16 哺育牛の血清生化学的検査値の変化及び 血中ウシハプトグロビンの

16
哺 育 牛の 血 清 生化 学 的 検査 値 の 変 化及 び
血 中 ウシハ プトグロ ビ ン の検 出
倉吉家畜保健衛生所
⃝小西博敏
鳥取家畜保健衛生所
栗原昭広
1. はじ め に
哺育牛は下痢・虚弱・発育不良などが多発し、その被害は大きいが、哺育牛の血液検査
は主に病態の把握、初乳摂取状況の確認として行われているのみであり、子牛の血清生化
学的検査による牛群の評価はほとんど行われていない。今回、哺育牛の損耗防止の一助と
することを目的として、哺育期における血清生化学的検査値の変化について検討し、また
急性期反応物質の一種であるウシハプトグロビン(以下Hp)を検出し、その傾向を検討
した。
2. 材料 及び 方 法
供試子牛は6∼75日齢のホルスタイン種及びF
表1 検査項目及び方法
1で、調査農場は1週齢産子を導入して哺育育成す
る県内の2農場、症状の区分として①臨床的に異常
H t (ヘマトクリット毛細管法)
の認められないもの(以下通常牛)189頭、②下
T P ,AL B ,B UN ,T C ,A ST ,G GT ,A L P(ドライケミスト
リー)
痢を呈しているもの(以下下痢牛)34頭に区分し
A / G比,GL (T P- AL B )
た。検討事項として、各検査値の変動を日齢・症状
区分別に、また各検査項目の相関を検討した。検査
項目は、Ht、ドライケミストリーの各項目、SS
亜硫酸ナトリウム混濁試験(S ST T )
血清タンパク質分画(セルロースアセテート膜電気泳動法)
ビタミンA ,ビタミンE (HP L C 法)
ハプトグロビン(Hp)(ラテックス凝集反応法)
TT、血清タンパク質分画、ビタミンA、ビタミン
Eを表1に示した方法で、またHpはラテックス凝集反応法により実施した。
Hpの検出について表2に示した。Hpは急性
表2 ハプトグロビン(Hp)の検出
期反応物質の一種で、肝臓で産生され、健康時の
ウシの血中にはほとんど検出されないが、肺炎、
乳房炎、子宮蓄膿症、創傷性胃炎などの感染症で
は感染後6時間∼3日の間に著しく増加・変動し、
その値は病勢を反映するといわれている。1) ラ
テックス凝集反応法のメリットとして、検出方法
●ハプトグロビンとは
急性期反応物質の一種で、肝臓で産生
●検出の意義
・健康時のウシの血中にはほとんど検出されない
・感染症などでは感染後6時間∼3日の間に著しく
増加・変動
・値は病勢を反映して増減
●ラテックス凝集反応法のメリット
・検出方法が簡便かつ迅速
・全血が検査材料として使用可能
が簡便かつ迅速であり、全血が検査材料として使
用可能なことから野外でも使用できることがあげられる。
3. 結果
<日齢・症状別Ht、TP、ALB、GL(TP−
70
60
50
40
30
20
10
0
日齢別・症状区分別の各検査結果を図1に示す。
ひし形が通常牛、四角が下痢牛を示す。下痢牛は約
20
8
40
0
60
6
5
◆:
通常
60
GL(TP -A
GL(TP
ALB
LB )
□
:
下痢
1
0
3
0
0日まで低下し、その後上昇した。ALBはほぼ2.
40
3
2
4
囲に分布した。TPもばらつきがみられたが、約3
20
6
5
4
g/ d L
g/ d L
2
1
TP
7
ばらつきがみられるものの、概ね25∼45%の範
AL B
4
3
0
0
10∼50日齢までにみられた。ヘマトクリットは
6
5
Ht
Ht
g/ d L
%
ALB)の分布;図1>
20
40
60
0
20
40
60
図 1 日 齢 ・症 状 別 Ht、TP、 ALB、 GL(TP-ALB)の 分 布
5∼3.5g/dLの範囲で分布し、下痢牛は通常牛よりも低い傾向であった。GL(T
P−ALB)は30日齢までTPと同様に低下した。
<日齢・症状別A/G比、α-,β-,γ-glの分
2 .5
A/G比は約30日齢まで高いものがみられ
2
1 .5
1. 5
1
0 .5
た。α−glは0.5∼1.0g/dLの間に分
1
20
2 .5
40
60
0
60
□:
下痢
1 .5
g / dL
1
40
γ-グロブリン
グロブリン
2
1 .5
g / dL
20
2 .5
α-グロブリン
2
1
0 .5
0 .5
0
0
0
<日齢・症状別SSTT、BUN、T−cho、
◆:
通常
0
0
きがみられたが、日齢とともに低下した。
β-グロブリン
グロブリン
0. 5
0
布し、β−glはTP同様に30日齢まで低下、
下痢牛では低い傾向であった。γ−glはばらつ
2. 5
A /G比
/G比
2
g / dL
布;図2>
20
40
60
0
20
40
60
図2 日齢・症状別A/G比、α-,β-,γ-glの分布
ASTの分布;図3>
SSTTは日齢とともに低下の傾向であった
100
50
0
0
20
40
50
60
0
20
30
BU N
40
40
60
A ST
AS
T
U/ L
20
◆::
通常
□:
:
下痢
200
30
100
10
0
30∼50日齢までで高い値を示す個体がみられ
た。
150
0
mg/ d L
布したが、下痢牛では低い値を示した。ASTは
mg/ d L
2
1
値を示す個体が多くみられた。T−choは、通
常牛では50∼150mg/dLまでの範囲に分
200
3
日齢までやや低く、その後上昇、下痢牛では高い
TC
250
4
+
が、かなりのばらつきがみられた。BUNは10
SSTT
5
0
0
20
40
60
0
20
40
60
図 3 日 齢 ・症 状 別 SSTT、BUN、 TC、ASTの 分 布
<日齢・症状別GGT、ALP、VA、VEの分布;図4>
GGTは日齢が進むにつれて低下し、約40日
800
150
GGT
VEもビタミン剤投与したものが含まれ、概ね1
00μg/dL以上を示したが、下痢牛では低い
傾向であった。
50
0
0
20
120 0
40
0
60
AL P
100 0
80
U/ L
V
VA
A
100
0
多くみられた。VAはビタミン剤を投与したもの
に分布し、下痢牛では低値を示す個体がみられた。
IU / dL
200
がみられたが、20日齢まで高い値を示す個体が
も含まれるが、ほぼ30∼70IU/dLの範囲
400
μg / dL
齢で通常のレベルになったた。ALPはばらつき
U/ L
600
600
400
200
0
0
20
40
60
70
60
50
40
30
20
10
20
0
0
0
0
0
0
0
0
40
60
VE
0
20
40
◆:
通常
通常
□:
下痢
下痢
60
図 4 日 齢 ・ 症 状 別 GGT、ALP、 VA、 VEの 分 布
<γ-グロブリンとGL( TP−ALB)
、TP、
5
4
3
2
R22=0.67
1
したところ、GL(TP−ALB)(決定係数R
3
+
U /L
γ−グロブリンと各検査項目との関連を検討
2
0
0
0 .5
9
8
7
6
5
4
3
2
g / dL
48)の順に相関がみられた。
R2 =0.54
0.54
1
0
2=0.67)、TP(R2=0.55)、SS
SSTT
6
4
SSTT、A/G比との相関;図5>
TT(R2=0.54)、A/G比(R2=0.
GL
G
L(TP(TP-ALB
LB)
)
5
1
1 .5
0
2
0. 5
1
2. 5
TP
1. 5
2
A/G
R2 =0.48
2
1. 5
1
R
R2 =0.
=0.55
55
0. 5
0
0
0. 5
1
1 .5
0
2
0 .5
1
1 .5
2
図 5 γ-グロ ブリン とGL(TP-ALB)、TP、SSTT、A/Gとの相 関
<Hpの検出結果;図6>
Hpは10∼40日齢の間で通常牛・下痢牛
表2 症状別Hpの検出割合
ともに検出され、検出割合は通常牛で21%、
症状
頭数
−
+
++
+++
++++
検出
頭数
検 出%
下痢牛で32%であった。Hpは血清タンパク
通常
1 89
149
11
11
16
2
40
21
下痢
34
23
2
5
2
2
11
32
5
2
Hp
α- グロ ブリ ン( g / d L)
質分画ではα−glに含まれるが、α−グロブ
4
リンとの相関はR2=0.11と高くなかった。
+
3
2
1
4. ま とめ 及び 考察
哺育牛のTP、ALB、ビタミンAは血中レ
R2 =0.
=0 .11
11
1. 5
1
0. 5
0
0
0
10
20
30 4 0
日齢
50
60
図6 日齢・症状別Hpの検出
0
1
2
3
H p( +)
4
図7 Hpとα-グロブリンとの相関
ベルが低く、特にビタミンAについては成牛の
半分程度で、これは生理的なものと思われた。7∼30日齢にかけてTP,GL(TP−
ALB),GGT,β−及びγ−glが低下したがばらつきが大きいことから、哺育牛の
移行抗体レベルには大きなばらつきがあると思われ、哺育農場では疾病の予防及び早期発
見・早期治療が最重要である思われた。γ−glとの間にGL(TP−ALB)、TP、
SSTT、A/G比の順に相関がみられ、哺育牛の移行抗体レベルの確認にはGL(TP
−ALB)およびTPが十分代用できると思われた。症状別にみると、下痢牛では通常牛
よりもALB、T−cho、β−gl、ビタミンA、ビタミンEが低く、BUN、AST
が増加する傾向であり、止寫薬・補液など通常の治療に加えてビタミン剤の投与が必要で
あると思われた。Hpは下痢牛のみならず通常牛でも確認され、牛群のストレス状態を鋭
敏に反映している可能性が示唆され、その検査手技も簡便なことから牛群の管理、臨床現
場等で検討すべき検査項目と思われた。
参考文献
1) 農林水産省家畜衛生試験場編;牛呼吸器病早期診断マニュアル:急性期反応物質によ
る診断の手引き(2001)