平成 27 年度政策・実務研修（ JAMP 共同実施研修）レポート優秀作市町村税徴収事務人事異動に左右されない強固な組織奈良県王寺町税務課 1 長原誠はじめにこのレポートは、 JIAM 研修を受講しながら作成しています。講義や課外演習を通じて、私の所属する王寺町役場には組織的知識として蓄積されていない情報を得ることができています。また、自由時間には大勢の受講生とも情報交換をしています。研修前までは、所属する税務課収納係内でわからないことが起これば、周辺の市町村や奈良県庁までに限定して情報収集を行っていました。しかしこの JIAM 研修では、もっと広範囲から大勢の知識を持ち寄り、各々の部署が抱える問題について意見しあうことで見識を深めることができています。それらを踏まえて王寺町の抱える問題点について考察します。 2 現状分析所属する税務課収納係は、平成 27 年６月現在で、係長を含めて４名体制です。昨年と比較すると、私以外の３名は、異動により新しい職員に入れ替わりました。その４名の徴収経験値については、現在の係長が２年間（以前に収納係を経験）、私が１年、他２名は１年未満となります。昨年は４名中３名が経験１年未満、１名が１年という状況です。つまり昨年も今年も、徴収業務に精通しているベテランが係員としてはおりません。その構成であっても、平成 26 年度合計徴収率（ 98.87％）は昨年度対比で 0.12％上昇しています。収納係の業務量についてみると、今年は昨年と変わらず収納業務、還付手続き、口座振替手続き、財産調査、差押、換価、分納誓約、督促、一斉催告等の収納に関する様々な業務を一括して行っています。また、高額滞納者、 1 市町村税徴収事務現年や過年度滞繰も係を分けずに滞納整理しています。滞納整理として扱う税目（料）は、町県・固定・軽自・国保・介護・保育・学童・住宅です。後期高齢や水道については、収納業務を行いますが、滞納整理までは及んでいないのが現状です。 3 問題点の抽出平成 27 年度の係員数や経験値が前年度とほぼ同じで、平成 26 年度徴収率が向上していることを考慮すれば、 27 年度も徴収率を維持することができる組織体制となっています。しかし、徴収率を維持ではなく向上させようと考えれば現状のままでは困難です。徴収率向上に向けての問題点を２点抽出しました。（ 1）ベテラン職員の不在による非効率性王寺町では収納係が扱う業務の種類が多いこと、また、扱う税（料）目によって電算システムも異なるため、全ての業務を覚えるには１年を要します。短期間では引き継ぎきれずに無理が生じます。手順に沿って一人で作業していくと不安が拭えないこともあります。こういう問題はベテラン職員がいないことによって生じてきます。また、滞納整理は実務です。机上だけで全て片が付くことはありません。新人職員を教育する立場や指導役といった困ったときに頼れる生き字引きのような職員の需要は高いです。しかしながらベテラン職員が存在しない組織の場合には、何かで困ったときには周辺の市町村や県庁等の見識ある方々に尋ねる、または関連する資料を探すことによって解決していきます。しかし、それではとても非効率です。知識量の多い方に質問が集中してしまう、資料検索に時間を割かなくてはならない、といった無駄が問題点としてあげられます。（ 2）熱意のばらつき徴収業務は、守秘義務の厳格さから情報の扱いには非常に神経をつかいます。特定の方の生活圏に踏み込みながら業務をしていかなくてはなりません。ときには罵詈雑言を浴びせられることもある特殊な業務です。それ故に、モチベーション管理には高いスキルが個々に求められます。係員それぞれが滞 2 市町村税徴収事務納者の担当を持ち、それぞれが自由に滞納整理をしていると徴収率は下がります。係員が同じレベルで徴収業務を行うには、マネジメントによるところもありますが、係員全体で意識や目標を共有しなければなりません。 4 問題点から課題発掘し解決策を考察する（ 1）ベテラン職員の不在による非効率性についてわからないときに尋ねられる生き字引きのような方の代わりに、調べたい内容の難易度によって２種類のマニュアルを作成します。１つ目は、判断に迷うケースの解決策が充実している業務マニュアルです。徴収用語の意味や作業フローといった基礎的業務内容に、業務に初めて携わった際の不明な点や判断に迷った点を追加したものです。係員の異動が多いといった新陳代謝の早い組織では、新人が多くなります。そしてベテラン職員を頼るポイントはどの新人にもほぼ共通しています。そのポイントをあらかじめ把握してマニュアル化し、追加していきます。２つ目は、新人が迷うであろうポイントや係の方針といった滞納整理を行う上での判断基準を統一させるマニュアルです。折衝する人によって対応が変わってはならないことをマニュアルで統一させます。例えば、分納誓約時の期間や金額の判断基準、充当する順番、執行停止の基準等です。（ 2）熱意のばらつきについて熱意やモチベーションを管理するマネジメントシップについては、ここでは触れませんが、組織体制をどのように整えれば解決していくかを考えました。係員がばらばらに動き、意識も行動も統一されていない状態が問題だと考えれば、係員がいつ、何を、どのようにすべきかといった 365 日のスケジュール作成がひとつの解決策となります。新人を自由にさせてしまうと、自分のできる滞納整理の幅が極端に狭いことが原因で、難しい案件、経験したことのない調査や差押えを避けて、自分が滞納整理しやすい案件ばかりに手を付けがちです。それを防ぎつつ、係員として今やるべきことを明確にする 365 日のスケジュールが必要です。次に、係員が同じ意識をもてるような目標の共有化が必要です。前述した 3 市町村税徴収事務とおりに、マニュアルで係員のスキルを一定以上に引き上げ、365 日スケジュールによって行動を管理します。その上で、行動がともなうようにモチベーションや意識を統一させるためには、定期的なミーティングが有効です。そもそもモチベーションが下がりやすい原因は２点あります。１点目は、係員個人が難しい案件を抱え込んでしまい、滞納整理が停滞している状況です。２点目は、係員個人が失敗したり、滞納者から罵倒されたりしたときです。これらの状況に対して、定期的にミーティングを実行します。ミーティングでは滞納額が大きい案件の進捗管理と困難案件を検討します。滞納額が大きい案件は解決すれば税収確保になりますが、塩漬け状態だと徴収率は上昇しません。困難案件も同様です。係全員で解決策を探れば、滞納整理の意識統一も図れると同時にスキルが係全体でレベルアップします。また、係全体で全滞納者の整理をする風土も醸成されます。そういった気運が高まれば、係員個人にかかる負荷も係全体で和らげることができます。 5 おわりに１年間の徴収経験と直近の人事異動を経て思うことは、人事異動が短期間で行われると、知識をもった人材が流出し、部署単体でみれば損失となるということです。しかしながら、市町村役場全体としてみれば適材適所な人員配置や長期的な人材育成としてのメリットも見えてきます。つまり、人事異動が問題なのではなく、異動によって痛手を負うような部署の体制に問題があると感じました。当係にあっては、誰が異動してきても計画的なスキルアップによりモチベーションが保たれ、徴収率を向上していける組織が目標となります。徴収率の向上を考えれば、賦課側との連携や賦課側と徴収側の人事ローテーション等も必要になってきますが、まずは徴収する側の足元を固めないといけません。 JIAM 研修では様々な刺激をいただき、そのように感じることができました。解決策については必ず実行する意を新たにしました。 4 市町村税徴収事務