1 国民経済計算(国民所得理論)

 =§======================<第 1 章:理論編>==
国民経済計算(国民所得理論)
=============================== = =∞=
国民経済計算(国民所得理論)
1
1.1
1.1.1
国民経済計算
フローとストック
• マクロ経済学で扱われる変数は「 フロー 」と「 ストック 」の 2 つに分けることができる.
| {z }
| {z }
flow
stock
• 国内総生産 という フロー変数は,期間を限定して初めて意味をもつ数量 となる.
|
{z
}
|
{z
}
GDP
フローは「期間」を設定する
<フロー変数>
国民所得,消費,貯蓄,投資,政府支出,経常収支,資本収支など
• 一方,フロー量と対になる概念であるストックは,ある「時点」における存在量 となる.
|
{z
}
ストックは「時刻」を設定する
|
{z
}
過去からの「フローの蓄積」がストックとなる
<ストック変数>
実物資産,金融資産,貨幣量,国富,国債の累積額,対外資産残高など
1.2
1.2.1
国民所得統計
国民所得統計の原則
• 国民所得概念は,一国の「一定期間」の経済活動の水準を測る尺度 である. |
{z
}
国民所得は,国民 1 人 1 人の所得の合計となる
• 一方,所得は「生産」活動の成果への「分配」であるとも考えられる.
⇒ 国が 一定期間にどれだけ「生産」したか で一国の経済活動を測ることも可能である.
|
{z
}
生産 = 分配(所得)
|
{z
}
二面等価
–2–
定義 1.1. (国民所得)
国が一定期間に経済活動により,新たに作り出したものの価値額 を国民所得という.
|
{z
}
付加価値


範囲:一国





 期間:1 年
対象:経済活動により,新たに作り出されたもの
国民所得の定義
{z
}
|




付加価値


 単位:価値額
<国民所得統計:計算原則 1 >
国を 人で定義 するのか,領土で定義 するのかの 2 通りの解釈がある.
| {z }
|
{z
}
属人主義
属地主義
| {z }
| {z }
「国民」概念
「国内」概念
• 属人主義,属地主義のどちらにおいても,国民所得の定義は可能である.
<国民所得統計:計算原則 2 >
生産活動はフローの概念である.
• 経済変数にはフローの概念とストックの概念がある.
⇒ フローを求めるには「期間」が設定されなければならない.
|
{z
}
通常,
1 年をとることが多い
<国民所得統計:計算原則 3 >
「市場」で取引されたものを集計する.
• 国民所得の計算の対象は,
「市場取引」の行われている財・サービスに限定される.
⇒ 経済(生産)活動以外により生み出された価値は除外する.
–3–

・日曜大工










・主婦(主夫)の家事労働・育児サービス




⇒ 家事代行サービス業者に依頼すれば,国民所得に含まれる.










・ボランティア活動









・家庭菜園で作った野菜 


 ⇒ 農家が作った野菜は国民所得に含まれる.
経済活動とみなされないもの
|
{z
}



∴ 国民所得に含めない


・自分で行う散髪




⇒ 散髪屋で行った散髪は国民所得に含まれる.










・産業廃棄物









・騒音などの公害








・品質改善
「市場性」の有無によって,国民所得(GDP )に含まれるかどうかが決定する.
<国民所得統計:計算原則 3 の「例外」>
実際に市場で取引されないものでも,生産物の中に含める ものがある.
|
{z
}
帰属計算(みなし計算)
|
{z
}
帰属 ̸= 市場価格ではない
• 経済活動の中には市場を経由していないが,無視できない重要なものが存在する.
定義 1.2. (帰属計算)
帰属計算とは,実際にその財が市場において取引されていないにもかかわらず,あたかも市場を経由
したかのように取り扱い,市場価格で評価するもの.
–4–


・農家の自家消費




⇒ 自家消費したものを,仮に市場で購入したらいくになるかと仮定する.










・持ち家のサービス




⇒ 持ち家の住人は自分自身に家賃を支払っている と仮定する.


{z
}
|




帰属家賃







 ・会社員の現物給与や住宅サービス
帰属計算するもの
|
{z
} 
 ⇒ 会社の生産額の中にあたかも市場を通じる取引があったと仮定する.

∴ 国民所得に含める 

 



・政府の行政サービスや民間非営利団体が提供するサービス (官公庁の窓口業務) など. 




⇒ 実際にそのサービスを提供する上でかかった費用 で代用する.


|
{z
}




人件費など









・帰属利子(受取利息と支払利息との差)



⇒ 金融機関により実際は利子が支払われていないが,受け取ったものと仮定する.
<国民所得統計:計算原則 4 >
単なる所得の移転(再分配)は国民所得に含めない.



 ・贈与,寄附



⇒ すでに一度,誰かの所得として計算されたものは含めない.









・株式や「キャピタル・ゲイン」,
「キャピタル・ロス」





⇒「資産価値の変化」は生産活動により生じたものではないため,含めない.



 ⇒ ただし,
「仲介手数料」は国民所得に計上されることに注意 .
|
{z
}
所得の移転・再分配
|
{z
}
金融機関による仲介手数料


国民所得に含めない 






・
「土地」,
「美術品」,
「骨董品」などの資産や「中古品」(中古車など)





⇒ 中古品が繰り返し取引されるだけなので,含めない.





⇒ ただし,
「仲介手数料」は国民所得に計上されることに注意 .

{z
}
|



中古品や資産取引にかかわる事務手数料
–5–
<国民所得統計:計算原則 5 >
二重計算を避けるため,中間投入は国民所得に含めない.


 農家は 10 の小麦を作り,これを粉屋に売る.
具体例
製粉業者は小麦粉を製造し,
15 の価格でパン屋に売る.

 パン屋は小麦粉からパンを作り,消費者に売る.
農家 −→ 製粉業者 −→ パン屋 −→ 消費者
小麦 |{z}
10
小麦粉 | {z }
15
パン
|{z}
20
付加価値=総生産額−中間生産物額

























付加価値と迂回生産
|
{z
}



図1




















小麦農家(小麦を栽培) ⇒ |
{z
}
仮定:中間投入 = 0
10 |
{z
}
付加価値 = 10 − 0 = 10
製粉業者(小麦粉を生産) ⇒ 10 5 {z
}
|
|
{z
}
中間投入 = 10
付加価値 = 15 − 10 = 5
製パン業者(パンを生産) ⇒ 15 5 |
{z
}
|
{z
}
中間投入 = 15
付加価値 = 20 − 15 = 5
消費者(最終購入者) ⇒ 20 |
{z
}
|
{z
}
最終生産物
最終生産物 = 付加価値合計


 売上合計 = 10 + 15 + 20 = 45( ̸= GDP )
最終生産額 と付加価値額
|
{z
}

 付加価値合計 = 10 + 5 + 5 = 20( = GDP )
売上高
• 製粉業者が小麦農家から購入する小麦 10 やパン屋が製粉業者から購入する小麦粉 15 は中間財で
ある.
• 仮に原材料として他の産業から購入したものも経済活動の測定に加えと,
10 + 15 + 20 = 45
となり,二重計算となる.
⇒ ∴ 国民所得に中間財を含めない.
–6–
• 付加価値を計算するには,
付加価値 = 総生産額 − 中間投入額(生産面から捉えた GDP )
|
{z
}
付加価値:原材料費以外のコスト
より,実際に取引された額 (総生産額) から,その生産にかかった原材料費 (中間生産額) を差し引
く必要がある.
• 図 1 の例で付加価値を計算すると,
付加価値 = 農家の 付加価値 + 製粉業者の 付加価値 + パン屋の 付加価値 | {z }
| {z }
| {z }
生産面
生産面
生産面
{z
} |
{z
} |
{z
}
|
農家の所得:10
製粉業者の所得:5
パン屋の所得:5
|
|
|
{z
}
{z
}
{z
}
分配面
分配面
分配面
= 10 + 5 + 5 = 20
となる.
⇒ この付加価値合計は,最終的に消費者がパンに支払った金額に等しい.
⇒ 付加価値の総額である 20 が,最終需要の総額 20 に等しくなっている.
|
{z
}
∴ 国民所得は,最終消費の合計としても計算可能
|
{z
}
最終生産物 = 付加価値合計
1.2.2
国民所得統計の諸概念
国内総生産 (GDP :Gross Domestic Product)
定義 1.3. (国内総生産:GDP )
国内総生産(GDP )とは「国内」で一定期間(通常1年間)に生産された財・サービスの付加価値の総額
である.
<国内総生産:GDP >
GDP = 総生産額 − 中間投入額
|
{z
}
付加価値の総額
–7–
• 一国の生産あるいは所得を捉える概念としては「国内」概念と「国民」概念がある.
⇒ 一国を地理的領土に関連して捉える場合に「国内」概念という.















国内総生産(GDP )














国内(Domestic)
:その国の地理的領土
{z
}
|
日本:made in Japan
総(Gross)
:固定資本減耗分(不純物)を考慮していない概念
|
{z
}
GDP には固定資本減耗分が含まれている
生産(Products)
:
「生産」されたものは,
「所得」として「分配」される
|
{z
}
二面等価:生産 = 所得
<「国内」概念>


その国(日本)の領土にある外国大使館,領事館および軍事基地等

|
{z
}




除外する




海外にあるその国(日本)の外国大使館,領事館および軍事基地等


{z
}

 |
加える
※ 日本の GDP の中には外国人が一時的に日本国内で行った生産活動も含まれる. 例:日本の領土にある米軍の横田基地における付加価値生産 {z
}
|
米国の GDP に計上する
例:米国の領土にある日本大使館の付加価値生産 |
{z
}
日本の GDP に計上する
• GDP の定義は 2 通りの定義で表現することが可能である.
<国内総生産:GDP >
1. 国内において,単位期間内に産出された財・サービスのうち,最終生産物であるものの価額.
2. 当該単位期間中に国内領域において,居住者である生産単位が生み出した付加価値額.
–8–
国民総所得 (GN I :Gross National Income)
定義 1.4. (国民総所得:GN I)
国民総所得(GN I)とは一定期間にその国の居住者によって新たに生み出された付加価値の合計を市場
価格で表示したものである.



















国民総所得(GN I )


















国民(National)
: その国の国民(居住者)
|
{z
}
日本:made by Japanese
総(Gross)
:固定資本減耗分(不純物)を考慮していない概念
|
{z
}
GN I には固定資本減耗分が含まれている
所得(Income)
:
「生産」されたものは,
「所得」として「分配」される
|
{z
}
二面等価:生産 = 所得
|
{z
}
∴ GN I = GN P
<「国民」概念>
• 一国の生産あるいは所得を捉える概念としては「国内」概念と「国民」概念がある.
⇒ 1 年以上居住している居住者に関連して捉える場合 を「国民」概念という.
|
{z
}
「国民」= その国の居住者
• 一方,居住者という意味での「国民」が一定期間に行った生産活動による所得は,国民総所
得 (GN I) として定義される.
※ 外国籍であっても一時的ではなく,その国に長期(通常 1 年以上)居住する個人. |
{z
}
「国民」の中に含まれる
⇒ 企業も同様で,その国で継続して事業を行っている場合は居住者となる.
例:メジャーリーガーのイチロー選手 {z
}
|
アメリカの居住者となる
例:日本にあるアメリカ企業の子会社 |
{z
}
日本の居住者となる
• 居住者という意味での「国民」が一定期間に行った生産活動による所得は,国内総生産(GDP )
ではなく,国民総所得 (GN I) として定義される.
–9–
例題 1.1. (GDP と GN I に含まれる範囲)
< GDP と GN I に含まれる範囲>
• 日本の歌手 (日本の居住者) の米国公演の報酬
⇒ 日本の GN I 及び米国の GDP
• 米国の歌手 (米国の居住者) の日本公演の報酬
⇒ 米国の GN I 及び日本の GDP
• 日本企業が米国工場で現地採用した米国人の所得
⇒ 米国の GDP 及び米国の GN I
• 日本企業が米国工場へ日本人を派遣した際の日本人の所得
⇒ 米国の GDP 及び日本の GN I
• 日本の GN I には,日本人が海外で得た所得 は含まれる.
{z
}
|
海外からの要素所得
• 一方,日本の GN I には,外国人が日本で得た所得 は含まれない.
|
{z
}
海外への要素所得
< GDP と GN I の関係式>
GN I = GDP + 海外からの純要素所得
= GDP + 日本人が外国で得た所得 − 外国人が日本で得た所得 |
{z
} |
{z
}
海外からの要素所得
海外への要素所得
|
{z
}
= 海外からの純要素所得
国民概念 = 国内概念 + 海外からの純要素所得
国内概念 = 国民概念 − 海外からの純要素所得
海外からの純要素所得 = 国民概念 − 国内概念 ※ 要素所得とは,生産要素 (労働,資本) に対する報酬のことである.
–10–
支出面からみたGDP ◆ 国内総支出 (GDE :Gross Domestic Expenditure)
•「 間接税 − 補助金 」
は,生産活動に対する報酬ではないが,政府部門への付加価値の分配 となる.
|
{z
}
純間接税
{z
}
|
分配面からみた GDP の構成項目
• 一方,分配された総生産は,それがどのように使われるのかという観点から,
支出面 でも捉えるこ
|
{z
}
国内総支出 (GDE)
とができる.



































国内総支出:GDE
|
{z
}



Y






























民間最終消費支出:C(consumption)
|
{z
}
家計の需要
国内総固定資本形成:I(investment)
|
{z
}
企業の需要
政府最終消費支出:G(government expenditure)
|
{z
}
政府の需要
輸 出 :X(export)
| {z }
外国の需要
輸 入:M(import)
在庫品増加:SK(increase in stocks)
|
{z
}
売れ残り
※ 国内総固定資本形成 = 民間住宅投資 + 民間企業設備投資 + 公的固定資本形成
|
{z
}
公共投資
※ 在庫品増加 = 民間在庫品増加 + 公的在庫品増加
–19–
産業連関表
1.3
1.3.1
産業連関表
(1) 産業連関表の読み方
• 産業連関表とは,レオンチェフのによって考案された分析法であり,中間生産物を含めた経済活
動における取引の動きを分析するものである.
⇒ 国民所得統計では,中間生産物の取引を明示的に考慮してこなかった.
• 産業連関分析では,国民所得統計では扱われなかった産業間の経済取引 が分析可能となる.
{z
}
|
中間財を含めた取引の分析
'
$
<産業連関分析の考え方> 産業連関分析:財・サービスの連鎖的な相互依存関係を示す {z
}
|
購入 → 生産 → 販売
ある産業部門が,他の産業部門から原材料や燃料などを購入する. ⇓ それらを加工して別の財を生産する. ⇓ さらにそれを別の産業部門に対して販売する. ⇓ 購入した産業部門は,それらを原材料等とし,また別の財を生産する.
⇓ ある産業に新たな需要が発生した際の生産の波及効果が分析可能. &
%
'
$
<行列の見方> 1行
2行
※ 行(ヨコに見る)
※ 列(タテに見る)
3行
1列
&
2列
3列
%
–25–
問題 2. <特別区>
<国民経済計算:産業連関分析>
次の表 I は,封鎖経済の下で,すべての国内産業がア,イの 2 つの産業部門に分割されていると
した場合の産業連関表であり,表 II は,表 I の数字に基づいて各産業間の投入係数を表した表で
あるが,表 I 中の A∼G に該当する数字の組合せとして,妥当なのはどれか. 表I
(単位 億円)
産 出
投 入
中間需要
ア産業
イ産業
最終需要
総産出額
中 間
ア産業
A
20
70
B
投 入
イ産業
C
D
60
200
付 加 価 値
E
F
総 投 入 額
G
200
表 II
ア 産 業
イ 産 業
ア産業
0.1
0.1
イ産業
0.4
0.5
A B C D E F G
1 10 100 20 180 40 30 50
2 10 100 40 100 50 80 100
3 20 110 30 100 60 80 120
4 30 80 40 110 50 30 80
5 30 120 20 180 40 50 50
–33–
'
$
<投入係数の計算例> 表I
(単位 億円)
産 出
投 入
中間需要
ア産業
イ産業
最終需要
総産出額
中 間
ア産業
10
20
70
B
投 入
イ産業
40
100
60
200
付 加 価 値
E
F
総 投 入 額
100
200
表 II(投入係数表)
ア 産 業
イ 産 業
ア産業
0.1 =
10
100
0.1 =
20
200
イ産業
0.4 =
40
100
0.5 =
100
200
※ ア産業が生産物を 1 単位作るのに,ア産業から 0.1 単位の投入が必要となる. ※ ア産業が生産物を 1 単位作るのに,イ産業から 0.4 単位の投入が必要となる. ※ イ産業が生産物を 1 単位作るのに,ア産業から 0.1 単位の投入が必要となる. ※ イ産業が生産物を 1 単位作るのに,イ産業から 0.5 単位の投入が必要となる. &
< step 1 > 産出合計 = 投入合計 ⇔ 行 = 列
| {z }
| {z }
|{z}
|{z}
収入
支出
ヨコ
タテ
省略(計算不要)
< step 2 > 各産業の「行(ヨコ)」の需給バランス式を作る.


 < 1 行> A + 20 + 70 = B(= G)
「行」の需給バランス式

 < 2 行> C + D + 60 = 200
–34–
%
< step 3 > 各産業の「列(タテ)」の需給バランス式を作る.


 < 1 列> A + C + E = G(= B)
「列」の需給バランス式

 < 2 列> 20 + D + F = 200
< step 4 > 投入係数表より,投入額を求める.
投入額 = 投入係数 × 総投入額

























































D = 0.5 × 200 ∴ D = 100 ⇒ < 2 行>へ代入
C
| + 100 +
{z60 = 200} ∴ C = 40
2行
A = 0.1 × G
C = 0.4 × G ⇔ 40 = 0.4 × G ∴ G = 100(= B)
< 1 行>より,
A + 20 + 70 = 100 ∴ A = 10
< 1 列>より,
10 + 40 + E = 100 ∴ E = 50
< 2 列>より,
20 + 100 + F = 200 ∴ F = 80
正解:2
–35–
2.3
2.3.1
45 度線分析
45 度線モデル:財市場の均衡モデル (政府部門と海外部門が存在しないケース)
• 45 度線モデルにおける投資水準は,所得に関係なく一定(定数)と仮定する.
|
{z
}
I = I(独立投資)
'
$
<独立投資> I(投資)
I = I(独立投資)
I=S
O
Y1
&
Y2
Y(国民所得)
%
<均衡国民所得の導出>
• 総需要と総供給は等しくなるところ で国民所得は均衡する.
|
{z
}
Y =C +I

























|
均衡国民所得の導出
{z
}



∗

Y



















財市場の需給均衡条件式:Y = C + I · · · · · · (6)
消費関数:C = c0 + cY · · · · · · (7)
投資(独立投資)
:I = I · · · · · · (8)
⇒ (7) 式と (8) 式を (6) 式に代入する(財市場の需給均衡条件の適用). Y = c0 + cY + |{z}
I
| {z }
I
C
Y − cY = c0 + I
Y (1 − c) = c0 + I
)
1 (
∴ Y ∗ =
c0 + I
1−c
–66–
'
$
<財市場の均衡:均衡国民所得の決定> YD, YS
Y ≡ Y S(45 度線)
Y D = C + I(総需要線)
YS
C = c0 + cY
E
∗
I=I
c0 + I
Y =C +S
c0
Y ∗:均衡国民所得
|
{z
}
)
(
1
Y∗ =
c0 + I
1−c
C
I(独立投資)
I
Y∗
O
&
Y
• 45 度線とは,二面等価 (分配 = 生産) を表す線 となる. |
{z
}
S
|
{z Y = Y
}
45 度線は,国民所得を表す
⇒ 45 度線上では縦座標と横座標が等しい.
• Y D = C + I は,総需要線であり,C = c0 + cY に一定の独立投資 I を加えたものとなる.
• E 点において,総供給 (Y S ) と総需要 (Y D ) が一致 している.
|
{z
}
財市場の均衡
⇒ 総需要と総供給が等しくなる均衡は,45 度線と総需要線の交点となる.
• 三面等価が成立している点 が E 点となる.
|
{z
}
分配 = 生産 = 支出
|{z} |{z} |{z}
Y
YS
YD
練習問題 2.1. (均衡国民所得の決定)
以下のマクロ経済モデルにおける均衡国民所得を求めよ.
財市場の需給均衡条件式:Y = C + I
消費関数:C = 20 + 0.8Y ⇒ S = −20 + 0.2Y
独立投資:I = 40 –67–
%
(解答) 練習問題 2.1.
• 財市場の需給均衡条件式に,与えられた消費関数と投資水準を代入して,
Y について成立する.
Y =C +I ⇔ YS =YD
Y = 20
40
| +{z0.8Y} + |{z}
I
C
0.2Y = 60
∴ Y ∗ = 300 (均衡国民所得)
2.3.2
45 度線モデルの安定性
'
$
<財市場の調整メカニズム> YS, YD
Y ≡ Y S(45 度線)
C
(1)
D
E
A
E 点:均衡国民所得
(2)
(1)超過供給(Y S > Y D )
B
O
(2)超過需要(Y S < Y D )
Y∗
Y1
生産拡大
&
Y D = C + I(総需要線)
Y2
生産縮小
• 均衡国民所得 Y ∗ よりも小さい Y1 の水準を考える.
⇒ この産出水準のもとでは,総需要 Y D が総生産 Y S を上回る.
|
{z
}
Y1 は不均衡状態にあり,
AB だけの超過需要が発生
• 均衡国民所得 Y ∗ よりも大きい Y2 の水準を考える.
⇒ この産出水準のもとでは,総供給 Y S が総需要 Y D を上回る.
|
{z
}
Y2 は不均衡状態にあり,
CD だけの超過供給が発生
–68–
Y
%
<財市場の調整メカニズム>
Y S = Y D (財市場:均衡) Y S = Y D (財市場:均衡)
⇓ ⇓
(1)Y S > Y D (超過供給) (2)Y S < Y D (超過需要)
| {z }
| {z }
売れ残り
品不足
⇓ ⇓
意図せざる在庫:増加 意図せざる在庫:減少
⇓ ⇓
生産量:減産 生産量:増産
⇓ ⇓
国民所得:減少 国民所得:増加
⇓ ⇓
Y S = Y D (財市場:均衡) Y S = Y D (財市場:均衡)
∴ Y S > Y D ⇒ IS:左下シフト ∴ Y S < Y D ⇒ IS:右上シフト
• ケインズ経済学では,超過供給が発生していれば,売れ残り より生産を縮小させる.
|
{z
}
「意図せざる在庫」の増加に直面
• 同様に,超過需要が発生していれば,品不足(品薄)より生産を増加させる. |
{z
}
「意図せざる在庫」の減少に直面
• このように,ケインズ経済学では「数量調整」によって均衡状態に達成すると考える.
⇒ 一方,古典派経済学は,財市場において「価格調整」が生じる結果,均衡状態に到達すると
考える.
<古典派経済学とケインズ経済学>
• ケインズ経済学:
「数量調整」
⇒ 市場メカニズムが機能しない |
{z
}
価格:
「硬直的」
⇒ 古典派経済学との相違は,市場メカニズムが Yf を自動的に達成しない点にある.
• 古典派経済学(市場機能派)
:
「価格調整」
⇒ 市場メカニズムが機能する
|
{z
}
価格:
「伸縮的」
–69–
2.4
2.4.1
政府部門と海外部門の導入
財市場の均衡モデル:政府部門が存在し租税が外生変数であるケース
<政府部門を含まないケース:最も単純なケインズモデル>
需給均衡式 Y = C + I
ケインズ型消費関数 C = c0 + cY
投資(外生変数) I = I
)
1 (
c0 + I 1−c
∆Y
1
投資乗数 =
∆I
1−c
均衡国民所得 Y ∗ =
• 民間セクター だけから構成されるこれまでの最も単純なケインズモデルに 政府部門 を導入する.
|
{z
}
| {z }
C とI
GとT
⇒ 政府は 税(収入)を徴収し,公共財 (政府支出) を提供する.
| {z }
|
{z
}
T
G
|
{z
}
G と T という政策変数を導入
需給均衡条件式
消費関数
投資(外生変数)
政府支出(外生変数)
租税(外生変数)
民間部門のみのモデル
政府部門が入ったモデル:租税関数なし
Y =C +I
C = c0 + cY
I = I(定数)
なし
なし
Y =C +I +G
C = c0 + c(Y − T )
I = I(定数)
G = G(定数)
T = T(定数)
<固定税>
• 可処分所得とは,税引き後の所得 のことである(T:tax).
|
{z
}
Y −T
• 一定額(人頭税)のような固定税を対象とし,租税 T を外生変数(T = T ) とする.
|
{z
}
租税が所得に依存しない
⇒ 消費は可処分所得に依存し,消費関数は,
C = c0 + c (Y − T )
| {z }
可処分所得
となる.
–83–


需給均衡式 Y = C + I + G





 ケインズ型消費関数 C = c0 + c(Y − T )
政府部門を含むモデル
投資 (外生) I = I
|
{z
} 

 政府支出 (外生) G = G

租税が外生:租税関数なし 

 租税 (外生) T = T
<均衡国民所得の導出>
Y =C +I +G
Y = c0 + c(Y − |{z}
T ) + |{z}
I + |{z}
G
I
G
|
{z T }
C
Y = c0 + cY − cT + I + G
Y − cY = c0 − cT + I + G
Y (1 − c) = c0 − cT + I + G
∴Y∗ =
(
1
1−c
c0 + I + G − cT
)
<均衡国民所得の変化分>
Y∗ =
)
1 (
c0 + I + G − cT ← c と c0 は一定 1−c
⇒均衡国民所得の両辺の変化分をとる
∆Y =
1
(∆I + ∆G − c∆T ) ⇒ 各種,乗数の導出
1−c

1


∆Y =
(∆I + ∆G − c∆T )


1−c







 ⇒∆Y と∆I の因果関係をみるために,
∆G = ∆T = 0 を代入.
投資乗数の導出
|
{z
}



∆Y
1
1

∆G = ∆T = 0 
∆I ⇔
=
∴ ∆Y =


1
−
c
∆I
1
−
c}


|
{z


投資乗数
–84–

1


∆Y =
(∆I + ∆G − c∆T )


1−c







 ⇒∆Y と∆G の因果関係をみるために,
∆I = ∆T = 0 を代入.
政府支出乗数の導出
|
{z
}



 ∴ ∆Y = 1 ∆G ⇔ ∆Y = 1
∆I = ∆T = 0



1−c


|∆G {z 1 − c}


政府支出乗数






















∆Y =
1
(∆I + ∆G − c∆T )
1−c
⇒∆Y と∆T の因果関係をみるために,
∆I = ∆G = 0 を代入.
−c
∆Y
−c
∴ ∆Y =
∆T ⇔
=
租税乗数の導出
1−c }
∆T {z 1 − c}

{z
|
|
|
{z
}


∆I = ∆G = 0 
∆T > 0:増税
租税乗数(増税)








c
−c
∆Y


∆T ⇔
=
∴ ∆Y =


1
−
c
∆T
1
−
c}


|
|
{z
}
{z


∆T < 0:減税
租税乗数(減税)
重要ポイント 2.4. (増税と減税)
c
1単位の増税が行われれば,国民所得は
だけ減少し,逆に1単位の減税が行われれば,国民所
1−c
c
得の大きさは
だけ増加する.
1−c

1

∆Y =
(∆I + ∆G − c∆T )



1−c








⇒∆Y と∆G と∆T との因果関係をみるために,
∆G = ∆T と∆I = 0 を代入.








1


∆Y =
(∆G − c∆G)



1
−
c



 1
均衡予算乗数の導出
∆Y =
{∆G(1 − c)}
|
{z
}

1−c


∆G
= ∆T} , ∆I = 0 

| {z




1−c
均衡予算


∆Y =
∆G


1
−c







∆Y



=1
∴ ∆Y = ∆G ⇔


∆G{z }

|


均衡予算乗数の定理
–85–
• 「均衡予算乗数の定理」は,閉鎖経済に限定した 租税が外生変数の場合 においてのみ成立 する.
|
{z
}
|
{z
}
政府支出乗数 = 1
T =T
|
{z
}
「租税関数」と 「輸入関数」 が存在すると均衡予算乗数は 1 とはならない
|
{z
}
{z
}
|
T = T + tY
M = M + mY
問題 17. <地方上級>
<国民所得決定の理論:均衡予算乗数の定理>
封鎖経済のマクロ経済体系が以下のように与えられているとする.
Y =C +I +G
C = 50 + 0.8(Y − T )
他の条件を一定として,政府支出と税収が同時に 10 増加した場合,国民所得はいくら増加するか.
1 5
2 8
3 10
4 12
5 15


Y =C +I +G





 C = 50 + 0.8(Y − T )
I = I , G = G, T = T






 ∆G = ∆T = 10 ⇒ ∆Y =?
◎ 解法条件: 財市場の需給均衡条件式の適用 (Y S = Y D ⇔ Y = C + I + G)
◎ 解法条件: 均衡予算乗数の定理 (∆G
= ∆T} = ∆Y )
|
{z
均衡予算
Y = 50 + 0.8(Y − |{z}
T ) + |{z}
I + |{z}
G
T }
I
G
|
{z
C
–87–
Y = 50 + 0.8Y − 0.8T + I + G
0.2Y = 50 − 0.8T + I + G
)
1 (
50 − 0.8T + I + G ← 均衡国民所得
0.2
⇒ 解法のポイント:均衡国民所得の両辺の変化分をとる
Y∗ =
∆Y =
1
(−0.8∆T + ∆G) ← ∆I = 0
{z
}
0.2 |
∆T = ∆G = 10
∆Y =
1
(−0.8 × 10 + 10) 0.2
∆Y = 5 × (−8 + 10) ∴ ∆Y = 10(均衡予算乗数 = 1 のケース)
|
{z
}
均衡予算乗数の定理
2.4.2
財市場の均衡モデル:政府部門が存在し租税が内生変数であるケース
<比例税の場合>
• 租税が内生のケースでは,税収が所得に依存し,所得が大きいほど税収も大きくなる. {z
}
|
租税関数の導入
租税関数:T = T + tY 
T:所得がゼロでもかけられる定額税( 所得に依存しない税金 )


|
{z
}




固定税部分(均等割)









tY :所得の一定割合が政府の税収になる ことを意味する.


|
{z
}




比例税部分(所得割)


租税関数
|
{z
}
 t:限界税率(限界租税性向)⇔ t = ∆T


∆Y }

T = T + tY 
|
{z





租税関数の傾き








⇒ 租税関数における t は限界税率と呼ばれる定数 となる.


|
{z
}


所得 Y が 1 単位増えると,税収 T は t だけ増える
–88–
信用創造した預金額 =
1
D0 − D0
r
= 3000 − 600 = 2400(万円)
3.4.4
貨幣乗数
<ハイパワード・マネー>
• 我が国では中央銀行である日本銀行が貨幣を供給している.
• 中央銀行が発行する通貨と民間銀行が中央銀行に預ける預金合計をハイパワードマネー と呼ぶ.
|
{z
}
ハイパワード・マネー:中央銀行が直接コントロール可能な貨幣量
⇒ ハイパワード・マネーは,マネタリー・ベースまたは,ベース・マネーとも呼ばれる.
• ハイパワード・マネーは中央銀行が供給するマネタリーベースを基礎と,信用創造機能を通じて
生み出される.
⇒ 通貨発行主体である中央銀行にとっては「負債」に相当する.
{z
}
|
中央銀行による民間部門に対する債務となる
<日本銀行のバランスシート>
資 産 負 債 国 債
貸付金
社 債
CP 等
発行銀行券
当座預金
• 中央銀行は,中央銀行券等で資金調達をし,国債などの資産を購入している.
<貨幣乗数の導出>
• 経済に流通しているマネー・ストック M の大きさは,現金通貨(C :cash currency)と預金通
貨(D:deposit currency)となる.
M =C +D
• ハイパワード・マネー H は,現金通貨 C に銀行の預金準備(R:reserves)を加えたものとなる.
H =C +R
–157–
• マネー・ストック M をハイパワード・マネー H で割る.
M
C +D
=
· · · · · · (3)
H
C +R
⇒
M
:
「 1 単位のハイパワード・マネーから何倍のマネー・ストックが生み出されるか 」.
|
{z
}
H
M
:貨幣乗数(一定)
H
• (3) 式の右辺の分母と分子を D で割る.
M
=
H
⇒
⇒
C
+1
D
C
R
+
D
D
· · · · · · (4)
C
= 現金・預金比率:公衆(家計・企業)の保有する現金と預金の比率
D
R
= 預金準備率:預金に対する法定準備の割合 D
• (4) 式を
R
C
= α,
= β とおく. D
D
M
α+1
=
(貨幣乗数は中央銀行が法定準備率を引き上げると小さくなる)
H
α+β
| {z }
貨幣乗数
M=
α+1
H · · · · · · (5)
α+β
⇒ 解法のポイント:両辺の変化分をとる ∆M =
α+1
∆H
α+β
α+1
∆M
=
∆H
α+β
| {z }
貨幣乗数
α+1
⇒ ハイパワードマネーの増加(∆H )が
倍だけのマネーストックを増加させる.
|
{z
}
α+β
中央銀行が直接コントロール可能
(R)
⇒ 仮にハイパワード・マネーが一定でも,預金準備率 D
が下落すれば,貨幣乗数は上
昇し,貨幣供給量は増加する.
–158–
$
'
<貨幣供給量の概念図> C
M
:現金・預金比率
:貨幣乗数
D
H
中央銀行
R
:預金準備率
D
現金:C
現金:C
法定準備
貨
幣
供
給
量
預金準備:R
R
超過準備
預金:D
ハイパワード・マネー:H
M
銀行貸出
M =C +D
H =C +R
<民間:非銀行部門>
<民間:金融機関>
※ 日銀当座預金残高を増やす政策を「量的金融緩和政策」という.
|
{z
}
ターゲット:資金量
&
%
練習問題 3.4. (貨幣乗数)
ある経済において,マネー・サプライ M とハイパワード・マネー H が,
M =C +D
H =C +R
C:預金通貨 D:預金通貨 R:預金準備
で示されるとする.現金・預金比率が 0.2,預金準備率が 0.1 であるとき,ハイパワード・マネー 8 単位
の増加で,マネー・サプライがどれだけ増加させるか.
–159–
=§======================<第 4 章:理論編>==
IS −LM 分析(財市場の貨幣市場の分析)
=============================== = =∞=
IS −LM 分析
4
• これまでの議論は,財市場と貨幣市場を別々に分析してきた.
⇒ 実際には 国民所得の水準は,利子率の変化に大きな影響を受ける.
|
{z
}
利子率も国民所得の変動により,変化する
|
{z
}
財市場と貨幣市場は相互依存関係にある
< IS−LM モデル>
国民所得の決定 と 利子率の決定 を 1 つのフレームワークの中で説明する分析モデル
{z
} |
{z
}
|
Y∗
r∗
4.1
45 度線モデルと独立投資
'
$
<45 度線モデルと独立投資> I(投資)
I = I(独立投資)
I=S
O
&
Y1
Y2
Y(国民所得)
%


Y =C +I +G



 45 度線モデル
45 度線モデルでは,投資は「独立投資」であった .


|
{z
}



I = I :一定
–178–
4.2
投資関数
• ケインズの投資決定論では,民間投資 I は,利子率 r の減少関数となる.


利子率:上昇 ⇒ 投資:減少





 ※ 利子率が高いと企業の資金調達が困難となり,投資が減少する. 投資関数
|
{z
} 


 利子率:下落 ⇒ 投資:増加
利子率の減少関数 

 ※ 利子率が低いと企業の資金調達が容易となり,投資が増加する.
'
$
<投資関数> r(利子率)
∴ 投資は,利子率の減少関数となる.
⇒ 投資関数は,右下がりの曲線となる.
r2
r1
O
&
I1
I2
I = I(r)
I(投資)
%


Y = C + I(r) + G









.

 IS −LM モデルでは,|投資は「利子率の減少関数」となる
{z
}
IS −LM モデル
IS 曲線の導出



r ↑ ⇒ I ↓ ⇒ Y ↓








 r ↓ ⇒ I ↑ ⇒ Y ↑
4.3
IS 曲線
定義 4.1. (IS 曲線)
IS 曲線とは,財・サービス市場で総需要と総供給が均衡を維持する国民所得 と 利子率の組み合わせ
| {z } | {z }
| {z } | {z }
r
I
S
Y
を表す曲線となる.
–179–
4.3.1
IS 曲線の導出


 投資需要(I:Investment)
IS 曲線
∥

 貯蓄供給(S:Saving)
'
$
<財市場と IS 曲線:IS 曲線の導出 1> Y = Y S(45 度線)
YS, YD
Y3D = C + I(r3 ) + G
E3
Y2D = C + I(r2 ) + G
E2
O
Y1
Y2
Y3
Y
r
r2
A
E2
B
E3
r3
IS 曲線上では,
Y S = Y D が実現
|
{z
}
IS 曲線:右下がり
O
Y1
Y2
Y3
Y
利子率が低下すると,投資が増加し,均衡国民所得が増加する.
&
利子率が上昇すると,投資が減少し,均衡国民所得が減少する.
–180–
%
4.4.3
LM 曲線の性質
'
$
<貨幣市場の不均衡と LM 曲線> r
超過供給 ⇒ r:低下
LM 曲線:右上がり
| {z }
|
{z
}
S
D
S
D
M >M
M =M
超過需要 ⇒ r:上昇
| {z }
MS < MD
O
&
Y
%
<貨幣市場の調整メカニズム>
MS = MD (貨幣市場:均衡) MS = MD (貨幣市場:均衡)
⇓ ⇓
MS > MD (超過供給) MS < MD (超過需要)
| {z }
| {z }
資金余剰
資金不足
⇓ ⇓
貨幣価値:低下 貨幣価値:上昇
|
{z
}
|
{z
}
∵ 希少性:低下
∵ 希少性:上昇
⇓ ⇓
利子率:低下 利子率:上昇
⇓ ⇓
MS = MD (貨幣市場:均衡) MS = MD (貨幣市場:均衡)
⇓ ⇓
∴ MS > MD ⇒ LM:右下シフト ∴ MS < MD ⇒ LM:左上シフト
–192–
流動性のわな:初期ケインズ派(フィスカリスト)のケース
4.11.2
'
$
<初期ケインズ派(フィスカリスト)のケース> r
r
LM0
LM0
LM1
M↑
r0
G↑
E0
r0
Y0
E0
E1
IS2
IS1
IS0
IS0
O
E2
O
Y
Y0
Y1
Y2
Y
∆G = ∆Y
流動性のわなのケース
{z
}
|
金融政策:無効
&
流動性のわなのケース
|
{z
}
財政政策:有効
<流動性のわな:金融政策>
• 図において,利子率がゼロに近い水準で水平 となる LM 曲線が描かれている.
|
{z
}
「流動性のわな」
⇒ 流動性のわなのケースでは,たとえ貨幣供給量が増加しても,LM 曲線の水平部分は右下 方にシフトしない.
⇒ LM 曲線が LM0 から LM1 にシフトしても,利子率は r(下限)のまま低下しない
.
0
|
{z
}
IS 曲線と LM 曲線との同時均衡点も E0 のまま変化しない
⇒ 貨幣供給量を増加(超過供給)させても,
LM 曲線は同じ高さで右水平方向に伸びるのみ.
⇒ ∴ 国民所得も Y0 のままで変化しない.
|
{z
}
∴ 金融政策は無効
<流動性のわな:財政政策>
• 流動性のわなのケースで IS 曲線が IS0 から IS1 へと右方にシフトすれば,完全雇用の達成が可能
となる.
⇒ IS 曲線が IS0 から IS1 へと右シフトすると均衡点も E0 から E1 へとシフトする.
|
{z
}
その結果,利子率が一定のままで ,国民所得が Y0 から Y1 へと増加 する
|
{z
} |
{z
}
45 度線分析の世界観
財政政策のみが有効
–226–
%
• この国民所得の増加幅は,通常の右上がりの LM 曲線のケースよりも大きくなる.
⇒「利子率が一定」より,政府支出乗数倍だけ国民所得が増加する.
|
{z
}
∴ クラウディング・アウトが生じない
重要ポイント 4.6. (流動性のわな)
「流動性のわな」のケース(初期ケインズ派)では,金融政策は無効であるが,財政政策の効果は大きい.
重要ポイント 4.7. (クラウディング・アウト効果:ゼロ)
貨幣需要の利子弾力性が無限大(LM 曲線が水平のケース)の場合に政府支出の増加があると,乗数効
果により所得は増加するが,利子率は変化しないため,クラウディング・アウト効果が発生しない.
4.11.3
古典派のケース:貨幣需要の利子弾力性がゼロのケース
• 不況下を前提 とする「流動性のわな」は,ケインズ派の主張する特殊なケースである.
|
{z
}
不景気の底
⇒ 一方,古典派(マネタリスト)の貨幣需要関数は,古典派の二分法より,貨幣数量説が妥当
するケースとなる.
⇒ 古典派のケースは,貨幣需要が取引需要だけからなる特殊ケース となる.
{z
}
|
古典派:完全雇用を仮定





















貨幣数量説と LM 曲線




















M
= kY( 貨幣需要は国民所得のみに依存:利子率とは無関係)
|
{z
}
P
L1 (Y ) のみ
⇒ ∴ 古典派の LM 曲線は垂直な直線となる .
|
{z
}
貨幣需要の利子弾力性がゼロ
拡張的財政政策による IS 曲線の右上方にシフトは利子率のみを上昇させる .
{z
}
|
貨幣数量説が妥当する世界では,財政政策・金融政策は無効
⇒ ∴ 国民所得にまったく影響を与えない
–227–
=§======================<第 5 章:理論編>==
失業とインフレーション
(AD−AS 分析)
=============================== = =∞=
失業とインフレーション(AD−AS 分析)
5
5.1
総需要曲線(AD 曲線:aggregate demand)
財市場
貨幣(債券)市場
労働市場
45 度線分析
|
{z
}
利子率と物価:所与
財市場:均衡
|
{z
}
均衡国民所得 (Y ∗ )
×
×
IS −LM 分析
|
{z
}
物価:所与
財市場:均衡
|
{z
}
IS 曲線 (Y , r)
貨幣市場:均衡
|
{z
}
LM 曲線 (Y , r)
×
AD−AS 分析
|
{z
}
マクロ一般均衡
↑
AD 曲線と AS 曲線の連立方程式
|
{z
}
∗
∗
(Y , P )
IS 曲線と LM 曲線の連立方程式
|
{z
}
(Y ∗ , r∗ )
↓
財市場・貨幣市場:均衡
|
{z
}
AD 曲線 (Y , P )
労働市場:均衡
|
{z
}
AS 曲線 (Y , P )
5.1.1
AD 曲線(総需要曲線)の導出
• マクロ分析は「財市場・貨幣市場・債券市場・労働市場」の 4 つの市場を想定 していた.
|
{z
}
ワルラス法則から債券市場を除外可能
• AD−AS 分析では,財市場と貨幣市場から AD 曲線 を,労働市場から AS 曲線を導出 していく.
|
{z
}
一国全体の総需要水準
|
{z
}
AD 曲線と AS 曲線の交点:マクロ一般均衡分析
定義 5.1. (AD 曲線:総需要曲線)
AD 曲線(総需要曲線)とは,財市場と貨幣市場が同時均衡する際の 国民所得(総需要)と 物価水準
|
{z
} | {z }
Y
P
の組み合わせを表す曲線となる.
–259–
'
$
<AD 曲線(総需要曲線)の導出> ( )
r(利子率)
(
)
LM0 PM0
LM1 PM1
(
)
LM2 PM2
r0
r1
r2
E0
E1
E2
P0 > P1 > P2
IS0
O
Y0
Y1
Y2
Y(国民所得)
P (物価)
P0
E0
E1
P1
P2
O
&
E2
Y0
Y1
Y2
AD 曲線:右下がり
|
{z
}
P ↓ (↑) ⇒ Y ↑ (↓)
Y(国民所得:総需要)
%
• 物価水準 P0 のもとで,IS 曲線と LM (P0 ) 曲線の交点 E0 で国民所得が Y0 とする.
M
⇒ 物価が P0 から P1 ,
P2 へと下落すると,実質貨幣供給量
は増加 する. P
|
{z
}
LM 曲線:右下シフト ⇒ 国民所得:Y1 ,
Y2 へと増加
• 物価水準 と 国民所得(総需要)との関係を示した曲線が AD 曲線(総需要曲線)となる.
| {z } |
{z
}
P
Y
P :下落(上昇) ⇒
<ケインズ効果:ケインズ派のAD 曲線>
M
:増加(減少)⇒ r:低下(上昇) |P
{z
}
LM 曲線:右下(左上)シフト
⇒ I:増加(減少)⇒ Y :増加(減少)
|
{z
}
IS 曲線:右上(左下)シフト
∴ AD 曲線:右下がり(ケインズ効果)
–260–
5.7
5.7.1
フィリップス曲線と自然失業率
フィリップス曲線
• 貨幣賃金上昇率 と 失業率 の間に成立する 負の相関関係 を実証的に表した曲線 をフィリップス曲線と
|
{z
} | {z }
|
{z
}
u
∆W
右下がり
|
{z
}
W
トレード・オフ(二律背反)
いう.
⇒ フィリップスが 約 100 年間にわたるイギリスの失業率と 貨幣 賃金上昇率の関係 を調べた.
|{z}
名目
|
{z
}
フィリップス曲線:統計上の発見


賃金上昇率:上昇 ⇒ 失業率:低下(改善)


|
{z
}
| {z }



u

∆W




W





フィリップス曲線
賃金上昇率:下落 ⇒ 失業率:上昇(悪化)
|
{z
}
| {z }
|
{z
} 


u

∆W

トレード・オフの関係 



W






 ※ 失業率:u(unemployment rate)
'
$
<フィリップス曲線> α : 名目賃金上昇率 が高い一方,失業率 が低い.
|
{z
}
| {z }
u
∆w
∆W
(名目賃金上昇率)
W
w
β : 名目賃金上昇率 が低い一方,失業率 が高い.
| {z }
|
{z
}
u
∆w
α
w
un:自然失業率(完全雇用が実現しているときの失業率)
|
{z
}
∆W
= 0 ⇒ u = un
W
β
un
O
&
u(失業率)
フィリップス曲線
–288–
%