配当における契約者世代間の公平性とその影響

配当における契約者世代間の公平性とその影響
小川 英治
(一橋大学助教授)
1.序
平成年4年6月17日に提出された保険審議会答申『新しい保険事業
の在り方』(以下、保険審議会答申)では、インカム配当原則の見直
しの中で、配当における契約者間の公平性に焦点が当てられている。
保険審議会答申は、第2章第3節(6)「インカム配当原則の見直し
及び含み益の取り扱いの検討」において、配当における契約者間の公
平性を確保するために、「公平な配当還元を行うための基本的考え方
として、契約者(群団)の保険契約期間にわたる貢献度合い(持分)
を把捉する、いわゆるアセットシェア方式を導入することが適当であ
1)
る」としているO
配当における契約者間の公平性には二つの意味があると考えられるO
第一に、同一時期において様々な保険商品が混在していることから、
保険商品別に配当を区分するという意味における公平性である。これ
は、区分経理及び持別勘定の導入・活用によって対処されると考えら
れているO第二に、同一保険商品においても加入時期に基づいて配当
を区分するという意味における公平性である。この意味での公平性を
目的としてアセットシェア方式の導入が示唆されている0
-169-
配当における契約者世代間の公平性とその影響
アセットシェア方式が後者の意味における配当の公平性を目的とし
ているのであれば、それは、保険契約者世代間で資産運用のリスク
(キャピタルゲインまたはロス)を共有することによって、すなわち、
キャピタルゲインを得た保険契約者世代からキャピタルロスを被った
保険契約者世代へ利得の転移を行なうことによって保険契約者の期待
効用を高めようとする現行の契約者世代間リスクシェアリング方式と
相反するものとなる。
そこで、本稿では、保険審議会答申において提唱されているアセッ
トシェア方式とは何か、そして、配当においてアセットシェア方式を
採用することによって保険契約者と生命保険会社にどのような影響を
もたらすかを理論的に分析するO
契約者世代間リスクシェアリング方式とアセットシェア方式を理論
的に比較することによって、危険回避的である保険契約者にとっては、
契約者世代間リスクシェアリング方式における期待効用の方がアセッ
トシェア方式の期待効用よりも大きいという結果が得られるO その理
由は、アセットシェア方式では、資産運用の結果が直接的に正味の保
険料(保険料マイナス配当)に反映されるので、危険回避的な保険契
約者にとってはその期待効用は、契約者世代間リスクシェアリング方
式の場合に比較して低くなるからであるO
注1)また、保険経理小委員会中間報告『保険経理の見直し及びディスクロージャーの
整備について』の中でも、生命保険会社のインカム配当見直しの方向として、「契
約者間の公平性の確保という観点から、運用収益に対する個々の契約者の貢献に応
じて還元するため、例えば、アセット・シェア方式等による公平なルールを設定す
ることが重要と考えられる」としている。
-170-
配当における契約者世代間の公平性とその影響
2.配当還元のアセットシェア方式
保険審議会答申の中でアセットシェア方式を「公平な配当還元を行
うための基本的考え方として、契約者(群団)の保険契約期間にわた
る貢献度合い(持分)を把捉する」こととして定義しているO また、
保険経理小委員会中間報告では、アセットシェア方式を「各契約者の
各年のキャッシュフロー(保険料一配当金-1件当たり解約返戻金・
保険金・事業費)に評価利率(総合利回り等)を乗じたものの累積額
を、契約者毎のアセットシェアとし、これを契約期間を通じ契約者に
還元する方式」と定義している。
アセットシェア方式をさらに詳細に定義すると、次のように定義で
きるO アセットシェア方式とは、「同じ種類、同じ契約年齢、同じ契
約応当日、同料率、同保険価格といったようにアセットシェアの計算
上同一とみなされる契約者群団の、正味持分資産をある時点tで群団
の全ての契約者に分配した場合に、個々の契約の持ち分であると評価
・、
される金額を、保険金額に対して表した」ものであるO
3)
アセットシェアの一般算式は次式の通り表されるO
R
(1)RVt二一
ら
但し、RVt:第t保険年度末の有効契約に対する単位当たりの
アセットシェア、Ft:第t保険年度末における有効契約すべて
の資産、/t:t年経過後の残存契約件数。
(1)式の中の有効契約すべての資産は次式の通り表されるO
(2)Ft=(Fト1+lトlP)(1+i)pd._.(1+i)1/LWトICVt
-lト1PEp(1+i)rl卜一PE;(1+i)-dトIEd(1+i)1/2
rWt_1EW-(lト1-dト1)Dt
-171-
配当における契約者世代間の公平性とその影響
但し、P:営業保険料、i:利子率、Wト1:第t保険年度中の
脱退件数(W_、=lt_lq㌣.)、qE.:第t保険年度の脱退率、CVt:
第t保険年度末における解約払戻金率、Ep:保険料比例の第t
保険年度の事業費率(保険年度始)、町:保険金比例の第t保
険年度の事業費率(保険年度始)、Ed:死亡保険金支払に要す
る保険金比例の事業費率、EW:解約払戻金を支払うのに要す
る保険金比例の事業費率、Dt:第t保険年度末における配当率
(保険年度末残存契約と保険年度末脱退契約に支払うものとし、
年度中央の死亡には支払わない)、dト1:第t保険年度中の死亡
件数(dtl=lト1qLl)、qLl:第t保険年度の死亡率O
(2)式の右辺の第1項は保険料収入を意味するO 右辺の第2項と第
6項は死亡保険金支払いを意味するO右辺の第3項と第7項は解約払
戻金を意味する。右辺の第4項と第5項が事業費を意味する。第8項
は配当金となる。
このアセットシェアの一般算式の中に資産運用の収益が含まれてい
ないように見えるが、資産運用の収益はこの一般算式の中に含まれる
べきであるO もしそれが含まれる場合には、この保険契約者の群団に
とっての資産RVtは、保険料と資産運用の収益から保険金支払いとそ
れに関連する費用及び事業費(と配当)を差し引いたものの蓄積とな
るO したがって、ある特定の保険契約者の群団の中での異時点間にわ
たる収支相等の原則が適用されるのであれば、資産運用の収益はすべ
て配当に反映されることとなる。
注2)渡部仁「アセットシェア計算における基礎数値の誤差の許容範囲について」『日
本アクチュアリー会会報』第45号、第2分冊、100ページ、1993年0
-172-
配当における契約者世代間の公平性とその影響
3)石井一真「アセットシェア」(日本アクチュアリー会『保険1(生命保険)』)
3.契約者世代間リスクシェアリング方式における期待効用
(1)モデルの設定
契約者世代間のリスクシェアリングをモデル化するために、二期問
にわたる保険契約を異なる契約締結時点で結んでいる二つの保険契約
者世代が重複し、これらの保険契約者世代が相互にリスクをシェアし
ていると想定するO
ここで対象とする保険契約は、二週間にわたる定期保険とするO簡
単化のために、この保険契約の支払い保険料は保険契約期間を通じて
一定であり、期待受取保険金額は保険契約期間を通じて一定であると
仮定するO保険契約単位当たりの保険料をPとし、保険契約単位当た
りの保険金額をIとするO
保険契約者は危険回避的であると仮定する。保険契約者は純所得の
期待効用を最大化するように、ズ単位の保険契約に加入する。保険契
約者の所得Yは保険契約金を通じて一定であると仮定する。そして、
保険契約者の死亡確率♂も時間を通じて一定であると仮定する。さら
に、保険契約者の死亡確率は保険契約者の時間選好率βよりも小さい
と仮定するO
4)
一方、生命保険会社は危険中立的であると仮定するO したがって、
生命保険会社は、期待利潤を最大化するように、ズ単位の保険契約を
提供する。生命保険会社の事業費をC(ズ)とするO事業費は保険契約
の提供する数の関数であり、通常の費用関数と同様に、限界費用逓増
を仮定するO
生命保険会社は保険契約者から集めた保険料を第1期に金融市場で
-173-
配当における契約者世代間の公平性とその影響
運用して、その成果がキャピタルゲインあるいはキャピタルロスとし
て第2期に実現されると想定するO キャピタルゲインは確率γでαを
得る。一方、キャピタルロスは確率1-γで一βを被るO簡単化のた
めに、キャピタルゲインとキャピタルロスの期待値がゼロであると仮
定するO すなわち、
γα-(1-γ)β=0
独占市場を想定したとしても議論の本質は変わらないので、保険市
場は完全競争市場を想定するO
以上のモデルの設定より、第t期から第t+2期までの期間におい
て、第t期に保険加入した保険契約者と第t+1期に保険加入した保
険契約者の支払保険料や受取保険金額をまとめると表1のようになるO
表1
保険加入時
第t期
所
得
第t期
Yt
第t + 1廟
第t期
第t+ 1期
Yt
Y 什1
P tズ
t
第t + 2期
Y t+1
P tズ
t
支
払
保
険
料
第t + 1期
第t期
P t十
1ズ
tl
lt↓
t
P 什げt十
1
Itズ
t
受
取
保
険
金
第 t 十1 期
第t期
死
亡
確
It十
1Jt+1
♂
率
第t + 1期
第t期
時
間
選
好
率
♂
β
キャピタルゲインある
+ α:確率γ
いはキャピタル ロス
事
業
♂
P
第t + 1期
ーβ:確率1- γ
第t期
It十
1二
rt十
1
♂
C(ズ
t)
+ α:確率γ
β:確率1- γ
C (Jt)
費
第 t 十1 期
C(ズ
什1)
ー174一
C(ズ
tt1)
配当における契約者世代間の公平性とその影響
(2)生命保険会社の行動
生命保険会社の利潤の期待効用は次式の通り表されるO
(4)EIlt=(Pt-3It)xt-C(xt)
十七[γ{(Pt一帖α)(トのズt-C((1-の刷
+(1-γ)げトづIt-β)(1-♂)ズt-C((1-のズt))]
『i[{(Pt+1-6It+1)xt+1-C(xt十1)}]
[γ〈Pt十1-6It+1+α)(1-6)xt+1-C((1-6)xt+1))
(1+β)2
+(1一γ)〈(Pt十1一♂It十1-β)(1-のズt+1
-C((1一のズt十1))]
右辺の第1行目はt期の期待利潤を表す0第2・3行目はt期に加
入した保険契約者よりt+1期に得られる期待利潤を表すO第4行目
はt+1期に加入した保険契約者よりt+1期に得られる期待利潤を
表すO第5∼7行目はt+1期に加入した保険契約者よりt十2期に
得られる期待利潤を表すO
(4)式より、危険中立的な生命保険会社の期待利潤最大化の一階の
条件は次式の通り得られるO
(5a)Pt=SIt+ct
(5b)Pt†1=SIt+l+C′t+、)
但し、C′:限界事業費用O
(5)式より、危険中立的な生命保険会社は、t期においてもt十1
期においても保険料が期待支払保険金額と限界事業費用との和に等し
くなるように、保険契約単位数を提供する0
-175-
配当における契約者世代間の公平性とその影響
(3)保険契約者の行動
第t期に加入する保険契約者の期待効用と第t+1期に加入する保
険契約者の期待効用はそれぞれ次式の通りに表されるO
(6a)EU.=(1-6)U(Y.-Rxt)+SU(Itx。-Rxt)
1+♂
十 〈(1-6)U(Yt-Ptxt)+SU(ItxtpPtxt)〉
1+β
(6b)EU。.1=(1T3)U(Yt十,-R十lXt+1)+SU(IトlXt.1-R十一Xt十.)
1-♂
+ff㌃〈(1.6)U(Yt†1.日+1Xt+1)+SU(I卜lXt+1rR+lXt+1))
(6a)式の右辺の第1項と第2項は第t期に加入した保険契約者にとっ
ての第t期の純所得の期待効用を表すO そして、第3項はその保険契
約者にとっての第t+1期の純所得の期待効用を表すO 一方、(6b)
式の右辺の第1項と第2項は第t十1期に加入した保険契約者にとっ
ての第t+1期の純所得の期待効用を表すO そして、第3項はその保
険契約者にとっての第t+2期の期待効用を表すO
(6)式より、第t期に加入する保険契約者と第t十1期に加入する
保険契約者のそれぞれの期待効用最大化の一階の条件が次式の通り得
られる。
6(It-Pt)U′(Itxt-Ptxt)
(7a)
=1
(1-のPU′(Y-Rズt)
6(It+1-Pt十l)U'(It+lXt+1-R十1Xt⊥1)
二1
(7b)
(1-6)PU′(Yt十1-日十1X卜1)
もし保険契約者の効用関数が対数関数(U(・)=log(・))であると仮
定すれば、契約者世代間リスクシェアリング方式の場合の需要保険契
約単位㌦は次式の通りに導出されるO
-176-
配当における契約者世代間の公平性とその影響
(8a)尋Yt
(8b)鑑=圭Y+1
(8)式より、各保険契約世代の需要保険契約単位数は、所得と死亡確
率に正比例して、保険料率に逆比例するO
そのとき、契約者世代間リスクシェアリング方式の場合における第
t期と第t十1期に加入する保険契約者の期待効用EUF、EU監1はそ
れぞれ次式となる。
(9a)EUF豊[(…)log{…)Y}+叫(吉-1)叫]
(9b)E帆1=霊[(1潮log{(1-の℃+1}
+叫(七1)軋)]
注4)実際には、生命保険会社は将来のキャピタルロスに備えて過去のキャピタルゲイ
ンを第86条準備金に蓄積している事実(小川英治「保険契約者への金融収益の還元
間壌」『文研論集J第101号、平成4年)を踏まえれば、生命保険会社は危険回避
的であると考えられる。しかし、ここでは、モデルを単純化するために生命保険会
社は危険中立的であると仮定する。このような仮定によって分析の結果は影響され
ないO
4.アセットシェア方式における期待効用
(1)モデルの設定
配当還元のアセットシェア方式をモデル化するために、二期間にわ
たる保険契約を異なる契約締結時点で結んでいる二つの保険契約者世
-177-
配当における契約者世代間の公平性とその影響
代が重複しているが、各保険契約者世代の独立勘定を作り、それらの
勘定の間で損益・を移転させないと想定する。すなわち、保険契約者世
代の間で資産運用のリスクをシェアせず、各保険契約者世代で独立に
資産運用のリスクに対応するO
ここで対象とする保険契約は、二期問にわたる定期保険とする。簡
単化のために、この保険契約の期待受取保険金額は保険契約期間を通
じて一定であると仮定するO一方、保険契約者世代間で資産運用のリ
スクをシェアせず、各保険契約者世代で独立に資産運用のリスクに対
応するために、支払保険料は、第一期には資産運用の結果を反映しな
いが、第二期には事後的に資産運用の結果(キャピタルゲインあるい
はキャピタルロス)を反映すると仮定する。保険契約単位当たりの保
険料をPとし、保険契約単位当たりの保険金額をIとする。
保険契約者と生命保険会社と保険市場の競争状態については、契約
者世代間リスクシェアリング方式の想定と同様に想定するO
保険契約者は危険回避的であると仮定するO保険契約者は純所得の
期待効用を最大化するように、ズ単位の保険契約に加入する。保険契
約者の所得Yは保険契約金を通じて一定であると仮定するO そして、
保険契約者の死亡確率♂も時間を通じて一定であると仮定する。さら
に、保険契約者の死亡確率は保険契約者の時間選好率βよりも小さい
と仮定する。
一方、生命保険会社は危険中立的であると仮定するO生命保険会社
は、期待利潤を最大化するように、ズ単位の保険契約を提供する。生
命保険会社の事業費をC(ズ)とするO 事業費は保険契約の提供する数
の関数であり、通常の費用関数と同様に、限界費用逓増を仮定するO
生命保険会社は保険契約者から集めた保険料を第1期に金融市場で
運用して、その成果がキャピタルゲインあるいはキャピタルロスとし
-178-
配当における契約者世代間の公平性とその影響
て第2期に実現されると想定するO キャピタルゲインは確率γでαを
得る。一方、キャピタルロスは確率1-γで-βを被るO簡単化のた
めに、キャピタルゲインとキャピタルロスの期待値がゼロであると仮
定する。すなわち、
γα-(1-γ)β=0
独占市場を想定したとしても、議論の本質は変わらないものの、保
険市場は完全競争市場を想定するO
以上のモデルの設定より、特に、各保険契約者世代の独立勘定を作
り、それらの勘定の間で損益を移転させないことから、一つの保険契
約者世代のみに注目すればよいことになる。第t期と第t+1期の期
間において、第t期に保険加入した保険契約者の支払保険料や受取保
険金額をまとめると表2のようになるO
表 2
第 t期
所 得
Y t
第 t 十 1期
Y 亡
支 払 保 険 料
P tJ と
P と
4 弟
受 取 保 険 金
Itズt
Itズt
率
♂
♂
好 率
β
ノ
治
具
死 時 菩 縞
亡 間 確 選 ㌢ 曹
+ α :確 率 γ
ーβ : 確 率 1 -γ
事 業 費
C (ズt)
C (ズt)
(2)生命保険会社の行動
t期の生命保険会社の期待利潤は次式の通り表されるO
一179
配当における契約者世代間の公平性とその影響
(10a)Ilt=(Pt-3It)xt-C(xt)
t+1期の生命保険会社の期待利潤は、キャピタルゲインを得る場
合とキャピタルロスを被る場合とで異なるO γの確率でキャピタルゲ
インを得て、その時の期待利潤は次式の通り表されるO
(10b)Ilt+1=(Pt十1-6It+α)xt-C〈(1-6)xt)
一方、1-γの確率でキャピタルロスを被り、その時の期待利潤は次
式の通り表される。
(10C)Ilt十1=(Pt十1T3It∼β)xt-C〈(1-6)xt)
これらの期待利潤のそれぞれについて、生命保険会社の期待利潤最
大化の一階の条件は次式の通り表されるO
(11a)Pt=SIt+C′
(11b)Pt+1,q=JIt+C′一α
(11C)Pt⊥1,β=SIt+C′+β
(11)式より、危険中立的な生命保険会社は、t期においては、保険料
が期待支払保険金額と限界事業費用との和に等しくなるように、保険
契約単位数を提供するO そして、t+1期において、キャピタルゲイ
ンが得られる場合には、危険中立的な生命保険会社は保険料が期待支
払保険金額と限界事業費用との和からキャピタルゲインを差し引いた
ものに等しくなるように、保険契約単位数を提供する。一方、キャピ
タルロスを被る場合には、危険中立的な生命保険会社は保険料が期待
支払保険金額と限界事業費用との和にキャピタルロスを加えたものに
等しくなるように、保険契約単位数を提供する0
-180-
配当における契約者世代間の公平性とその影響
(3)保険契約者の行動
保険契約者の純所得の期待効用は次式で表されるO
(12)EUt=(1-6)U(YtpPtxt)+SU(Itxt-Ptxt)
七㌢[γ{(ト8)U(Yt-P卜l▼a掴U(Itxt-Pt十1・aXt)}
+(1-γ)〈(1-6)U(Yt-Pl+1,PXt)+SU(ItxtrPt.1,PXt))]
(12)式の右辺の第1行目は第t期に加入した保険契約者にとっての第
t期の純所得の期待効用を表すO そして、第2・3行目はその保険契
約者にとっての第t+1期の純所得の期待効用を表す。
したがって、保険契約者の期待効用最大化の条件が次式の通り導出
されろO
(13)(1-のPtU′(Yt-Ptズt)+
(1-の2
1+β
(γPt十1.aU′(Yt-Pt.,,。Xt)
+(卜γ)Pt十1.PU′(Y1-Pt+1"t))
=6(It-Pt)U′(Itxt-Ptxt)
♂(1一の
1+β
(γ(It-Pt+la)U′(Itxt-Pt+,,。Xt)
十(トγ)(ItrPt+].P)U,(Itxt-Pt十1,PXt)〉
もし保険契約者の効用関数を対数関数(U(・)=log(・))とすれば、
アセットシェア方式の場合の保険契約者による需要保険契約単位が
は、次式を満たす値として求められるO
Pt 1-6 PtYt-Pt.1,uPt+1.βが
(14)
+
Y1-Ptxf`1十P(YRP卜1.qXF)(Yt-Pt+1,βが)
♂ β-♂1
1-♂1+β が
一181一
配当における契約者世代間の公平性とその影響
したがって、アセットシェア方式の場合の保険契約者による需要保険
契約単位京は、契約者世代間リスクシェアリング方式の場合の保険
契約者による需要保険契約単位詔より小さい(付録Aを参照せよ)O
(15)∬㌣く虐告Yt
このように、契約者世代間リスクシェアリング方式の場合に比較し
て、アセットシェア方式の場合における保険契約者の需要保険契約単
位が減少する理由は、契約者世代間リスクシェアリング方式の場合に
比較して、アセットシェア方式の場合には資産運用の結果が直接的に
正味の保険料(保険料マイナス配当)に反映され、純所得の変動を嫌
う危険回避的な保険契約者はアセットシェア方式による保険契約を相
対的に敬遠するからであるO
その時、アセットシェア方式の場合の保険契約者の期待効用EUP
は次式の通り表されるO
(16)EUF=(1-6)log(Yt-Ptが)+Slog(Itxt-P詔)
+Elγ{(1-6)log(Yt-Pt+1・洲Jlog(Itxt-Pt+1誹)}
+(1-γ)〈(1-6)log(Yt-PtLl.βXF+Slog(Itx.TPt十1.βXF))]
(9a)式と(16)式を比較すると、契約者世代間リスクシェアリング方式
の場合の保険契約者の期待効用とアセットシェア方式の場合の保険契
約者の期待効用との間の大小関係が次式の通りとなる(付録Bを参照
せよ)O
(17)EUさくEUF
ー182-
配当における契約者世代間の公平性とその影響
このように、危険回避的である保険契約者にとっては、契約者世代
間リスクシェアリング方式における期待効用の方がアセットシェア方
式における期待効用よりも大きい。その理由は、保険契約者の需要保
険契約単位が減少する理由と同様に、アセットシェア方式では、資産
運用の結果が直接的に正味の保険料(保険料マイナス配当)に反映さ
れるので、危険回避的な保険契約者にとってはその期待効用は、契約
者世代間リスクシェアリング方式の場合に比較して低くなるO
5.結論
本稿は、配当における保険契約者間の公平性、特に、ここでは保険
契約者世代間の公平性を確保するためのアセットシェア方式が保険契
約者の保険需要額と期待効用に及ぼす影響について分析した。配当還
元においてアセットシェア方式を採用すると、従来行ってきた資産運
用の保険契約者世代間のリスクシェアリングができなくなるために、
資産運用の収益のリスクをまともに受けることになるO そして、保険
契約者が危険回避的であれば、そのような保険契約に対する需要額を
減らし、そして期待効用を減少させることとなるO
現在、配当還元におけるアセットシェア方式のメリット、すなわち、
資産運用の利益をその利益を生み出した原資となった保険契約者に直
接に還元できる点が強調され、それが採用される方向にあるO しかし
ながら、資産運用には利益とともに損失があるという不確実性を伴う。
アセットシェア方式には資産運用リスクを直接に保険契約者に移転す
る可能性があることを生命保険会社も保険契約者も認識しておく必要
があるO
一183
配当における契約者世代間の公平性とその影響
【付録A】
(13)式より、
Pt
l一♂
十
PtYrPt+1,aPt.1,PXt
Yt-Ptxt'1+p (Yt-Pt.1,。Xt)(YtTPt叶βXt)
♂ β-♂1
1-♂1+β ズー
左辺の第二項の後半の分数について、
PtYt-Pt+1,qPt.1,βXt
P【
(Y-Pt十1,がズー)(Y-P軋βズー) ℃-Ptェt
より、
p-♂ Pt ♂ p-♂1
く
1+β Y-Pt二れ 1-♂1+β ズt
すなわち、
Pt
J
<
Yt-Ptズt、1-♂ズt
故に、(15)式が導出されるO
【付録B】
(16)式より
EUP=(1-6)log(YrPtxF)+Slog(Itxt-Ptが)
・霊[γ{1一のlog(Yt-Pt+1・誹+Slog(Itxt
+(1-γ)〈1-♂)log(YrP。+1,βが)
+610g(Itxt-Pt+1.βが)〉]
-184-
Pt+1.〃粛)〉
配当における契約者世代間の公平性とその影響
<(1-6)log(Yt-P粛)十Slog(I詔LP詔)
・豊{(上6)log(Yt-Ptか810g(Itx仁Pt謝
霊{(1-6)log(Yt-Pt拙Slog(ItxトPt細
く霊{(卜抽og(Yt-P誹十拍g(It㌦堵勅
霊[(卜抽og{(上のYt}+叫(七一1)♂Yt〉]
【参考文献】
保険経理小委員会中間報告『保険経理の見直し及びディスクロージャー
の整備について』(平成3年4月26日)
保険審議会答申『新しい保険事業の在り方』(平成4年6月17日)
石井一真「アセットシェア」(日本アクチュアリー会『保険1(生命
保険)』)
小川英治「保険契約者への金融収益の還元問題」『文研論集』第101
号、平成4年O
渡辺 仁「アセットシェア計算における基礎数値の誤差の許容範囲に
ついて」『日本アクチュアリー会会報』第45号、第2分冊、
平成5年O
*統計研究会における野呂順一氏(日本生命保険相互会社調査部)か
らのレクチェアーおよびディスカッションが大変参考になったこと
を、記して感謝するO
185