7月8日 - 九州大学

08/07/2015
講義概要
ゲーム理論
アドバンスドトピック(IV)
メイントピック
「生き物の進化ゲーム」
なぜ多くの有性生殖動物の性比は1対1なのか?
 進化生態学的観点からの答え
準備
「進化」とは何か?
九州大学大学院システム情報科学研究院
情報学部門
関 元秀
 タビネズミの「集団自殺」
進化ゲーム理論の導入
 進化じゃんけん
「なぜ」とは何か?
1/30
進化とは
(岩波生物学辞典第4版)
進化の必要条件
生物個体あるいは生物集団の伝達的性質の累
積的変化
集団内の変化や集団・種以上の主に遺伝的な
性質の変化
「変異」
「遺伝」
進化遺伝学では、集団内の遺伝子頻度の変化
世代
𝑡−1
世代
𝑡
2/30
世代
𝑡+1
「選択」
3/30
4/30
「変異」がないと
「遺伝」がないと
「変異」
「変異」
「選択」
「選択」
「遺伝」
「遺伝」
5/30
6/30
1
08/07/2015
https://en.wikipedia.org/wiki/Norway_lemming
タビネズミ
Lemmus lemmus
「選択」がないと
「変異」
集団維持のために一部個体が自殺?
思考実験:「集団サイズを5に保ちましょう」
世代
𝑡
世代
𝑡′
「選択」
世代
𝑡+1
「遺伝」
世代
𝑡+1
7/30
生き物の進化ゲーム
′
8/30
進化とゲーム理論
環境に対する適応
各個体の対戦相手は共通(自然環境)
その自然環境下で最も適応度が高い戦略が残る
個体間ゲーム ← ゲーム理論の視点をフル活用
各個体の対戦相手はさまざま
 集団を構成する戦略の頻度に依存
自然選択の結果、どんな相手にあたっても、各対
戦で負けない戦略が集団に残る
 進化的に安定な戦略
経済ゲーム
進化ゲーム
駆動力
合理的思考
選択圧
プレイヤーの
目標
自分の利得を下げない
(ナッシュ均衡)
なし
追加の目標
社会の利得を高くしたい
(パレート効率など)
なし
(研究者には目標あり)
結果
個人利得を犠牲にせずに
持続的な社会を達成
どの戦略にも負けない
戦略の頻度が増加
独立変数
自分の戦略・相手の戦略
遺伝的戦略の頻度
従属変数
利得
適応度
解
均衡
均衡・動態
 E(volutionarily) S(table) S(trategy)
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進化じゃんけん
最適戦略と動態
毒をもつことも、耐性をもつこともコストが
かかるゲーム
チョキ
グー
耐性なし
☠
パー
パー
(2,0)
(0,2)
チョキ
(0,2)
(1,1)
(2,0)
パー
(2,0)
(0,2)
(1,1)
 合理的なプレイヤーは上記混合戦略をとる
 そうでないプレイヤーは?
 毒生産に使った資源は、繁殖のためにも使えたはず
耐性あり
チョキ
(1,1)
最適反応戦略:グー、チョキ、パーを等確率で出
す混合戦略
毒は物質;資源を消費して生産する
トレードオフ
つくらない
グー
グー
経済ゲーム
耐性のない同種個体を殺傷する毒
毒をつくる
10/30
グー
チョキ
パー
グー
(1,1)
(2,0)
(0,2)
チョキ
(0,2)
(1,1)
(2,0)
パー
(2,0)
(0,2)
(1,1)
11/30
 期待値では合理的プレイヤーに勝てない
 何回かに1回、確率的に合理的プレイヤーに勝つ
進化ゲーム
パーが多いとき:
 グーは適応度を下げるので、頻度を減らす
 チョキは適応度を上げるので、頻度を増す
...
12/30
2
08/07/2015
チョキ
パー
(1,1)
(2,0)
(0,2)
チョキ
(0,2)
(1,1)
(2,0)
パー
(2,0)
(0,2)
(1,1)
(振幅,周期)が初期集団の戦略頻度に依存
パーが多いとき:
 グーは適応度を下げるので、頻度を減らす
 チョキは適応度を上げるので、頻度を増す
進化じゃんけんの動態は、大腸菌の室内実験
で確認されている(Kerr et al., 2002)
被食者・捕食者の動態(MacLulich, 1937)
チョキが多いとき:パーが減り、グーが増える
グーが多いとき:チョキが減り、パーが増える
カンジキウサギと
頻度
0.8
ウサギ(x5k)
50
1934
1928
1922
1916
1910
1904
1898
0
1892
13/30
1886
15
100
1880
10
https://en.wikipedia.org/wiki/Snowshoe_hare
1844
5
20 時刻
150
1874
0.2
1868
推定個体数
0.4
0
ヤマネコ(x1k)
200
0.6
1850
初期集団: 0.25,0.25,0.50
カナダオオヤマネコ
1.0 初期集団: 0.05,0.05,0.90
1862
頻度
生物の周期的振動現象
1856
進化的周期解
グー
グー
14/30
https://en.wikipedia.org/wiki/Canada_lynx
性比
ティンバーゲンの4つの何故
メス対オスの比率
1つの「なぜ」には4通りの回答がある
動的視点 静的視点
至近要因 発生
生理
究極要因 系統 【適応】
一次性比:受精時の性比
二次性比:出生性比
三次性比:繁殖個体集団の性比
メスが遺伝的戦略にしたがって息子と娘の比
率を決定していると仮定しよう
どんな進化ゲームが成立している?
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至近要因(発生)
XY遺伝システム
例:なぜ赤信号で止まるの?
生理:赤い光に脳が刺激されブレーキを踏む
から
発生:自動車教習上で教え込まれたから
系統:赤で止まるという規則が歴史的に成立
したから
適応:止まるほうが有利(安全)だから
動的視点 静的視点
至近要因 発生
生理
究極要因 系統
適応
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オスの性染色体対(X-Y)がXとYに分離し、等
確率で受精に成功するようになっているから
父
X-Y
X
X-X
Y
母
X-X
X
X
X-X
X-Y
X-Y
17/30
18/30
3
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究極要因(適応)
オスメスの生物学の基礎
1:1で娘と息子を産むことが、ほかの選択肢
に優るとも劣らない子孫生産につながるから
あらゆる進化現象の究極要因:子孫数で負けない
生殖子1個あたりコスト:メス > オス
生殖子数:
メス < オス
交尾相手数と子孫数
メス:ほぼ無相関のケースが多い
安定性比(進化的に安定な性比)
他のどの性比にも負けない性比
 無限集団内のほぼ全個体(野生型)が安定性比で娘と息
子を再生産しているとき、ごく少数の別の性比で娘と息
子を再生産する個体(変異型)の頻度が増えない
オス:正に相関
19/30
20/30
モデル化(単純化)
安定性比かどうかテスト
生殖子1個あたりコスト:オスでゼロとする
生殖子数:
オスで無限とする
交尾相手数と子孫数
野生型(テストされる戦略)
メス:相関ゼロとする
 交尾相手オス数:1匹
 産む子の数:𝑅匹
メス対オスを𝑥:𝑦で産む
変異型(任意の戦略)
メス対オスを𝑥′:𝑦′で産む
野生型の無限集団に、変異型のメスを1匹侵入
させる
オス:正に相関
 交尾相手メス数期待値:集団全体の、(メス数)/(オス数)
 残す子の数:(交尾相手メス期待値)×𝑅匹
無限集団の定義より、集団の性比は、親世代も子
世代も𝑥:𝑦
野生型メスと変異型メスの孫数を比較
性比はメス(母親)の遺伝戦略が決定
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22/30
3:1性比が安定かどうか
1:3性比が安定かどうか
野生型(戦略A)
野生型(戦略B)
メス対オスを3:1で産む
メス対オスを1:3で産む
変異型(戦略B)
変異型(戦略A)
メス対オスを1:3で産む
メス対オスを3:1で産む
集団性比は3:1 → オスはメス3匹と交尾
集団性比は1:3 → オスはメス1/3匹と交尾
メスの産む子の数:4匹
オスの残す子の数:(メス3匹と交尾)×4=12匹
メスの産む子の数:4匹
オスの残す子の数:(メス1/3匹と交尾)×4=4/3匹
戦略Aメス孫数:3 × 4 + 1 × 12 = 24
戦略Bメス孫数:1 × 4 + 3 × 12 = 40
戦略Bメス孫数:1 × 4 + 3 × 4/3 = 8
戦略Aメス孫数:3 × 4 + 1 × 4/3 = 13 + 1/3
23/30
24/30
4
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集団性比のポイント
𝑥:𝑦性比が安定かどうか
メスの多い集団では、相対的にオス1匹の価
値が高い
野生型(戦略W)
戦略Aの無限集団では、1匹の戦略Bが有利
変異型(戦略M)
オスの多い集団では、相対的にオス1匹の価
値が低い
戦略Bの無限集団では、1匹の戦略Aが有利
メス対オスを𝑥:𝑦で産む(𝑦 = 1 − 𝑥)
メス対オスを𝑥′:𝑦′で産む(𝑦′ = 1 − 𝑥′)
集団性比は𝑥:𝑦 → オスはメス𝑥/𝑦匹と交尾
メスの産む子の数:𝑅
オスの残す子の数:(メス𝑥/𝑦匹と交尾)×𝑅 = 𝑥/𝑦 𝑅
直観的には、メスとオスが同数であることで
オス1匹とメス1匹の価値が同じになりそう
これを厳密に証明
戦略Wメス孫数:𝑥𝑅 × 𝑅 + 𝑦𝑅 × 𝑥/𝑦 𝑅
戦略Mメス孫数:𝑥′𝑅 × 𝑅 + 𝑦′𝑅 × 𝑥/𝑦 𝑅
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アドバンスドトピックα
1:1が唯一の安定性比
𝑥
今回は孫の数を最大化するとした
戦略Wメス孫数:𝑥𝑅 × 𝑅 + 𝑦𝑅 × 𝑦 𝑅
戦略Mメス孫数:𝑥′𝑅 × 𝑅 + 𝑦′𝑅 ×
無限世代後の子孫数を規格化した繁殖価を導入すること
で、より一般の形で示せる
𝑥
𝑅
𝑦
どんな𝑥 ′ に対しても下記不等式が成立している
必要がある
𝑥
𝑥
𝑦
𝑦
1−2𝑥
1−𝑥
1:1以外の性比も珍しくない
寄生バチでは、性比が大きくメスに偏る
 寄生バチに特化したモデルが予測する安定性比1:0に合致
母系遺伝する病原体・ウィルスに、性比が操作される現
象も知られている
ヒトの性比も偏る場合がある
𝑥𝑅 × 𝑅 + 𝑦𝑅 × 𝑅 ≥ 𝑥′𝑅 × 𝑅 + 𝑦′𝑅 × 𝑅
 𝑥 − 𝑥′
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≥0
 上記を任意の𝒙′ について満たすのは、𝒙 = 𝟏/𝟐だけ
 江戸~昭和の丙午(ひのえうま)信仰
 一人っ子政策時代の中国
27/30
28/30
アドバンスドトピックβ
参考資料(和書)
今回は、息子1匹を作るコストと娘1匹を作るコ
ストの違いを考慮しなかった
酒井,高田,東樹(2012)
『生き物の進化ゲーム[大改訂版]』
 共立出版
一般化モデルでは以下を1:1とする戦略が安定
 息子を作るために割り当てる資源
 娘を作るために割り当てる資源
巌佐(1990)
『数理生物学入門』
今回は、繁殖に関するクオリティの個体差を考慮
しなかった
多くの動植物で、親の栄養状態が、息子・娘のクオリ
ティに強く影響し、以下のような個体差が見られる
 栄養状態の良い個体は、息子や雄花を多く作る
 栄養状態の悪い個体は、娘や雌花を多く作る
 共立出版
粕谷(1990)
『行動生態学入門』
 東海大学出版会
29/30
30/30
5