不確実性(2) 保険と資産選択

「初級ミクロ経済学 3」(宮澤和俊)
第 21 講
2014/12/26
不確実性 (2) 保険と資産選択
2 つの状態 (state) があり,確率 α で状態 1 が,確率 (1 − α) で状態 2 が実現
する.状態 1 における所得を x1 ,状態 2 における所得を x2 とし,所得 x か
ら得られる効用を U (x) とすると,期待効用は次式で表される.
EU = αU (x1 ) + (1 − α)U (x2 )
(1)
1. 計算による理解
例題 1 (損害保険)
資産 W を持つ個人がいる.災害が発生する確率を α,発生しない確率を
(1 − α) とする.災害が発生すると資産はゼロ.発生しなければ資産は W のま
ま.ただし,次のような損害保険を利用できるとする.災害が発生したら保険
金 D をもらえる.災害が発生しなかったときは保険料 pD を払う (0 < p < 1).
個人の効用関数が U (x) = log x のとき,この個人にとっての最適な保険金 D
を求めよ.
(解答)各状態における資産は,
(x1 , x2 ) = (0 + D, W − pD)
(1) 式に代入すると,期待効用は D の関数となる.
EU = α log D + (1 − α) log(W − pD)
D で微分すると,
α
(1 − α)p
−
D W − pD
となる1 .これより,最適な保険金は,
α
D∗ = W
p
EU 0 =
(2)
である(問題 1 (2) 式を導出せよ).
保険会社の期待収益は,π = (1 − α)pD + α(−D) である.保険市場が完全
競争的であるとすると,保険料率は,
p∗ =
α
1−α
(3)
となる.(2), (3) 式より,保険があるときの各状況における資産は,
x∗1 = x∗2 = (1 − α)W
(4)
となる(問題 2 (4) 式を導出せよ).
(保険数理的に)公平な保険ならば,個
人はどちらの状態でも同じ資産になるように保険に加入する.完全加入とい
う.問題もあるが対策もある2 .
= x1 , (log f (x))0 = f 0 (x)/f (x)
2 モラルハザードと逆選択を参照せよ.
1 (log x)0
を用いた.
1
例題 2 (資産選択(ポートフォリオ))
100 万円の資産の運用を考える.安全資産(貨幣)と危険資産がある.安全
資産の金利はゼロ.危険資産は,確率 α で投資額の 2 倍になり,確率 (1 − α)
で投資額の半分になるとする.個人の効用関数が U (x) = log x のとき,この
個人にとっての最適な資産選択を求めよ.
(解答)安全資産に m,危険資産に (100 − m) だけ投資するとする.各状態
における資産は,
x1 = m + 2(100 − m) = 200 − m
x2 = m + 0.5(100 − m) = 50 + 0.5m
(1) 式に代入すると,期待効用は m の関数となる.
EU = α log(200 − m) + (1 − α) log(50 + 0.5m)
期待効用が最大となるのは,
m∗ = 200 − 300α
(5)
のとき(問題 3 (5) 式を導出せよ).したがって,安全資産に (200 − 300α)
万円,危険資産に (300α − 100) 万円投資すればよい3 .
2. 図による理解(図 8.5, 図 8.6)
例題 1 では,max αU (x1 ) + (1 − α)U (x2 ) subject to
x2 = W − px1
という問題を解いている.最適化の条件は,
αU 0 (x1 )
=p
(1 − α)U 0 (x2 )
(6)
である.図 8.5 の点 E が均衡.特に (3) 式が成り立つとき,(6) 式より,U 0 (x1 ) =
U 0 (x2 ).これより,x1 = x2 を得る.完全加入は効用関数に依存しない.
例題 2 では,max αU (x1 ) + (1 − α)U (x2 ) subject to
1
x2 = 150 − x1
2
(100 ≤ x1 ≤ 200)
(7)
という問題を解いている(問題 4 (7) 式を導出せよ).
最適化の条件は,(6) 式で p =
1
2
としたもの.図 8.6 の点 E が均衡.特
に U (x) = log x のとき,(6) 式より,2αx2 = (1 − α)x1 .これと (7) 式より,
(x1 , x2 ) = (300α, 150 − 150α).これより m = 200 − 3α を得る.
講義資料
http://www1.doshisha.ac.jp/˜kmiyazaw/
3 借入できないとすると,0
≤ m ≤ 100.したがって, 13 ≤ α ≤
2
2
3
でなければならない.