簡易版

線形代数学 I 第 3 章 行列式行列式の定義 (3.1)
担当:吉信 康夫
2015 年度前期
■内容
• 2 次正方行列の行列式
• 置換 (順列)
– 置換
– 置換の転倒数と符号
– 符号の性質 (1) 交代性
– 符号の性質 (2) 逆置換とその符号
• 行列式の定義
– 3 次以下の行列の行列式
■2 次正方行列の行列式
[
定義 1. 2 次正方行列 A =
a
b
c
d
]
について, ad − bc を A の 行列式 といい, |A| または det A で表す.
命題 2. 2 次の正方行列について, 次が成り立つ.
1. |E| = 1.
2. |AB| = |A||B|.
■2 次正方行列の正則性
[
2 次正方行列 A =
a
b
c
d
]
について,
[
]
d −b
1
.
1. |A| 6= 0 のとき, A は逆行列をもち, A =
|A| −c a
2. |A| = 0 のとき, どの 2 次正方行列 B についても |AB| = 0 なので, AB 6= E. よって A は逆行列をも
−1
たない.
以上より次のことがわかる.
命題 3. 2 次の正方行列 A が正則であるための必要十分条件は |A| 6= 0 であることである.
1
■行列式
このほか, 2 次正方行列の行列式の値は, その行列の表す線形写像の幾何学的な性質とも関連がある (後に学
ぶ).
このように, 2 次正方行列の性質の理解には, その行列式が重要な役割を果たす.
この章では, 一般の n 次正方行列に対して同様な役割を果たす式 (行列式) を定義し, その計算の仕方や重要
な性質について学ぶ.
■置換 (順列)
定義 4. 1 から n までの数を 1 度ずつ現れるように並べたもの (p1 , . . . , pn ) を n 文字の置換 (順列) という.
例
1. (2, 4, 5, 1, 3) は 5 文字の置換である.
2. 2 文字の置換は (1, 2), (2, 1) の 2 種類,
3 文字の置換は (1, 2, 3), (1, 3, 2), (2, 1, 3), (2, 3, 1), (3, 1, 2), (3, 2, 1) の 6 種類ある.
一般に n 文字の置換は n! 種類ある.
■転倒数
定義 5. n 文字の置換 (p1 , . . . , pn ) に現れる二つの数の組 pi , pj (1 ≤ i < j ≤ n) のうち, pi > pj である (つま
り, 右にある数より左にある数の方が大きい) ようなものの個数をこの置換の 転倒数 といい, trans(p1 , . . . , pn )
で表す.
例 5 文字の置換 (2, 4, 5, 1, 3) については, 右より左の方が大きい 2 つの数の組は 2 と 1, 4 と 1, 4 と 3, 5
と 1, 5 と 3 の 5 組なので, trans(2, 4, 5, 1, 3) = 5 である.
演習 3 文字の置換 6 種類全部の転倒数をそれぞれ求めよう.
答 trans(1, 2, 3) = 0, trans(1, 3, 2) = 1, trans(2, 1, 3) = 1, trans(2, 3, 1) = 2, trans(3, 1, 2) = 2,
trans(3, 2, 1) = 3.
■置換の符号・偶置換と奇置換
定義 6. n 文字の置換 (p1 , . . . , pn ) は, 転倒数が偶数のとき 偶置換, 奇数のとき 奇置換 という.
また (p1 , . . . , pn ) の 符号 sgn(p1 , . . . , pn ) を次のように定義する:
{
1
((p1 , . . . , pn ) が偶置換のとき)
sgn(p1 , . . . , pn ) =
−1 ((p1 , . . . , pn ) が奇置換のとき).
例 trans(2, 4, 5, 1, 3) = 5 なので (2, 4, 5, 1, 3) は奇置換, つまり sgn(2, 4, 5, 1, 3) = −1 である.
演習 3 文字の置換 6 種類全部の符号をそれぞれ求めよう.
答 sgn(1, 2, 3) = sgn(2, 3, 1) = sgn(3, 1, 2) = 1, sgn(1, 3, 2) = sgn(2, 1, 3) = sgn(3, 2, 1) = −1.
■符号の性質 (1) 交代性
のちに行列式の性質を調べる際に有用な符号の性質を紹介する.
2
命題 7 (符号の交代性). n 文字の置換 (p1 , . . . , pn ) のうち 2 つの数の位置を入れ替えて得られた置換を
(q1 , . . . , qn ) とすると,
sgn(q1 , . . . , qn ) = −sgn(p1 , . . . , pn )
が成り立つ.
例
trans(2, 4, 5, 1, 3) = 5 なので sgn(2, 4, 5, 1, 3) = −1 だが,
trans(2, 3, 5, 1, 4) = 4 なので sgn(2, 3, 5, 1, 4) = 1.
命題 7 の証明は板書による.
■符号の交代性の簡単な応用
命題 8. n ≥ 2 のとき, n 文字の置換は, 偶置換と奇置換が同数 (=
n!
個) ずつ存在する.
2
(証明) n 文字の置換 (p1 , p2 , . . . , pn ) と, その最初の 2 つの数を入れ替えて得られる置換 (p2 , p1 , . . . , pn )
n!
とをペアにして考えると, n 文字の置換の全体は,
組のペアに分けられる. 符号の交代性から各ペアには偶
2
置換と奇置換が 1 つずつあるはずだから, 結論が従う.
■逆置換
符号のもつもう 1 つの有用な性質について述べるために必要な定義をしておく.
定義 9 (逆置換). n 文字の置換 (p1 , . . . , pn ) は, 1 に p1 , 2 に p2 , . . ., n に pn をそれぞれ対応させる写像 (関
数) とみなすことができる. この対応の向きを逆にした写像 (逆写像), つまり p1 に 1, p2 に 2, . . ., pn に n を
それぞれ対応させる写像を考え, これを再び読み替えて得られる置換, つまりこの写像により 1, . . ., n に対応
づけられる数を順に q1 , . . ., qn として得られる置換 (q1 , . . . , qn ) を (p1 , . . . , pn ) の 逆置換 という.
■例
0
1
@
2
1
7→
7→
A
5
1
3
5
7→
4
4
7→
3
3
7→
7→
2
1
2
7→
3
7→
1
7→
0
1
A=@
5
4
5
7→
1
4
=⇒
5
4
7→
逆写像をつくる
0
2
@
1
7→
=⇒
4
7→
写像とみなす
3
7→
7→
=⇒
(2, 4, 5, 1, 3)
2
1
5
2
3
A
(4, 1, 5, 2, 3)
再び置換とみなす
となるので, (2, 4, 5, 1, 3) の逆置換は (4, 1, 5, 2, 3) である.
注意 逆置換の逆置換はもとの置換である.
■符号の性質 (2) 逆置換とその符号
命題 10 (逆置換の符号). n 文字の置換 (p1 , . . . , pn ) の逆置換を (q1 , . . . , qn ) とするとき,
trans(q1 , . . . , qn ) = trans(p1 , . . . , pn ),
3
従って特に
sgn(q1 , . . . , qn ) = sgn(p1 , . . . , pn )
である.
例 (2, 4, 5, 1, 3) の逆置換は (4, 1, 5, 2, 3) であったが,
trans(2, 4, 5, 1, 3) = trans(4, 1, 5, 2, 3) = 5,
sgn(2, 4, 5, 1, 3) = sgn(4, 1, 5, 2, 3) = −1 である.
命題 10 の証明 (のアイデア) は板書による.
■行列式の定義
定義 11. n 次正方行列 A = [aij ] に対し, A の 行列式 を次で定義する:
∑
sgn(p1 , . . . , pn )a1p1 a2p2 · · · · · anpn .
(p1 ,...,pn )
ただし, 和は n 文字の置換全部にわたるものとする.
A の行列式は |A| または det A で表す.
■1 次と 2 次の行列式
1. 1 × 1 行列 A = [a11 ] については, 1 文字の置換は (1) しかなく, これは偶置換 (転倒数は 0) なので, 次
が成り立つ:
det A = sgn(1)a11 = a11 .
[
2. 2 × 2 行列 A =
a11
a12
a21
a22
]
については, 2 文字の置換は (1, 2) (偶置換) と (2, 1) (奇置換) の 2 つだ
から,
det A = sgn(1, 2)a11 a22 + sgn(2, 1)a12 a21
= a11 a22 − a12 a21 .
[
A=
a
b
c
d
]
と表せば det A = ad − bc に他ならない.
■3 次の行列式

a11


3 × 3 行列 A = a21
a31

a12
a13
a22

a23 
 については, 次のようになる:
a32
a33
det A = a11 a22 a33 + a12 a23 a31 + a13 a21 a32
−a11 a23 a32 − a12 a21 a33 − a13 a22 a31 .
積の取り方と符号の付け方は次の図のようになっている
(たすきがけの法則またはサラスの公式などどいう).
4
■3 次の行列式:計算例
演習 次の行列式の値を求めよ.
2 −1
1 4
3 −1
3 −2 = {2 · 4 · 0 + (−1) · (−2) · 3 + 3 · 1 · (−1)}
0
− {3 · 4 · 3 + (−1) · 1 · 0 + 2 · (−2) · (−1)}
= (0 + 6 − 3) − (36 + 0 + 4)
= − 37.
■注意
4 次以上の正方行列の行列式の定義式は多数の (4 次のとき 24 個, 5 次で 120 個!) 項の和となり, 3 次のと
きのように簡明な図式で表現することはできない (特に, たすきがけの法則と同様のことは成り立たない).
また, 定義式に直接代入して 4 次以上の正方行列の行列式の値を求めるのも多くの場合実際的でない.
しかし, 次回以降に学ぶ行列式のいろいろな性質を使えば, 4 次以上の正方行列の行列式の値を比較的効率
よく計算することは可能である.
5