治療内視鏡に関するリスクマネージメント

資 料
治療内視鏡に関するリスクマネージメント
日本消化器内視鏡学会リスクマネージメント委員会
小越和栄,金子榮藏,多田正大,峯
芳野純治,矢作直久
徹哉,
治療内視鏡/偶発症/適応/禁忌/前準備/前処置/術後の管理
はじめに
2004年 12月に作成された「消化器内視鏡リス
クマネージメント」は消化器内視鏡を行う際に,
われわれが行う内視鏡全般にわたる事項を記載し
た.本稿ではさらに治療内視鏡を主として記載す
る.
の偶発症防止のための指針」 および「大腸内視鏡
検査の偶発症防止のための指針」 に記載されて
いるために本稿では記載していない.
Ⅰ
治療内視鏡の適応と禁忌
上部消化管内視鏡検査および治療の適応に関す
る事項は「消化器内視鏡リスクマネージメント」
「消化器内視鏡リスクマネージメント」 で述べ
に記載されているようにその施設での内視鏡環境
たように,本学会で作成しているリスクマネージ
の充足度,医療スタッフの技術習得度によって決
メントおよびガイドラインは,被検者に満足して
定される.またその適応も機器の進歩および技術
もらえるような安全でかつ質の高い内視鏡診断お
の進歩により大きく変わりうる.従って,治療内
よび治療を提供することを目的としたものであ
視鏡の適応決定に際しては,時代の流れによって
る.それに付随する詳細な手技および説明につい
慎重に決定することになる.
ては,内視鏡学会卒後教育委員会で発行している
その技術的な習得度は,消化器内視鏡教育法で
「消化器内視鏡ガイドライン」 を参照していただ
定めるカリキュラム を基準として判定する.十
きたい.
本稿では
「消化器内視鏡リスクマネージメント」
な技術の習得を行わずに治療内視鏡を行うこと
は厳に避けなければいけない.
で述べられている事項は出来るだけ省略してあ
新しい治療内視鏡の適応拡大または,新しい技
り,全体としては不完全な記載と受け取られる部
術開発で行う内視鏡治療に関しては,ヘルシンキ
も見られるが,あくまでも両者を一体として運
宣言を尊重し,関連の倫理委員会での承認の下で
用してほしい.また,逆に「消化器内視鏡リスク
マネージメント」と重複する項目は,治療内視鏡
に特に頻繁に用いられ,
注意を要する事柄である.
また治療内視鏡のうち,膵・胆道および大腸に
特有なものは,すでに本学会で作製された
「ERCP
行う必要がある.
Ⅱ
前 準 備
治療内視鏡前に把握すべき一般的事項としては
①呼吸・循環状態,②出血・凝固能に関する情報,
③薬剤アレルギーや禁忌薬などの情報などであ
Gastroenterol Endosc 2005;47:2681-90.
Kazuei OGOSHI
The Risk M anagement for Endoscopic Therapy.
日本消化器内視鏡学会リスクマネージメント委員会
別刷請求先:〒101-0052 東京都千代田区神田小川町3-22
タイメイビル2 F
日本消化器内視鏡学会事務局
る.
治療内視鏡においても通常の内視鏡検査と基本
的な変りはない.但し,治療内視鏡においては,
通常の内視鏡検査と異なって,出血に対する前準
備のように,見落とすことで重大な結果を引き起
こす可能性の高い項目がある.これらについては
さらに詳細な注意が必要である.
特に細心な注意が必要な項目は呼吸・循環状態
にかつ的確に施行するために,前処置は十 に注
意を払い, 用する薬剤の薬理作用を理解し,副
であり,高血圧や重篤な心疾患の有無は十 に確
作用を起こさずに十
認し,対策を行う.
る.
次いで重要な事項は,出血傾向の有無である.
な効果を上げる必要があ
1.消泡薬
凝固能に影響を与える薬剤(抗血小板薬,抗凝固
現在 用されている消泡薬はジメチコンのシロ
薬など)を服用している場合には,これらの服用
ップ剤であり,上部消化管内の粘液による小泡形
薬を必要に応じ一定期間休薬する.他に出血傾向
成の除去である.本薬剤はそのほとんどは吸収さ
を増強する疾患は肝障害であり,なかでもビタミ
れずに糞 中にそのまま排泄される.したがって
ン K を阻害する抗生物質を服用している肝障害
比較的安全な薬剤であるが,まれな副作用として
患者も注意を要する.
は軟 や下痢および心窩部不快感などがある.
出血傾向の有無をチェックすることは,内視鏡
2.咽喉麻酔
治療の鉄則となる.出血傾向有無の検査は種々の
咽喉麻酔に 用するリドカインはビスカス製剤
方法があるが,全体を把握することは容易ではな
またはスプレーとして用いられることが多い.リ
い.内視鏡治療時には通常血小板数の測定と,フ
ドカインには中毒と稀ではあるがアレルギー反
ィブリノーゲンや第Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹ凝固因子を測
応,アナフィラキシー・ショックを起こすことが
定できるプロトロンビン時間さらにビタミン K
あるため,その作用機序と発生時の対応を えて
依存性凝固因子に感度の良いトロンボテストなど
おかねばならない.
が術前の検査として多く用いられている.
リドカインに起因する偶発症は薬剤そのものに
抗血栓剤服用中の症例に治療内視鏡を行う場合
起因する中毒と,添加物(防腐剤として用いられ
は,それらの休薬期間をどうするか,また抗凝固
るパラオキシン安息香酸メチル,血管収縮薬であ
薬の開始を何時から行えばよいか大きな問題とな
るエピネフリンなど)に因るショックおよびアレ
る.これらは,抗血栓療法を行っている原疾患,
ルギーがある .
内視鏡治療の手技,服用している抗凝固剤の種類
によってそれぞれ 慮する必要がある .
米国消化器内視鏡学会(ASGE)のガイドライン
検査前に,過去の前処置時のアレルギー反応の
有無の問診が重要であるが,問診のみではアナフ
ィラキシーは防ぎきれないことも 慮する必要が
では INR(Intenational Normalized Index)―
プロトロンビン活性比の試薬による補正値―を目
ある.
安に,原疾患の血栓形成の危険度および内視鏡手
薬物の血中濃度にある程度相関するため,副作用
技による出血の危険度によりワルファリンの中止
を軽減させるためにも過剰投与にならないよう投
期間や再開時期を決めている .また,アスピリン
与法を工夫することも重要である.
などの抗血小板薬投与は EST には影響がないと
の報告もあるが
リドカインの中毒やアレルギー等は吸収された
リドカインは口腔粘膜,気道粘膜から吸収され
,確定したエビデンスとは言い
やすい.しかし,食道・胃粘膜からの吸収は緩徐
難い.また,凝固能および原疾患へのリスクファ
であり ,さらに,胃から吸収されたリドカインは
クターは人種差もあり,日本人に ASGE のガイド
肝で急速に 解され血中濃度は上がりにくいとさ
ラインをそのまま適応することは困難である.そ
れている.胃内に投与されたキシロカインビスカ
のため,本委員会では抗血栓薬 用中に行う内視
ス (麻酔作用に比して血中への吸収が少ないよ
鏡治療に関する指針を別途作成することにした.
うな製剤)の3匙以内の服用では中毒量には達し
Ⅲ
前処置,前投薬
ないと言われている .
キシロカインスプレー を 用する場合は,吸
前処置の目的は消化管内の 泌物や食物を除去
収性の高い液状の剤型であり,さらに気道粘膜か
して,観察時の視野を確保し,円滑に治療を遂行
らの吸収も高いためにアレルギーや中毒の危険性
するために行う.
がより高い事を承知すべきである.また,4% キ
治療内視鏡では被験者の苦痛も多く,より安全
シロカイン液によるシッョク事故の判例でも医療
側にキシロカインビスカス の
用の必要性と
用法の注意をする必要があるとされている.した
がって,その 用には細心な注意を要する.
アナフィラキシー・ショックや急速なアレルギ
ーは,ともにリドカイン投与直後に起き気管支痙
低下することもあり,その薬理作用を十 に把握
して 用する必要がある.
向精神薬の不必要な投与,過剰な投与は避けな
ければならない.薬剤によっては麻酔科医の管理
が義務づけられているものもある.
攣や血圧低下および全身痙攣などを起こす.中毒
また投与時にはシメチジンやマクロライド系抗
は意識障害や全身痙攣など投与後やや遅れて発生
生物質との相互作用にも注意が必要である.
また,
するが,ショックと区別できない場合もある.
抗痙攣作用を目的として塩酸ペヂヂンが前処置と
常にこれらの副作用に対応出来る体制を整える
必要があり,救急蘇生セット,副腎皮質ホルモン
製剤,昇圧薬などを常備するとともに,緊急時の
して 用される場合もある.
Ⅳ
術中の注意
マニュアルを作成し,従事者のトレーニングを行
1)モニタリング
う.
治療内視鏡では呼吸循環状態が不安定な患者に
3.副
感神経遮断薬
対して行うことや,長い治療時間を要することが
副 感神経遮断薬は,消化管の蠕動を抑制する
ある.このため,術中における呼吸循環動態モニ
ために 用される.本薬は狭心症の発作,心悸亢
ターリングは不可欠である.その方法にはパルス
進,不整脈,調節障害または頭痛や眠気などを引
オキシメターによる血中酸素飽和度,脈拍,血圧,
き起こす可能性がある.さらに,緑内障や前立腺
心電図,モニターリング装置がある .
肥大の悪化をきたす副作用があるので,投薬前に
2)チームによる対処
問診で確認しておく.治療内視鏡で遮断薬の量が
内視鏡治療では複雑な操作が求められること,
多く 用される場合および高齢者に 用する場合
偶発症が発生する場合があること,あるいは治療
には特に注意が必要であり,グルカゴン 用も
中に呼吸循環動態が変化する場合も想定される.
慮する.
したがって,医師2名以上に介助者を含めたチー
4.鎮静薬
治療内視鏡では患者への侵襲も比較的大きく,
ムで行うことが望ましい.
3)ショックに対する対策
内視鏡治療に対しての緊張や不安感を取り除くこ
内視鏡操作中の呼吸循環状態の悪化に備え,救
との必要性が高い.このような不安感と不必要な
急蘇生具,輸液,必要な薬剤などを準備し,必要
筋緊張により反射の増強を抑制するために即効性
に応じて対処する.
であるベンゾジアゼピン製剤の注射薬(ジアゼパ
ム,ミダゾラム)が多く 用されている.ベンゾ
Ⅴ
術後の管理と処置
ジアゼピン製剤は中枢神経系の経路を抑制する
術後の管理及び注意事項等は治療内視鏡の種類
GABA に働き,抗不安,抗緊張作用を持つ.効果
出現の程度は個人差があるため,投与には反応を
によって多様である.したがって個々の治療内視
みながらゆっくり注射することが望ましい.これ
後の合併症等に対応する事が重要である.また,
らの薬剤の副作用はふらつき,言語障害,眠気,
偶発症に対する救急薬品を備えたトレー等の常備
呼吸抑制等が一般的であるが,時には逆に興奮し
およびそれに対してもマニュアル作成が重要であ
たり, 忘症,血圧低下,呑根沈下などを起こす
る.
場合があり注意を要する .これらの発生を常に
慮しておき,その対応が速やかになされるよう
に準備しなければならない.
鏡に記載されている事柄に十 な留意をして,術
Ⅵ
消化管止血術
消化管出血に対して内視鏡を用いた止血術は,
鎮静薬を 用した場合には,十 に覚醒するま
薬物療法単独に比して止血効果に優れていること
で術後管理を徹底して行わなければならない.ベ
が多い.また,外科的治療に比して明らかに侵襲
ンゾジアゼピン系薬剤に対しては必要に応じ拮抗
が少ないため,第一選択として行われるべき治療
薬が 用されるが,一旦覚醒した後に再度意識が
法である.
1.適応と禁忌
2)病歴の聴取
1)適応
排出された血液の色調,出血量,持続期間,随
一般的適応として,上部消化管出血を生じる胃
伴症状,基礎疾患,既往歴,ステロイドや NSAIDs
潰瘍,十二指腸潰瘍,M alloryWeiss 症候群,胃
などの服薬状況などを問診する.これにより上
癌,食道潰瘍,粘膜下潰瘍などがある.下部消化
部・下部消化管出血の鑑別,原因疾患,出血の状
管出血を生じる疾患には大腸癌,大腸ポリープ,
況・程度を推測することができる.患者から聴取
大腸憩室,動静脈奇形などがある.胃潰瘍からの
できない場合には家族などより聴取する.
出血に対する内視鏡治療の適応は「EBM に基づ
く胃潰瘍診療ガイドライン」 では,Forrest の
類に従い,噴出性の出血
(Ⅰa)
,湧出性の出血
(Ⅰ
,露出血管を有する例(Ⅱa)とされる.なお,
b)
食道・胃静脈瘤の破綻による出血に対する止血に
ついては別項にて述べる.
3)インフォームド・コンセント
出血に対する内視鏡検査及び治療は,一般状態
が悪い上にさらに侵襲を伴う可能性があるため,
インフォームド・コンセントを十 に行う必要が
ある.
その内容は危険な患者の病態,具体的な内視鏡
2)禁忌
止血の方法,止血法を推奨する理由,期待される
内視鏡止血を行う前に,患者の循環状態が安定
効果,危険性,代替となる他の治療法,治療を受
し内視鏡検査に耐えうるかどうかを確認する必要
けなかった場合の予後などである.さらに,止血
がある.全身状態が不良な場合には全身管理によ
が出来なかった場合やそのための緊急手術,最終
り状態を改善させた後に内視鏡検査を行う.
的に予測される予後などを説明する.
出血自体が呼吸・循環動態を不安定にしている
4)前処置
原因である場合には,止血により全身状態の回復
上部消化管では通常の上部消化管検査と同様
が期待されるため,内視鏡止血を優先して行うこ
で,特に変える必要はない.一方,下部消化管に
とがある.
対する検査では緊急度と患者の状態により高圧浣
消化管出血時には,呼吸循環動態が不安定で内
腸,グリセリン浣腸,腸管洗浄液による洗腸のみ
視鏡時に急変する危険性がある.したがって,出
で行うこともある.遮断剤の 用については,蠕
血時の内視鏡検査時にはモニタリングおよび血管
動運動は止血操作を行う上で好ましくないため,
確保は必須であり,必要に応じ厳重な全身管理下
呼吸・循環状態に著しい悪影響を及ぼさない限り
にて内視鏡操作を行う.
十 に 用した方が良い.
2.術前準備・前処置
3.止血法
出血時は全身状態が悪化している場合が多く,
内視鏡止血法は①クリップ法,②局注法(純エ
内視鏡検査自体が患者に対し重大な負荷となる場
タノール,高張 Na-エピネフリン液など),③凝固
合もある.そのために,内視鏡の前準備は下記の
法(ヒータープローブ,高周波凝固,レーザー凝
点に対し特に注意して行う必要がある.
固,マイクロ波凝固,アルゴンプラズマ凝固)
,④
1)全身状態の把握
薬剤散布法などがある .出血の程度によりこれ
初めに,バイタルサインの確認を行う.すなわ
らの長所と短所を熟知した上で選択するべきであ
ち,意識レベル,呼吸状態,脈拍・血圧,皮膚所
る.また,これらの方法を選択する上で,術者は
見などの循環状態を調べる.さらに,赤血球数,
その方法と手技を習熟しておく必要がある.
ヘモグロビン値,ヘマトクリット値により出血の
4.術後の注意
程度を調べる.この他,電解質・腎機能・肝機能・
全身状態を継続して管理する.術後は原則とし
凝固系の血液検査,心電図の測定,胸腹部単純写
て絶飲・絶食とするが,場合によっては絶食のみ
真の撮影などを行うが,検査の緊急性や検査に係
とする.
わる時間的余裕などを判断して行う.緊急輸血の
術後,病巣の状態により絶食が再出血に影響を
可能性がある場合には血液型(ABO 型,Rh 型)
を調べる.
与えると懸念される間は,上部消化管では絶飲・
絶食とする.下部消化管では食事のみを禁じる.
必要に応じ止血剤または上部消化管出血に対し
ての酸 泌抑制薬を投与する.また,止血後は再
が,特定できない場合は関係者に問診をする.患
出血に対しての十 な監視が必要である.
者の呼吸音の異常,腹痛,圧痛の有無等をチェッ
止血操作後,凝血が酸により融解され再出血の
クし,必要があれば単純 X 線検査を行い,異物の
危惧のある場合は酸
泌抑制剤の静脈内または経
特定と部位を同定することが重要である.とくに
口投与が有効である
.内視鏡止血後はその原
鋭利な異物では消化管穿孔または抜去時の大量出
因となった疾患に対する治療を行うとともに,再
血(とくに食道への魚骨刺入時)の危険性もあるの
出血に対する十 な監視が必要である.
で,異物の部位の確認をするために必要な X 線検
5.止血無効例
査を行うことが望ましい(頸部,胸部,腹部,時
内視鏡止血ができない例,止血しても再出血を
には CT)
.
繰り返す例,大量の輸血を必要とする例に対して
は IVR(interventional radiology)による止血,
外科手術への移行を
慮する.
2.異物除去の適応と治療法の選択
適応と治療法の選択には患者の年齢,臨床症状,
全身状態と異物の種類,形状および存在部位を把
また,高齢者や重篤な基礎疾患を有する例には
握した上で緊急治療 が必要かまたは待機とする
早期の判断が必要である.胃潰瘍からの出血で外
のかを判断する.異物がそのままで自然排泄され
科手術を
慮する例は,
「EBM に基づく胃潰瘍診
る可能性が高い場合は経過観察を行う場合がある
療ガイドライン」 によると,3回の内視鏡止血処
が,容易に内視鏡摘出が出来る場合では,経過観
置によっても止血出来ない場合,4単位以上の輸
察の利点と比較して適応を決定する.また,摘出
血を行っても循環動態が安定しない場合,全輸血
方法は安全性および異物の性状を 慮して選択す
量が 2000ml を超えても止血出来ない場合,ショ
る.
ックを伴う再出血などとしている.IVR として
は,出血している血管に対する血管造影下での動
脈塞栓術が行われている.
3.偶発症対策
異物の摘出時に消化管の粘膜を傷つけないよう
な対策が必要であり,安全性の確認が特に重要で
6.合併症,偶発症
ある.さらに摘出後再度内視鏡検査を行なって出
内視鏡止血操作中の大きな合併症は術中の誤
血,穿孔の有無を認める.
嚥,呼吸・循環動態の異常である.
高齢者や全身状態が悪い例では誤嚥を生じやす
いため注意する.誤嚥が生じた場合には抗生物質
を投与する.また,鎮静剤投与より術後に呼吸・
循環不全に陥りやすいため術後の監視を十
に行
う.
消化管粘膜切除術
消 化 管 の 粘 膜 切 除(Endoscopic M ucosal
は,異常な粘膜を内視鏡的に
Resection―EMR―)
切除する方法で,ポリープの切除
(Polypectomy)
から始まったが,現在では粘膜下層を直接剥離し
止血操作後の消化管穿孔に注意を要する.
Ⅶ
Ⅷ
て,かなり広範な病巣粘膜を一括切除する方法
(Endoscopic Submucosal Dissection―ESD―)
まで行われている.
異物摘出術
消化管内に本来存在しない物が停滞する状態で
あり,消化管に障害を起すか,またはその可能性
これらには,種々の手技が開発されているが,
常に出血や穿孔のリスクを伴うものである.
が大きいものを異物という.異物には経口的に取
したがって,本法には十 な技術修練が要求さ
り込まれたものと経肛門的に挿入されたものがあ
れるとともに,その適応,術前のチェック,術中
る.これらの異物を内視鏡的に排除する方法を,
や術後の管理には特に注意を要する.また,偶発
内視鏡的異物摘出術という.
症に対する対処法も常に準備しておく必要があ
1.異物の診断
異物等を誤嚥した患者に対しては,
十
る.
の問診,
理学的所見の把握,必要に応じた検査等が必要で
ある.
誤嚥した異物の種類は特定できる場合が多い
1.適応と禁忌
適応は,病変の状態および患者の全身状態も
慮し決定する.適応決定には,その病変の完全治
癒を目的とする場合と,外科手術等の適応がなく,
姑息的に病状の改善を目的とする場合とがある.
い慣れた処置具を選択し,各自が習熟した方法で
したがって,病変の完全切除の可能性と,患者の
行わなければならない.
状態を加味して,その目的を明確にする必要があ
また,出血や穿孔などの偶発症に対して,術中
る.その上で,最適の手技が選択されることが重
に対応できる手技を習得しておくことも必須であ
要である.
る.
一方,治療により全身状態や病状に重大な悪影
4.術後の注意事項
響を与えると えられる場合は,治療の禁忌と
1)術直後の全身管理
えられる.大まかには一般内視鏡検査の禁忌に準
術直後には,侵襲の大きさにより嘔気や嘔吐が
ずるが,手技の特性上,出血傾向のある場合には
見られたり,血管迷走神経反射などによる血圧の
特に注意を要する.
低下が見られる場合がある.必要に応じてモニタ
通 常,一 般 内 視 鏡 検 査 が 可 能 で あ れ ば,
Polypectomy程 度 ま で は 実 施 可 能 で あ る が,
EM R では1ランク上,ESD であればさらにもう
リングを継続し,バイタルサインを確認すると共
に,暫くは安静を保たせる.
2)術後の処置
1ランク上の負荷が掛かると え,適応と禁忌の
術後に出血や穿孔の恐れがある,侵襲の大きな
基準を設定すべきである.たとえ根治切除可能な
粘膜切除を行った場合は,翌朝まで絶食とする.
病変であっても,心肺機能の低下などにより,治
その後,必要に応じ一般血液検査や単純 X 線検査
療中に生命の危険にさらされる可能性がある場合
などを行い,出血や穿孔の危険性がないことを確
には,治療を行うべきではない.
認の上,食事を開始する.
2.インフォームド・コンセント
粘膜切除を行う際には,実施予定の術式以外に
も選択可能な術式がある事を伝え,それぞれの利
点と欠点を危険性も含めて十 説明した上で,術
式を選択しなければならない.また,EDS は発展
途上のものであり,安全性や確実性の面から切除
胃・十二指腸の粘膜切除術後は,一定期間の抗
潰瘍薬投与が,潰瘍の治癒促進に有効である.
また侵襲の程度に応じて,内視鏡的な経過観察
を行い,その治癒状況を確認する.
5.偶発症への対処法
粘膜切除は,特に術中および術直後に偶発症を
が困難と判断された場合には,確立された手技で
起こし易い手技である.それらは,出血,穿孔,
ある外科手術に変 することもあり得る事を説明
呼吸循環障害であり,いずれも重篤な状態に陥る
し,事前に了解を得ておく必要がある.
可能性がある.
3.術前・術中の注意事項
消化器内視鏡リスクマネージメントに記載され
1)輸液のルートの確保
ている事項のうち,特に重要な点を下記に再記す
粘膜切除では,簡単な治療であっても,出血や
る.
穿孔,その他の思わぬ偶発症が起こり得る.特に
1)酸素や救急カートの常備
ESD の場合はリスクが高いため,状況に応じて直
ちに対処できるよう,点滴ルートを確保しておく
高度の侵襲や長時間にわたる治療を行った場
合,術中に酸素飽和度の低下を起こしやすい.し
ことが望ましい.
たがって,直ちに酸素を投与できるよう準備し,
2)切除法の選択
挿管セットおよび必要な薬剤を備えた救急カート
粘膜切除には,ポリペクトミー,EM R,ESD な
を常備しておく.
どがあり,さらにそれぞれの中で様々な方法が行
2)複数の処置具の用意
われている.それに加え,処置具も異なるものが
粘膜切除の際には,術中出血に対して,止血の
用されている.切除する病変の形態・大きさ・
準備が必須である.様々な状況を想定して,止血
部位によっても切除の方法が異なる.その病変に
適した切除の方法を選択することが重要であり,
鉗子,APC,クリップ装置など複数の止血処置具
を用意しておく事が望ましい.また,クリップ装
それぞれの手技の難易度や偶発症とその対策法を
置は止血のみならず,術中穿孔に対しても必須で
熟知しておく必要がある.
実際に治療する際には,
あり,常に 用できるように準備しておく必要が
治療の安全性と確実性を 慮して,できるだけ
ある.
Ⅸ
胃・食道静脈瘤治療
,低アルブミン血症(2.5g/dl 以下)
,
mg/dl 以上)
高度の血小板減少(2万以下)
,
著しい出血傾向
(播
食道静脈瘤の内視鏡治療には出血時の緊急止血
種性血管内凝固症候群:DIC)
,大量腹水貯留,高
と待機的並びに予防的に行なわれる処置がある.
度脳症,末期癌症例(高度門脈腫瘍栓合併肝癌な
したがって,この両者では前準備,適応などが異
ど)
,腎不全などである.これらの患者では原疾患
なる.いずれの場合でも,治療の侵襲が少なく,
の自然経過を上回る治療効果が期待される場合以
良好な治療効果をあげることが期待できるため,
外には適応とならない .
出血に対しての第一選択法とされている.その方
法には内視鏡的 化療法(endoscopic injection
sclerotherapy:EIS)や内視鏡的静脈瘤結紮 術
(endoscopic variceal ligation:EVL)がある .
1.緊急止血
2)前処置,術前準備,術中の注意
待機例では十 に患者の病態を把握し,内視鏡
治療の手技の選択および治療計画を綿密に てる
とともに,インフォームド・コンセントを十 に
行う.術中には鎮静剤を多量に 用する頻度が高
1)適応と禁忌
く,また呼吸・循環動態が変化する可能性がある
出血時の緊急内視鏡検査には原則として禁忌は
ため,モニタリングが必要である.
ない.ただし,全身状態が著しく不良で,内視鏡
3)術式の選択
止血操作に耐えられないような場合には,バルー
食道静脈瘤に対しての内視鏡治療は,時代とと
ン圧迫法(Sengstaken-Blakemore チューブな
もに変遷してきたが,現在では前述の EVL と
ど)を用いて一時的に止血し,全身状態の回復を
EIS が広く行われている.
EVL は EIS に比べ簡 性,安全性にすぐれ,侵
図ってから改めて内視鏡治療を行う場合もある.
2)前処置と前準備
襲が少なく,静脈瘤の止血効果も良好であるが,
緊急内視鏡検査では出血によりショック状態に
反面,短期間に再発がみられることが多い.緊急
なっている場合が多いため,血管確保,輸液など
止血の場合には EVL が行われることが多く,ま
を含めたショックに対する対応を十 に行う.ま
た高度肝機能障害例ではより侵襲の少ない EVL
た,病歴なども短時間内に出来るだけ十 に行う
単独療法が選択される.
とともに,緊急内視鏡検査の目的,危険性などを
一方,EIS は長期にわたり静脈瘤を消失させる
ことが可能である.治療法には内視鏡装着バルー
含んだインフォームド・コンセントを行う.
3)術中と術後の注意
内視鏡治療施行時には呼吸・循環動態が不安定
ンを
用し,X 線透視下に治療する Endoscopic
になる可能性がある.したがって,内視鏡施行時
varicealography during injection sclerotherapy
(EVIS)と内視鏡装着バルーン,透視を 用せず
のモニタリングは必須である.また,止血後は再
に治療する方法(free hand 法)がある .注入法
出血の注意と全身状態の管理と共に,肝機能の悪
には血栓による供血路の閉鎖を目的とした5%
化にも注意が必要である.
(EO)の血管内注入法,線維
ethanolamine oleate
化による細血管の消失をめざす1% Aethoxysk-
2.待機的,予防治療
1)適応と禁忌
待機的治療は食道静脈瘤からの一時的止血が得
lerol(AS)の血管外注入法,EO・AS を併用する
血管内外注入法などがある .
られた後の内視鏡止血と,近い将来の出血予防の
他に,治療期間を短くするために EVL 後に少
ために行われる.予防的治療は,食道静脈瘤が F
量の EO もしくは AS を用いた EIS を付加する
以上もしくは red color sign 陽性(++以上)例,
EIS+EVL 併用療法や EIS 施行後に穿刺部を含
めて EVL を行う EIS+EVL 同時併用法(Endos-
胃静脈瘤(Lg)が red color sign 陽性,びらん・
潰瘍を伴う Lg,急速な増大を認める Lg,F の緊
満した Lg,食道静脈瘤治療後に Lg が残存したあ
るいは新生した場合が適応となる .
copic Injection Sclerotherapy with Ligation:
.
EISL)などの方法もある
長期間の再発防止を目的とした地固め療法も行
一般に EIS の禁忌とされるのは全身状態不良
われている.地固め療法には AS 法・Laser 法・マ
例,すなわち,高度の黄疸(血清 ビリルビン4
イクロ波凝固法・アルゴンプラズマ凝固法による
ものがある
.
4)術後の注意
術後にはまず全身状態を管理することが重要
で,必要に応じ止血剤,抗生物質,酸 泌抑制薬
Ⅹ
経皮内視鏡的胃瘻造設術
経皮内視鏡的胃瘻造設術 percutaneous endos-
を投与する.治療当日は基本的に絶食とする.治
(PEG)は,経口的に食物摂取
copic gastrostomy
困難な症例に対し,内視鏡を 用して,腹壁外と
療法,後出血,作成された潰瘍の程度,自他覚症
胃内腔との間に瘻孔を形成し,その瘻孔を通して
状などにより術後の食事内容を決める.止血や潰
経腸栄養を行うことを目的とする方法である.本
瘍の治癒を確認するために内視鏡検査を適宜行
法は長期に亘り行われてきた外科的胃瘻形成術に
う.また,定期的に経過観察し,静脈瘤の再発を
変わる方法である.
早期発見するように努める.
1.適応
静脈瘤の消失が不完全な場合には追加治療を行
必要な栄養を自発的に経口摂取することが困難
う.EVL は再発の頻度が高いため厳重な経過観察
が必要である.完全消失が確認された後,経過観
で
(食道気管支瘻等で経口摂取危険例も含む),長
察は通常半年∼1年毎に行われている .
能を持つ症例が対象となる.さらに,胃幽門部以
期間の栄養補給が必要であり,かつ正常な消化機
5)止血不能例,内視鏡治療困難例の対処
下の消化管狭窄症例の消化管減圧を目的とする場
内視鏡的な止血が得られない例には,バルーン
合も適応となる.
内視鏡を胃内に挿入するために,
圧迫法(Sengstarken-Blakemore チューブなど)
を用いて一時的に止血する.バルーン圧迫法によ
咽頭から胃腔までに内視鏡の通過出来ないような
り一時的に止血されても,再出血の可能性が高い
通過障害が唯一の栄養摂取障害となる症例も適応
ため内視鏡治療を再度試みる.
条件となりうる .
さらに,止血不能例,内視鏡治療困難例には,
Interventional radiology(IVR)あるいは外科的
手術を行う.IVR にはバルーン下逆行性経静脈的
狭窄がないことが前提となる.機械的な消化管の
PEG の禁忌例は比較的少ないが,上部消化管内
視鏡検査の禁忌例,消化管閉塞を生じた症例(稀
に施行することもある)や補正不可能な出血傾向
塞 栓 術(balloon -occluded retrograde tran,percutaneous
svenous obliteration:B-RTO)
の症例などである.
,経頸静脈肝内
transhepatic obliteration(PTO)
門脈静脈短絡術(transjugular intrahepatic por-
法による効用,合併症,代替方法等について十
tosystemic shunt:TIPS)などが行われる .胃
腎短絡路を伴った孤立性胃静脈瘤に対しては BRTO が行われる.IVR でも止血できない場合に
は直達手術の適応を 慮する.
6)偶発症
インフォームド・コンセントに関しては特に本
に行う必要がある.
2.前準備と前処置
一般的な上部消化管内視鏡治療に関する前準備
および前処置は省略するが,PEG 施行に必要な一
般状態(栄養状態,糖尿病などの代謝疾患)の把
握,消化管全体の病的異常の有無,および腹膜炎
EIS の合併症には食道穿孔,腎不全,ショック,
門脈血栓,肝不全などがある.合併症の多くは
の有無についてチェックが必要である.特に,直
化剤の大量
X 線透視下で確認しながら,門脈本幹まで至らず
X 線検査や CT 検査などを行う.
前処置は通常の内視鏡検査と同様である.
但し,
にかつ供血路を閉鎖するのに十 な量の 化剤を
苦痛および疼痛に十 に対応出来るように,局所
注入する.アルブミンは大循環に逸脱した E 0を
麻酔と鎮静剤を
不活化する作用を有する.溶血などの副作用を回
十 に抑制することが望ましい.
用,大循環への逸脱により発生する.
避するために,緊急時であっても可能な限りアル
ブミン値を 3.0g/dl 以上に補正しておく .
EVL の合併症には O リング脱落による出血,
オーバーチューブによる食道損傷,結紮部の食道
潰瘍・食道裂孔などがある.
接治療に関する臓器としての食道,胃については
用する.また,胃の蠕動運動は
3.方法と手技
PEG の方法は,古くより外科的な胃瘻造設術を
基に,内視鏡医により種々の手技の工夫が行われ
た.現在は幾つかの手技が施行されているが,そ
れぞれの手技ともに一長一短があり,各自でそれ
ぞれ手技の特徴を十
に理解し,自 に最適な手
技を選択することが必要である.
4.胃瘻チューブの管理と合併症の防止
胃瘻 部は造設後数日間は局所感染防止に注意
する.造設後3∼4日で造影チューブの固定状況
をチェックする.固定が強すぎる場合には局所の
1)内視鏡による狭窄解除の適応は,良性疾患
による場合は下記の状態が適応の目安となる.
⑴ 水 や流動食のみ摂取可能な程度の経口摂
取障害をきたす場合,
⑵ 頸部食道吻合部の縫合不全が狭窄のため改
善しない場合,
圧迫壊死が生じたり,
チューブの逸脱も生じうる.
⑶ 直腸や肛門部狭窄のためイレウス症状や排
早期のチューブの詰まりを防ぐために水または生
困難をきたす場合,
食水での洗浄が必要である.
が治療の適応となる.
胃瘻造設後は2∼3週で瘻孔は完成する.瘻孔
完成後は必要に応じチューブ 換を行うことが望
2)悪性腫瘍による狭窄では,切除不能症例を
適応とする.
ましい.また,初回の 換は原則として内視鏡下
2.術前検査
で行う.
狭窄解除の術前検査では,まず狭窄部の正確な
5.栄養補給時の合併症と対策
病態の把握が必要である.
それには術前に内視鏡,
胃瘻チューブによる栄養補給時の合併症とし
造影 X 線,CT,MRI,腹部超音波検査など必要な
て,次ぎの様な場合に注意が必要である.
検査法を選択して行う.狭窄の病態は①狭窄の部
1)逆流液の気管内誤嚥
位と長さ②狭窄部の軸偏位の有無(必要に応じ)
胃瘻造設後,
翌日から経腸栄養を開始できるが,
③瘻孔形成の有無④縫合不全の有無などである.
食道内逆流と気管への誤嚥を防止するために,患
悪性疾患の場合は①原疾患の広がり②隣接臓器と
者を半座位(30 ∼45°
)にし,栄養剤をゆっくり注
の関連を把握する必要がある.
入する.また常に胃内に多量の残留物がないかど
3.内視鏡的狭窄解除の方法とその選択
うかのチェックを行うことが重要である.逆流を
内視鏡的狭窄解除の方法は下記のように種々の
起こしやすい場合はチューブの先端を十二指腸・
方法がある.その選択は狭窄の病態,程度によっ
小腸曲を越えて留置することも有効である.
て一番有効な方法を選択すべきであるが,特に良
2)下痢はしばしば見られる症状であるが,そ
の際は腸管内感染の有無,栄養物の濃度や量が適
切かどうかを見極め,処置を行う必要がある.
XI 消化管狭窄解除術
消化管の狭窄は良性疾患による狭窄と悪性疾患
性狭窄の拡張術では,過剰な加圧による裂傷や穿
孔に十
1)
な配慮が必要である.
性ブジーによる拡張
2)バルーンによる拡張
3)切開,熱凝固法
4)ステント留置
による狭窄とがある.良性疾患による狭窄は術後
4.術中・術後の注意
狭窄を含め,医原性狭窄と炎症後の狭窄が多い.
内視鏡的狭窄解除は比較的侵襲の多い方法で,
良性狭窄の内視鏡的解除は症状の持続的改善を目
さらに穿孔などの危険性もあるため,点滴などの
的にすることが多いが,悪性疾患による狭窄は原
処置が直ぐに可能な血管確保や術中のモニタリン
疾患の治療効果の出るまでの一時的な解除か,一
グは必須である.さらに術後は出血や穿孔に対し
定期間の症状緩和を目的とした姑息的な治療とな
ての注意を要する.
る場合が多い.
内視鏡的狭窄解除を行う場合には,その狭窄の
病態の正確な把握とその目的をしっかりと設定す
る必要がある.
5.偶発症とその対策
1)出血,穿孔
急性の偶発症は出血と穿孔であるが,出血は穿
孔に伴って起きることが多い.消化管の軸が偏移
ステント留置術(食道癌など)については QOL
している場合はガイドワイヤー挿入だけでも穿孔
を上げるとする報告が多く ,同時に cost effectiveness が良いという報告 も多い.
はおきうるが,拡張時の穿孔が多い.穿孔の防止
1.適応
には,狭窄部の病態を正確に把握し脆弱な部 の
有無をチェックすることが重要である.穿孔の大
きな原因は,狭窄部を過度に進展させることであ
る. 用する 性ブジーの太さ,
用するバルー
ンの直径,バルーンの拡張圧の設定等は,狭窄の
状態および種々の報告・文献などを検討した上で,
過度の内圧を加えないようにすることが重要であ
る.狭窄切開には熟練した技能が必要である.
2)食道潰瘍
ステントの両端が食道壁に食い込んだり,圧迫
してできる.発生時期は留置3∼5日後が多い.
症状として,胸痛や発熱がある.対策はステント
の抜去と禁食,抗菌薬の投与を行う.
文
献
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