう意味か?
• 「個々の現われの背後にイデアが実在する」
というイデア論と、どう違うのか?
• もしイデア論がバカげているというなら、自然
科学もバカげているということになるのでは
ないか?
ヨーロッパの近代では、
• 自然法則Law of Nature(デカルト):神が世
界を創造した時に、世界が従うべき普遍的・不
変的な「法律law」として定めた。
• 自然は神が生み出したものと考えられた。
• 人間は、自然法則を探究し理解することで、神
の英知に触れることができる。
=自然科学の発生の動機。
★「現象の背後の自然法則の実在」という考え方
は、ギリシア哲学やキリスト教の影響。
「キリスト教が科学の発展を妨害した」というのはウソ。