自分に正直になれば,心はとても軽くなる 「心のつな引き」 正直に言おうとする心 正直に言えない心 サッカーをしていてホウセンカをおってしまったまさき。 翌日,みんながさわいでいるのを見て,なかなか自分がやったと正直に言うことができな い。 あなただったら…。一緒に考えてみませんか!! 1 資料名「ホウセンカ」〈小学校中学年〉 せんしゅ ぼくのゆめは,サッカー選手になること。ひまさえあれ ばボールをけっていた。 日曜日の午後,学校のグラウンドで,いつものようにひ ろしとサッカーをしていた。だれもいないグラウンドは, ひろびろとしてとても気持ちがいい。ひろしがゴールキー ばん パーで,ぼくがシュートをする番だ。ひろしには,いつも ボールをとめられてしまう。 「いくぞ。」 ぼくは力いっぱいボールをけった。 こうしゃ ところが,ボールはコースを外れて,校舎前にあるプラ と ンターへ飛んでいってしまった。 「おーい,まさき。どこへシュートしてるんだよ。」 ひろしが,ぶつぶつ言いながらプランターの方へ走って 行った。 「あーっ。」 ボールを手にしながらひろしが言った。 「ホウセンカおれちゃってるよ。」 ぼくもプランターの方へ向かった。 「どうしよう。」 「だいじょうぶだいじょうぶ。だまっていればわからない よ。ホウセンカはほかにもあるし。そんなことよりサッ カーの続きをやろうよ。」 「そうだね。」 二人は,日がしずむまでサッカーをして遊んでいた。 まわ 次の日,プランターの周りにはたくさんの人が集まって いた。ホウセンカは二つにおれまがり,ぐったりしていた。 「ひどーい。毎日水をやって大切に育ててきたのに。」 「かわいそうに。もうすぐ花がさきそうだったのにな。」 という声が聞こえてきた。ぼくは聞こえないふりをして, 校舎に入った。 朝の会で先生が, 「ちょっとざんねんなお知らせがあります。みんなが大切 に育てていたホウセンカが,一本おれてしまいました。 どうしたのでしょうね。」 -1- ぼくは,先生の顔を見ることができなかった。うつむき ながらひろしをそっと見た。ひろしもちらりとぼくを見て, 目をそらした。ぼくは,心ぞうがドキドキして,息ができ ないくらい苦しくなった。 昼休み,みんなからサッカーをしようとさそわれた。校 とうばん 庭を歩きながらプランターを見ると,当番の子が水をやっ ている。青々としげっているホウセンカのプランターに, 一か所だけすき間があいている。おれたホウセンカが,地 ぜったい 面にたおれている。すっかりしおれてしまって,もう絶対 に花をさかせないだろう。 ぼくは,ボールを持ったまま,立ち止まった。 ※プランター…草花のさいばいに用いるようき 2 学習指導案 (1) 主題名 正直・明朗(1ー(5)) (2) ねらい 正直に明るい心で元気よく生活していこうとする心情を育てる。 (3) 「心に響く」ための工夫 ① 資料のよさ 学校生活の中で実際にホウセンカを育て,観察をしてきたので,身近なこととしてとらえや すい。主人公のまさきはホウセンカをボールで折ってしまったが,誰も見ていないことからそ のままにしておいた。次の日,友達が大騒ぎをし,先生も「どうしたの 。」と聞いたが,なか なか言い出せない。しかし,折れたホウセンカを見ていてじっと考える。この後,まさきがど うしたかを考えることによって主題に迫ることができる。 ② ァ 工夫あれこれ 導入の工夫 実際に理科の学習で育て,観察してきたホウセンカの写真を掲示して,資料への親近感をも たせる。 ィ ゥ 教師による読み聞かせの資料提示 教師が資料を読み聞かせることにより,資料の理解を容易にする。 形態の工夫 話し合いがよりやりやすいように机を取り払い,椅子だけにした。また,中心発問を考える 時にはまさきの二つの心をふまえて,グループを二つに分けて話し合いを進めた。正直に話す グループと話さずにすまそうとするグループとはっきり分けることで,より話し合いが深まっ た。 -2- (4) 展開例 主な活動と主な発問 教師の働きかけ 1 なかよし作業や理科で育てた植物のこと ・体験した時の気持ちを自由に話し合わせることに を振り返り,写真を見て話し合う。 より,本時の主題への方向付けをする。 2 ○ 資料「ホウセンカ」を聞き話し合う。 折れたホウセンカを見て,ぼくはどう思 ・場面ごとの話の内容がわかりやすいように,さし ったでしょう。 絵を使って読み聞かせをする。 ・自分の経験を想起させ ,「ぼく」の気持ちに共感 させたい。 ○ 聞こえないふりをして校舎に入ったぼく ・一生懸命に育てた友達の気持ちに共感させ,その は,どんな気持ちだったでしょう。 時の「ぼく」の気持ちに気づかせたい。 ◎ 先生の話を聞いて,ぼくはどう思ったで ・2つのグループに教師が分け,正直に言ってすっ しょう。 きりする気持ちや,言わずにだまっていてもやも やする気持ちについて考えられるようにする。 ○ しおれてしまったホウセンカを見て立ち ・ホウセンカを見て,自分も暗い気持ちになってい 止まったぼくは,どんな気持ちになったで ることに気づかせ,正直でいようとする気持ちを しょう。 引き出したい。 3 ○ 今までの自分を振り返る。 失敗して正直に言えた時の気持ちを考え ・これまでの自分の行動を,具体的な場面を通して て発表する。 見つめさせたい。 4 心のノート「正直に明るい心で元気良く」 ・本時のねらいに関して子どもたちそれぞれの心の (P28,29)を読み,これからの自分の行 中に余韻を残したい。 動を考える。 3 「心に響く」話し合いのようす 〈中心発問の場面でグループに分かれての話合い〉 (SA:「 正直に言う」グループ, SB:「 言わずにだまっている」グループ) SA SA SB SB SB SB SA SA SA SA SB SA あとで怒られるのがいやだから・・・ 言わないとあとで後悔する。 先生にばれなければ怒られない。 わざとじゃない。 ボールが当たっただけ。 ほかにもいっぱいあるからいい。 心にいやな気持ちがたまる。 ぜったいばれるんだから言った方がいい。 言わないと苦しくなる。 すっきりして心がもやもやしなくなる。 言ったら先生や友達に怒られたり嫌われたりする。 あとでばれたらもっと嫌われる。 -3- 4 児童の変容のようす 以下は,授業においての道徳的価値の自覚を示したものである。中心発問に対する授業前と授業 後の変容を見た。 授業前では ,「自分が悪いことをしてすぐに謝る」が ,「先生に怒られるから謝る」という児童 が多かった。 授業後では,悩んでいる主人公の気持ちに共感し ,「自分の心がすっきりするから謝る」という 児童が増えた。正しい行動をすることの大切さを感じとることができたようである。 掃除をしている時に,ロッカーの上に置いてあった図工の作品を落として壊してしまいました。 あなたは,どうしますか。また,それはどうしてですか。 判断面 心情面 授業前 授業後 授業前 授業後 A すぐあやまる。 21名 23名 ア イ ウ エ オ おこられるから。 すっきりするから。 友達がかわいそうだから。 自分が悪いから。 クラスに迷惑をかけてしまうから。 6名 4名 4名 4名 3名 3名 12名 4名 2名 2名 B 友達に言われた らあやまる。 6名 3名 ア イ おこられそうでこわいから。 はずかしいから。 5名 1名 3名 C そのままだまっ 0名 ている。 0名 5 自作資料を作成してみて (1) 自作資料を作成したことによって,改めて副読本の内容が精選されたものになっていること を感じた。一つ一つの言葉から挿絵まで,十分に考えられたものであることを再認識した。こ れからさらに内容に応じて上手に活用していきたい。 (2) 実際に理科の学習でホウセンカを育てた体験をもとにし,より具体的に作成することができ た。身近でわかりやすかったこともあり,児童はとても意欲的に取り組むことができた。自作 資料のよさだと実感できた。 (3) 一つの資料を作成するにあたっては,かなりの準備期間や研修を必要とした。何度も文章や 挿絵などをかき直し,時間はかかったが学年やブロックで作り上げた喜びは大きく,大切な資 料としてこれからも生かしていきたい。 (4) 戸惑いや迷い,利害関係などで自分の意志に反しそうなときでも,正直な心になって毎日を 明るく元気に生活していこうとする態度を育てていきたい。 -4-
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