特集 学生の研究活動報告−国内学会大会・国際会議参加記 19 第 74 回応用物理学会秋季学術 講演会に参加して 丸 山 亜 起 Aki MARUYAMA 電子情報学科 4年 1.はじめに 図1 (a)Si 基板に平行に並んだネマティック液晶. (b)電圧印加時に再配向した液晶. (c)ピッチが p であるコレステリック液晶. 9 月 16∼20 日に,同志社大学で開催された第 74 回応用物理学会秋季学術講演会に参加し,19 日に 「コレステリック液晶を用いた偏光依存性のない干 渉フィルタ」というテーマで発表した. 2.研究背景 薄膜中での光干渉を利用した多層膜干渉フィルタ (ファブリ・ペロ干渉フィルタ)は小型・軽量の分 光素子であり,液晶を用いて共振器の屈折率を変え るとチューナブル(波長可変)フィルタとなる.液 晶の屈折率には偏光依存性があるため,これらのデ バイスは偏光子を必要とするが,偏光子は光強度を 減少させてしまう.本研究では,偏光回転機能を持 つコレステリック液晶を使用すれば,赤外域ではね じれピッチよりも波長が長くなるため,機能が失わ れるという点を利用すると,偏光子の要らないデバ 図 2 サンプルセルの透過スペクトル (a)液晶を入れる前に基板間隔を調べるため測定 した透過率.液晶を封入後ラビング方向に(b) 平行,または(c)垂直な光を入射したときの透 過率.理論曲線である細線から(a)d=17.1±0.05 μ m(n=1.00).(b, c)n=1.63, 1.64(d=17.1). イスができるのではないかと考え,無電圧・電圧印 加時の 2 つの場合での実効屈折率の測定を行った. ! が小さいとき,長波長の光は回転に応答せず,異方 性のない平均的な屈折率 na= (no2+ne2)/2を感受す 3.実験結果 る.そして,電圧印加時には図 1(b)のように no 赤外透過性と導電性を併せ持つ Si 基板で液晶を を感受するので,偏光に依存しないフィルタとな 挟むと,ファブリ・ペロ型波長可変フィルタとな る.配向膜をコートした 2 枚の Si 基板間にスペー る.例えば図 1 のように,(a)ネマティック液晶を サで間隙を作り,ピッチ 5 μ m のコレステリック液 基板に平行に配向させておくと,(b)電界印加によ 晶(no=1.52, ne=1.76)を封入した.液晶封入前に って垂直に再配向する.この場合,異常光屈折率 ne 測定した図 2(a)の干渉スペクトルから,間隙 d を感受していた偏光は常光屈折率 no を感受するよ は 17.1 μ m と評価された.(Si のバンド端となる うになるが,他方の偏光では変化がない.したがっ 1.1 μ m 以下では光が通らない)液晶封入後,配向 て,波長可変フィルタとするためには偏光子が必要 膜のラビング方向に平行または垂直な偏光を入射す となる.そこで,コレステリック液晶を図 1(c) ると,図 2(b),(c)のようにほぼ同じスペクトル のように封入すると,分子が 1 回転するピッチ p が現れた.理論曲線と比較して求めた屈折率は 1.63 ― 75 ― 4.考察 今回の実験で,コレステリック液晶は偏光回転機 能によって偏光依存性を無くし,平均的な屈折率を 感じていることがわかった.この結果より,偏光子 を使わない波長可変フィルタの作製が出来るが干渉 のコントラストが非常に悪い.そのため今後はシリ 図 3 電圧を印加した際の透過率スペクトル 灰色線は 0 V,黒線は 20 V を印加した時の 干渉スペクトル.細線は d=17.1 μ m,上が n=1.53,下が n=1.63 に設定した理論曲線. コン基板の反射率を上げるなどをしてコントラスト の向上をはかっていく. 5.おわりに ∼1.64 となり,上述の平均屈折率 1.64 に近い値と 今回初めての学会に参加しましたが,参加者の方 なっていた.図 3 は,ランダム偏光で測定した透過 から多くの質問や意見を頂き,非常に良い体験が出 スペクトルである.交流電圧(1 kHz)を印加する 来ました.この学会で得られたことを今後の実験で と(黒線),干渉ピークが印加前(灰色線)より約 活かしていきたいと思います. 0.1 μ m 短波長側に移動した.20 V では屈折率が 今回の発表を行うにあたって,終始御理解ある御 1.53 と評価され,no に近い値となっていることが 指導をしていただいた斉藤光徳教授に深く感謝しま 分かった. す. ― 76 ―
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