有機化学 I 小テスト 第 7 回 担当:石川勇人 【問題1】下記の反応式

有機化学 I 小テスト 第 7 回
担当:石川勇人
【問題1】下記の反応式における遷移状態、反応中間体、生成物を含む反応機構を示せ。
また、どの状態が遷移状態、反応中間体に該当するのか明記せよ。
CH2CH3
+ HBr
H3CH2C
解答の指針:まず反応機構の書き方について。反応機構における矢印は必ず→で表す。⇨
とか⇒はだめです。この→は電子を2つの移動を示す。→の向きに向かって電子が流れる。
反応において電子を与える化学種を求核剤(求核種)といい。電子を受け取る化学種を求
電子剤(求電子種)という。 二重結合の反応性について:二重結合はすでに学んだ通り、一つのσ結合と一つのπ結合
から成り立つ。このπ結合には電子が2つ入っている。この2つの電子はπ結合を自由に
動き回る。その際に分極構造がとれる。分極したπ軌道は求核剤として働き、求電子剤(E+)
と反応する。反応した後の炭素は sp3 混成軌道である。残されたカルボカチオン(炭素上
のカチオン、またπ軌道である)に求核剤(Nu-)が反応し sp3 混成軌道となる。全体を通
してみると二重結合のπ電子に2つの官能基が付加しているのがわかる。このような反応
を付加反応という。特に二重結合の E+への攻撃から反応が始まっているため、二重結合の
求電子付加反応と呼ばれる。 E+
CH2CH3
H3CH2C
CH2CH3
H3CH2C
Nu–
H
H3CH2C
sp3
E
CH2CH3
H
Nu E
H
H3CH2C
CH2CH3
H
上記の問題の場合、二段階反応であり、少し複雑ではあるが、最初の反応(カルボカチオ
ンができるまで)では二重結合が求核剤として働き、H-Br が求電子剤として働く。2段階
目はカルボカチオンに対する Br–の反応であり、Br-が求核剤、カルボカチオンが求電子剤
として働く。 遷移状態とは簡単に言うと反応がまさに進行する瞬間を切り取った構造式である。この反
応では2段階反応であるため、2回の遷移状態が存在する。一回目は二重結合が H–Br の
H+を補足する瞬間である。2回目はカルボカチオンに対して Br–が付加する瞬間である。 以上をまとめると、下図に示すような反応機構が描かれることになる。通常の反応機構で
は、特に指定がなければ遷移状態は記載しなくて良い。 もう一度、→の向きは大丈夫ですか?逆に書いたら求核剤と求電子剤が逆になってしまい
ます。つまり、全く別の反応になりますよね。気をつけて下さい。 有機化学 I 小テスト 第 7 回
H
CH2CH3 H Br
H
H3CH2C
担当:石川勇人
CH2CH3
δ+
H3CH2C
H
Br
H
H
H3CH2C
Br–
CH2CH3
H
δ–
Br
H
H
H3CH2C
CH2CH3
H
Br H
H
H3CH2C
CH2CH3
H
【問題 2】「律速段階」について活性化自由エネルギーという語句を用いて説明せよ。
解答の指針:反応座標の問題である。問題1の反応を例に反応座標を理解してみよう。反
応座標の縦軸は自由エネルギーであり、その化合物の持つエネルギーである。最初の H-Br
の付加反応を進行させるためのエネルギーがΔG1 であり、このように反応を進行させるた
めに必要なエネルギーを活性化自由エネルギーという。活性化エネルギーを得た化合物は
遷移状態を経由して反応が進行し、中間体であるカルボカチオンとなる。カルボカチオン
中間体が出発原料や生成物よりもエネルギー的に不安定であることは理解できますね。続
いて、Br-がカチオンに求核反応し、生成物が生じる。当然であるが、この段階にも活性化
自由エネルギーがあり、遷移状態もある。今回の反応は生成物の方が出発原料よりもΔG3
分だけ安定である。(反応によっては生成物の方が不安定な場合もある。その場合は逆反
応が無い。つまり原料に戻る反応は起き無い場合に可能である。)従って、反応全体とし
て、発熱反応であることがわかる。(ΔG3 分だけエネルギーを放出して生成物に至る。) さて、本題の律速段階(ratio limiting step)はその名の通り、反応全体の反応速度を決
める段階のことを示す。問題1では2段階反応であるため、1段階目と2段階目のどちら
がより反応が遅い(進行しずらい)だろうか?活性化自由エネルギーのΔG1 とΔG2 を比べ
れば、ΔG1 の方がはるかに大きいことは一目瞭然である。このことは1段階目を進行させ
るためにより多くのエネルギーを必要とするということを示しており、全体の反応速度は
いかにΔG1 の障壁を越えるかにかかってくる。(ΔG1 の活性化自由エネルギーを越えるだ
けのエネルギーがあれば、ΔG2 は余裕で超えられる!)従って、この反応では最初の二重
結合に対する H-Br の付加の段階が律速段階であると結論付けられる。 なお、触媒とは、添加することによって活性化自由エネルギーを大幅に減らせるものをい
う。 有機化学 I 小テスト 第 7 回
CH2CH3
δ+
H3CH2C
担当:石川勇人
H
Br
δ–
Br
H
H
H3CH2C
CH2CH3
H
ΔG2
ΔG1
H
H
H3CH2C
CH2CH3
H
Br H
H
H3CH2C
CH2CH3
ΔG3
H
H3CH2C
CH2CH3
H
H
ということで、解答としては: 「律速段階とは多段階反応において反応全体の反応速度を決定する段階であり、結果とし
て、反応を進行させるための活性化自由エネルギーが最も大きい段階である。」 学籍番号 名前