合気道小話「受身」 群馬杉武館代表 杉本 久 (挿絵 ハシナ・ハナコ) 養神館合気道の場合、技をかける者を「仕手」、受ける者を「受け」と呼んでいる。 初級のうちはともかく、中級技から上級技になると高度な受けが取れないとケガをして しまう。自由技などは予測がつかないから、どんな投げ技や極め技にも対応できなくて はならない。 毎年行われている養神館の全国大会では、最後の説明演武で井上館長が解りやすい解説 をまじえながら、演武を見せてくださっているが、塩田館長がお元気な頃は、当然塩田 館長がユーモアのある説明をされていた。 現道場長の千田師範や山梨養神館の竹野師範、千葉の「龍」代表の安藤師範など、そう そうたるメンバーが居並んで受けを取られていた。 いつだったか、千田師範の結婚式披露宴の会場で、媒酌人である塩田館長は、ひと通り の新郎新婦の紹介が終わると、あとは暇になり、坐っているのに飽きてきたのか、する すると来賓宴席に降りてゆき、竹野師範を相手にダンスを始めてしまった。 両家のご親戚の方々は、ずいぶんと気さくな媒酌人だと思ったに違いない。 すると突然、塩田館長はお相手の竹野師範を投げ飛ばしてしまった。 投げる方も投げられる方も、あの狭い通路で両側の着席の人たちに、よくもぶつからず にできるものだとびっくりしていたが、受けを取った竹野師範はきれいに一回転して、 パンと受身を取るやすぐに立ち上がって、また塩田館長と何事もなかったようにダンス の続きを始めた。 こうなると新郎新婦はそっちのけで、その周りが盛り上がってしまった。 私もバブル全盛期には、銀座や赤坂のクラブやスナックで、マイク片手に歌いながら、 曲の間奏の間に狭いイスの間で、飛躍受身を何度も取った。 無線のマイクであればどうということはないが、コードが付いていると、空中に飛んだ 時に体に絡みつくから、その点だけは注意しておかなければならない。 それと右手のマイクは離せないから、左手で着地の寸前に床を叩くので、その店舗の床 が固いタイル貼りか、柔らかい絨毯かの判断は必要である。 それによって受身の仕方が変わってくる。もちろん左手の腕時計ははずしておく。 一度はずしておくのを忘れてしまい、ショックで壊してしまったことがあった。 これは客席に大いに受けるが、背広、ネクタイ、革靴、飲酒、歌の合間、狭い通路・・・ これらの悪条件の中でも「受身」を取れなくては、指導者にはなれない。
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