血液浄化法の工夫 【目的】 医療の進歩や技術の向上により、慢性維持透析患者の高齢化が進んでいる。しかし透析患 者の高齢化に伴いさまざまな合併症があり、その中で透析中の血圧維持の不安定から生じ る、いわゆる透析困難症と呼ばれる病態がある。その透析困難症に対して血液浄化法の工 夫を施行したのでここに報告する。 【症例】 年齢 70 歳代女性 透析歴 11 年 糖尿病 なし DW 31.5 ㎏ 既往歴 脳梗塞(左不全麻痺) 狭心症 左大腿骨骨折 右硬膜下血腫 【透析条件】 透析液 カーボスターL QD 500ml/min QB 120ml/min ダイアライザー KF-08c 抗凝固剤 メシル酸ナファモスタット 【経過】 入院中に原因不明の発熱が続き、意識レベルが低下し、循環動態が不安定となり透析が困 難となりました。そこで循環動態の安定のため低PV血液回路の変更、昇圧剤の使用、高 ナトリウム透析、ALB2.2g/dl と安定したため、ALB 製剤の使用を開始しました。除水は除 水プログラムを使用し、循環動態の経過を観察しました。 【HD】 HD 160 20 透析液Na濃度 140 15 120 10 収縮期血圧 100 5 80 0 BV 60 -5 40 -10 20 -15 除水 0 -20 開始前 1h 2h 3h 4h まずグラフの説明です。左の縦軸が血圧の数値、右の縦軸はBVの数値を表わし ています。横軸は時間を表わしています。青い折れ線が収縮期血圧、緑の折れ線 が透析Na濃度、赤い曲線がBV、オレンジ色の棒グラフが除水であり、このグ ラフの除水は均一に除水をしていることを表しています。ブラットボリュウムの 少ない血液回路を用いて透析を施行したときのグラフですが、透析開始から一時 間目のときに血圧が下降しています。昇圧剤を使用し上昇していますが、終了時 には下降しています。 【高 NaHD】 高NaHD 160 透析液Na濃度 140 120 5 80 0 BV -5 40 20 15 10 収縮期血圧 100 60 20 -10 -15 除水 0 -20 開始前 1h 2h 3h 4h 原因不明の発熱が続き、意識レベルが低下したため高ナトリウム透析を開始しま した。高ナトリウム透析は Na156mEq/l~開始し段階的に Na 濃度を減少させ、最 終的には Na 濃度が 140mEq/l になるように設定しました。透析の終了に血圧が下 降してますが、昇圧剤を増量することなく施行することができました 高NaHD・ALB 160 透析液Na濃度 140 120 5 80 60 0 BV -5 40 20 15 10 収縮期血圧 100 20 -10 -15 除水 0 -20 開始前 1h 2h 3h 4h ALB2.2g/dl と、低下したため、ALB 製剤の使用を開始しました。透析開始より投 与することで BV の変化は緩徐となりましたが、血圧は不安定であり、透析が困難 な状況に変化は見られませんでした。 【高 NaHD・ABL 開始~20分除水0】 高NaHD・ALB 開始~20分除水0 160 20 透析液Na濃度 140 15 収縮期血圧 120 10 100 5 80 60 0 BV -5 40 -10 20 -15 除水 0 開始前 1h -20 2h 3h 4h そこで一時間目にみられる血圧の下降に対して、開始~20分間除水0にし、 BV が5%になるように循環動態を安定させてから除水を施行するようにしまし した。開始~20分間除水を0にすることで、開始一時間目の血圧の下降には有 効でしたが、透析後半の血圧下降に関した効果がありませんでした。 【高 NaHD・ALB 開始~60分除水0・除水プログラム】 高NaHD・ALB 開始~60分除水0・除水プログラム 160 透析液Na濃度 140 120 100 収縮期血圧 20 15 10 5 BV 80 0 60 -5 40 -10 20 -15 除水 -20 0 開始前 1h 2h 3h 4h 開始~一時間目まで除水0にし、BV が10%になるように循環動態を安定させて から透析を施行しました。さらに透析の後半の血圧下降を防ぐ為に徐々に除水速 度が遅くなるように除水プログラムを使用しました。瞬間動態を十分に安定させ てから除水することで安定した透析ができるようになりました。 【収縮期血圧の移行】 収縮期血圧の推移 180 160 HD 140 高Na HD 120 高Na HD ALB 100 高Na HD ALB 開始~20分除水0 80 高Na HD ALB 開始~60分除水0 除水Pro 60 開始時 1h 2h 3h 4h これが収縮期血圧の平均を比較したグラフになります。グラフのとおり、通常透 析を施行した青い折れ線グラフより徐々にではありますが、収縮期血圧は上昇し、 最終的なグラフは赤い折れ線となりますが、循環動態が安定しているのがわかり ます。 【除水量】 除水量 1500 1400 1400 1350 1300 1200 1100 1233 1200 1100 1000 900 800 1W 2W 3W 4W 5W これが除水量の平均を算出したグラフになります。 1週目の通常透析の時の除水が1100でしたが、循環動態を安定させたことで 最終的に除水は1400と除水量を増加させることができました。 【昇圧剤の使用量】 昇圧剤平均使用量 3 2 1W 2W 3W 4W 5W 1 0 開始時 1H 2H 3H 終了時 これが昇圧剤の総量の平均を算出したグラフになります。昇圧剤の使用量は透析 後半に関して僅かではありますが、減少傾向になりました。 【結果】 高ナトリウム透析、アルブミン、除水プログラムを併用し、行うことで循環動態 が安定し、除水量も確保でき、透析を施行することができました。昇圧剤の使用 も僅かにあるが減量することができました。 【考察】 透析歴の長期化による透析患者の高齢化がが進み、様々な患者がいるなかで安定 した透析の確保と十分な除水量を得る為にはここの患者にあった適切な透析、除 水法の工夫が必要であると考える。
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