変状が生じたある既設道路盛土における原位置・室内試験結果について

(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
学生発表アブストラクト №311
変状が生じたある既設道路盛土における原位置・室内試験結果について
神戸大学 原 崇彰
1.はじめに
近年,全国各地で盛土内部に存在する地下水の影響
が原因とされる盛土の被害が頻発している.兵庫県で
は,朝来市山東町柴地区内の国道 483 号道路盛土に建
設当初から法面における小規模な表層崩壊が繰り返し
発生している.当該盛土に関しては,事前調査として
電気探査を実施しており(図-1 参照),盛土表層から
深度 2.5~5m 付近に局所的に飽和度の高い箇所が確認
されており,これらが宙水である可能性が示唆されて
いる.盛土内部の排水機能や地盤の締固めが不十分で
あると,地下水位の上昇や降雨時の雨水の浸入によっ
て表層のサクションが低下し,盛土材の強度低下や盛
土自体の水浸沈下を引き起こす可能性があることが報
告されている 1) 2).したがって,当該盛土においても
同様な原因で地盤強度が低下し,表層崩壊につながっ
ている可能性が考えられる.このような背景のもと,
本研究では,当該盛土における変状が発生した領域を
対象に,現場密度試験および表面波探査等の原位置試
験を行って現状を把握した.さらに,当該盛土の地盤
強度を詳細に検討するために当該箇所から撹乱試料を
採取し,各種室内物理・力学試験を実施した.
湿潤部の上面線
電気探査実施時の孔内水位
地盤内を伝播するせん断弾性波(S 波)速度の 2 次元
分布を測定することができる 3).図-3 に示すように地
表面から深度 10m付近において Vs<140m/s となる緩い
地盤の分布が確認された.一方,のり面表層部におい
て原位置の締固め度 Dc= 87.5%が得られた.道路盛土の
品質管理基準値 4)によると,Dc≧90%であるが,測定
地点では Dc の基準が満たされていない.
図-3 表面波探査の結果
3.室内試験
図-2 内に示す測線②と測線③の交点で採取した試料
を用いて,締固め度に対する盛土の透水性や強度への
影響を確認するために,透水試験,一面せん断試験,
サクション測定および水浸沈下試験を実施した.なお,
各試験を実施した Dc は表-1 に示す通りである.使用し
た土試料の土粒子密度 s=2.676g/cm3,最大乾燥密度
dmax=1.811g/cm3,最適含水比 wopt=14.5%,細粒分含有
率 Fc=23.2%である.
表-1 締固め度に対する各試験項目
締固め度(%)
80
透水試験
図-1 電気探査の結果
一面せん断試験
2.原位置試験
測線②
測線④
測線⑤
測線①
水浸沈下試験
90
○
○
○
サクション測定
斜面崩壊が起きた場所とその周辺を対象とし,図-2
に示した箇所で表面波探査およびその測線上で砂置換
法による現場密度試験を実施した.
表面波探査とは地盤の物理探査手法の一つであり,
85
○
95
○
○
○
○
○
○
3.1透水試験
本盛土材の締固め度ごとの透水性を評価するために,
Dc=85%と 90%において定水位透水試験を実施した(表2 参照).試験結果から,Dc=85%では透水係数
k=1.35×10-3cm/s であるが, Dc=90%では k=1.99×105
cm/s となっており,Dc の増加に伴い透水係数が2オー
ダー程度減少していることが伺える.当該盛土の表層
部が Dc= 87.5%であることを考慮すると,盛土自体をよ
く締固めることで,盛土内部への水の浸透の抑制につ
ながることがわかる.
表-2 透水試験の結果
測線③
図-2 表面波探査の測線(赤線)と
現場密度試験位置(青丸)
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項目
Dc=85%
Dc=90%
透水係数 k (cm/s)
1.35×10-3
1.99×10-5
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第48回(平成27年度)研究発表会 論集
学生発表アブストラクト №311
本盛土材料の不飽和および飽和状態における強度特
性を把握することを目的として,Dc=80%と 90%の試料
を用いた定圧一面せん断試験を実施した.供試体寸法
は直径 60mm,高さ 40mm であり,試験装置の関係上,
2mm ふるいを通過した試料を使用した.図-4 より,ど
ちらの Dc 試料とも,試料が飽和化することにより粘着
力 cd が低下しているが,内部摩擦角d はほぼ同じであ
ることがわかる.これより,地盤が飽和化することに
よりサクションが消失し,cd の低下につながることが
示唆される 5).
せん断応力, τ (kPa)
250
20
最適含水比 wopt
不飽和, φ=39.0°, c=18.3kPa
200
飽和, φ=37.8°, c=15.6kPa
50kPa
100kPa
15
200kPa
400kPa
10
5
0
75
150
80
85
90
締固め度, Dc (%)
95
100
図-6 水浸沈下試験の結果
100
4.まとめと今後の展望
50
0
0
50
100
鉛直応力,v
150
(kPa)
200
(a)Dc=80%
250
せん断応力, τ (kPa)
ては水浸沈下が生じなかった.これから当該盛土の採
取試料の現場密度および自然含水比を考慮すると,降
雨や地下水の浸透による大きな水浸沈下は生じにくい
と考えられる.
水浸による圧縮ひずみ, (%)
3.2定圧一面せん断試験
不飽和, φ=37.1°, c=34.3kPa
200
飽和, φ=37.5°, c=15.8kPa
150
100
50
0
0
50
100
鉛直応力,v
150
(kPa)
200
(b)Dc=90%
図-4 一面せん断試験結果
3.3サクション測定
3.2において飽和化による強度低下の要因の 1 つ
に飽和化によるサクションの低下を挙げた.ここで,
密度の違いによるサクションの影響を検討することを
目的として,Dc=80%と 90%の試料においてサクション
測定を実施した.なお,供試体寸法は直径 50mm,高
さ 100mm である.図-5 に結果を示すが,Dc が大きく
なるとサクションも増大しているため,密度の変化が
サクションにも影響を与えることがわかる 6).
当該盛土の表層崩壊要因を探るために,原位置・室
内試験を実施した.以下に,得られた知見を示す.
1) 表面波探査より,本盛土は深度 10m 付近
において緩い層が確認された.また,現場密度
試験と採取試料の締固め試験より,当該盛土の
Dc は 87.5%となった.
2) 室内試験結果より,本盛土に使用された
盛土材はよく締固めることで,盛土内部への水
の浸透の抑制につながると考えられる.また地
下水によって地盤の飽和化を招き,見かけの粘
着力が減少したことによってのり面部の表層崩
壊が生じたと考えられる.
3) 今後の方針として,対象盛土の水分特性
曲線より得られた不飽和浸透特性パラメータを
用いて不飽和地盤における降雨および地山湧水
の浸透特性を把握することを目的として,浸透
流解析を実施することで,より詳細な変状発生
のメカニズムの解明および適切な対策を検討す
る.
謝辞:本研究は、近畿地方整備局、新都市社会技術融
合創造研究会の研究の一貫として実施したものである.
サクション,S(kPa)
0
Dc=80% : S=17.8kPa
Dc=90% : S=33.2kPa
20
40
0
50
100
経過時間,t(min)
図-5 サクション測定の結果
3.4室内水浸沈下試験
対象盛土の飽和化に伴う変形特性を把握すること
を目的とし,水浸沈下試験を実施した.図-6 に示すよ
うに Dc が低くなる,もしくは上載圧が大きくなれば,
水浸によるひずみは大きくなっている.Dc=90%におい
参考文献
1)由井大二朗・近畿地方整備局:第二阪和国道の盛土
工に関する指針について,2) 岡本健太・山本拓:多
様な盛土材料の水浸沈下特性と締固め度の関係,3)
鈴木晴彦・林宏一・信岡大:表面波を用いた地震探査2 次元探査への応用-,物理探査学会第 103 回学術講演
会講演論文集,4) 河川土工マニュアル-第 3 章河川土
工の設計,pp.76,2009.5)社団法人地盤工学会関西支
部:平成 21 年台風 9 号による地盤災害調査報告書,
pp2-80,2009,6)河井克之・金銀羅:応用力学論文集土木学会, 1998-2009Vol.5,pp785-792
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