改正障害者雇用促進法の「合理的配慮」について

点字による採用試験の実施について<その1> (15-02)
(改正障害者雇用促進法の「合理的配慮」について)
㈱社会システムプランニング 佐藤恵介
1.改正障害者雇用促進法等について
国連では、障がい者の人権及び基本的自由の享有を確保し、障がい者の固有の尊厳の尊重を促進
することを目的として、2006 年に「障害者の権利に関する条約」が採択されました(2015.4 現在、
わが国を含む世界 154 か国・地域が批准)
。
わが国では、この条約の批准に並行して、2011 年に障害者基本法の改正、2013 年に障害者差別
解消法の制定、2014 年に障害者雇用促進法の改正など、障がい者の権利の実現のための法的手当て
が進みました。
そのうち 2016 年 4 月に施行される改正障害者雇用促進法では、全事業主に対して雇用面におけ
る障がい者の差別の禁止とともに、障がい者が不利にならないための合理的配慮を求めています。
2.採用試験を受験する障がい者への合理的配慮について
合理的配慮とは、改正障害者雇用促進法第 36 条の2から第 36 条の4までの規定に基づき事業主
が講ずべき措置のことを差し、障がい者と障がい者でない者との均等な機会の確保の支障となって
いる事情を改善するために講じられるものです。
このうち、募集・採用時において、受験者からの申出があれば点字や音声等による採用試験の実
施や、試験時間の延長といった受験者が希望する合理的配慮を行うこととされています(下表)。
障がい区分
視覚障がい
合理的配慮の事例
・募集内容について、音声等で提供すること。
・点字や音声等による実施や、試験時間の延長を行うこと。
聴覚・言語障 ・面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること。
がい
・面接を筆談等により行うこと。
肢体不自由
・面接の際にできるだけ移動が少なくて済むようにすること。
内部障がい
・面接時間について、体調に配慮すること。
知的障がい
・面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること。
出所)厚生労働省「合理的配慮指針」による
改正障害者雇用促進法は、事業主に対してこうした「合理的配慮」を求める一方で、「過重な負
担にならない範囲」で対応することとしています。
それでは、具体的にどのような配慮をすればよいのかということを採用試験の点訳(点字試験の
実施)を例に考えることとします。
3.採用試験の点訳の留意点
視覚障がい者の方から採用試験の点訳の要望があった場合、要望通り、一般受験者向けの試験を
単にそのまま点字に直せば良いのでしょうか。点訳の要望は、「視覚障がい者の不利の解消を図っ
てほしい」ということですので、点訳が「不利の解消」につながっていることが必要となります。
そこで、採用試験に係る合理的配慮(点訳)についての留意点等を整理いたしました。
第一の留意点は、試験の分量の問題です。試験問題を点訳すると、レイアウトにもよりますが、
ページ数が少なくとも 3 倍前後に増加するため、点字受験者の負担は、仮に試験時間を延長したと
しても、一般受験者に比べ相当に重くなります。従って、試験時間の延長と合わせて、試験の問題
数の削減についても検討する必要があります。
第二の留意点は、点訳に不向きな問題があることです。図形や立体(空間把握)
、グラフや図表、
複雑な表現を含む問題は、点字受験者にとって内容を理解しにくく、点訳に不向きな問題である場
合が多いと言え、極力出題を避けることが望ましいと思われます。むろんこうした問題は、業務上、
必要とされる知識・能力を試すものとして出題されているわけですが、点字での受験を認める一方
で、あえて点字受験者が解答困難な問題を出題するのは対応として矛盾しているように見受けられ
ます。
第三の留意点は、点字受験者の得点の評価方法です。例えば、前述のように点字受験者の問題数
を絞り、一般受験者が 100 点満点であるのに対して、点字受験者が 60 点満点となった場合、両者
を同じ尺度で評価する工夫が必要となります。
これらの留意点について、弊社で点字試験の対応をさせて頂く際には、まず、一般受験者用の試
験問題を作成し、そのうち点訳に適した問題を選び、試験時間が一般試験問題の 1.5 倍から 2 倍以
内に収まるように再構成した上で点訳します。また、採点では、独自の方法により点字受験者の偏
差値の算出を行い、点字受験者が全受験者のなかで、どれくらいの位置にいるかを当該偏差値によ
り推定しています。
合理的配慮には、コストと時間の制約が伴うことも事実です。コストを最小限にする上でも、障
がい者の方々のニーズを十分に把握し、不利の解消のために適切な配慮を心がけることが不可欠と
言えます。
@社会システムプランニング 2015/05/01