口と脳 命を守る歯科医療(歯科医療経済より) ■内科医が語る歯科医療連携の重要性 6 月 12 日に行われた日本顎咬合学会学術大会の公開フォーラムで最も注目を集めたのが、 福岡県で開業する内科医、今井一彰氏の講演だった。 全身疾患の治療において、口呼吸から鼻呼吸に改善することにより次々に結果を出した症 例を見て、講演後には会場の一般市民から質問が相次いだ。全身の健康維持を目指し、医 科歯科連携の必要性説く今井氏が 5 月 23 日、東京・荒川区の相田歯科医院で歯科医療の重 要性について次のように語った。 <薬を使わず治す医療> 鼻呼吸が内科的な疾患に有効であることを知り、本格的に臨床に応用するようになって6 ~7年が経ちます。 もともと歯科関係の資料から学んだことですから、歯科医療関係者の方々はほとんどが知 っていることと思っていましたが、この 1 年、歯科界から講演などのオファーが多くかか るようになり非常に不思議に思っています。 みらいクリニックでは一般内科とリウマチ、アレルギー性疾患の診療が中心です。薬剤に よる治療に疑問を感じ、何年か漢方治療を行っていましたが、薬を飲み続けなければ良い 状態が維持できないということに疑問を抱いていました。医学の東西を問わず、処方箋を 通じた患者さんとのつながりを見直す必要性があるだろう、そのために第三の道を考えな ければならないと思った頃、リウマチ患者に共通する特有の匂いに気づき、それが口腔内 の炎症に起因すると分かったことが大きな転機になりました。 匂いを消すには口を閉じる、唾液の分泌を促せば良いのではないかと。ところが、当時は 口臭について周辺の歯科医院に聞いても確かな答えが得られない、やむなく独自に学びな がら患者さんに指導を始めたのが10年ほど前のことでした。意図を持って歯科治療をお 願いするようになったのは、ほんの 2~3 年前からです。 <鼻呼吸から生活習慣の改善へ> こうした治療の場合、常に問われるエビデンスの有無あります。 たとえば、いびきをかくお子さんの CRP(C 反応性タンパク)は高いというデータはあり ます。しかし、なぜ口呼吸は悪くて鼻呼吸は良いのかというエビデンスを問われると人体 の構造や、生物の進化の過程から当たり前なのだとしか今のところは、言いようがありま せん。もちろん、換気量や吸気の調温調湿においても鼻呼吸が当然良いのですが、それが 全身の疾患とどのようにつながっているのかを解明するのが、現在の課題です。 実際の治療において、気管支喘息や扁桃腺が腫れるようなお子さんの場合、ポイントはア デノイドの周囲の上咽頭にあります。呼吸すると必ず汚れる部位で、この部分の上皮細胞 を洗浄し、炎症を制御することが大事ですが、うがいをしてもここまでは届きません。 具体的な処置としては生理食塩水や次亜塩素酸などを点鼻するなどの方法が考えられます が、さらに大切なことは治療後の呼吸法など生活習慣の指導だと思います。 <草の根から医療を変える> 医療者の側から、もっと薬を減らしていきましょう、と提案されることはそれほど多い状 況ではありません。医科受診中の患者で、なぜこんなにも服薬量が多いのだろう、と疑問 に思ったことのある歯科医師は少なくないと思います。ならば、私たちが草の根から症例 を重ねていくことが、いずれは医療を変えることに繫がると信じ、諦めずに続けることで す。 <このままでは歯科医院が足りなくなる> 歯の治療をしてリウマチの患者さんが歩けるようになった例などいくらでもあります。全 身の健康の入り口はまず口なのだ、ということが広く認識されるようになれば、歯科医院 数が足りなくなるのではないかと危惧すらしています。そのためには、これから益々の医 科歯科連携を推進していかねばならない時期にあると実感しています。 以上
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