博士(医学)の学位論文提出要項 乙∴類

授与機関名
順天堂大学
学位記番号
甲第 1537 号
Chronic brain ischemia induces the expression of glial glutamate transporter EAAT2 in
subcortical white matter
(慢性脳虚血後のグルタミン酸トランスポーターEAAT2 の発現についての検討)
矢富
裕子(やとみ
ゆうこ)
博士(医学)
論文審査結果の要旨
本論文は、慢性虚血性白質病変におけるグルタミン酸トランスポーターEAAT2 の発現増加
を初めて明らかにした臨床的に意義ある論文である。
グルタミン酸は代表的な興奮性神経伝達物質で記憶や学習などの高次脳機能に深く関与する
が、高濃度のグルタミン酸は神経細胞死をもたらすことが明らかになっている。急性脳虚血
性病変では過剰に放出されたグルタミン酸が、グルタミン酸トランスポーター(EAAT) の高
発現により、神経保護的に作用していることが示されている。慢性虚血性白質病変における
EAAT の関与の報告は殆どなく、その病変機序は明らかになっていない。本論文は、ラット
の慢性脳虚血モデルを用いて、主なグルタミン酸トランスポーターである EAAT1、2、3 の
発現を検討し、更 にヒトの Binswanger 病や多発性梗塞患者の 慢性白質病変 において、
EAAT2 発現について免疫組織学的検討及び定量的評価を行ったものである。
慢性脳虚血後の KB 染色では徐々に脱髄の進行を認め、虚血前群においても EAAT は恒常的
に発現していたが、慢性脳虚血後 3 日から 7 日に EAAT2 の発現が脳梁、大脳皮質において
有意に増強した。EAAT2 の発現している細胞は主に GFAP 陽性アストロサイトであった。
EAAT1 の発現は脳梁において僅かに増加したが、EAAT3 の発現は脳梁、大脳皮質の両部位
で殆ど変化は認めなかった。慢性白質病変を有する患者の皮質下白質では、対照群に比べ明
らかな EAAT2 の発現増加を認めた。これらの結果より、慢性脳虚血における EAAT2 の発
現増加は過剰に放出されたグルタミン酸を調節し、グリア細胞を介して白質障害を最小限に
止めようとする重要な働きをする可能性が示唆された。
よって、本論文は博士(医学)の学位を授与するに値するものと判定した。