氏 名 大久保 崇之 (オオクボ タカユキ) 学 位 種 類 博 学 位 番 号 乙第 18 号 士 (応用生命科学) 学位授与年月日 平成 27 年 9 月 28 日 学位授与要件 新潟薬科大学学位規程第 3 条第 4 項 学位論文題目 生体高分子複合体の生物機能解析 論文審査委員 主査 石 黒 正路 副査 井深 章子 副査 髙 久 洋暁 副査 三坂 巧 論 文 要 旨 主 論 生体高分子複合体の生物機能解析 文 題 目 専 研 究 研 分 究 攻 応 用 生 命 科 学 専 攻 野 生物機能化学 室 生物機能化学 氏名(学籍番号) 大久保 崇之 (S12D01) 指 石黒 正路 導 教 員 〔要約〕 生体高分子複合体の形成は周辺環境の違い (温度、圧力、pH および濃度) により、影響を受け、 機能の変化がもたらされる。本論文では標的となる蛋白質の多量体構造の構造変化や部位特異的 アミノ酸変異による機能変化をコンピュータを用いた分子動力学 (MD) 計算により解析を行うことを 目的とし、主として分子動力学法を用いた分子の複合体構造の変化のシミュレーションを基に活性 (機能) との相関を解析した。最初に、味覚修飾活性を有する甘味蛋白質のネオクリンおよびミラクリ ンの酸による甘味発現機構の解析、次いで、エネルギー問題として石油の代替物質となる可能性の ある化合物である 2-deoxy-scyllo-inosose (DOI) を生合成する DOI 合成酵素の変異と活性の相関 解析研究を行った。 ネオクリン WT の二量体の MD 計算から、中性条件で味覚修飾活性に影響をおよぼす His11 ともう 一方のネオクリンの Asp91 との水素結合が形成され、二量体構造が保持された。酸性条件ではネオ クリン間の相互作用の大きな低下により、二量体構造が解離して単量体になることが示された。MD 計 算の結果と官能試験の結果の比較により、中性条件で二量体構造を形成し、酸性条件では二量体 構造が解離して単量体へ変化することが味覚修飾活性と相関することが明らかとなった。また、部位 特異的アミノ酸変異体である His11Ala, His11Tyr, His11Phe および Gln90Lys 変異体の MD 計算の 結果は官能試験の結果と良く一致した。一方、WT の構造変化部位の解析から、構造変化する残基 は二次構造ではなく、ループ部位に相当することが示された。また、変異によって甘味が減少するア ミノ酸残基である Pro103, Leu106, Asn44 を含むインターフェース (PLN インターフェース) ともう一方 の PLN インターフェースは接しており、この会合によって受容体との結合領域が他のネオクリンでブロ ックされる構造となっている。四量体の MD 計算から、His11 が pH センサーとして機能し、酸性条件で His11 を持つインターフェースの解離が生じることにより、PLN インターフェースの運動性が増して解 離が誘導されて単量体となることが示され、Pro103, Leu106, Asn44 の蛋白質表面への露出により受 容体との結合が可能となり、甘味物質として機能する機構であることが推測された。 ミラクリン二量体構造の中性条件での MD 計算から、Asp29 と Arg172 の相互作用により、二量体構 造の変化は生じず、His30 が二量体構造の内部に埋もれるため、受容体との相互作用が不可能とな り、中性ではまったく甘味を呈さず、無味であることに対応する結果を得た。酸性条件では Asp29 の プロトン化により、Arg172 とのイオン結合が消失し、His30 が蛋白質表面に露出する構造変化によっ て His30 が受容体と相互作用する構造となり、酸性でミラクリンが甘味を呈することと対応する結果を 得た。中性条件での Asp29Ala, Arg172Ala および Asp29Ala/Arg172Ala 変異体の MD 計算の結果か ら、Asp29 が pH センサーとしての機能を持つことが支持された。Kunitz 型ダイズトリプシンインヒビタ ーファミリー蛋白質とのアラインメントを基に構築した CysfourSer 変異体および Loop 改変体の MD 計 算から、ジスルフィド結合を形成する Cys148, Cys152, Cys155 および Cys159 の Ser への置換、また はループ部位を 1R8O のループ部位に置換させた改変体は微生物などによる発現を試みる価値が あるものと考えられる結果を得た。 DOI 合成酵素 WT の中性条件での MD 計算を行い、単量体およびホモ二量体 (1 ユニット体) と ホモ二量体の二量体 (2 ユニット体) の構造変化を解析した結果、27℃では大きな構造変化は生じ ないが、60℃では 2 ユニット体が 1 ユニット体へ解離した。この 27℃と 60℃での 2 ユニット体の構造変 化が酵素活性の変化と関連があると予測された。酸性条件では活性部位が構造変化して基質と酵素 との相互作用が消失し、酵素活性が失われると推察した。Trp293Arg 変異体の構造解析から、27℃ では Arg293 と相互作用する周辺残基は見られなかったが、60℃では 2 ユニット体構造が解離する前 のステップで、同一ユニット体内で近接する Glu200 とのイオン結合が見られた。この相互作用により、 Trp293Arg 変異体の 2 ユニット体の解離は WT よりも早いものと推察され、解離のしやすさと酵素活性 上昇の相関が示された。Trp293Arg/His319Arg 変異体では、Arg293 で同じユニット体内の Glu200 と 水分子を介した水素結合が、Arg319 で同じユニット体内の His315 との水素結合を形成することによ り、ユニット体間の相互作用の消失を促進し、1 ユニット体への解離を促進することが酵素活性の上昇 に導くことを示した。Trp293Arg/Asn14Thr 変異体では Thr14 の新しい疎水相互作用により、シート の位置の変化が促され、基質との相互作用の安定化が酵素活性上昇の要因になることが示された。 デザインした変異体の MD 計算から、2 ユニット体間の相互作用において Glu200 と His315 および His319 との水素結合が会合にかかわる重要な相互作用であることが支持された。 以上本研究では、味覚修飾蛋白質であるネオクリンおよびミラクリンの酸による甘味発現機構と DOI 合成酵素変異体における変異と活性の相関解析について分子動力学法による解析を行ったも のである。その結果、生体高分子複合体の分子会合による活性の制御の重要性と分子動力学法に よる解析の有用性を示した。
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