間質性肺炎 診断と治療 間質性肺炎 間質性肺炎(かんしつせいはいえん)とは、肺の間質(肺の空気が入る部分である肺胞を除いた部分で、主に肺を支える役割を担っ ています)を中心に炎症を来す疾患の総称です。特発性肺線維症(単に肺線 維症ともいう)など多様な病型を含んでいますが、その多くは原因が不明であ り、また治療も困難な疾患です。 肺は血液中のガス(酸素、二酸化炭素)を大気中のものと交換する臓器であ り、大気を取り込む肺胞と毛細血管とが接近して絡み合っています。この肺胞 の壁(肺胞壁)や肺胞を取り囲んで支持している組織を間質という。 通常、間質性肺炎の場合は、肺胞壁や支持組織から成る間質に生じる原因 不明の炎症であり、一般の肺炎とは異なった症状や経過を示します。間質性 肺炎では、炎症が進むと肺胞の壁の部分(肺胞壁)が厚くなり、肺胞の形も不 規則になって、肺全体が固くなります。その結果、肺のふくらみが悪くなり、肺 活量がおちると同時に、酸素の吸収効率も悪くなり、息苦しさや、咳が出たり します。 間質性肺炎では、炎症が進むと図 3 のような肺胞が図 4 のように肺胞壁が厚くなり、肺胞の形も不規則になって、肺全体が少し固く なります。 その結果、肺のふくらみが悪くなり肺活量がおちると同時に、酸素の吸収効率も悪くなってゆき、息苦しくなったり、咳が出 ます。 症状:呼吸困難(息切れ)や咳嗽(せき)が主な症状です。咳は多くの場合、痰を伴わない、乾いた咳(乾性咳嗽)が出ます。息切れは 最初は階段や坂道を昇った時に感じる程度ですが、進行すると呼吸不全の状態となり、着替えなどの動作でも息切れが出て、日常 生活が困難になることもあります。症状の進むスピードは間質性肺炎の種類に よります。特殊な病型を除いて、息切れや咳などの症状が出はじめて、日常生 活に支障を来たすようになるまで数年程度かかります。 所見・診断:理学所見 診察上特徴的なのは胸部聴診音で、パチパチという捻 髪音 fine crackle が知られる。これはマジックテープをはがす音に似ているた め、マジックテープのメーカー(ベルクロ社)にちなんでベルクロラ音とも呼ばれ 図4間質性肺炎 図3正常な肺構造 (固くなる) る。また、呼吸器障害を反映してばち指がみられることもある。 臨床検査 単純 X 線撮影および胸部 CT ではすりガラス様陰影 ground-glass opacity が特徴的である。これは、比較的一様に濃度が上がった、ぼや っとした肺陰影である。進行すると線維化を反映して蜂巣状を呈するようになっていく。診断は画像診断でほぼ確定することができる。 呼吸生理学検査では、%肺活量、一酸化炭素拡散能の低下がみられる。これは重症度判定の目安になる。間質性肺炎は基本的に 拘束性換気障害を呈するため、COPD などの閉塞性肺疾患を合併していない限り、1 秒率は低下しない。 血液検査では、非特異的 だが LDH、血沈の上昇が知られる。特異性の高い所見としては SP-A、SP-D、KL-6 の上昇があり、これは炎症の活動度の判定や治 療効果の判定に信頼性が高い。 治療:炎症の抑制を目的としてステロイドホルモンや免疫抑制剤が使用される。 2008 年より、日本ではピルフェニドン(商品名ピレスパ錠 200mg®)が発売された。 光線過敏症などの副作用はあるが、特発性肺線維症(病理組織分類では通常型間質性肺炎)に対してはこの薬のみが唯一有効性 が証明されている。 原因による分類 感染 ウイルス感染は間質性肺炎の形態をとることがあり、間質性肺炎の鑑別診断の一つとして考慮すべきである。血液疾患などで 見られることの多いサイトメガロウイルス肺炎が代表的なものであるが、インフルエンザウイルス等も原因となることがある。 膠原病 関節リウマチ、全身性強皮症、皮膚筋炎、多発性筋炎、MCTD など線維化を来す膠原病の一症候として間質性肺炎が出現する頻度 が高い。特に皮膚筋炎に合併するものは急速に進行し予後が悪い傾向がある。 放射線 画像診断程度の線量ではまず発生するこ とはなく、放射線療法程度の強い被曝に起こる。照射野に一致した炎症像を呈する。また、基礎疾患として間質性肺炎のある患者の 場合は照射野外にも広範囲に広がる重篤な間質性肺炎を起こす可能性がある。 中毒・薬剤性 ブレオマイシン、ゲフィチニブなどの 抗癌剤、漢方薬の小柴胡湯、インターフェロン、抗生物質などや胆道疾患改善薬(ウルデストン錠)によるものがよく知られている。特 にゲフィチニブによるものは日本(人)での発症率が高く、主として先行販売されていた海外でのデータをもとにして薬事承認されてい たため上市後に危険性が顕在化することとなり、社会的にも大きな影響を生じた。 特発性:以上に挙げた明確な原因を持たないものは特発性間質性肺炎(IIP: Ideopathic Interstitial Pneumonitis)と呼ばれる。組織型 によりいくつかに分類されるが、剥離性間質性肺炎は喫煙との関連が明らかになっている。 病理学的分類:Liebow(1968)の分類 1.通常型間質性肺炎(UIP: usual interstitial pneumoniae) 2.閉塞性細気管支炎を合併したびまん性肺胞障害(BIP: bronchiolitis obliterans and diffuse alveolar damage) 3.剥離型間質性肺炎(DIP: desquamative interstitial pneumoniae) 4.巨細胞性間質性肺炎(GIP: giant cell interstitial pneumoniae) 5.リンパ性間質性肺炎(LIP: lymphoid inerstitial pnumoniae) 急性増悪:間質性肺炎は、原疾患の病勢、治療薬の副作用、感染症などをきっかけに急激に症状が増悪し致命的となる場合がある。 これを急性増悪といい、管理上の最大の問題となる。緊急的にステロイドパルス療法が行われる。 浸潤性肺疾患の主な原因 ・自己免疫疾患(関節リウマチ、強皮症、多発性筋炎や皮膚筋炎、混合性結合組織病、再発した多発性軟骨炎、全身性エリテマトーデス) ・感染症(ウイルス、リケッチア、マイコプラズマ、真菌、播種性結核) ・鉱物の粉塵(シリカ[石英]、石炭、金属、アスベスト) 、・生物の粉塵(カビ、鳥の糞) ・ガス、蒸気(塩素、二酸化硫黄) ・治療用または工業用の放射線 ・医薬品等:メトトレキサート、ブスルファン(マブリン散)、シクロホスファミド(Endoxan)、金、ペニシラミン(メタルカプターゼ)、ニトロフラントイン、スルホンアミド、アミオ ダロン(アンカロン) 1. 特発性間質性肺炎とは 「呼吸」は吸った空気(吸気)を、気道を介して、肺の奥にある「肺胞」と呼ばれる部屋に運び、肺胞の薄い壁の中を流れる毛細血管 中の赤血球に 図2 胸部CT画像:両側下肺野背側に峰巣病変(矢印) 酸素を与えると 同時に二酸化 炭素を取り出す ガス交換をし (図1左)、それ を ま た呼 気 とし て吐き出す運動 で、生きていくために欠かせない作業です。間質性肺炎は、さまざまな原因からこの薄い肺胞壁に炎症をおこし、壁が厚く硬くなり(線 維化)、呼吸をしてもガス交換ができにくくなる病気です(図1右)。肺胞壁は保たれていても、肺の最小単位である小葉を囲んでいる 小葉間隔壁や肺を包む胸膜が厚く線維化して肺が膨らむことができなくなる病態も知られるようになりました。線維化が進んで肺が 硬く縮むと蜂巣病変といわれるような穴(嚢胞)ができて胸部 CT で確認されます(図2)。特徴的な症状としては、安静時には感じない 呼吸困難感が、歩行中や入浴・排便などの日常生活の動作の中で感じるようになります(労作時呼吸困難)。季節に関係なく痰を伴 わない空咳(乾性咳嗽)で悩まされることもあります。長年かけて次第に進行してくるので自覚症状が出るころにはかなり病態が悪化 していることが多いのですが、「急性増悪」といって、風邪様症状の後、急激に呼吸困難となって病院に搬送されることもあります。 間質性肺炎の原因には、関節リウマチや多発性皮膚筋炎などの膠原病(自己免疫疾患)、職業上や生活上での粉塵(ほこり)やカ ビ・ペットの毛・羽毛などの慢性的な吸入、病院で処方される薬剤、漢方薬、サプリメントなどの健康食品、特殊な感染症など様々あ ることが知られていますが、原因を特定できない間質性肺炎を「特発性間質性肺炎」といいます。 特発性間質性肺炎は病態の異なる 7 つの疾患からなりますが、頻度からすると「特発性肺線維症」、「器質化肺炎」、「非特異性間質 性肺炎」の 3 つの疾患のいずれかに含まれることがほとんどです。その診断には、既往歴・職業歴・家族歴・喫煙歴などを含む詳細 な問診、肺機能検査、血液検査からなる臨床情報、高分解能コンピューター断層画像(HRCT)やいままでの検診時の胸部 X 線画像 の変化からなる画像情報、そして外科的な肺生検からえられる病理組織情報から総合的診断が必要です。 2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか 労作時の息切れなどの自覚症状をともなって医療機関を受診される患者さんは 10 万人あたり 10~20 人といわれていますが、診断さ れるにいたっていない早期病変の患者さんはその 10 倍以上はいる可能性を指摘されています。線維化が進行すると治療が効きにく くなって難治化するために死亡率が高くなり、患者数が多くならないという側面もあります。このうち認定基準を満たして国内で新規 登録された患者数の内訳は、特発性肺線維症の患者さんが 80~90%と最も多く、次いで特発性非特異性間質性肺炎が 5~10%、特 発性器質化肺炎が 1~2%ほどです。ただし症状が軽いために認定基準の重症度を満たさない多くの患者さんをいれるとこの比率も 変わってくることが予想されます。 3. この病気はどのような人に多いのですか 7 つの疾患のうちもっとも治療が難しい特発性肺線維症は、50 才以上で労作時呼吸困難などの自覚症状を認めることが多く、男性 は女性よりやや多いようです。間質性肺炎は一般に喫煙が関与している可能性を指摘されていますが、特発性肺線維症の患者さん のほとんどが喫煙者です。喫煙が必ずしも肺線維症だけを来たすわけではないことから、喫煙は特発性肺線維症の「危険因子」であ ると考えられています。やはり喫煙者に多い「肺気腫」という、肺が壊れて拡がっていく病変と、肺線維症が合併した「気腫合併肺線 維症」という病態が、喫煙歴があって息切れを自覚する患者さんに多く認められて問題になっています。特発性肺線維症の「危険因 子」として他には、ウイルスなどの感染や逆流性食道炎なども挙げられています。明確な粉じん暴露による間質性肺炎は特発性間 質性肺炎から除外されますが、原因として明らかではない場合には「危険因子」ととらえられます 4. この病気の原因はわかっているのですか 特発性間質性肺炎の原因はわかっていませんが、複数の原因遺伝子群と環境因子が影響している慢性炎症の病態機序が関与し ている可能性が考えられています。つまり、上にのべたような生活環境における「危険因子」に反応し、さらにその炎症を慢性化しや すい体質の原因となるような特徴的な遺伝子配列があると考えられています。 5. この病気は遺伝するのですか 特発性間質性肺炎とそっくりな病態で家族発生があることが知られています。しかし家族発生が明らかな場合には家族性肺線維症 として区別します。肺胞を拡げる作用があるサーファクタント蛋白の遺伝子異常の家系に見られる肺線維症の発症年齢は若い傾向 がありますが、小児から 50 歳以降まで病態の程度に応じて様々です。 また、上述したように、環境因子に反応しやすい体質は遺伝する可能性もあるので、ご家族に患者さんがいらっしゃったら、喫煙を含 めた危険因子は可能な限り避けることが薦められます。 6. この病気ではどのような症状がおきますか 肺病変ができていても多くは無症状ですが、乾性咳嗽と呼ばれる痰を伴わない空咳で受診する患者さんもいます。日常生活での労 作時呼吸困難感などを自覚するときにはすでに病気はかなり進行していますからはやめに専門施設に紹介してもらう必要がある。 7. この病気にはどのような治療法がありますか 特発性間質性肺炎に含まれる 7 つの疾患で治療法は異なります。 特発性肺線維症以外の場合には確定診断がついた時点から治療を開始します。 多くの場合ステロイドを中心とした免疫抑制剤がよく効いて、肺の陰影を含めて呼吸病態が改善するからです。 病態の進行程度を主治医が理解するためには、それまでの数年間にわたる検診や医療機関で撮影された胸部 X 線なども重要な情 報となります。 胸部画像や肺機能、6 分間の歩行試験などの検査結果から総合的に病気の進行を認めるようであれば、病勢に応じて段階的な治 療を行います。 咳が続けば痰が出るようになるので、咳を抑える薬剤や痰を出しやすくする薬剤による対症療法も日常生活を改善することがありま すが、間質性肺炎本体の治療ではありません。 最近では抗酸化作用をもつ薬剤の吸入療法、新しい抗線維化剤、ステロイドや免疫抑制剤などの併用など、我国で開発されてきた 様々な治療法があります。特に特発性肺線維症患者さんを対象とした始めての抗線維化剤は日本で初めて治療薬として認可を受け、 世界的にも注目を集めています。 従来に比べ、少量のステロイドや免疫抑制剤によって副作用は軽減し、予防対策も向上していますが、それでも風邪の予防、禁煙、 体重制限、規則正しい生活など、患者さん自身の日常生活の管理も重要です。
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