「小児の在宅呼吸療法」

2015.5.29
2015年度 医療ケア実技研修会
「小児の在宅呼吸療法」
人工呼吸器の特徴と観察のポイント
4東病棟 看護科長
集中ケア認定看護師
大石 直子
在宅呼吸療法継続使用 年度推移
60
50
50
53
54
26
27
25
51
48
40
30
20
10
19
18
24
26
29
33
29
0
気管切開呼吸管理
非侵襲的呼吸管理
合計
在宅人工呼吸器療法を受ける
こどもの特徴①
Ø多くの医療的ケアが必要である
・気管切開部のケア
・気管カニューレ交換
・気管内・口鼻腔吸引
・薬剤吸入
・人工呼吸器の保守・点検
・経管栄養 etc
在宅人工呼吸器療法を受ける
こどもの特徴②
Ø療養環境が整っている必要がある
・継続した在宅医療と療養生活
・こどもの成長発達に応じた日常生活
・家族も精神的に安定した生活
人工呼吸器の役割
Ø生命維持管理装置
換気不十分、酸素化不十分、
呼吸仕事量の軽減 このような時に装着
・目的は・・・ ①適切な換気量の維持
②酸素化の改善
③呼吸仕事量の軽減
④全身管理の一環
人工呼吸器が必要な患者は・・・
Ø肺実質に問題がある
(間質性肺炎、慢性呼吸不全 など)
Ø気道に問題がある
(気管軟化症 など)
Ø呼吸筋力に問題がある
(神経筋疾患 など)
Ø中枢神経に問題がある
(脳症 手術中など)
肺実質の問題とは・・・
気管軟化症とは・・・
正常な気管は気管軟骨に
よって内腔が保持される。
軟化症の患者は、
軟骨が柔らかく、
気管の内腔を保持
できない。
特に泣いたり
して気道内に
陰圧がかか
ると、気道が
つぶれてしま
う。
呼吸をするには筋肉が必要です。
Ø呼吸運動は、胸の周りにある筋肉(呼吸筋)
の働きによって行われています。
神経・筋疾患の患者の病態は・・・
筋委縮
筋力低下
咳嗽力の低下
嚥下機能低下
排痰困難
誤嚥
呼吸努力増大
気道閉塞
呼吸困難
誤嚥性肺炎
低酸素血症
高二酸化炭素血症
生命の危機
呼吸中枢について
人工呼吸の分類
陽圧換気法の分類
気管内チューブ
マスク
挿管下陽圧人工換気
非侵襲的陽圧換気
IPPV(TIPPV)
Intermittent
Positive
Pressure
Ventilation
NPPV(NIPPV)
Non-invasive
Positive
Pressure
Ventilation
陽圧換気法の違い
IPPV
NPPV
侵襲度
高い(挿管チューブ)
低い(マスク)
自発呼吸
無し or 弱い
あるが弱い
状態
傾眠、昏睡、非協力的
理解し協力的
痰の除去
吸引器による除去
自己咳嗽
気道感染
高い(VAP)
低い
◆NPPVの利点
◆NPPVの欠点
‐気管内挿管に伴う危険の回避 ‐患者の協力が必要
‐食事ができる
‐マスクの刺激や皮膚トラブル
‐会話によるコミュニケーション‐痰を直接吸引出来ない
‐在院日数の短縮
‐QOLの向上
‐誤嚥の危険性
気管切開と人工呼吸
NPPVインターフェイス
プロフィールライトSC(Small Child)
ネーザルマスク
(鼻マスク)
フルフェイスマスク
(口鼻マスク)
コンフォートジェル P
16
自発呼吸と人工呼吸の違い
Ø自発呼吸
生体の状態変化に応じて呼吸回数・
吸気の深さなどを不随意に行う。
Ø人工呼吸
生体情報と関係なく人工呼吸器が
主体となって吸気と呼気のタイミング、
換気回数などを調節する。
人工呼吸と自発呼吸の違い
l
l
自然な状態では、胸腔内圧は陰圧
人工呼吸時には、胸腔内圧は陽圧
①
人工呼吸と自発呼吸の違い
・わたしたちは、
鼻腔・咽頭・喉頭に
自然の加温加湿器を
もっている。
・肺胞に達するまでに、
吸入気は
温度 37℃、
湿度 100%となる
②
気管切開換気療法には、加温・ 加湿器が必要!
電源確認
忘れずに!!
加温、加湿された
環境下で線毛運動
は効果的に働く
一般的な人工呼吸器と在宅人工呼吸器の違い
Ø在宅人工呼吸器の特徴
①小型・軽量
②電動式である
③作動時の騒音が少ない
④構造がシンプルで故障がない
人工呼吸に必要な設定条件
Ø換気回数
Ø圧;最大吸気圧(PIP)、呼気終末圧(PEEP)
Ø吸気時間
Ø酸素濃度
Øサポート条件
呼吸器の設定
● 5つの設定項目
気道内圧
(hPa)
④ iT
吸気時間(秒)
① IPAP
吸気圧(hPa)
② EPAP
呼気圧(hPa)
ライズタイム
⑤ トリガ感度
ON/OFF
圧波形
時間(秒)
吸気
③f
呼気
呼吸回数(回/分)
23
TPPVの設定モード
ØA/C:すべて強制換気
ØSIMV:強制換気と自発呼吸が混在
ØCPAP・PS:すべて自発呼吸
Ø Tモード:調節換気
Ø S/Tモード
:自発呼吸の補助換気とバックアップ換気
Ø Sモード:自発呼吸のみの補助換気
呼吸状態の観察
呼吸回数
努力呼吸の有無
呼吸音
呼吸様式
咳嗽の有無
SpO2値
呼吸困難感
チアノーゼ
呼吸状態の観察 ①
呼吸回数
ØPediatric Advanced Life Support
新生児 (1~12か月) 30~60
乳児
(1~3歳)
24~40
幼児
(4~5歳)
22~34
学童
(6~12歳) 18~30
思春期 (13~18歳) 12~16
呼吸回数 観察のポイント
Ø頻呼吸・徐呼吸になっていませんか?
Ø無呼吸はありませんか?
Ø呼吸のリズムは乱れていませんか?
Ø呼吸回数と呼吸の深さに変化はありません
か?
呼吸状態の観察 ②
呼吸音
肺胞音
呼吸音
気管支音
肺音
断続音
ラ音
副雑音
連続音
その他
呼吸音の観察のポイント
Øいつ(吸気?呼気?)、どこで(場所は?)、
どんな音が聞こえていますか?
Ø呼吸音が聞き取りにくいところはありません
か?
Ø左右、背側と腹側での違いはありません
か?
治療やケアの前後では必ず確認しましょう。
呼吸状態の観察 ③
努力呼吸
Ø鼻翼呼吸
Ø下顎呼吸
Ø陥没呼吸(肋間・剣状突起・咽頭)
Ø呼気延長
Ø口すぼめ呼吸
Øシーソー呼吸
Ø補助呼吸筋の使用
呼吸状態の観察 ④
SpO2値
SpO2とPaO2の関係 どのくらいの酸素がHbと結合しているか
⇒ SpO2が90%の時、PaO2は60mmHg
PaO2が60mmHg以下となると一気に酸素がHbと
くっつかな くなり、体の末梢まで酸素が運ばれなくなり、
チアノーゼなどが出現してくる。
つまり、SpO2が90%以下は危険!
*貧血の時はチアノーゼが生じにくいので要注意。
呼吸状態の観察 ⑤
その他
Ø顔色・表情
Ø咳嗽の有無
Ø分泌物の量・性状
Ø主観的感覚
Ø皮下気腫の有無
呼吸状態に影響を与える要因
疾患
呼吸器設定条件
発熱
けいれん
酸素濃度
薬物
体型
痛み
循環動態
緊急時の対応
Øカニューレが抜けた!?
・自発呼吸がある患者の場合が多いので、慌てない
・緊急時には、抜けたカニューレを再挿入する
・余裕があれば、新しいカニューレに交換する
・ワンサイズ小さいカニューレがあるとよい。
Ø人工呼吸器の調子がおかしい!?
・アンビュー・バックでの加圧に切り替える
・人工呼吸器の設定条件の確認
・人工呼吸器の回路などを確認
病院へ連絡
救急車要請
いつもと違うこんな時に・・・
すぐに受診が必要な状況とは…
Ø 対処をしても、改善が見られないとき
気管切開カニューレの抜去や閉塞ではない
気管内吸引の分泌物が引けない、量が多い、血性である
手動換気でも、SpO2値が改善しない
人工呼吸器がおかしい
発熱や下痢などの感染症状がある
Øなんだか原因がわからない
Ø家族(自分)の不安が強い
ここまでの講義のまとめ
Ø 在宅人工呼吸療法を受けるこどもには多くのサ
ポートが必要。
Ø 在宅人工呼吸療法には、TIPPVとNPPVの2つの
方法がある。
Ø 観察ポイントの基本は呼吸状態の観察。
Ø 呼吸に影響を与える要因も一緒に観察しましょう。
Ø いつもと違う状態の時は、病院に連絡を。
Ø機械の調子がおかしい時は、業者に連絡を。
いろいろな在宅人工呼吸器
Ø様々な在宅人工呼吸器
トリロジー
インテグラ
排痰補助装置
カフアシスト
カフアシストE70
コンフォートカフ
排痰補助装置とは
気道に陽圧をかけて肺に空気をたくさん入れた後に、陰
圧で吸引するように息を吐き出させることで、咳の介助
をして、気道内分泌物を除去するのを助けます。
排痰補助装置の適応
ØTPPVでもNPPVでも使用は可能。
Ø排痰が難しく、窒息の危険性のある患者が
対象。
Ø神経・筋疾患の患者で効果的な咳嗽ができ
ない患者。
上気道の空気の通り道の確保が難しい場合に
適応となります。
排痰補助装置の使用方法①
病院
在宅
目的
無気肺等の患者に対する 上気道の空気の通り道を確
排痰
保した排痰
方法
呼気介助を行いながら実
施し、効果的な排痰を促
す。吸入や他の肺理学療
法と併用しながら行う。
呼気介助よりもマスクの
フィッティングや気道の確保
が大切。胸部に手を当て、
肺に空気が確実に入ってい
るかを確認する。
呼気介助は技術習得できて
いるスタッフが行わないと骨
折のリスクあり。
排痰補助装置の使用方法②
Ø 実施前には必ず鼻口腔の吸引を行います。分泌物が
溜まっている状態で行うと誤嚥の危険性があります。
Ø 1サイクルは5回までとします。それ以上は過換気と
なる可能性があります。
Ø マスクのフィッティングが重要です。空気が漏れると効
果がありません。首の位置に注意しましょう。
Ø 途中で分泌物が出てきたら、一度中止し、吸引しまし
ょう。
Ø 顔色が悪くなったら、呼吸を落ち着かせてから再開し
ましょう。