file9 VISION 長崎大学病院 2015.7 長崎の医療の未来を描く ヒヤリハット事例を医療安全に活かす 医療安全への関心が高まる昨今、国が主導して医療事故調査制度が今秋から始まる。医療事故は現 場ではあってはならないが、事故に至らない段階で未然に事故を防ごうという取り組みがインシデン トレポート管理システムである。本院の取り組みを安全管理部の栗原慎太郎副部長に聞いた。 増えるインシデントレポート 職員向けに発信されるイントラネットには、イン して職員の関心を高めてきた工夫があった。レポー シデントレポートの件数が常時見られるよう掲載さ トの中には「優良」と安全管理部が評価したレポー れている。職員なら誰でも自由に閲覧できるシステ トも積極的に院内で公開している。平成 24 年に本 ムだ。昨年、閲覧数は月平均2万件を超えた。 院が受けた日本医療機能評価機構の審査では「アク インシデントとは医療事故に至らないが、事故が発 シデント・インシデント報告が積極的に行われ、事 生しうると考えられた状況のこと。 「ヒヤリとした」 「ハッ 故防止への風土が確立している。また、検討した改 とした」体験のことで、一般に「ヒヤリハット」といわ 善策の効果についての評価方法も検討されている」 れる事例である。指示出しでの行き違いや投薬の間 と高評価を受けている。 違いなど、患者へ提供する前に気づいて防いだ事例 職種別にみると、本院で最も多いのは看護師の報 や、患者に実施されたが大きな影響が及ばなかった事 告で全体の約8割を占める。これは本院に限らず全 例である。本院の医療安全分野を担当する安全管理 国的な傾向でもある。日本病院機能評価機構のデー 部、栗原慎太郎副部長は「重大な医療事故は通常、 タでも看護師は同じ割合を示す一方で、医師・歯科 初期段階からのわずかなミスが少しずつ重なり合っ 医師の報告率はわずか4%程度にとどまる。本院で て、大きな事故へとなっていく」と医療事故が起き は医師・歯科医師の報告数は昨年全体の9%にも る構図を説明する。小さなミスの段階で速やかに情 上った。しかし栗原副部長はまだまだ医師からの報 報を共有して重大な事故へと結びつけない環境づく 告は少ないと厳しい見方をする。 りや小さなミスのシステム改善こそがインシデント レポート管理の目的である。インシデントレポート は医療安全の面から、患者への影響レベルが低い事 案が多いほど安全対策が機能しているとされる。 本院のインシデントレポートは年々増加傾向に ある。1000 件を割っていた平成 18 年と比べると、 昨年は 3662 件に上った。このインシデントレポー ト管理が機能するために必要な報告数は1病床あた り4件以上という指標がある。現在、1病床あたり 4.25 件と目標値はクリアしている。こうした増加 の背景には職員が積極的に閲覧したり、レポートを 作成してアップしやすくしたりするシステムを開発 薬剤部のプレアボイドが医療安全に貢献 日本医療機能評価機構の年次報告書によると、イ ンシデントレポートとして挙がってくる事例の約4 割が薬剤にかかわるものである。過剰投与や取り違 えなどがこれに当たる。 日本病院薬剤師会では薬剤師が薬物療法に直接関 与し、薬学的患者ケアを実践して薬の副作用や相互 作用などの患者にとって不利益となる事例を回避、 軽減するプレアボイドという報告に注目している。 収集したプレアボイドを医療安全に役立てて、医療 の質を担保しようという動きである。本院では平 成 24 年から段階的に各病棟へ薬剤師を配置してき 毎年医療安全のテーマを決めてチラシなどで啓発 た。現在では全病棟に薬剤師を常駐させ、患者に投 告数が少ないと語った理由の一つを明かす。 与する前の段階で処方薬などに副作用や相互作用な チーム医療が推進される今だからこそ、インシデ どで疑わしい例があれば、薬剤師が医師らに助言す ントレポートを多くの職種で共有する意義は大き る体制を整えている。薬剤師の病棟配置を始めた平 い。 「今は専門の医師一人で患者さんを診る時代で 成 24 年度 1838 件だったプレアボイド件数は、全 はない。複数の職種や診療科を超えた医療が主流。 病棟に配置された平成 26 年度には 4059 件に上っ それぞれの職種が積極的に情報を出し合ったり、互 た。薬剤師の知識や経験が医療安全対策の面でも大 いに補ったりしていかなければならない」と栗原副 いに力を発揮している。 部長はいう。 「医療を安全に提供するために大切な 平成 24 年までは全体数の1〜3%だった薬剤師に のは、職員同士のノンテクニカル部分のコミュニ よるインシデントレポート数も平成 25 年以降5%を ケーションスキルだと思う。重大な事故を起こさな 超えるようになった。栗原副部長は「安全管理の面で いためにも研修医からベテランまで、また、すべて 薬剤師に大いに期待している」としながら「本来、 の職種がごく初期の段階でインシデントを報告でき 医師から挙がってきてもいいインシデントレポート る環境づくりが必要」と強調した。 だが、実際のところ反映されていない」と医師の報
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