町村職員の不祥事、懲戒処分、 不服申立の現状について

町村職員の不祥事、懲戒処分、
不服申立の現状について
平成27年7月21日
弁護士法人 佐々木総合法律事務所
代表社員
弁護士 佐々木 泉顕
1
自治体職員の地位
・ 自治体職員は住民から自治権の行使を信託された住民の
代表機構である首長の補助職員としての地位にある。
・ すべての自治体職員は、その終局的な任免権が住民にあり
住民全体の奉仕者として、住民の信託に基づく公務に従事し
ている(日本国憲法15条1項、2項)。
・ 21世紀になってから「法令遵守」「コンプライアンス」が叫ば
れるようになり、自治体職員には、2000年以前よりも厳しく
法令遵守が求められている。
・ しかし、北海道においては自治体職員の汚職等の不祥事が
毎日のように報道されていることは誠に嘆かわしい。
2
自治体職員の法令遵守は当然である!
憲法15条2項
「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」
地方自治法第1条の2、第1項
「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域におけ
る行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。」
同法第2条第2項
「普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこ
れに基づく政令により処理することとされるものを処理する。」
同条第16項
「地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない。」
3
服務の根本基準
地方公務員法第30条
「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務
の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。」
同法第31条
「職員は、条例の定めるところにより、服務の宣誓をしなければならない。」
同法第32条
「職員は、その職務を遂行するに当たって、法令、条例、地方公共団体の規則
及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ、上司の職務上の命令
に忠実に従わなければならない。」
同法第33条
「職員は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような
行為をしてはならない。」
4
自治体におけるコンプライアンス
自治体は企業以上に重い社会的責任を担う存在なのであり、
「法による行政」と「職員倫理」の2つの側面からのコンプライア
ンス違反が生じないように常に最大限の注意を払わなければ
ならない。→住民の目も厳しい!
① 法令違反を犯さないこと
② 住民のためになることを行動原理とすること
③ 説明責任を果たすこと
(情報公開法第1条)
④ 公平、毅然とした対応→クレーマーに屈しない
⑤ 事実の隠蔽をしないこと
⑥ 住民の信頼を損なわないこと
5
自治体職員に求められる行動
① 全体の奉仕者としての公務員に求められているのは公益
の実現であることを自覚する→自己の利益を図るなど論外!
② 公正・公平な職務執行を行うこと→住民に対してはもちろん
のこと、役場内でも然りである。
③ 公私の別を自覚する。
④ 自分の行動を客観的に見る→役場内の常識は世間の常識
とは限らない!
⑤ 私的時間の行動にも気を配る→一私人として行動する場合
であっても、公務員が社会人として問題のある行動を取れば
住民の信頼を裏切ることになり、公務への信用性が傷つく
6
信用失墜行為とは?
1 職務を遂行するに当たっての行為
①
②
③
④
公金着服等の犯罪行為
汚職(収賄罪)
セクハラ行為
パワハラ行為
2 職務外の行為
① 酒気帯び運転などの道路交通法違反
② 窃盗、暴行、傷害、殺人等の犯罪行為
7
法令違反行為に対する制裁
自治体職員の法令違反行為に対しては一定の制裁が科せら
れる。
1 刑罰
2 懲戒処分(地公法29条1項) 戒告、減給、停職、免職
① 地方公務員法・その特例を定める法律またはこの法律にもとづく条例
・規則・規定に違反した場合
② 職務上の義務に違反し、または職務を怠った場合
③ 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合
3 過料
4 公表
8
刑事事件と告発義務
刑事訴訟法第230条
犯罪により被害を被った者は、告訴をすることが出来る。
同法第239条
① 何人でも、犯罪があると思料するときは、告発することがで
きる。
② 官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると
思料するときは、告発をしなければならない。
*被害弁償しても罪が消えるわけではない。
告訴を控えると身内のかばい合いとの非難あり。
9
懲戒処分について
定義 懲戒処分とは、自治体職員の法令違反行為に対して、道
義的責任を問うために、任命権者が制裁として科する不利
益処分である。
意義 公務員に対する懲戒処分は、当該公務員に職務上の義
務違反、その他、単なる労使関係の見地においてではなく
国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務するこ
とをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公
務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確
認し、公務員関係の秩序を維持するため、科される制裁で
ある(神戸税関事件 最高裁三小昭和52年12月20日判
決)。
10
懲戒処分における留意点
1 任命権者が制裁として科す不利益処分である以上、手続は
公正で明確でなければならない→手続及び効果は条例で定め
なければならない(地公法29条4項)→懲戒処分にあたり、公
正を期するために内部の審査委員会に諮問し、審査・答申の
手続きをとることが必要である。
2 告知・聴聞手続きは必要か?
裁判例の判断は分かれているが、実務上は、事前の告知・
聴聞手続に関する規定の有無にかかわらず、事前の告知をし
て、弁明・防御の機会を与えることが必要である。
審査委員会、賞罰委員会において弁明の機会を与えること
が必要であり、たんに事実調査の際の弁明では足りない。
11
3 処分の選択
懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にい
かなる処分を選択すべきかは平等取扱の原則(地公法13条)
公正の原則(同法27条1項)の規定に留意しなければならない
ほか任命権者の裁量にまかされている。
「懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態
様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処
分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般
の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合に
いかなる処分を選択すべきか、を決定することができる」(神戸税関事件判決)
「①非違行為の動機、態様及び結果、②故意。過失の程度、③非違行為者の
職責、④他職員及び社会に与える影響、⑤過去の非行歴等の有無ほか、日
頃の勤務態度や非違行為後の対応等も含めて総合的に考慮の上判断」(人
事院懲戒処分の指針)
12
4 処分事由説明書
地公法49条1項 任命権者は、職員に対し、懲戒その他その意に反すると認
める不利益な処分を行う場合においては、その際、その職員に対し処分の事由
を記載した説明書を交付しなければならない。
4項 第1項又は第2項の説明書には、当該処分につき、人事委員会又は公平
委員会に対して審査請求をすることができる旨及び審査請求をすることができる
期間を記載しなければならない。
処分事由説明書の記載事項
懲戒処分の基本的処分事由のすべての記載を要する。処分事
由の記載により、被処分者側は、自己のいかなる行為を理由とし
て処分がなされたのかを知り、かつ、これに対して不服申立をすべ
きかどうかの判断をすることができるものであるから、具体的かつ
詳細な記載が必要と考えるべきである。処分事由の追加を許した
裁判例もあるが、基本的には、追加は認められないと考えて、記
載内容については慎重に検討する必要がある。
13
A町住民課長B(男性)は、住民課職員全員で開催した忘年会の
2次会で、隣に座った女性職員Cにお酌を強要するなどの行為
を繰り返し、女性職員Dの手をつかんで無理矢理チークダンスを
踊り、2次会終了後女性職員Eの自宅(Eは1人住まい)に上がり
込んで、Eに抱きつくなどの行為をして約30分居た後、E宅を出
て自宅に戻った。
設問1 A町はCDEからの事情聴取に際してどのような配慮を
すべきか?
設問2 A町はCDEの証言のみでBに対する懲戒処分を行う
べきか?
設問3 A町はEに対する行為だけで懲戒処分が可能と考えた
が、その場合CDに対する行為についても処分事由説明
書に記載すべきか?
14
公金着服について
1 市町村で公金着服は何故増加するのか?
2 公金着服は必ずバレル→ほぼ懲戒免職
→似たようなことをして逮捕された弁護士などもおりますが・・・・・・・・・・・
3 防止策
① 体制上
ア 公金の出し入れは複数で行う
イ 同一人に長期間、公金の処理を任せない
ウ 納品のチェックは複数で行う
② 上司による部下の把握
→多くの場合、前兆があるはず
③ 刑事、民事、行政の3つの責任が発生することの認識
15
汚職の防止対策
1 汚職とは、公務員が私利私欲のために職を濫用して賄賂を
受け取るなどの不正な行為をすることである。
2 対策
① 十分な監督によるチェック
② 特定の職員に許認可等の権限を集中させない。
→事務の透明化を図る。
③ 同一ポストに長期間居させない。
④ 職務についての意識向上を図る。
→業者が近寄ってくるのは個人的な魅力ではなく、職務権
限であることを理解させる。事態が明るみになった場合、
互いに相手方から申し入れ、要求があったとの非難合戦と
なる。
16
汚職・不正経理の防止対策まとめ
① 職制、事務分掌、事務決裁、権限配分についての見直し、
規則、規程の整備、物品調達体制の整備
② 人事の刷新、許認可・工事関係担当職員の定期的配置転
換
③ チェックシステムの整備強化、事務処理方法の調査・点検
(現金取扱についての会計事務の改善)
④ 職員の倫理研修、職員相互の注意喚起の指導、文書発出
による職員の意識改革
⑤ 監査委員制度(地方自治法195条以下)の機能強化
⑥ 外部監査制度(地方自治法252条の27以下)の活用
17
A町はこの事案にどのように対応すべきか
平成27年3月2日、A町建設課職員Bが業者Cから100万円を
賄賂とし受け取っていたとして、B及びCが北海道警察に逮捕さ
れた。
同日A町役場に警察の家宅捜索が入り関係書類が押収された
同日各紙夕刊、テレビニュースで大々的に報道された。
A町として今後どのような事態を予測すべきか?
とるべき行動は何か?
18
重要なマスコミ対応
(1)現在、社会における原動力は、人、物、金そして情報であり、マスコミは重
要な地位を占めているし、町村職員はあまり実感がないかもしれないが、マス
コミは、町村を権力と見なしているので、住民保護の観点(?)に立つマスコミ
と自治体は対局軸にあるといえる。
(2)マスコミ対応で具体的に問題となるのは、不祥事等が発生した場合に、
記者発表、記者会見をどのタイミングで行うべきかということである。私の経
験では、事実がマスコミに伝わると、マスコミは何とかして、他社に先駆けて
情報を入手しようと必死になり、いじめ事件などでは、学校の中まで入り込ん
で撮影したり、教育長や校長の自宅まで押しかけて、何とかコメントを入手し
ようとする。そのような場合に、関係者間で事前の協議もなく、安易にインタビ
ューに応じてしまうと、関係者間のコメントの内容が微妙にずれてしまって、マ
スコミや住民の不信感が増幅することになる。従って、住民やマスコミから関
心を持たれる事案(人命に関わる事故の発生、職員の不祥事等)については
、自治体側から日時と場所を指定して記者会見を開くべきであると考える。マ
スコミからの取材に答えて不祥事等を明らかにするのでは、事実を隠蔽して
いたと見られる危険があるから要注意である。
19
(3)記者会見にはトップが出るべきであろうか、それとも実務担当者だけが
出るべきかという質問もよく受けることがある。記者会見を開くべき事案が発
生した場合には、まずはマスコミ対応窓口を決めることが必要であり、マスコ
ミからの連絡対応は首長以外の特定の人間が行うべきである(総務課長か
?)。
しかし、それは、記者会見以外の場面でのことであり、記者会見には市
長自らが出席することで、住民に対する説明責任を果たすことになる。記者
会見において、個別具体的な質問全てに首長が答えることは不可能である
が、たとえば職員の不祥事事案の場合には、記者会見冒頭における不祥事
の内容の説明、再発防止策、住民への謝罪については、首長自らが行うべ
きであり、質問についても、基本的な事項については回答できる程度に事前
に担当職員から十分なレクチャーを受けておくことが必要となる。
細部に渡る質問事項に対しては、部下に回答させても問題はないが、基本
的な事項(不祥事の内容、不祥事開始の時期、当該職員の主な経歴等)に
ついては、首長自らが回答できるようにしておくべきであり、そのことだけで
住民の信頼を得ることができるのである。
20
まず事実の確認
1 まず、関係者への聞き取り調査を行う(限界はあるが・・・)。
① 交友関係
② 業者の出入りしている飲食店
③ Bの金銭貸借関係(サラ金に手を出していないかなど)
④ 職員の警察からの事情聴取状況の確認
2 本人への事実確認はどの段階で可能か?
①逮捕→②勾留→③起訴→④公判
①の逮捕は72時間→警察48時間、検察24時間
(この間は弁護士以外は本人と面会不可)
②の勾留は10日が原則であるが、延長によりさらに10日間となる。
(この間も弁護士以外の者の面会が制限される場合がある。)
21
1 収賄の事実をBが認めた場合
処分権者は、職員が収賄行為に及んだことが確実であるとの確信を得た
段階で懲戒免職処分を行うことになる。
起訴や公判を待たずに懲戒免職処分が可能か?
仮に起訴されても有罪判決が確定するまでは無罪と推定されるのでは?
2 収賄の事実をBが認めない場合
起訴された段階で休職扱いとする(地公法28条2項2号)
その後は公判の経過を踏まえて懲戒免職処分が適当かどうかを検討
諸般の情報収集の結果によっても、職員が収賄行為に及んだことが確
実であるとの確信を得られない場合には、処分時期を検討する必要が
ある。
22
痴漢行為について
設問 A町職員Bは、東京出張の際に電車で痴漢行為を働き逮
捕された。懲戒処分に際してはどのような点に留意すべきか?
Bは被害者と示談して釈放されたが、「本当は冤罪であるが、早
期に釈放されたかったので、罪を認めて、弁護士に頼んで示談
してもらった。」と主張した。
痴漢行為に適用される法律
1 強制わいせつ罪(刑法176条 6月以上10年以下の懲役)
→親告罪
2 迷惑防止条例(懲役6月以下 50万円以下の罰金)
→親告罪ではない
23
他人の財物を窃取する罪→万引きは窃盗罪!
(刑は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)
A町職員B(女性)は、平成18年7月16日、近くの市内にあるス
ーパーで、食品10点(総額7000円相当の代金を支払わずに、
食品を入れたカートを押したまま、駐車場に停車していた自分
の車に戻る途中、警備員に呼び止められた。
Bが警備員に対して住所氏名を言わなかったため、警察官が臨
場したが、警察官に対して窃盗容疑を否認し、所持品検査に際
して暴れ出したため、窃盗容疑の現行犯で逮捕された。逮捕の
事実は、某新聞で報道され、町民及び近隣町村住民の知るとこ
ろとなった。
24
設問① Bに対する懲戒処分として選択すべき処分は何か?
停職か免職か?
設問② 懲戒処分を行う際にどのようなことに留意すべきか?
後日不服申立がなされることを想定して処分手続きを
行うことが必要である。
ア 手続違反を主張されることのないように懲戒審査委
員会で十分弁明させること
イ 責任能力に疑問がある場合には医師に病状を照会
すること
25
精神科医との連携が必要
メンタルヘルス(mental health)とは、精神面における健康(心
の健康)のことである。
こころの健康が損なわれてしまった段階
→ うつ病その他の精神疾患
設問 A町職員Bは、平成26年6月1日から突然行方不明とな
り、以後A町役場には全く連絡せずに、7月1日まで無断欠勤し
た(欠勤日数は23日)。7月2日、Bから7月1日付診断書が提
出され、Bは同日入院したが、診断書には「不安抑うつ状態」と
の病名が記載されていた。A町は、懲戒処分に際してどのよう
なことに留意すべきか?
26
公平審査制度の意義
意義 「法律による行政」の原理と人権の保障を標榜する現代
の法治国家においては、行政庁による違法・不当な処分等に
関して簡易迅速な権利・利益の救済の途を広く国民に保障する
ことは極めて当然の事理であって、行政不服審査法に基づき
不服申立を行う手続きが定められている。公平審理制度は、こ
の行政不服審査法に基づく行政不服審査制度の一環として体
系づけられ、処分の適正を保障するために、事後審査を行うも
のである。→地公法が定める公正取扱の原則(地公法27条1
項)の担保
27
公平審理の基本原則
1 適正・公平の原則 弁明の機会の保障 口頭審理
2 簡易迅速の原則 迅速な権利救済→現実には難しい!
3 職権主義の原則 民事訴訟の当事者主義・弁論主義とは
異なる
4 自由心証主義の原則 証拠調べの結果だけではなく審理に
表れた一切の資料状況を陳述の全趣
旨をも考慮して自由な判断
5 直接審理の原則 委員会が自ら直接当事者に陳述の趣
旨を確認
6 公開口頭審理の原則 口頭審理の請求があった場合には
口頭審理を行わなければならない。
28
公平審理における問題点
行政事件訴訟法7条は「行政事件訴訟に関し、この法律に定め
がない事項については、民事訴訟の例による。」としており、公
平審理においても審査手続きに関しては、訴訟法の分野で学
問的にも最も成熟し、法制的にも最も整備されている民事訴訟
法の理論が取り入れられており、代理人弁護士も民事訴訟法
を念頭に置いて審理の進行を考えるのが通例である。
ところが、公平審理は行政内部の簡易迅速な手続きであり、私
法上の紛争を扱うわけではないので、職権主義を原則としてお
り、当事者主義は原則として妥当しない。主張、立証についても
委員会が主導的な役割を果たすことになるのであるが、この点
については多くの代理人弁護士が違和感を感じるのである。
29
飲酒運転は何故ダメなのか?
道路交通法第65条1項
「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。」
(呼気1㍑中0.15㎎以上)
同法第117条の2
次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役又は百万円以下の
罰金に処する。
① 第65条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等を運
転した者で、その運転をした場合において酒に酔つた状態(アルコールの影
響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。以下同じ。)にあつ
たもの
30
• 酒酔い運転は、アルコール濃度の検知値には関係なく、「ア
ルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある
状態」である場合がこれに該当する。具体的には、直線の上
を歩かせてふらつくかどうか、視覚が健全に働いているか、
運動・感覚機能が麻酔されていないか、言動などから判断・
認知能力の低下がないかなどの点が総合的に判断される。
• 酒気帯び運転は、血中アルコール濃度(又はそれに相当す
るとされる呼気中アルコール濃度)が、一定量に達している
かという、形式的な基準で判断される。
• 平成18年を境に、飲酒運転に対する社会の目が厳しくなり
公務員の飲酒運転の厳罰化が進み懲戒免職処分が増加し
た。飲酒運転は原則懲戒免職とする懲戒処分基準を制定す
る自治体が増加した。
31
平成18年8月25日22時50分ごろ、33歳の会社員・その29歳の
妻・3児の家族5人が乗っていた乗用車が、福岡市西部動物管理
センターに勤務していた加害者(当時22歳:以下、「A」とする)が
運転する乗用車に海の中道大橋で追突された。追突された被害
者側乗用車は橋の欄干を突き破り、そのまま博多湾に転落した。
乗用車は水没し、この結果車内に取り残された4歳の長男・3歳の
次男・1歳の長女の計3名が溺れて死亡した。また脱出に成功した
会社員と妻も軽傷を負っている。
事故当時、Aは80km/hぐらい出していたと供述した。飲酒量もビ
ール数本に焼酎数杯と、相当量の酒を飲んでいる。また、複数の
友人・知人に身代わりを依頼し、断られている事も判明した。
福岡市長は「飲酒運転は厳罰」を表明。2006年9月15日付でA
を懲戒免職とした。Aは危険運転致死傷罪と道路交通法の併合罪
により懲役20年の実刑となった。
32
以下の事例で懲戒免職処分は妥当か?
1 職員Aは、平成24年5月26日(土)午後6時30分頃から親類と居酒屋で
飲酒し、午後9時頃に帰宅した後も午後10時頃まで飲酒した。その後Aは
自宅近くの自動販売機でたばこを購入するため自家用車を運転し、たばこ
を買って自宅に戻ったところ、午後10時31分頃、自宅前の駐車場で警察
官から声を掛けられ、呼気検査を受けた結果、呼気1㍑当たり0.5㎎のア
ルコール分が検出され、酒気帯び運転で検挙された。後日罰金30万円の
略式命令を受けた。
2 職員Bは,平成24年7月6日(金)の午後6時30分から、7日(土)の午前
1時頃まで飲酒し、午前3時頃に帰宅した。午前9時頃、交差点において,
交通事故を起こした。本件事故の態様は、Bの運転する車両が、信号停車
中であった前方自動車に追突した(物損事故扱い)。その際,警察官による
呼気検査において,Bの呼気から呼気1リットル当たり0.49mgのアルコ
ールが検出され,原告は逮捕された。後日罰金30万円の略式命令を受け
た。
33
最後に
• 時代が大きく変化している中で、地方公務員
に求められる行動を自覚し、住民のために、
法務能力を向上させ、明日からもご尽力下さ
い。
• ご清聴ありがとうございました。
34