<サンプル 新聞コラム> 都心の交通渋滞を緩和するため(春秋) 2015/03/26 日本経済新聞 朝刊 1 ページ 562 文字 都心の交通渋滞を緩和するため、皇居の西側、千鳥ケ淵から桜田門あたりに かけての広い堀や土手を転用し、新たに高速道路をつくる。昭和30年代、東 京都がそんな青写真を描いたことがあるそうだ。元建設省職員の宮田章氏が著 書「霞ヶ関歴史散歩」で明かしている。 ▼計画では国会議事堂のすぐ脇を首都高速が横切ることになっていた。景観へ の影響などを考えた建設省が「トンネルに変更してほしい」と折衝を重ね、経 費や時間はかかるが現行の地下道方式に決まったと記す。一帯の堀沿いに伸び る公園や遊歩道は現在、都内有数の花見の名所だ。毎年春になると、多くの人 が繰り出す。 ▼きのうの昼も、咲き始めたばかりの桜を見にちらほらと観光客が訪れていた。 ベンチで弁当を広げる会社員たち。皇居一周のランニングを楽しむ人々。外国 人も多い。首都高速が当初の計画どおり完成していたら、この風景もだいぶ違っ ていたことだろう。実際に、隅田川沿いの公園や日本橋では上空を高架道路が 覆った。 ▼高速道路は人の移動や物流の効率を高めた。しかしこれからも今のままでい いのだろうか。米国や韓国では高架を撤去し、公園や清流を復活させた例があ る。東急グループを率いた五島昇氏は生前、21世紀のレジャー産業は自然と 触れる場を提供すべきで、環境を壊す投資はやめよと説いた。まちづくりにも 通じる発想だ。
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