2015 年 10 月 15 日 No.4 数学を学ぶ (微分積分 2)・授業用アブストラクト §4. 2変数関数の極限と連続性 この節以降、2変数関数の微積分を学ぶ。そのための準備として、まず、2変数関数のグラ フ、平面の2点間の距離、収束などの概念を説明する。次に、2変数関数の極限と連続性につ いて概観する。 ● 4 - 1 : 平面 R2 2つの実数の組 (a, b) 全体からなる集合を R2 によって表わす。幾 何学的には R2 y は平面を表わしていると考えられる。このため、R2 b の要素 (a, b) を点と呼ぶことが多い。 (a, b) x (a, b), (c, d) ∈ R2 に対して、a ̸= c あるいは b ̸= d であれば、 a (a, b), (c, d) は平面上の異なる 2 点を表わすから、 (a, b) ̸= (c, d) ⇐⇒ a ̸= c または b ̸= d (4 - 1 a) が成立する。 ● 4 - 2 : 2 変数関数 D を R2 の空でない部分集合とする。D の中の各点 (x, y) に実数 f (x, y) をひとつずつ対応 させる規則 f が与えられているとき、この対応規則のことを D 上で定義された (2 変数) 関数 と呼ぶ。 例 4 - 2 - 1 単位円の内部 D = { (x, y) ∈ R2 | x2 + y 2 < 1 } の各点 (x, y) に対して、実数 √ f (x, y) = 1 − x2 − y 2 を対応させる規則 f は D 上の関数を定義する。これを √ √ f (x, y) = 1 − x2 − y 2 ((x, y) ∈ D) または f (x, y) = 1 − x2 − y 2 (x2 + y 2 < 1) のように書き表わす。 z ● 4 - 3 : 2 変数関数のグラフ D 上で定義された2変数関数 f (x, y) の様子は、(x, y, z)座標空間内にグラフ (a, b, f(a,b)) { (x, y, f (x, y)) | (x, y) ∈ D } を描くことによりある程度知ることができる。一般に、関 数 f (x, y) のグラフは、(x, y, z)-座標空間において、曲面を x 描く。 例 4 -3 -1 R2 上の関数 f1 (x, y) = x2 + y 2 , f2 (x, y) = −x2 − y 2 , のグラフはそれぞれ次の図のようになる: – 19 – f3 (x, y) = x2 − y 2 (a, b) y f f f これらのグラフを描くには、 • 実数 k を固定して平面 z = k によるグラフの切り口がどんな形かを調べ、 • その後で、k を動かすことにより全体像をつかむとよい。 平面 z = k によるグラフの切り口がわかりにくい場合には、平面 x = k による切り口を考 えたり、y = k による切り口を考えたりするとわかる場合もある。 ● 4 - 4 : R2 における ε-近傍と点列の収束 R2 内の2点 P(a, b), Q(c, d) に対して、 √ PQ = (a − c)2 + (b − d)2 (4 - 4 a) を P, Q 間の距離という。 平面 R2 内の点 (a, b) に対して、(a, b) からの距離が ε (> 0) より小さい点全体のなす集合 √ (4 - 4 b) Uε (a, b) = { (x, y) ∈ R2 | (x − a)2 + (y − b)2 < ε } を (a, b) の ε-近傍と呼ぶ。Uε (a, b) は (a, b) を中心とする半径 ε の円の内部を表わしている。 2 R2 内の点列 {(xn , yn )}∞ n=1 が点 (a, b) ∈ R に収束するとは、2点 (xn , yn ), (a, b) 間の距離 が、n → ∞ のとき、0 に収束するとき、すなわち、 √ lim (xn − a)2 + (yn − b)2 = 0 n→∞ となるときをいう。 ● 4 - 5 : 2 変数関数の極限 f (x, y) を D ⊂ R2 上で定義された関数とし、点 (a, b) ∈ R2 は次の条件を満たしていると する: (4 - 5 a) { どんなに小さい ε > 0 に対しても、Uε (a, b) の中に D に属する (a, b) 以外の点が存在する (a, b) に収束するような、D 内の点列 {(xn , yn )}∞ n=1 (但し、(xn , yn ) ̸= (a, b)) の選び方によ らずに、数列 {f (xn , yn )}∞ n=1 が一定値 α に収束するとき、その実数 α を、(x, y) を (a, b) に 近づけたときの f (x, y) の極限といい、 lim f (x, y) = α (x,y)→(a,b) により表わす。 – 20 – 例 4 -5 -1 関数 f (x, y) = x2 xy + y2 ((x, y) ̸= (0, 0)) について、極限 lim f (x, y) が存 (x,y)→(0,0) 在するかどうかを調べよ。 解; まず、(x, y) を y 軸に沿って (0, 0) に近づけていく場合を考える。この場合の極限は 0·y f (0, y) = 2 = 0 −→ 0 (y → 0) 0 + y2 である。次に、(x, y) を傾き m の直線 y = mx に沿って (0, 0) に近づけていく場合を考える。 この場合の極限は x · mx m m = −→ (x → 0) 2 2 + (mx) 1+m 1 + m2 1 である。特に、m = 1 にとれば、 lim f (x, x) = である。したがって、 x→0 2 1 lim f (x, y) = lim f (0, y) = 0 ̸= = lim f (x, x) = lim f (x, y) y→0 2 x→0 (x,y)→(0,0) (x,y)→(0,0) f (x, mx) = x2 y=x x=0 がわかる。これは、 lim □ f (x, y) が定まらないことを意味する。 (x,y)→(0,0) ● 4 - 6 : 2 変数関数の連続性 f (x, y) を D ⊂ R2 上で定義された関数とし、(a, b) ∈ D を条件 (4 - 5 a) を満たす点とする。 関数 f (x, y) が点 (a, b) ∈ D において連続であるとは、 lim f (x, y) = f (a, b) (x,y)→(a,b) となるときをいう。f がすべての点 (x, y) ∈ D で連続であるとき、D 上で連続、あるいは単に 連続であるという。 例 4 -6 -1 関数 (4 - 6 a) p(x, y) = x ((x, y) ∈ R2 ) は連続である。実際、任意の (a, b) ∈ R2 に対して、(a, b) に収束するような任意の点列 {(xn , yn )}∞ n=1 (但し、(xn , yn ) ̸= (a, b)) をとると、 √ |p(xn , yn ) − p(a, b)| = |xn − a| ≤ (xn − a)2 + (yn − b)2 −→ 0 となる。これは lim (n → ∞) p(x, y) = p(a, b) を意味する。つまり、関数 p(x, y) は任意の点 (a, b) (x,y)→(a,b) で連続である。 同様にして、関数 q(x, y) = y ((x, y) ∈ R2 ) は連続であることがわかる。 □ 1変数関数の極限の場合と同様に、D 上の関数 f (x, y), g(x, y) が (a, b) ∈ D で連続ならば、 4つの関数 f (x, y) + g(x, y), f (x, y) − g(x, y), f (x, y)g(x, y), f (x, y) g(x, y) も (a, b) で連続である。但し、4番目の商についてはすべての (x, y) ∈ D について g(x, y) ̸= 0 を仮定する。 – 21 – 例 4 -6 -2 xy ((x, y) ̸= (0, 0)) は、連続関数 + y2 p(x, y) = x, q(x, y) = y ((x, y) ̸= (0, 0)) 関数 f (x, y) = x2 の積、和、商として表されるので、連続である。このことから、例えば、(x, y) → (1, 2) とした ときの極限が lim f (x, y) = f (1, 2) = (x,y)→(1,2) 1·2 2 = 2 +2 5 12 □ のように計算できる。 – 22 – 2015 年 10 月 15 日 No.4 数学を学ぶ (微分積分 2) 演習問題 4 (x + 2y)2 ((x, y) ̸= (0, 0)) について、次の各極限が存在するかどうか x2 + y 2 を調べよ。存在する場合には、その極限も求めよ。 4-1. 関数 f (x, y) = (1) lim f (x, y) (2) (x,y)→(0,0) lim f (x, y) (x,y)→(2,2) 4-2. 次の 2 変数関数のグラフを描け。 1 ((x, y) ̸= (0, 0)) (1) f (x, y) = 2 x + y2 (2) g(x, y) = sin y + 2 ((x, y) ∈ R2 , −1 ≤ x ≤ 1) – 23 – 数学を学ぶ (微分積分2) 通信 [No.4] 2015 年 10 月 15 日発行 ■ 訂正 第 3 回のアブストラクト 16 ページに誤りがありました。10 行目に「(3 - 3 c) を関数 f (x) の」 という記述がありますが、正しくは「(3 - 3 d) を関数 f (x) の」です。申し訳けありませんが、各 自で修正をお願いします。なお、ホームページ上の pdf ファイルには修正版を載せてあります。 ■ 列挙する数字の記述の仕方–カンマを忘れずに 第 2 回の学習内容チェックシート Q1 の最初の 2 つの設問に答えるとき、an ≤ bn (1, 2, 3, · · · · · · ) や an > 0 (n = 1, 2, 3, · · · · · · ) といった記述をすることになります。その際、 「3」の後ろのカン マがないシートが沢山ありました。いくつか数字や文字を列挙したあと、まだ続くという意味 で · · · を書くわけですが、列挙の最後に記した数字や文字の後ろにカンマ “,” を書く必要があ ります。 ■ 演習 3-1(1) について 収束半径は 1/9 であるという解答が非常に多かったです。これは、 am = 9m (m = a m+1 0, 1, 2, · · · · · · ) とおいて lim を計算し、その逆数を答えとしたためですが、そのよう m→∞ am ∞ ∞ ∑ ∑ にしても正しい答えは得られません。なぜなら、与えられたべき級数 (3x)2m = 9m x2m m=0 m=0 の奇数項は 0 であり、[定理 3 - 2 - 3] における条件 (3 - 2 b) を満たしていないからです。この問 題を解決するためには、講義で説明したように y = x2 とおき、与えられたべき級数を y を変 ∞ ∑ 数とするべき級数 9m y m に書き換えます。:::::::::::::::::::::::::: このべき級数についてはすべての項が 0 でない m=0 ので、[定理 3 - 2 - 3] を適用することができて、収束半径が 1/9 と求まります。y = x2 とおいて :::::::::::: ::::: ∞ √ ∑ いたので、 x を変数とするべき級数 9m (x2 )m の収束半径は 1/9 = 1/3 になります。 m=0 なお、この問題のべき級数は初項が 1 で公比が 9x2 の等比級数の形をしているので、実数 x0 に対して収束するための必要十分条件は 9x20 < 1 となることであり、この不等式を解いて収 束半径が 1/3 という結果を導くこともできます。 ■ 演習 3-2 について 関数の Maclaurin 級数展開はその関数を「無限に項が続く (ことも許した) 多項式」として表 ∞ ∑ わしたものである、という視点が重要です。したがって、演習 3-2 の解答は、 an xn , あるい は、 ∞ ∑ n=0 bm x2m の形 (つまり、xn の係数が何なのかがすぐに分かる形) に整理して答える必要 m=0 があります。 ■ 次回予告 次回は偏微分の定義と計算方法を学びます。偏微分とは、x, y についての2変数関数に対し て、片方の変数を定数とみなして微分することを意味します。 – 24 – 2015 年 10 月 15 日 数学を学ぶ(微分積分2)第4回・学習内容チェックシート 学籍番号 氏 名 Q1. R2 上の関数 f1 (x, y) = 2x2 + y 2 , f2 (x, y) = −x2 − y 2 + 1, f3 (x, y) = x2 − y 2 のグラフをそれぞれ下の枠の中に描いてください。 f1 (x) f2 (x) f3 (x) Q2. 次の表を完成させてください。ページ欄にはその言葉の説明が書かれているアブストラク トのページを書いてください。 ページ 意味 点 (a, b) ∈ R2 の ε-近傍とは? p. R2 内の点列 {(xn , yn )}∞ n=1 が p. (a, b) に収束するとは? R2 の部分集合 D 上で定義 された関数 f (x, y) について p. lim f (x, y) の意味は? (x,y)→(a,b) D ⊂ R2 上で定義された関数 f (x, y) が (a, b) ∈ D で連続で p. あるとは? D ⊂ R2 上で定義された関数 p. f (x, y) が連続であるとは? Q3. 連続関数の和、差、積、商が連続であることを用いて、関数 xy f (x, y) = 2 ((x, y) ∈ R2 ) x +1 が連続である理由を下の枠内に書いてください。 Q4. 第4回の授業で学んだ事柄について、わかりにくかったことや考えたことなどがありまし たら、書いてください。
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