授与機関名 順天堂大学 学位記番号 乙第 2290 号 Direct endoscopic probing for congenital lacrimal duct obstruction (先天性涙道閉塞症に対する涙道内視鏡を使った治療) 佐々木 秀憲(ささき ひでのり) 博士(医学) 論文審査結果の要旨 小児の涙道閉塞症は内視鏡を使わない盲目的プロービングが一般的である. しかし,盲目 的プロービングは涙道の閉塞部位を正確に穿破できない可能性がある. 我々は涙道内視鏡を使って,涙道内を観察しながらプロービングを行う治療方法の有効性を 検討した. また,その涙道内を観察し,先天性涙道閉塞の涙道内について検討した. 年齢 14 ヶ月から 74 ヶ月の小児(平均年齢 40.7 ヶ月)の 10 症例 13 眼(両眼性 3 症例)の先天 性涙道閉塞症を対象とした. プロービングは全身麻酔下にて涙道内視鏡システム(ファイバ ーテック社製 FT-203)を使用し,閉塞部位を確認,穿破,鼻腔内へ到達したことを確認した. 術後に眼脂や流涙が消失したことを手術の成功と定義した. 閉塞部位を穿破できなかった 1 眼を除く 12 眼で内視鏡による治療は成功し,流涙症状が消失 した. また,1眼については涙道内の粘膜の肥厚による内腔の狭窄で,明らかな閉塞は確認 できな かっ た. 涙道 内は 強い 粘膜 の肥厚 や慢 性炎症 など 様々 な閉塞 状態 が観 察さ れた . 様々な閉塞状態を観察しながらのプロービングはより確実な治療ができると考えられた. 術後6ヶ月以上経過したところで患者の親から電話での聞き取り調査を行い,92.3%で流涙 症状が消失したが,25.8%で時々眼脂の出現があるとの回答を得た. 本論文は、先天性涙道閉塞症の涙道を涙道内視鏡を使って治療した数少ない論文のひ とつである。 症例数はまだ少ないが治療の有効性や安全性も高く、評価に値する。 全身麻酔下で行わなければならないことや、高価な内視鏡設備を有しなければならない ことなど一般的な治療方法となるためには課題もある。 しかし、手の感覚だけで行っ てきた盲目的プロービングが一般的であることを考えると、涙道内の観察は非常に珍し く、様々な閉塞部位や閉塞状態があることを報告したことは大変重要であり、今後の先 天性涙道閉塞の治療において重要な知見であると考える。 よって、本論文は博士(医学)の学位を授与するに値するものと判定した。
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