同じ人間でも似て非なる世界

ヒューマンインターフェース
演習課題11
第5章 同じ人間でも似て非なる世界
自律性は何をするためのものか
人は自律性を持っているので,好き嫌いや願望を持ち,喜びや悲しみを感じ,
やる気を起こさせてくれるものを感じ取ることができる。これは老人も例外ではない。
好き!
嫌い!
願望
しかし,介護施設に来た老人は,自律性の一部が用をなさなくなる経験をしている!
【ある介護施設のサービス】
・介護者がシャワーを浴びるのを月1回手伝ってくれます
・体を洗うのも手伝ってくれます(ただし,体の洗い方はマニュアル通り)
もっとシャワーを
浴びたい…
体を洗う順番すら自由
にさせてもらえない…
適応するのか,適応させられるのか
補聴器があれば会話できるのに…
トイレへ行く能力があるのに失禁
補聴器の電池が切れている
手伝ってくれれば歩けるのに…
移動は全て車いすでおこなう
新しい眼鏡が与えられない
環境がパズルのピースをはめるように人を変容させてしまう…
人間の能力を低下させ無にかえしてしまうような環境は,介護の環境ではない!
反抗か服従か
強制的適応は一般に人を2通りの反応に導く
反抗
服従
自立性,能力,精神的安定性を破壊し,
脅かすものを拒否,妨害する
・幼児化(対抗的な行為)
・死んだふり(自暴自棄的な行為)
攻撃的な妨害行為は,認知記憶症候群を
発症していない人でも見られる
自分に敵対する環境から自らを閉ざす
動きたくない…
意思疎通もしたくない…
病気の人が攻撃され
たと感じたときの防
御行動とは違う
認知記憶症候群に関する用語のいくつか
昔は「痴呆」という言葉を使っていたが,本人や近親者を傷つけることから
認知記憶症候群(Syndrome Cognitivio-Mnesique)という表現を使うようになった。
認知記憶症候群はそれぞれ特徴があり,種類としては下記のようなものがある。
アルツハイマー病
前頭側頭型認知症
レヴィ小体型認知症
段階的に記憶が衰え,無気力になる
人格と行動が変化するが,記憶の衰えはない
発症時に幻覚と錯乱状態が現れる
神経弛緩(しかん)剤薬をレヴィ小体型認知症患者に服用させると
幻覚現象が増強される恐れがあるため,疾患を区別することは大事である。
アルツ
ハイマー病
前頭側頭型
認知症
患者A
レヴィ小体型
認知症
前頭側頭型
認知症
患者B
しかしながら,1人の患者に多数の認知症が重なって発症している場合がある。
患者の病気を正確に判断し,介護するのは非常に難しい。
3つの領域
アルツハイマー病は,記憶と学習によって獲得した能力が段階的に衰える。
一般に分類される3つの領域で,どのような衰えの関係にあるかはわかっていない。
ニューロン
の減少
神経学的領域
(ニューロン,
代謝)
健忘
心理行動領域
(無気力,興奮)
認知領域
(注意力,言語,
記憶)
無気力
衰える関係は
単純な図式では表せない
ルイ・プロトン提唱 「翻訳」の関係
ある任意の瞬間に,神経面に何らかの現象を観察し,認知面にも,
さらに心理行動面にも何らかの現象を観察するとき,同一の現象
がさまざまに「翻訳」されたものである
それぞれの領域は,常時相互に影響しあう関係である
ライスベルクの評価尺度の要約
一部の研究者が,認知面や心理行動面の変容の観察から出発して
アルツハイマー病の経過をいくつかの段階に分ける評価尺度を提案している
【ライスベルクの評価尺度】
評価尺度に示した段階は,一般に疾病(しっぺい)経過に伴って短くなる
介護の調整をはかっている施設では,段階7の下位区分は現れないか,期間が短い
段階
特徴
1 衰えなし
2
わずかに語彙減少
3
社会生活や
職場生活での
機能低下
詳細の例
記憶障害に関する自覚なし
・よく使う物をしまう場所を忘れる
・よく知っている人の名前を忘れる
・本の一節を読んでも情報を
ほとんど記憶しておけない
・大切なものをなくす
・検査時に集中力の欠如が明らかになる
ライスベルクの評価尺度の要約
【ライスベルクの評価尺度つづき】
段階
4
5
6
7
特徴
詳細の例
・自分自身の昔のことを思い出す記憶力低下
複雑な作業に
・最近の出来事の認識低下
補助が必要
・遠くに行く能力,財産を管理する能力の低下
・診断時に機能低下明白
・何らかの援助なしには生活できない
決定や選択に補助を ・衣類を正しく着ることが難しい
必要とすることがある ・診断時,日常生活の重要な要素の一部
(住所,電話番号など)を思い出せない
着替えの補助
・配偶者の名前を思い出せないことがある
入浴の補助
・最近の出来事を記憶することができない
尿失禁
・移動に援助を必要とする
・子どもや配偶者をはっきり認識できない
歩く能力の喪失
・鏡の自分を認識できない
笑う能力の喪失
・一般に言葉による表現ができない
意識状態の喪失
・一人で歩いたり食べたりできない
いくつかの認知能力(p186-187)
アルツハイマー病の進行に伴って低下する機能
注意力の
低下
言語能力
の低下
考える能
力の低下
疾病経過
ひとつの行為に注意を集中し維
持するのが困難になる
単語の欠落,誤りからはじまり,
次第に経験や感情などことば
に直せなくなる
同時に複数の行為をしたり,同時に
複数の情報を知覚するのが困難になる
注意をそらすものに過敏になる
知的感情的不安定
(関心事,感情があっちこっち移る)
ことばの代わりに,動作やしぐさで
表現するようになる.そのため攻
撃的な面が現れやすくなる
はじめに複雑な問題を考えたり,暗
算ができなくなる.つぎに状況や物
体を頭のなかで思い描き,計画する
能力が下がる.抽象的思考能力や
難しい知覚をする能力が低下する.
飲むという行為は、果たして単純か(p188-189)
追加
何かを飲むためにコップを手に取るのは,いったいどのような行為なのか?
1.分析
3.確認
そのものにさわろうとする前に,
触っても大丈夫かどうか判断する
実際には、はじめに対
象物について経験で
得られた知識を用いて
予測をする。
つかもうとする瞬間,指はつかもうとするもの
の壊れやすさ,滑りやすさを判断して動く
壊れそうかな?
滑りそうかな?
2.準備
4.動作
物体に近づく前に,手のその形に
適した形にする
持ち上げようとするときには,材料に関して知って
いること,知覚している大きさを考慮し物体の重さ
を推測して力を行使する.
普段,無意識に行っている行為を,認知症になり,進行のある段階
をすぎると上手にできなくなり,やがて全部できなくなる.
境界がぼやけるとき(p189-190)
外界から届く情報(映像,音,匂いなど)と自分の中
に持っていると思っている情報とを識別することが
できるのも,飲むためにコップを手にとる行為と同じ
認知分析である.
この認知分析が機能しなくなると外界の事実と内
面の現実との認識がつかなくなる
例
なれない場所で目
覚めた時など,夢か
現実なのかよくわか
らない状態に陥る
夢か現実
か?
認知症の人たちもこれに似た現象を経験す
る.そのような現象を経験すると,日中でも
夢のような光景が広がっているように感じる.
周囲のひとがこの現象を理解することが大
切.無理に夢の様な感覚から引きずりだす
ことは良くない.だからといって外界から隔
離しても良くない.
景色
音
鏡の中の見知らぬ人(p190-191)
何の役に立つか(p191-192)
例
そうぼうしつにん
誰?
相貌失認
認知症が進行してある時期を過ぎると,顔を
認識する能力が失われ,ときには自分の顔を
認識する能力も失われる.
ほかにも,認知症の人たちがモノを認識でき
なかったり,その機能や使い方がわからない
ような事態も起こる.
例
区別がつか
ない
ある介護チームの人が男性に
義歯を入れようと,患者が「灰皿
を口に入れるな」と暴れた.
鏡に写る自分を見
知らぬ人と思い込む.
追加
灰皿と義歯を区別がつかなくなる理由に
パターン認識能力の低下が考えられる。
灰皿と義歯は(境界を含め)形が似ていて、
また認知症により記憶を呼び起こす能力
が低下していことも認識能力低下を促して
いると考えられる。
神経心理学者のダニエル・タイ
ユフェールはこのような場合,義
歯を入れるのを諦めて,歯がなく
ても食べられる食事に変える解
決方法をとった.
追加 説明できない理由として、知覚し
感情の根拠(p192-19)
て分析する能力が低下している
ため説明できない。しかし、情動
的な判断によって燃えていない家
に住みたいと思うと考えられる。
認知能力は,人が知覚したことを分析して行
動をするのに備わっている唯一の手段ではな
い.
例
家の写真
燃えている家の写真
感情・情動や感覚がなければ,精神的安定や
幸福感を育む決定を下せない.
複数の研究から,認知症になっても認知能力
が衰えても情動的分析が機能すれば知覚し
たことに対し最善の応酬ができることがわかっ
ている.
認知症でなくても,私たちが知覚したことを分
析するやり方は情報を認知面で処理する作業
と情動面で処理する作業を同時に行う.
この2つの相互作用によって反応,行動,計画
などを導く
家の写真とその家が燃えている写真を示し,
認知症の人に見せると2つの違いを説明で
きない.ただし,燃えていない方に住みたい
という.
情
動
認
知
認知症が進行すると,このバラン
スが崩れ,認知面が衰え情動面
が機能する
感情の根拠(p192-19)
(1)情報の複製
情報を複製し扁桃体と
皮質に送る
(2)迅速処理
情動によって,快・不快,
安全・危険という形で処
理をする
(3)時間のかかる
処理
皮質の相互に関係ある
領域を通り,そこで情報
に関する特徴,情報の
再現の仕方,情報に関
して持っている知識,処
理する思考過程を分析
しようとする
情報の処理
一次皮
質
高位の経路
(3)
時間のかかる
処理
三次皮
質
(4) 記憶,情報の処理
海馬
経験
正確な特徴 表現 概念
記憶,情報の処理
(1)情報の複製
視床
(4)記憶,情報の
処理
海馬では情報は同系列
の経験と比較される
二次皮
質
下位の経路
(2) 迅速処理
扁桃体
反応
情報
感情の根拠(p192-19)
私達の行動原理は,認知面に近いものから感情
面に近いものまで様々な分析の間に均衡に基づく.
どの分析も願望,恐怖,幻想などの影響を受ける.
認知症の経過に伴って,皮質の一部や海馬での
情報処理が次第に正確さを欠くものとなる.
主観的な解釈や情動で感じ取ったものが,この過
程のなかではるかに重要な役割を演じるようにな
る.
ただし,情動による情報処理は,人と人との関係,
視線,触り方,話し方の情動的な精度にも左右さ
れる.病人が介護者を介護者と認知できなくても,
しぐさや眼差しで,好意的な人であると感じ取るこ
とができる.
例
介護者が採血しようとすると針を
指すとき,痛み反応して暴れない
ように行動するように理解するの
が認知過程.もし皮質や海馬で
の情報処理が衰えると,攻撃さ
れていると感じ腕を払ったりする
可能性がある.
p.198 認知記憶症候群と記憶
想起障害
記憶の衰えには三つのカテゴリーがある
思い出を呼び起こすことができない
この障害があると…
?
情報の
保持
新しい
情報
新しい情報が
入る
想起障害
仕組み
×
呼び戻し
復元
呼び出し
ことば・状況・顔などから感情の反復を
可能にする感情、情動の経路には及ばない
作業記憶
感情の
経路
○
記憶
固定
長期記憶
△ないし×
例
新たな情報の保存、
すでに記憶したことの保持
その情報の呼び出し
介護者
患者
患者は答えられない
名前を
教える
私はイヴ
ジネスト
翌日
しかし…
名前が入ったリスト
(手がかり)を見せ
ればわかる
能力の隔たり
①
無条件で自ら意識的に
情報やことばやしぐさ
を思い出す能力
隔
た
り
②
手がかりや感情や知覚や
状況に後押しされて意図
しないで思い出す能力
※時に①が損なわれて、②が損なわれない時がある
障害のある人は記憶を呼び戻すのに
補助(例えば手がかり)と、長い時間が必要
→介護の場合は本人に時間を与えることが大切
例
少し
抽象的
頼まれても戸を開けられない
でも…挨拶をして帰ろうとした瞬間に
無意識に戸を開ける
さよう
なら
p.201
記憶障害 前行性健忘ともいう
情報の記憶・コード化・保存能力に関わる
→重症になると新しい情報を保持すること
が出来なくなる
新しい
情報
作業記憶
呼び戻し
復元
感情の
経路
×
介護者
私はイヴ
ジネスト
名前を
教える
翌日、介護者が「私の名前は?」と尋ねると…
×
記憶
固定
長期記憶
例
長期記憶の
大部分には
到達しない
この記憶障害はアルツハイマー病の発症時から現れる
穏やかさ・不安・幸福感・苦痛・
恐怖や悦びを感じる感情・感情の
起伏が激しい状況・感情面で重要な状況
これらは感情の経路により
基本的な情動の形で記憶される
名前…?
前の日に
名前なんか
聞いた…?
・名前を思い出せない
・前日に名前を言った
ことも思い出せない
・最初の部分も
覚えていない
・リストを見せても
わからない
患者の認知能力が病気によって損なわれる
↓
その人の行動を決定したり動機づけのうえで
情動に関わる想い出や印象が大きな役割を果たす
p.203 体験された情報と記憶された情報
私たちは
ほぼ日常的に時間を
知るために時計を見る
→情報を同化
しかし数分後…
何時
だっけ?
今、
何時?
聞かれてもすぐには
答えられない
→再び時計を見る
なぜか…?
時計を見たときには情報を記憶にとどめない、数分前に見たときは確認にすぎないから
情報が記憶されない場合
情報が記憶されない場合は
作業記憶から長期記憶に移行しない
作業記憶
呼び戻し
復元
感情の
経路
情報
×
記憶
固定
長期記憶
×
長期記憶に
到達しない
何時
だっけ?
あまり有用でないもの
あまり重要でないもの
本質的ではないもの
は残らない
人が情報を求めるとき
その瞬間にその人の中にある感覚・
思考・関心事にとってその情報が必要
情報を受け取ると一定の時間作業記憶に残る
↓
その時間に計画の変更・機嫌を直し、
新たな思考・情動を生み出す
↓
情報を何らかの形で同化、統合した
p.207
逆行性健忘
作業記憶
記憶が消えていく現象
アルツハイマー病が進行すると、ある時点から始まる
それまで記憶にあった情報を失い始める
呼び戻し
復元
長期記憶
※さまざまな記憶に同じように及ぶのではなく、特殊な
側面がある
p.208
記憶とは…
記憶
固定
長期記憶の障害の進行
①意味記憶、知識、ことば、概念の記憶が冒される
情動記憶
②自分のこれまでの人生に関する記憶が、一般に古い
出来事よりも新しい出来事が消えていく
③手続き記憶、振る舞いやしぐさの記憶が冒され、
ある瞬間から、食べたり体を洗うのに必要な記憶が失われる
①
③
意味記憶
手続き記憶
②
忘却
回想
文脈・雰囲気・人間関係・無意識の
精神生活などに大きく左右される
例
エピソード
記憶
私たちの記憶は相互に独立していると
同時に、相互につながっている
食べ方を忘れた
ように見える人
レストランで昼食を食べると
再び食べ方を思い出す
p.210
逆行性時間移動
過去のさまざまな時期に一気に飛ぶ
アルツハイマー病の経過には、エピソード記憶に関して特殊な現象がみられる
例
S夫人の2007年の状態
・S夫人は逆行性健忘になって3~4年
・新しい情報を保持し、記憶できなくなって数年
・1999年から現在までの記憶の大部分を忘れている
・ここ数ヵ月の間に逆行性時間移動の現象が現れた
S夫人の人生
(逆行性時間移動の例)
1
9
9
9
年
1
9
2
9
年
1
9
5
3
年
1
9
5
7
年
1
9
8
8
年
1
9
9
4
年
1
9
9
7
年
誕
生
結
婚
息
子
の
誕
生
娘
の
誕
生
退
職
夫 最
の 初
死 の
症
状
発
現
2
0
0
2
年
2
0
0
5
年
記
憶
障
害
老
人
ホ
ー
ム
入
居
飛ぶ
逆行性時間移動
2
0
0
7
年
逆
行
性
健
忘
S夫人の逆行性時間移動の特徴
・娘が生まれた瞬間、息子の子供時
代、新婚前後の時期に飛ぶ
・病気が進行するにつれて、
遠い時代に飛ぶ
・そうやって行き着いた先の時代
からの記憶はなくなる
・頭にあるのはその時代の背景に
属する要素ばかり
・S夫人はあるときには働きに出かけ、
ある時は学校に娘を迎えに行った
p.212
逆行性時間移動が起きると、現れるのは一つの時代と関係のある多数の情報
※一部の記憶に限られない
整合性
例:S夫人の現在
情報に高度な整合性が存在
1965
2007
息子の子供時代
逆行性時間移動
私たちの現在
私たちの過去
(私たちには既知)
本人の過去
本
人
の
現
在
本人の未来
(本人には未知)
本人の現実・現在は私たちの現実・現在とは違う
→本人を現在の時間に無理やり連れ戻そうとすると
不幸な事態になる
→本人たちの精神が生きる現実と私たちが提示する
現実の隔たりに直面して不可解と苦悶の中に落ち
込んでいく
S夫人の逆行性時間移動における整合性
2007年に年齢を聞くと38歳と答えた
(実際は78歳)
↓
S夫人は40年前の1967年にいる
↓
その年の出来事を尋ねると、
息子の子供時代の話をする
フランスの大統領を尋ねると、
シャルル・ドゴールと答える
この現象はある瞬間(※)強くなり、
ある瞬間に表れては消え、
一瞬の時間移動をし、
ある瞬間は現在に生きている
↓
それから数時間すると
もう過去の時間に生きている
※ある瞬間:刺激、不可解、苦悶が大きい
<p.216~218>
感情の刻印
認知症候群に
かかった祖父
この子は・・・
認知能力による識別ができない
代わりに、その人について心の
中に残っている感情の刻印に
よってその人のことを認識する
のところに孫が来た場面。
孫がいたことは覚えていないが・・・
認知能力による識別
情動記憶による識別
識別
できない
相手のことを知覚できない場合
識別
できる
これが上手くいか
ない場合も・・・
外観・態度・声・名
前・関係性・その人 感情に
の社会的地位のよ 関わらな
うな記憶による識別 い記憶
場所・人物・思考が
残した感情のような 感情面
記憶による識別
の記憶
感覚障害、感覚をか
き乱す環境、執拗な
痛み、不安、疲労が 妨げの
邪魔して相手のこと
要因
が識別できない
<p.218~222>
症状の
隠ぺい
心理行動領域
拒否反応
認知症候群の経過中
に起きる心理行動の変化
このような内的世界の変
化については、ほとんど
何も知られていない
BUT
一部の研究者らの業績
によってそのいくらかを
確認できるようになった
周囲の人たちに障害を悟られたり、
援助が必要だと思われる瞬間を先
延ばししようとしている
神経学
的障害
力学
適応
防御
複雑な
要因
力学
心理行動
面の症状
複雑な
要因
感覚
障害
心理行動面の変容
(大きな変動有)
複雑な
要因
の違
経う
過様
相
神経学的変容
認知面の変容
(だいたい段階的)
ある介護者には攻撃的でも、別の介護者にはそうでもない
力学
攻撃的
な環境
ここで重要なことは・・・
不可避的に大きな変動がある訳ではない
このようにややこしく様々な形態が
あるため、症状のリスト化はしない
環境の様相や、介護をいかに活用するかに左右される
<p.222>
介護のために理解すべきこと
V夫人
(認知症候
群で聴覚
障害)
これが介護なのだろうか・・・
→第二の攻撃は新たな行動障害の要因となる。この介護
はむしろ病気を作り出す
このような介護は・・・
V夫人は窓に向かって車いすに座っていた
感情
感覚
生の
充実
感覚
第一の攻撃
介護者は何も言わずに椅子を回転させて勢いよく押そうとした
幸福
病気の人たちのこれらを無視し、
さげすむことによって成り立っている
ユマニチュードを忘れ否定する
ことによって成り立っている
この無関心は・・・
V夫人はまずショックを受け、状況が分からず
危険と不安から泣き出し、介護者をたたこうとした
第二の攻撃
V夫人を拘束
→病人と我々との違い(認知能力の衰え)を識別させてくれ
るものを見ないようにし、どちらにも共通(感情、感覚、生の
充実、幸福)してあるものを忘れるようにさせる
<p.222~224>
思考
感情の王国
感覚
これには良い面もあれば悪い面もある
感情
行動
人間
関係
どれほど知力が衰えた老人でも、どれほど
頭の切れる若い成人でも皆、「感情」が原
初的な核となっている
悪い面
•
•
•
•
不安定になりやすい
環境に左右されやすい
環境が理解できなくなる怖れがある
危険にさらされていると感じやすくなる
そして
認知記憶症
候群の人
同年
等齢
を
問
わ
ず
頭の切れる
若い成人
認知症候群の人たちは、環境や周囲の人た
ちの感情や情動のあらゆる次元に極めて
敏感なだけである
良い面
•
情動的記憶と感情面の過敏性が幸い
して、他の人たちに悦びや幸福感を
与えることができるようになる
→周りの人が認知症候群の人たちに
悦びや幸福感を伝えようとするから
<p.224~226>
赤、緑、青
基本三原則
: 認知・主観・感情
(基本記憶装置)
認知
主観
感情
人の精神は、ちょうど赤・緑・青
の基本三原色の色彩から写真
が成り立っているのと同じ
われわれは人生の過程で基本三原色を発達させ、調節・
配合をしながら独自のやり方で自分自身を形成していく
介護者A
よ B
うが
な子
し供
ぐの
さ時
でに
の受
世け
話た
Aは母親
ではない
母親
を思い
出すなあ
Bさん
(アルツハイマー)
それぞれの記憶装置によって異なる現象として映る
母親
から感じ
る幸福感
に近いなあ
認知面の記憶装置がある
と、主観的にも感情的にも
好感が持てなくても、介護
者に気持ち良く接すること
ができる。
感情面の記憶装置があ
ると、初めて会う人でも、
その声の調子が昔の友
人に似ているというだけ
で、非常に感じの良い人
だと判断することができる。
記憶装置は重要な役割を担う
そして
病気で記憶装置のひとつを冒しても、残り
の記憶装置が補ってくれる。
別の人間になる訳ではない。
<p.226~229>
フィルター
色々なフィルターがある・・・
フィルターを
通して見ると・・・
自分の衰えと向き合っている病人を見ない
で、病気や症状、喪失や欠陥しか見ないよ
うにさせる
青色が見えない・・・
空が灰色に・・・
その人が病気にかかっている現実、何らか
の障害を抱えている現実、介護を必要とし
ている現実を見ないようにさせる
介護の場合でも
フィルターを
通して見ると・・・
その人と体験した感情が多くを占め、その
人の今の状態を見ないで、かつての面影
が残っているところしか見ないようにさせる
認知症の人
感情・感覚・悦び・
悲しみが見えない・・・
その人が表明する考え、言葉や計算能力だけを考慮
することになり、感情や感覚などを見過ごすことになる
その人がまだできることを見ないで、できな
いところしか見ないようにさせる
認知障害や感覚障害を見ないで、その人
の中に現実離れした無意識、欲動、病的恐
怖しか見ないようにさせる
脳が病気に冒されている現実を見ないで、
その人の言動、感情などには意味がなく、
全て神経伝達物質の割合によるものであ
ると考えさせる
このようなフィルターを使ってしかモノを見なくなると、病気
の人を全体として見ることも唯一無二の存在として見るこ
とも出来なくなる。
そんなフィルターは数えるとキリがないが、見当をつけ、
そのいくつかを挙げておく必要がある
そうすれば・・・
ピグマリオン効果を期待できるかもしれない。
アルツハイマーの人が介護者の信条や期待
に応じて行動するようになるなど。
取り除くことができるかもしれない。取り除けないものを知
るだけでも、目の前にいる人に敏感になることができる。
今日はあまり
しゃべらないなあ。
大丈夫かな?
フィルターにだまされないようにすれば、認知症候群の
人たちに固有の要素と、患者と介護者のそれぞれの関
係に固有の要素を見て取ることができる。
<p.229~231>
病的興奮行動
認知症候群の人の行動を理解するには知識が必要
なんで怒ってい
るの?
認知症候群の人が攻撃されたと感じた時 ・・・
自分の感じて
いることが話せ
ない・・・
屈服や攻撃
判断
私のことが嫌いなのかも・・・
この種の判断は、介護者や近親者に拒絶や攻撃的な態
度を引き起こし、要介護者に興奮や攻撃的な行動を引き
起こす
異常?
正常?
認知能力が衰え、言葉で自分を表現できなくなり、屈服や
攻撃で反応するしかないということを忘れてはいけない。
介護とは ・・・
環境を病人に合わせ、幸福感や悦びを味わうことができ
るように配慮するもの
的を得ない介護によって患者が
興奮や攻撃性の行動を起こすと
いうのはそんなに異常なのか?
衰えが不満や怒り、自身や他人への拒絶につながら
ないようにできる
興奮と攻撃性は、病気が進むにつれ
て必然的に現れるものだと考えられ
ていたが・・・
今では、大部分が環境と介護に
左右されることが分かっている
<p.232>
世界の扉
患者は病気によって足りないと
ころがある存在となったわけで
はない
患者は我々の世界と似て非なる
世界に住むようになったのだと
理解することが必要
介護には、その世界に患者と我々
が通じるものがあるのかを知り、認
識することが不可欠である
患者に関する以下の知識がないと・・・
感情の
調節能力
その世界は、患者が抜け出すこ
とは難しいが、我々から歩み寄
ることはできる。分かち合おうと
する能力があるから
世界の扉を開くのに必要なあら
ゆるものを作りあげ、強化する
ことはできる
情動によ
る把握力
関係を築
く能力
介護をそれぞれの人に合わせたものにし、それぞれの人
が悦びや幸福を感じ、出来るだけ充実した生活が送れる
ようにするユマニチュードも、つながりも、感情も奪われて
しまう事になる
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最後のフィルター
うつ
苦悶
不幸
悲しみ
攻撃性
これらは長い間、認知症候群が進行する過程で必然的
に現れる症状だと考えられていた
患者を整形外科の施設に入れると、たちまち障害や合
併症がいくつも現れる
整形外科的な観点から
検討
障害が病の進行に従って必然的に現れるものであると
の結論に達する。
この事態は今も頻繁に起こっている!!
BUT
今日では、それは誤りであるということが分かっている
特別に教育を受けた介護者がいる施設の場合、
死亡する10日前まで
は寝たきりにならない
興奮や攻撃性の行動
もほとんど見られない
環境が患者に合わせて整備できていない。
介護者が言葉やまなざし、しぐさで意
思の疎通を図り、交流しようとすれば、
患者も交流を求めてくる
介護者が介護をする時に悦びを感じていれば必ず、患者
も介護の時に幸福や悦びを感じる