講義資料

市場と経済A
1
第12回
生産と成長(教科書第10章)
2015年7月6日(月)
担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)
2
世界の国々の経済成長(1)
 長期における世界の国々の経済成長(スライド3、教科書p324表10-1)
 2008年において、アメリカの1人当たり所得(実質GDP)は中国の約8倍で、インドの約16倍。
 2008年のインドの一人当たり所得は1870年のイギリスの1人当たり所得よりも少なく、2008年のバングラデシュの1人
当たり所得は1870年のアメリカの1人当たり所得の約3分の1。
 1870年のアメリカの1人当たり所得は4,007ドルで、2008年のそれは46,970ドル。したがって、
2008−1870
4007 ×(1+𝑛𝑛)
= 46970
138
⇔ (1+𝑛𝑛)
=
46970
4007
⇔
1+𝑛𝑛
1
46970
=(
)138
4007
となり、1870年から2008年における1年間の平均成長率は1.8%であることが分かる。
⇔
𝑛𝑛 ≒ 0.018
 ただし、あくまで「平均」の経済成長率であり、毎年の実際の経済成長率が1.8%であったということではない。
 各国の経済成長率には格差があるため、所得で見た国々のランキングは時間の経過とともに変化。
 世界で最も豊かな国が最も豊かであり続ける保証もなければ、世界で最も貧しい国が永久に貧困であり続けるように運命づけられ
ているわけでもない。
3
世界の国々の経済成長(2)
国
日本
ブラジル
メキシコ
ドイツ
カナダ
中国
アメリカ
アルゼンチン
イギリス
インド
インドネシア
パキスタン
バングラデシュ
期間
1890-2008
1900-2008
1900-2008
1870-2008
1870-2008
1900-2008
1870-2008
1900-2008
1870-2008
1900-2008
1900-2008
1900-2008
1900-2008
期初の1人当たり 期末の1人当たり
成長率
実質GDP
実質GDP
(年率,%)
(ドル)
(ドル)
1,504
35,220
2.71
2.40
779
10,070
1,159
14,270
2.35
2,184
35,940
2.05
2,375
36,220
1.99
716
6,020
1.99
4,007
46,970
1.80
2,293
14,020
1.69
4,808
36,130
1.47
675
2,960
1.38
891
3,830
1.36
737
2,700
1.21
623
1,440
0.78
4
生産性:その役割と決定要因
 生産性(productivity)の差が、世界の国々の生活水準に格差をもたらす。
 生産性:1人の労働者が1時間当たりに生産する財・サービスの量。
 生産性を決定する要因
 物的資本:財・サービスの生産に用いられる設備と建造物のストック。
 生産過程への投入物であるとともに、生産過程からの産出物でもある。
 人的資本:教育、訓練、経験を通じて労働者が獲得する知識と技能。
 教育投資によって生産され、一国の生産能力を高める。
 天然資源:自然によって提供される、生産への投入物。
 一国の経済が高い生産性を持つためには必ずしも必要ではない。技術進歩によって天然資源の制約を超えることは可能。
 技術知識:財・サービスを生産する最善の方法に関する知識。
 生産関数:生産に使われる投入物の量と、生産によって得られる産出物の量との関係を表す。
 Y を産出量、L を労働量、K を物的資本量、H を人的資本量、N を天然資源、A を利用可能な生産技術を反映する変数
とすると、生産関数はY = AF ( L, K, H, N ) となる。
 生産関数が規模に関して収穫一定の場合、任意の正の数xに対してxY = AF ( xL, xK, xH, xN ) となる。
 x = 1 / L とすると
𝑌𝑌
𝐾𝐾 𝐻𝐻 𝑁𝑁
= AF ( 1 , , , ) となり、労働者1人当たりについての生産関数に変換される。
𝐿𝐿
𝐿𝐿 𝐿𝐿 𝐿𝐿
5
 貯蓄と投資
経済成長と公共政策(1)
 現在ある資源を資本の生産により多く投資すると、財・サービスを将来より多く生産することができる。
 資本への投資を増やすためには、現在の所得からの消費を減らし、貯蓄を増やさなければならない。
 限界生産力逓減とキャッチアップ効果
 限界生産力逓減:資本ストックが増加するにつれて、資本を1単位増やすことによる産出の増加分は減少する(スラ
イド6)。
 長期においては、貯蓄率の上昇によって生産性と所得の水準は上昇するが、それらの成長率は上昇しない。
 キャッチアップ効果:他の条件が一定であれば、相対的に貧しい状態から出発した国の方が、豊かな国よりも急速
に成長する。
 外国への投資
 対外直接投資:国内の事業体が外国で所有・経営する投資。
 対外証券投資(間接投資):国内の投資家が外国に資金を投資し、経営は外国の事業体が行う投資。
 教育
 教育によって生み出される人的資本は正の外部性をもたらすので、経済成長にとって重要。
 外部性:ある経済主体の行為が、周囲の経済主体の経済的状況に影響を与えること。
 いくつかの貧しい国々が直面している頭脳流出。
6
労働者1人
当り産出量
経済成長と公共政策(2)
生産関数の図解
経済が保有する資本の水準が高いとき、
資本1単位の追加は産出量を少ししか増加させない。
経済が保有する資本の水準が低いとき、
資本1単位の追加は産出量を大幅に増加させる。
労働者1人
当り資本量
7
 健康と栄養
経済成長と公共政策(3)
 教育とともに健康と栄養も、人的資本を生み出し、維持するのに重要な要素。
 健康と経済的な豊かさの間には、双方向的な因果関係がある。
 所有権と政治的安定性
 市場で価格が作用するためには、所有権が尊重されていることが重要な前提条件。
 所有権:人々が所有している資源に対して、自らの権限を行使できること。
 所有権が尊重されるためには、その国が政治的に安定していることが重要。
 自由貿易
 海外貿易を活発に行うこと(外向き志向の政策)によって大きく経済発展してきた国、地域の存在。
 研究開発
 政府は研究開発に従事している企業等に助成金を出したり、税金を免除したり、あるいは特許制度を設けることに
よって研究開発を促進。
 人口成長
 人口が多いことは、財・サービスの総産出量(GDP)が多いことを意味するが、平均的な国民の生活水準が高い(1
人当りGDPが大きい)ことを必ずしも意味しない。
 しかし、人口が多い方が、より高い技術進歩と経済成長をもたらす可能性も。