第Ⅰ部 全体の取組 【研究主題】 一人一人がやりがいと手応えを感じながら活動に取り組む授業づくり ~キャリア教育の視点から~ (1年次/2か年) 1 研究主題設定理由 (1)職員からのニーズの高まり 学校教育目標である「地域の一員として、一人一人が輝き、進んで社会参加できる児童生 徒」を育むために教育活動を進める中で、昨年度の職員学校評価においては、全項目の中で 最も評価の低かった項目が「小・中・高を貫くキャリア教育の視点を日々の教育実践にとり 入れているか。 」であった。 「職員一人一人が意識を高めなければならない」 「小・中・高の一 貫性がある指導が不十分」等々、職員間でキャリア教育の取組に対するニーズが高まってい ることが分かった。 (2)これまでの研究より 昨年度までの2か年の研究主題を「『考える・判断する・表現する』児童生徒を育む授業づ くり~言語活動の充実を通して~」とし、実践に取り組んだ。その中で、 「考える・判断する・ 表現する力」とは、 習得した知識・技能を活用したり、自ら環境に働きかけたりして、できるだけ自分の力で 課題を解決する力である。 と捉えた。つまり、 「考える・判断する・表現する力」は主体的な活動に欠かせない力であり、 この研究の成果と課題はキャリア教育が目指す「主体的に取り組む」授業づくりに十分生か すことができると考えた。 (3)目指す授業の明確化 研究主題を設定するにあたっては、テーマを絞って焦点化することで、職員がより共通の 視点で授業づくりに向かえると考えた。先行研究によると、キャリア教育が目指す授業とは 「子ども達が主体的に取り組む」授業(菊地一文 2015)と述べられている。また、 「やりが いと手応え」は主体的な取組を実現する中核にある意識(名古屋恒彦 2015)だと述べられ ている。学校生活において「やりがいと手応え」を十分に感じるからこそ思い切り活動する 子どもになり、その先の思い切り働くこと、より自分らしく生きることへとつながると考え る。このことから、児童生徒が活動に「やりがいと手応え」を感じることが、主体性を育み、 学校教育目標である「一人一人が輝き、進んで社会参加」する姿の実現に結び付くと考えた。 2 研究の目的 ・一人一人がやりがいと手応えを感じながら活動に取り組む姿を具現化する。 (子どもの変容) → 一人一人のキャリア発達 ・そのための有効な指導内容、指導方法を探り、授業改善を行う。(指導の変容) → キャリア発達を促す授業づくり -1- 3 研究仮説 研究対象 研究方法 研究結果 目指す姿(やりがいと手応えを感じる姿)を具体化した授業づくりにおいて 授業構想、実践、評価、改善を積み重ねることで、 有効な指導内容や方法が明らかになり、一人一人がやりがいと手応えを感じて 自ら活動に取り組む姿を育むことができるだろう。 4 研究の内容と方法 (1)キャリア教育について学ぶ ①全校研修会: 「キャリア教育勉強会」 ②キャリア教育研修会: 「キャリア教育の視点による授業づくり」 (2)学部の目指す姿を明らかにした授業づくり 「やりがいと手応え」を感じながら、活動に取り組む姿を明らかにした授業づくり 【研究の対象】 小学部:遊びの指導 中学部:生活単元学習 高等部:職業科 (3)チームで取り組む授業づくり、授業研究 ①ベースミーティング(授業構想)を基盤にした授業づくり ②次に生かせる、成果を共有できる授業研究 (4)キャリア教育全体計画を基にした実践 1年次の研究の成果や課題→「キャリア教育全体計画」に反映→2年次から活用 5 研究組織 研究部 教育課程検討委員会 全校研究 総合教育センターとの連携 学 小学部 部 研 究 中学部 *主に、授業研究会への参加・助言、 高等部 学部研究への助言・参画 6 研究計画 月 4 全 23 校 学 部 研 修 全校研究会① (研究概要の共通理解) 5 28 学部研究会① 6 11 学部研究会② 17 学部研究会③ 29 学部研究会④ 7 22 指導主事計画訪問 8 9 22 全校授業研究会(中) 26 学部研究会⑤ 10 27 全校授業研究会(高) 28 31 学部授業研究会(小) 学部研究会⑥ 11 7 全校授業研究会(小) 26 学部授業研究会(高) -2- 18 キャリア教育勉強会 12 全校研究会② 28 学部研究会⑦ 17 19 22 学部授業研究会(中) 26 学部研究会⑧ グループ授業研究会(高) (研究の進捗状況の確認) 12 3 自主公開研究協議会 キャリア教育研修会 1 2 27 全校研究会③ 13 研修報告会① 19 研修報告会② (研究のまとめ) 3 研究紀要発行 7 キャリア教育について (1)キャリア教育とは 中央教育審議会「今後の学校教育におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答 申) 」 (平成23年1月)において、キャリア教育について次の通り述べている。 【キャリア】 人が、生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を 見いだしていく連なりや積み重ね 【キャリア発達】 社会の中で、自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現していく過程 【キャリア教育】 一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通し てキャリア発達を促す教育 このことを受けて、本校では キャリア教育とは、児童生徒が社会の中で自分の役割を果たしながら、なりたい自分にチ ャレンジする過程を、一人一人の実態に応じて支援する教育 であり、 自分のもてる力を存分に発揮し、達成感を味わいながら自分の「役割」を果たしていくこ とが、意欲・主体性・生きる力を育てる と共通理解を図った。 (2) 「やりがいと手応え」について(図-1) 先行研究によると、『キャリア発達を促す授業の目指す形の一つは「やりたい」「できる」 「わかる」「やった」と思える主体的に取り組む授業』と述べられている。(菊地一文 2013) このことは、自分の行動に対して「できる」「わかる」「やった」と自分自身で感じること、 自分の行動と結果が結び付くこと、すなわち「手応え」が主体的な取組には必要と捉える。 また、 『 「生きがい・やりがい」とは、自立的・主体的生活を実現する中核にある意識である』 と述べられている。 (名古屋恒彦 2013)このことは、「やりたい」「なりたい」といった本人 の願いを大事にし、どうなりたいかについて考え学び価値付けること、すなわち「やりがい」 が、主体的な生活に結び付くと捉える。また名古屋は『ライフキャリアの形成はやりがいと 手応えのある生活の積み重ねである』とも述べている。更に、中央教育審議会答申(2011) のキャリア発達の概念である「自分らしい生き方を実現していく過程」とも言えるのではな -3- いかと考える。 こうした背景から、本校では一人一人の主体性を育み、社会参加(自分らしい生き方)で きる児童生徒を育成するために、 「やりがいと手応え」に焦点を当てた授業づくりを行う。 「できる」 「わかる」 「やった」の実感 行動と結果の結び付き 「やりたい」「なりたい」という願い やっていることへの価値付け 手応え やりがい 主体性 キャリア形成 キャリア発達 自立と社会参加 図-1 「やりがいと手応え」の捉え (3)やりがいと手応えを感じる授業について(図-2) 児童生徒が活動の中で、次のような思いを十分に感じることが「やりがいと手応え」を感 じる授業であり、授業づくりではそのための環境設定やしかけを工夫していく。 図-2 「やりがいと手応え」を感じる授業 授業を設計するに当たって 授業づくりにおいては、 キャリアプランニング・マトリクス 4領域8能力におけるキャ ・目標や指導内容との関連付け 領域教科等 リア発達段階・内容表であ ・キャリアの視点からの補完や 本来の目標 る「キャリアプランニン 見直し グ・マトリクス(2010 国立 特別支援教育総合研究所)」 図-3 キャリアプランニング・マトリクスの活用 を活用する。 (図-3) 活用にあたっては、設計した授業に含まれる(関連する)目標や指導内容を「キャリアプ ランニング・マトリクス」と照らし合わせ、必要があればキャリアの視点から補完したり見 直したりすることとする。ただし、授業づくりの指標の一つであり、 「キャリアプランニング・ マトリクス」を中心に授業が展開されるということではない。 -4- 8 研究の実際 (1)キャリア教育について学ぶ機会 2つの研修会を実施し、研修後の授業づくりに生かした。 ①キャリア教育勉強会(6月18日) 講師:本校教育専門監 加賀谷 勝、研究主任 藤原恵理子 ・キャリア教育の背景 ・キャリア教育の共通理解 ・キャリア教育と授業づくり ②キャリア教育研修会(秋田県特別支援教育研究会共催 12月26日) 「キャリア教育の視点による授業づくり-キャリア発達を支援する教育の意義と実践-」 講師:青森県教育庁学校教育課特別支援教育推進室 菊地 一文 氏 ・ 「キャリア」 「キャリア教育とは」 ・将来の「働く」と現在の「学ぶ」をつなぐ ・キャリア発達の視点をふまえた実践 (2)学部の目指す姿を明らかにした授業づくり(図-4) 昨年度の研究や学部の 課題を踏まえ、小学部は遊 びの指導(合同遊び)、中 学部は生活単元学習、高等 部は職業科を対象に研究 を進めることとした。 各学部の研究について は「第Ⅱ部 学部の取組」 の中で述べる。 図-4 学部の目指す姿 (3)チームで取り組む授業づくり、授業研究 授業づくりについては、昨年度から、ベースミーティングを基盤とした PDCA サイクルを実 施している。 (図-5)学部ごとに総合教育センター指導主事と連携し、指導助言をいただい たり授業づくりの相談を行ったりしている。 図-5 ベースミーティングを基盤とした PDCA サイクル -5- サイクル 方 法 内 容 構想(P) ベースミーティング 指導者間、学部所属を含む小集団で実施。 T1 が全て構想するのではなく、ファシリテーターと なり意見を集約していく。 一人一人のねらいや手立てを探り共有する。 指導内容や手立てのアイデアを出し合う。 実践(D) 日々の授業/研究授業 各学習グループ1提示授業を実施。内、全校研究授業 と学部研究授業を各3回実施。 評価(C) 日々の記録 学部の指導の形態に応じた評価を実施。 主な方法は、次の通りであった ・1単位時間毎の気付きや改善策を記入する記録表 ・配置図を基にした記録表 ・エピソード記録とカンファレンス記録 ・生徒自身のワークシートやレポートの活用 *工夫した評価記録については、「第Ⅱ部 学部の取 組」において資料を添付している。 研究協議 全校研究授業・・・・ワークショップ ワークショップで出された意見を集約し、協議題に対 する改善策(キーワード)として提案する。 学部研究授業・・・・全体協議 授業者との対話の中で進行が意見をつなぎ、協議題に せまる。 ベースミーティング 日々の記録、研究協議の記録をもとに、次時の授業に 向けたミーティングを実施。 改善(A) (4)キャリア教育全体計画を基にした実践 教務部を中心に作成し、作成に当たっては、研究の成果と課題を内容の一部に反映させ、 平成27年度から活用する。研究の2年次には、本計画を基にした実践をすることで、小・ 中・高のつながりが分かりやすくなると考える。 (5)総合教育センターとの連携 支援班の伊藤敏博副主幹、跡部耕一主任指導主事、松井智子指導主事には、授業参観や指 導助言だけでなく、授業づくりの相談に応じていただいた。また、授業に対してだけでなく、 研究や指導案に関しても多くの助言をいただき、生かすことができた。 -6- 9 研究のまとめ (1)研修、授業づくりを通した「キャリア教育」への意識の高まり 勉強会、講師を招いての研修会を設定したことで、キャリア教育について学び、日々の授 業実践と関連付けることができた。キャリア教育とは、新たな取組を始めることではなく、 日頃の授業を改めて見直し、これまでの指導の積み重ねを生かしながら、指導者が意識を高 めて取り組んで行くことであると実感できた。 (2)授業づくりについて 1年次は、ベースミーティングを PDCA サイクルの基盤とした授業づくりに取り組んだ。 その中で、学部の実情に応じた検討や評価の仕方で進め、授業改善に結びつけた。 本研究の目的である「やりがいと手応えを感じながら活動に取り組む姿(キャリア発達を 実現していく姿) 」の実現においては、「わかる」「できた」「これでいいんだ」等の思いを児 童生徒自身が実感し、価値付けて積み重ねていくことが大切である。そのためには、児童生 徒が精一杯力を発揮できる環境のもとで、明確な目標をもつこととその結果を評価すること が必要となる。 このことから、菊地一文氏の 研修会で述べられた「授業を捉 え直す視点」を参考に、2年次 は、目標設定と評価の関連を (図-6)のように考え、引き 続きベースミーティングを基 盤として充実させていく。 図-6 目標と評価の関連 (3)学部研究について 各学部で設定した「目指す姿」の実現に向けて、1年次の成果と課題を「第Ⅱ部 学部の 取組」の中でまとめた。 小学部では生活年齢に応じた遊びの指導内容、中学部では生活単元学習の中心的テーマに ついて学年間のつながり、高等部では職業科の学習グループ構成や指導内容について、授業 づくりを通して検討を重ねて2年次の方向性を導き出している。 一人一人のキャリア発達を促すためには、小・中・高のつながりのある取組が不可欠であ ることから、2年次は、学部間をつなぐ取組について研究組織を含めて方策を講じる。 (4)キャリア教育全体計画を基にした実践 作成したキャリア教育全体計画の活 用を通して、 (図-7)のように、授業 づくりを中心に個別の指導計画や年間 指導計画、学部目標や学校教育目標と 関連付けながら、見直していくことで、 小・中・高を貫く教育課程の編成につ なげたい。 図-7 -7- キャリア教育全体計画の活用 【参考・引用文献】 ・ 「実践キャリア教育の教科書」 菊地 一文 編著 学研 2015 ・ 「知的障害教育発、キャリア教育」 名古屋恒彦 著 東洋館出版社 2015 ・秋田県立養護学校天王みどり学園「研究紀要 共に歩む」第10号 2013 ・文部科学省「特別支援学校学習指導要領解説 総則編」2009 ・ 「特別支援教育のためキャリア教育の手引き」 全国特別支援学校知的障害教育校長会 編著 ジアース教育新社 2010 ・ 「知的障害特別支援学校のキャリア教育の手引き 実践編」 全国特別支援学校知的障害教育校長会 編著 ジアース教育新社 2013 ・ 「特別支援教育研究 No.673」 東洋館出版社 2013 ・ 「みんなのライフキャリア教育」 渡邉 昭宏 著 明治図書 2013 ・ 「教科の授業 de ライフキャリア教育」 渡邉 昭宏 著 明治図書 2014 ・ 「キャリア教育を取り入れた特別支援教育の授業づくり」 上岡 一世 著 明治図書 2013 ・熊本大学教育学部附属特別支援学校 「ポラリスをさがせ~熊大式授業づくりシステムガイドブック~」ジアース教育新社 2012 -8-
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