産学官連携による「オール岩手」で取り組んだ魚介乾製品の開発を通じた水産業復興 宮本幸治(岩手大学) Keyword: 産学官連携、水産業復興、オール岩手 【背景】 水分活性の低さが食品の保存性の高さの指標としてあ 岩手大学と岩手県久慈市は平成 18 年 2 月に相互友 るが、塩分を高濃度にしても水分活性が下がるわけで 好協定を締結し、地域と大学の産学官連携を担う岩手 はない。食味を損ない塩分の過剰摂取にもつながり兼 大学地域連携推進機構へ、久慈市から共同研究員とし ねない。 て平成 18 年 4 月より職員の派遣を行っている。 平成 18 年に初代共同研究員が車座研究会を開催し、 これに対し、乾燥工程前の前処理において浸漬液に ローズマリー抽出成分を加えることで脂質の酸化を抑 当事案に関わる岩手大学農学部三浦教授と久慈市㈲北 制。食塩の代わりにグルコン酸塩を使用し保存性を高 三陸天然市場の出会いが生まれた。その際、 「水産加 めた。乾燥工程においては専用の乾燥設備により低温 工品の鮮度保持について」㈲北三陸天然市場より三浦 下で段階的に湿度を下げる「低湿低温乾燥」を用いて 教授に相談が寄せられる。その後、鮮度保持について 急激な乾燥を防ぎ、効率良く内部から乾燥させる。保 共同研究を行うが商品化には至らなかった。以降も技 存性も高まり食塩の使用量も減少。魚種ごとの最適な 術相談を継続していたところ、平成 23 年 3 月、3 代 乾燥時間を導き出して細かな設定を行った。 目共同研究員のときに東日本大震災が発生。 ㈲北三陸天然市場の主力商品である魚介乾製品にお 岩手大学五日市客員教授の助言指導をいただき、販 路拡大のためにパッケージングと広告展開のコンセプ いて従来の製造工程では非効率な環境下のため完成に ト確立を行った。 時間がかかり品質も安定しなかった。どうにか改善し 【研究結果】 てよりよい商品を消費者に届けたい、震災以降続く水 干物作りに対して一般的であった強い乾燥と高塩分 産業全体の閉塞感を打破したいという強い思いに、水 濃度とは別の手法を取り入れることで、逆に保存性が 産業復興推進部門長に就任された三浦教授が応え、改 増し、塩分は純粋な味付け用として最小限にできた。 めて支援する運びとなり、三浦教授の研究シーズを商 生臭さも抑えて魚本来のおいしさを最大限に引き出し 品に応用するための研究が開始される。 生臭さを苦手としてきた消費者や、塩分量を気にする 4 代目共同研究員は研究・設備導入資金、デザイン・ 販売戦略構築のための資金確保のため各支援機関との 調整役として大学と企業のコーディネートを行った。 そして三浦教授と㈲北三陸天然市場との出会いから 8 年、5 代目共同研究員のときに三陸の震災復興に向け て目標を同じにする多くの方々の力添えにより「潮騒 健康志向といった消費者ニーズに応える商品開発がで きた。 五日市客員教授に助言いただく中で、販路としてイ オンリテール㈱様とのマッチングもできた。 【今後の展開】 久慈市ふるさと納税の商品として採用され、現在指 の一夜干し」として商品化・販売に至る。 名 1 位となっている。産学連携商品を首都圏や県外で 【研究内容】 の販売を目的とした岩手大学フェアを毎年行っている。 ㈲北三陸天然市場での従来の魚介乾製品の製造工程 こういった機会を積極的に活用し、足かけ販売まで 8 は「放射性物質汚染による風評被害の影響を極力避け 年かかったこの商品をできるだけ広く知ってもらい、 る」 「紫外線による脂質の酸化を防ぐ」 「衛生管理」を 数多くのファンを獲得していきたい。販路を拡大し、 目的に店舗内の冷房設備による空気調和で乾燥を行っ 消費者の魚離れを食い止めることに少しでも貢献する ていた。しかし、非効率な環境での作業のため完成ま ことで、小さな市の小さな事業者の一例として震災か でに時間がかかり、品質も安定せず脂質の酸化が進行 らの水産業復興に寄与できる可能性に貢献していきた し、比較的早い段階で生臭さが発生していた。更に、 い。 従来の干物作りでは「長期に風味を保つために強い乾 【引用・参考文献】 燥状態と高い塩分濃度が必要」という風潮があった。
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