<健康教育> 望ましいライフスタイルを促す健康教育の工夫 ―ライフスキルに基礎をおく喫煙防止教育を通して― 南風原町立北丘小学校養護教諭 Ⅰ テーマ設定の理由 渡名喜 洋 子 ばこの害を中心とした情報伝達の授業形態であり, 保健体育審議会答申(平成9年9月)は,21世紀 に向けた健康教育の在り方として「国民一人一人が, 子ども達が主体的に学ぶ授業ではなかった。喫煙が 心身の健康問題を意識し,生涯にわたって主体的に に「自分を大切にする心や態度」を育てるために, ライフスキルを身につける指導のあり方が示唆され 健康の保持増進を図っていくことが不可欠である」 体に及ぼす影響についての知識や理解を図るととも と述べている。このことは,生涯にわたって健康な 生活を送るために自らの健康問題を認識し,健康の ている。 保持増進に必要な知識,能力,態度などを身につけ 友人からの喫煙への誘惑や圧力に対して上手に断る 方法を習得することにより,良い生活行動がとれ, 喫煙が心身の発育発達に影響があることを学習し, る教育の必要性が強調された。その背景には,核家 望ましいライフスタイルの形成につながるのではな 族化や少子化の進行,科学技術の急速な進歩による ライフスタイルの変化等,今日の急激な社会の変化 いかと考え,本テーマを設定した。 <研究仮説> がある。 そのような中で,わが国の疾病構造も大きく変化 し,がんや心臓病などの生活習慣病で死亡する人が ( 1) 教材教具を工夫することにより,子どもたちの 70%を占めるようになっており,今後の高齢化社会 と,健康に関する認識が育つであろう。 ( 2) ブレーンストーミング等を取り入れたグループ 学習意欲が高まり,たばこの害について正しい知識 とともにますます増加することが考えられる。 ワークなど,学習過程を工夫することにより,コミ 一般に,健康成立の要件は,遺伝,環境,医療シ ステム,ライフスタイルの4つだといわれるが,生 活習慣病は,喫煙や飲酒,偏った食生活,運動不足 ニュケーションスキルや対処スキルが育ち,望まし いライフスタイル形成につながるであろう。 などのライフスタイルと深く関わっている。主体的 に健康を保持増進し,心身共に健康で充実した生涯 Ⅱ を過ごすため,健康にとって望ましいライフスタイ 1 ルを構築することが必要である。 (1) 望ましいライフスタイル 学校においては,健康の保持増進の観点から,薬 物乱用,性の逸脱行動,生活習慣病,感染症など, ライフスタイルとは,文化的,社会的,経済的, 環境的に条件づけられ,長年かかって形成された行 健康課題が深刻化しており,それらの課題に早急に 動である。これまで,行われてきた多くの研究によ 取り組むことが指摘されている。 れば,生活習慣病は「ライフスタイル病」とも呼ば 平成9年度に小学校17校の児童2189名を対象に行 った調査では,6年男子28.1%,女子11.5%が過去 れ,その発生には年齢,性,家族歴などの非行動要 因の他に,喫煙,過度の飲酒,動物性脂肪・塩分・ に喫煙した経験があると答えている。喫煙が体に及 砂糖を多く含む食品の摂取,運動不足などの行動(ラ ぼす影響について,世界的に研究が進められ,その 有害性が指摘されている。そのため,成人の喫煙者 イフスタイル)要因が深く関わっている。 今回の学習指導要領の改訂において,健康教育が は年々減少の傾向にあるがその一方,児童生徒の喫 生活習慣病予防のためにライフスタイルの改善を重 煙は増えていると言われる。 視しているのは,このような時代的要請に応えるも 以上のことをふまえ,学校においても喫煙防止教 育を行っている。しかし,喫煙の影響についての知 のであろう。このように考えると,望ましいライフ スタイルを次のようにとらえることができる。 研究内容 望ましいライフスタイル形成 識はあるものの,青少年の喫煙率は依然として高く, ・望ましい食生活 望ましい行動に結びついてない現状がある。これま ・適度な運動と休養 での健康教育を振り返ったとき,喫煙防止教育はた ・健康を害する行為の排除 -1- 青少年の健康を増進することをねらいとするスキ ・具体的生活場面での意志決定 (2) ライフスタイル形成を促す健康教育 医学・医療が進歩し,健康水準も向上してきた現 ルには,図1のように5つのライフスキル,すなわ ちセルフエスティームの維持,意思決定スキル,目 在において,ライフスタイルを形成する健康教育の 標設定スキル,コミニュケーションスキルそしてス 必要性について叫ばれる理由の一つとして,健康問 トレスマネジメントがあり,健康教育プログラム全 題の変化があげられる。かっては,病気の上位を占 めていた結核や赤痢などの感染症が減少し,これら 体を通じて形成,強化されることが必要である。 本研究ではブレーンストーミングの手法を用い, に代わって現在では,がんや心臓病などの生活習慣 子ども達が自分の健康に役立つ情報や可能な選択肢 病が大きな健康問題になっている。 を出し合い,情報を整理・分析し,何が自分にとっ 生活習慣病の多くが私たちの生活行動・ライフス タイルと深く関わっており,医療面だけの対策だけ て良い選択か判断し意思決定をしたり,よい人間関 係を維持する自己主張コミニュケーションを学ぶ。 では予防は困難であるため,自らの日常生活の中で <ブレーンストーミングの進め方> 望ましいライフスタイルを形成する必要がある。 教育課程審議会の「審議のまとめ」 (平成10年6月) ① ブレーンストーミングの目的と留意点(批判し ない,自由に意見を出す,多くのアイデアを出す, においても,生涯健康教育の観点から,健康的なラ 便乗発展させてアイデアを出しても良い)の説明。 イフスタイルを確立する能力の早期形成が示されて ② いる。一度形成されたライフスタイルの改善はきわ めて難しく,発育発達の著しい学童期から,望まし むカードを配る。カードは,A4の半分の大きさを 一人あたり5枚程度準備する。 いライフスタイルの形成を重視した健康教育が大切 ③ である。 アを整理する。 2 ④ テーマについて確認し,決められた時間内にで きるだけ多くのアイデアを出す。 ライフスキルとは ライフスキルとは,日常生活で生じるさまざまな 6人程度のグループに分け,アイデアを書き込 司会者と記録を決める。司会者は,出たアイデ 問題や要求に対して,建設的かつ効果的に対処する ⑤ ブレーンストーミングが終わったら,グループ ために必要な能力で,個々の人々が自分らしく,よ りよく生きていくための基盤となる能力である。 の出たアイデア数を数える。その後,司会者が、出 たアイデアを読み上げながら,グループ全員で,似 ライフスキル教育は,社会的学習理論と問題行動 ているアイデアをまとめる作業をして,全体にグル 理論を基盤としている。個人スキルや対人関係スキ ープのアイデアの紹介をする。 ルを習得させることにより,社会的要因の影響を受 けにくくし,さらに,内的要求を充たすための建設 3 子ども達の健康問題について (1) 青少年の健康に関する危険行動 アメリカの疾病管理予防センターは,青少年の健 的な対処方法を獲得させることで,さまざまな問題 康・社会問題に関する調査結果から青少年の6つの 危険行動を示し,その危険行動を押さえることが健 行動を予防することをめざしている。 康問題の解決にとって大切だと提言している。 (表1) 表1 青少年の6つの危険行動 1.故意または不慮の事故 2.喫煙 自分らしく,よりよい生き方(自己実現) 3.飲酒及び薬物乱用 社会問題(不安,ストレス,対人関係)の解決 計 画 実 4.望まない妊娠,HIVを含む性に関する行動 5.不健康な食生活 6.運動不足 行 ③目標設定 ⑤コミニュケーション ②意思決定 ④ストレスマネジメント この6つの危険行動は,相互に関連し合うこと, そしていずれも青少年期にそのきっかけが起因とな り,大人になるにつれて固定化し,質的にも量的に も進行する。健康教育はこれら6つの危険行動に対 し,早い時期からの総括的な健康教育を行うことが ① セルフエスティーム(健全な自尊心) 図1 大切と考える。6つの危険行動のいずれか1つをス 5つのライフスキル -2- キル形成をとり入れて行うなら,他の5つの行動も 喫煙防止教育の最終目標は,生活習慣病を予防す 改善されるものと考え,子ども達の健康課題の一つ である喫煙防止教育に焦点を当てる。 ることである。そのため最大の要因としてたばこを 吸い始めないということがあるが,従来の喫煙防止 (2) 青少年の喫煙動機 教育は,健康に関する知識の提供がほとんどであり, 喫煙予防行動を達成するには至らなかった。その要 喫煙防止教育を考えていく際,喫煙を始める動機 について配慮することは,学習内容を検討する上で 重要だと考える。喫煙動機は, 「好奇心」 「何となく」 因として,図2のプリシードモデルのような促進因 子と強化因子を行っていなかったことが考えられる。 といった理由がもっとも多く,次に「友人」「先輩」 知識や態度などの先行因子に働きかけるために, 「親 」「兄姉 」「その他の人」という理由になってい 友人からのたばこのすすめを上手に断るスキルや, る。学年別に比較すると,学年が進むにつれて「友 人からの勧め」や「好奇心」が増加しており,対人 広告を客観的に分析するスキル,特に意志決定や自 己主張コミニュケーションができると,たばこを吸 関係による動機が大きい。 い始めないという行動が実現しやすくなると考える。 以上のことから ,「好奇心 」「友人や先輩からのす すめ」が喫煙開始の大きな動機だと言える。喫煙防 さらに,子ども達が吸い始めないと意志決定をし たとき,周囲の支援が喫煙予防行動を持続させると 止教育は,好奇心の統制や,友人などからの対人圧 考える。 力に対しての対処の仕方を学ぶことに重点を置く。 4 喫煙防止教育の基本的な考え方 今回の新学習指導要領の中で,新たに喫煙につい Ⅲ ての指導が明記されており,その指導にあたっては, 2 1 積極的に課題を解決していく学習の工夫が述べられ ている。 喫煙防止教育に関する指導内容の設定にあたって 指導の実際 単元名「病気の予防」 単元のねらい 病気を起こす要因としては,生活行動・体の抵抗 力の「主体要因」,病原体・環境の「環境要因」の二 つが重なり合って病気が起こる。 これらのことを理解させるために,児童が日常経 は,喫煙に関わる要因についても考慮する必要があ る。 Green. L. W.は,健康教育による働きかけを 考える際に,健康に関わる要因を3つの因子に分類 験したり,見たり聞いたりしている病気を取りあげ することが有効であると述べている。 (図2) の疾病構造の変化から,生活習慣病などの生活行動 の仕方が関わる病気の予防を重視し,ライフスタイ て,身近なものとして学習させること,また,現代 動機づけに関わる要因 (先行因子) ・ 知識 ・態度 ・ 信念 ・価値観 教 育 ・友人の行動や態度 ・家族の行動や態度 ・教師の行動や態度 図2 3 指導観 喫煙の害に関する情報は多岐にわたり,例えば, 肺ガン,咽頭がん,心臓病,気管支炎などの長期的 生活習慣病の予防 康 行動の持続に関わる要因 (強化因子) せることを本単元の目標とする。 たばこを吸い始めない 健 動機を行動へと結びつける要因 (促進因子) ・友人からの勧めに対するスキル ・広告のテクニックスキル ・セルフエスティームの維持 ・意思決定スキル ・目標設定スキル ・コミニュケーションスキル ルの改善と生涯にわたる健康の基礎づくりを理解さ 影響があげられる。その他にも,心拍数や血圧の上 昇,咳や痰,さらに喫煙者が周囲の非喫煙者に与え る影響,妊婦の喫煙が胎児に及ぼす影響など限りが ない。したがって,喫煙防止教育の内容として,限 られた時間内に教える内容を精選する必要がある。 そこで,本時では短期的影響,特に急性の生理的 影響,およびそのような影響を引き起こす有害物質 について学習することをねらいとした。喫煙の短期 的影響については,喫煙によるせん毛への影響,末 梢血管の収縮,それに伴って生じる血液量の減少や 皮膚温の低下,タールの肺への付着などを学習する グリーンのプリシードモデル ことによって,たばこの煙による健康への影響を理 解させたい。 -3- 4 指導計画(喫煙防止教育) 時 小 単 元 名 健康に関わる生活 習慣 1 容 教科 領域 喫煙のもたらす様々な影響の例をあげ,健康に影響があることを予想する。 保健 ニコチンにより,血管が収縮し,それが原因となる健康影響がある。 保健 自分たちが調べてきた調査結果から,喫煙動機に関わる要因に気づく。 1 上手に断ろう、友達 喫煙が習慣化すると,禁煙することが難しいことに気づく。 保健 喫煙動機で最も大きな要因である友人の誘いに焦点を当て,友人からたばこを勧められた場 1 たばこの広告 合,友人関係を損なうことなく,良い断り方を学ぶ。 道徳 たばこの広告に使われるテクニックや広告がねらっているイメージを把握する広告への対処 1 5 内 タールにより肺や,気管のせん毛に影響を及ぼし,それが原因となる健康影響がある。 1 喫煙の習慣性 からの喫煙の勧め 習 自分の健康を増進する要因に,日常の生活,とりわけ喫煙しないことを高く価値づける。 たばこの煙ツアー (本時) 学 間 特活 スキルを学ぶ。 指導の工夫 選択肢がでるように支援をした。 (1) 教材教具の工夫 第2時は,これまでの喫煙の有害性を説明する情 本時の「たばこの煙ツアー」は,喫煙の体への影 響について学習するが,喫煙の害についてはどうし 報伝達の授業を改め,子ども達が気管のせん毛の働 きを実際に演じるなどの活動を行うことで楽しく学 ても講義形式になりやすい。子ども達の興味関心を 習する工夫を行った。導入を教室で行ったあと,隣 高めるために,たばこで汚れたビニールや脱脂綿を 接する多目的教室でたばこの煙ツアーを行い,体の 準備し,観察をさせることでたばこが体に与える影 響を予測させた。また,大きな口の絵や,人体図を 中を探検する場面を演出した。 せん毛については, 「風 船送りゲーム」によって子ども達に実感的に体験さ 作成し,体の中を探検する疑似体験させることで, せた。この場合,風船は吸い込んだ空気中の埃等を たばこの煙が体に与える影響を確認させることがで きた。 意味し,一列になった子ども達は両手を頭上で動か して風船を体の中から口へ送る。次に,一部の子の 科学的な知識をより視覚に訴えるために,民放番 手を下げさせ,同様に風船送りをさせ,喫煙者のせ 組「ためしてガッテン,かぜ撃退法」からせん毛の ん毛が抜けた状態を実感させた。また,気管や肺, 動きや働きを,VTR「たばこの正体」 (アニー出版) から喫煙による血管収縮と体温低下の様子を編集し 血管では,クイズに答える形式で,できるだけ楽し みながら学習できるように展開した。 た。VTRやOHP,タールやニコチンのキャラク 第3時は,たばこを吸い始める理由を明らかにす ター等の教材を,計画的に活用することによって, 子ども達の学習意欲が高まったと考える。 るために,授業前に子ども達が家族や身近な人に自 らインタビューを行った結果をもとに、グループで (2) 学習過程の工夫 「吸い始めた理由」および「禁煙ができなかった理 全体の導入となる第1時は,子ども達の保健学習 由」についてブレーンストーミングをし,発表させ への関心を高めるために,ビンゴゲームを行った。 ビンゴマスターカードから「自分の現在及び将来の た。グループ活動を通し,喫煙動機の多くが好奇心 であること,習慣化すると禁煙することが難しいこ 健康に重要」だと思うものを自分のビンゴカードに とに気づかせた。 記入する。ビンゴゲームをはじめるとき、本学習の 主題である「たばこを吸わない」を最初に読み上げ、 喫煙しないことを高く価値づけた。ゲームを通して 6 本時の展開 (1) 学習のねらい 健康と生活習慣が関わりがあることに気づかせるこ ① とができた。 第2時との関連を持たせるために,授業の後半を なることを知る。 ② タールにより,肺が汚れることを知り,それが 「喫煙の健康への影響」をテーマに6人グループに 原因となる健康影響について知る。 なってブレインストーミングを行い,決められた時 ③ 間内でたくさんの意見を出す。教師は,たくさんの れが原因となる健康影響について知る。 -4- タールにより,気管のせん毛が抜けたり,短く ニコチンにより血管が収縮することを知り,そ (2) 本時の展開(2/5) 学 気 づ く 習 内 容 教 師 の 支 援 と 評 価 ( 評 価 は ☆ ) 生活習慣と健康のかかわりで,大切なことは何だったでしょう 前時の学習を振り返る。 たばこの煙を吸ったビニールはどうなっているでしょう ・観察したことを発表する。 たばこ人形で実験したビニール及び脱脂綿を観察させる。 (予想)臭くなる 黒くなる たばこの煙の中には4000種類以上の物質が含まれており,そのうち 約200種類以上の物質は 私たちの体に害を与える。中でも特に悪いこ とをするのはタールとニコチンである。 ニコチンとタールは,体の中でどんな悪さをするのでしょう ・本時のめあてを知る。 ・フラッシュカード「喫煙の健康影響」を貼り,めあてについて確認させる。 ・たばこの煙ツアーのコース図を黒板に貼って,気管・肺・血管の3つのポイ ントを確認させる。 ・教師は大きく息を吸い込んで,胸が広がることを見せ,同時に子ども達にも ・気管に見立てた場所に移動する。 息を吸い込ませ,イメージさせ,気管部分に移動させる。 ・ひげが揺れている意味を考えてる。 ・子ども全員に手をあげさせ,細かく早く振らせることで,ひげ(せん毛)が 動いている様子をイメージ化させる。 気管の小さなひげは,1分間に 800 ∼ 1500 回揺れている せん毛は何のために動いているのでしょう ・せん毛が動いている意味を考える。 ・せん毛が何のために動いているのか風船を使って考えさせる。 深 め る ・せん毛の動く様子をビデオで見て考え る。 ・ワークシートQ1について考え記入し, 発表する。 ・VTR「せん毛の動き」を放映し,その動きについて理解させる。 ・クイズ用ワークシートを配り,せん毛の働きについて考えさせる。 ☆せん毛の働きがわかったか(知識・理解) たばこを吸うとせん毛はどうなるのでしょう ・喫煙の影響を予想して発表する。 ・喫煙者と非喫煙者の気管のせん毛の写真を見せ,その中の喫煙者のせん毛の 写真を示し,喫煙するとどうなるのか発表させることで,気管への健康影響 を理解させる。 ☆タールによってせん毛が抜けたり,短くなったりする原因や,健康影響に ついて理解できたか。 たばこを吸うと肺はどうなるのでしょう ・写真を見て,二つの肺について考え, ・喫煙者の肺と非喫煙者の肺の写真を提示し,どちらが喫煙者の肺か予想させ 発表する。 両者の違いなどを発表させる。 ☆喫煙者の肺がタールで汚れることが確認できたか。 たばこを吸うと血管はどうなるのでしょう ・血管がどうなるか予想し,発表する。 ・VTR「うさぎの実験を放映し,たばこを吸ったときの血液の流れを観察さ せ,発表させる。 ・血管が細くなると,血液が流れにくくなる。血液には,体に大切な 酸素や栄養分が含まれている。 ・血管を収縮させる犯人はニコチンである。 ☆喫煙者の血管がニコチンで収縮する事が確認できたか。 ま と め 学習のまとめをする ・今日の授業を振り返り,わかったこと を発表する。 ・クイズ用ワークシートとフラッシュカードによって今日の学習のまとめを させ,わかったこと,気づいたことを発表させる。 -5- 7 授業の考察 うになった割合が,最も高かった。 6年生を対象に「健康に関する調査」を授業前後 に行なった。その結果をもとに検証を行った。 以上のことから教材を効果的に活用したことによ り,仮説1について検証できたと思う。 (1) 研究仮説1の検証 (2) 研究仮説2の検証 表2 表4 たばこが体に与える影響(%) 項 目 せん毛が抜ける(タール) 授業前 0 授業後 58.3 肺が汚れる(タール) 0 52.9 血管が収縮する(ニコチン) 0 55.6 やめられなくなる(ニコチン) 0 72.2 将来の喫煙意志 項 目 中・高校生になっても たばこを吸わない 20歳になっても たばこは吸わない 授業前 授業後 77.2 % 91.6 % 76.1 % 87.4 % 将来における喫煙の意志についての調査の結果か 「体に与える影響と物質」について尋ねたところ, ら「中学生・高校生になっても吸わない 」「 20 歳に 授業前は,「せん毛が抜ける」 「肺が汚れる」「血管収 縮」など喫煙の短期影響については,何名かの子は なっても吸わない」は事前,事後に差が見られた。 子ども達の主体的な参加を促す活動を授業に取り 知っていたが,たばこの煙中の成分を答えた子は一 入れた結果,子ども達から「大人になっても絶対た 人もいなかった。授業後の調査では半数以上の子が ばこを吸わない」「誰かに誘われても絶対吸わない」 「たばこを吸う人を軽蔑するのではなく,励ましな 成分まで特定しており,たばこが健康に及ぼす影響 についてほぼ正しく理解できたと考える。(表2) がら禁煙をさせたい」などの意志決定に関する感想 が多く出た。 図3は,喫煙の習 喫煙が習慣になる 100 80 60 40 授業前 授業後 20 0 正しい 図3 まちがい わからない 喫煙の習慣性 また,ふだん発表しない女子が,ブレーンストー ミングで自分の考えを相手に伝える場面や,たばこ 慣性に関する調査で あ る 。「 喫 煙 が 習 慣 になる」と答えた子 に関する問題を相手の立場も尊重しながら解決する は, 事前65.6% から 場面が見られたのは良かった。 事後82,6%と増えて おり,新たに知識を さらに,子ども達が授業で教わったことを家族で 話題にし,周りの人々の禁煙を励ます行動がとれた 獲得している。この ことから,コミニュケーションスキルや望ましいラ ことから,ニコチンに イフスタイル形成を促すための行動変容があったと 考える。 よる依存性が理解でき たと思う。 Ⅳ 表3 現在及び将来の健康に大切なもの 項 目 授業前 授業後 十分な睡眠をとる 50.0% 68.7% たばこを吸わない 71.9% 97.4% お酒をのみすぎない 71.9% 78.5% おやつを食べすぎない 37.5% 60.5% 朝食を毎日食べる 56.3% 73.7% 運動の実施 28.1% 76.3% まとめと今後の課題 たばこの害について,子ども達が持っている知識 を行動に結びつけるために,セルフエスティームの 維持,コミニュケーションスキル,対処スキルを育 てるための支援を行った。その結果,子ども達がた くさんの選択肢の中から,自分に合う行動を選択す る場面が見られた。 対処スキルを身につけるということは,3時間と 認識面では,健康にとって重要だと思われる生活 いう限られた時間の中で,十分できなかったが,子 習慣項目に対して「大切 」「とても大切 」「あまり大 ども達が生涯を通じ,自らの健康を管理し,改善し 切でない」の3段階で子どもに評価させたところ, 表3で示すように全項目とも顕著に増加し,中でも ていくため,ライフスキルに基礎を置く健康教育に ついて,さらに研究を深めながら,望ましいライフ 「たばこを吸わない」ことが重要であると考えるよ スタイルを促す健康教育を実践していきたい。 <主な参考文献> 皆川興栄・川畑徹朗著 WHO・編(JKYB研究会訳) 『喫煙防止教育のすすめ』 『WHO編ライフスキル教育プログラム』 ぎょうせい 大修館書店 1993 1997 JKYB研究会編 『NICEⅡ』 大修館書店 1995 -6-
© Copyright 2024 ExpyDoc