平成 27 年度 有機化学 I 小テスト 第 18 回 【問題 1】次の反応で生じる 1

平成 27 年度 有機化学 I 小テスト 第 18 回
【問題 1】次の反応で生じる 1,2-付加生成物と 1,4-付加生成物をそれぞれ示せ。また、反応
機構を記せ。
CH 3
1当量 HBr
CH 3
H 3C
1,4-付加生成物
CH 3
(2E,4E)-3,4-dimethylhexa-2,4-diene
解答の指針:これまで散々学んできたハロゲン化水素の付加反応を共役ジエン(二重結合
が単結合を挟んで連続している)に適用したらどうなるかという問題である。この基質に
おける共役ジエンは右でも左でも対称なのでどちらから反応させても答えは一緒である。
今回は左の二重結合から反応させる。左の二重結合が HBr と反応すると3級カチオンが生
CH 3
じる。(ここで2級カチオンが生じないのはもういいですよね。
マルコフニコフ則です。)
1当量 HBr
CH 3
H 3C
1,4-付加生成物
そこに Br-が求核攻撃をすれば
1,2-付加生成物が生じます。ここでいう1、2とは H と Br
CH
3
が入る場所を示しています。構造式中の番号を見ればわかりますよね。この
1,2-付加生成
(2E,4E)-3,4-dimethylhexa-2,4-diene
物はこれまで学んだ反応がそのまま起きていると考えれば OK です。共役ジエンの場合、中
間体の3級カチオンの段階でこれまで起きなかった現象が起きます。この中間体はアリル
カチオンと言います。アリル位にあるカチオンという意味ですね。(二重結合の隣をアリ
ル位ということを前回学習しました。)アリルカチオンには共鳴混成体が存在します。カ
H
H
H
H
チオンが移動して2級カチオンになる構造です。この2級カチオンに Br-が求核攻撃する
と 1,4-付加生成物ができます。(H が 1 の位置で Br が 4 だからですね。)この反応は共役ジ
エンに特徴的な反応なので覚えておいてください。授業では反応温度によって,2-付加生成
物と 1,4-付加生成物の生成比が変化することを教えました。中間体の安定性は3級カチオ
ンだけれど、生成物は 1,4-付加生成物の方が安定と答えてくれたことを嬉しく思います。
速度論的支配と熱力学的支配の考え方は大学では教える内容なので興味ある人は大学の教
科書を参照してください。
Br–H
CH 3
CH 3
H 3C
CH 3
CH 3
H–Br
H
CH 3
H 3C
CH 3
CH 3
H 3C
CH 3
H 3C
2
Br
3
CH 3
CH 3
4
1,2-付加生成物
共鳴混成体
CH 3
H
CH 3
1
H 3C
CH 3
CH 3
H
Br –
CH 3
H
2級カチオンはできない。
マルコフニコフ則
CH 3
CH 3
H 3C
CH 3
H
Br –
CH 3
1
H 3C
3
2
4
CH 3
CH 3 Br
1,4-付加生成物
平成 27 年度 有機化学 I 小テスト 第 18 回
【問題 2】シクロヘキサノールとフェノールではフェノールの方が酸性度が大きい。理由
を答えよ。(化学構造式を用いて説明せよ。)
解答の指針:シクロヘキサノールとフェノールにおける酸性プロトンはアルコール上にあ
る H である。(赤で示した)酸性の強弱を考える時、H+を放出しやすい=酸性が強いとい
うのはわかると思います。重要なのは H+を放出した後のカウンターアニオンの安定性であ
る。H+を放出した後のカウンターアニオンが安定であれば酸解離定数は大きくなる。(重
要!酸における H+放出機構は平衡である。)ということで、シクロヘキサノールとフェノ
ールから生じるカウンターアニオンの安定性について議論しよう。シクロヘキサノールか
ら生じるアルコキシドアニオン(炭化アルコールのアニオンの呼び方)は言ってみればア
ニオンが丸裸で存在しており、非常に反応性が高い。(速やかに H+を捕捉する)裏を返せ
ば強塩基として作用する。(NaOEt が Na+と EtO-に別れて強塩基として作用することを思い
出そう。)
一方で、フェノキシドアニオンは酸素上に存在する電子(アニオン)が共鳴により非局在
化することがわかるだろうか?すなわち、共鳴安定化する。したがって、フェノールはシ
クロヘキサノールと比べると圧倒的に H+を放出しやすい。結果としてシクロヘキサノール
はほぼ中性の分子であるが、フェノールは弱酸として作用する。共鳴構造式をかけるよう
にしておいてください。
H+
OH
O–
cyclohexanol
H+
H+
O–
OH
O
phenol
H+
共鳴安定化(電子の非局在化)
O
O
CH 3
(2E,4E)-3,4-dimethylhexa-2,4-diene
平成 27 年度 有機化学 I 小テスト 第 18 回
【問題 3】次の分子の中で芳香族性を持つ分子はどれか選べ。
H
H
H
H
解答の指針:芳香族化合物とは共役二重結合が環構造を取っており、極めて安定な化合物
群である。芳香族性を持つためには幾つかのルールがある。①分子の上下に連続した π 電
子の環状雲を持っている。②環構造である。(無限ループの電子の非局在化)③分子は平
面でなければならない。④Hückel 則を満たす分子:Hückel 則とはドイツの物理学者 Erich
Hückel により行われた理論計算であり、p 軌道系が 4n+2 個の電子を持つ場合のみ芳香族
であるというルールである。(n
は整数)実は n には0も含まれるので、言い換えると
H+
2,6,10,14,18….個の π 電子を持つ分子だけが芳香族である。なぜ、Hückel 則が成り立つの
OH
O–
かは π 分子軌道の相対エネルギー準位により説明できる。(詳細に知りたい人は大学の教
cyclohexanol
科書参照。紹介します。)
H+
H+
では、問題となっている化合物を見ていこう。まず、ベンゼンである。もっとも基本的な
O–
OH
O
O
O
芳香族化合物である。上記のルールと照らし合わせて検証していこう。ベンゼンは3つの
連続した phenol
π 電子環状雲を持っている。もちろん環構造である。分子は完全な平面性を持っ
+
H
ており、すべての π 電子が並んでいる。π 電子の数は 6 個であり、Hückel 則における n=1
共鳴安定化(電子の非局在化)
に相当する。以上の検証よりこの分子は間違いなく芳香族である。
H
benzene
H
Sp 3
1,3-cyclobutadiene
1,3,5-cycloheptatriene
H
H
H
H
H
H
1,3,5,7-cyclooctatetraene
cyclopentadiene
H
H
続いて、シクロブテンはどうであろうか、環構造、連続した π 電子、平面性では芳香族と
しての条件をクリアしているが、π 電子の数は4つであり、Hückel 則に従わない。実際に
OH
O–
cyclohexanol
平成 27 年度
有機化学 I+ 小テスト 第 18 回
H
この分子は極めて不安定ですぐに2量化することが知られている。(芳香族化合物は安定
H+
であるという基本を忘れないように。)従って、芳香族化合物ではない。次に、シクロヘ
–
O
O
O
OH
O
プタトリエンを見てみる。環構造であるが、π 電子が連続していない。これは構造中に Sp3
phenol
炭素を含んでいるの明らかである。(Sp3
には π 電子はない。)また、平面性を有してい
H+
ない。従って、芳香族ではない。シクロオクタテトラエンではどうであろうか。この分子
共鳴安定化(電子の非局在化)
の問題点は平面性にある。連続した π 電子を持っているが、いつはこの分子は平面性を有
していない。(いろいろなところで問題になってます。)さらに Hückel 則にも従わないの
で芳香族ではない。シクロペンタジエンは分子内に Sp3 炭素があるのでもちろん芳香族で
H
H
はない。では、シクロペンタジエンのカチオンはどうであろうか、以前勉強しているが、
benzene
3
1,3-cyclobutadiene
Sp
Sp3 から生じるカチオンやアニオンには p 軌道がある!従って、連続した
p 軌道を持ち、
1,3,5-cycloheptatriene
平面性があり、もちろん環構造である。しかしながら、π 電子の総数は4つであり、Hückel
H
H
則に従わない。従って、この分子は芳香族ではない。一方で、シクロペンタジエンのアニ
H
H
H
オンはアニオンとして存在する p 軌道に2つの π 電子がある。Π 電子の総数は6個であり、
H
Hückel 則を満たしている。ゆえにこの分子は芳香族である。
cyclopentadiene
1,3,5,7-cyclooctatetraene
最終的な回答は赤でハイライトした分子が芳香族化合物であり、それ以外は芳香族化合物
ではない。
H
以下に、今回取り上げた以外の芳香族化合物の代表例を上げる。試験問題に出たとしても
H
答えられるようにしておくこと。n=0 のシクロプロペンのカチオン(最初の構造)は問題
に出しませんが、大学院試験等でよくみる構造です。
ナフタレン
O
フラン
O
HN
ピロール
テトラセン
アントラセン
H N
N
N
ピリジン
追加:ピロールの窒素の不対電子は芳香族に取り込まれているのに対し、ピリジンの不対
電子は芳香族とは関係なく独立して存在している。従って、ピロールは中性分子であるの
に対して、ピリジンは塩基性分子であることを覚えておこう。(ピリジンの不対電子は H+
を捕捉できるのに対して、ピロールの不対電子にはその捕捉能が全くない。)
学籍番号 名前