放 村 喜 則

島根大学文理学部紀要
理学科編
9111−120頁 1975年12月20日
三 瓶 山 の 自 然 VI
男三瓶山北斜面の植生
布久 村 喜 則
島根大学文理学部生物学教室
(1975・9・6受理)
Natura1env1ronmentsofMt Sambe VI
Veg1tat1onm thenorth s1ant ofMt Osambe
Yoshmor1SUGIMURA
I.はじめに
男三瓶山北斜面のブナ林およびその下部の樹林の植生調査をおこなった。従来北斜面にブ
ナ林が存在することは知られているが,その林内の詳細な調査はなされていないようであり,
ブナ林下部の樹林についても出現植物の調査はなされても,樹林全体の様相は明らかにされ
ていない。
II.調査方法
男三瓶山(1126m)東方の稜線,標高約1110mの地点AおよぴB,また標高約1080mの
地点Cよりそれぞれ山麓に向けて,50m間隔でコドラート(10m×10m)を設定し(第1
図),既報と同様にブラウン・ブランケの全標価法によって各植物の出現度階級を調べた。
調査は昭和49年5月4日∼6日と昭和50年5月17日,18日におこなった。
III.結果ならびに考察
調査の結果,男三瓶山北斜面の樹林は斜面上部にブナ群落,下部にはミスナラーイヌシテ
群落およびイヌシデ群落が存在することが確認された。(第1表,第2表,第3表)また,
山麓の丘陵地は,コナラ・アカマツ・クロマツ・クマノミズキ・ノグルミ・オニグルミなど
の樹種からなるモザイク状の群落がみられた。
ブナ群落は標高850m附近より1110m附近まで,ほぼ純林の様相を示している。このブ
ナ群落はその構成種から植物杜会学上でのブナークロモジ群集の範曉に入れられるものと思
われる。この区域の低木層においては,クロモジが全域にかなり高い被度で出現している。
山頂附近より北西にのびる尾根筋では多くのホッッジが出現し,クロモジより優勢な場合が
木久村喜’則
112
第1図 三瓶山北斜面植生調査地
第2図 ブナ群落内の様相
第3図 三瓶山北斜面全景 イヌシデ群落内に天然生のスギがみられる
ある。クロモジ,ホッッジのほかにオォヵメノキ,アクシバ,コァジサイなどが多く出現す
る種類である。中国山地のブナ帯にまでみられるエゾユズリハ・ヒメモチなどは今回の調査
地内には出現していない。また,この北斜面上部は40o∼45o前後の急斜面であり,林内は非
常に湿潤でササ類の生育はほとんどみられなかった。草本層には,林内全域に優占するもの
はほとんどなく,シシガシラ・オオカニコウモリ・ミヤマカタバミ・ニシノホンモンジスゲ
・コバノフユイチゴ・アキノキリンソウ・チゴユリ・ヤマシロギク・カンスゲなどがいずれ
も出現度のかなり高い植物といえる。
113
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116
秋村喜則
山頂から麓に向って下ると,標高850m附近よりブナの出現が減り,イヌシデが高木層に
優占している樹林となる。このイヌシデ林も谷沿いの湿潤地では多くのミズナラを混じえ,
ミズナラーイヌシデ群落となり,谷沿いからはずれた巾広い尾根筋ではミズナラの混生しな
いイヌシデ林となっている。
ミズナラーイヌシデ群落は標高850m∼900m(ブナ分布の下限)から700mの範囲に形成
されている。また山頂より北に下る谷の標高800m附近にもみられる。ミズナラーイヌシデ
群落の構成高木種は,ミズナラ⑧イヌシデが優占するほかにイタヤカェデ⑧ウリハダカェデ
⑧アカシデ⑧クマシ’デ⑧クマノミズキ⑧ミズキ⑧クリ⑧ケヤキ⑧イタヤメイゲツ⑧ミズメな
どの落葉樹種がみられる。(第1表)低木層にはブナ林につつき,クロモジが林内全域に出
現し,ハイイヌガヤ⑧ハイアジサイ⑧ハナイカダ⑧ミヤマホウソなどの生育がみられる。草
本層にはニシノホンモンジスゲ⑧カンスゲ⑧リョウメンシダ⑧ジュウモンジシダ⑧ミヤマカ
タバミ⑧サンインスミレサイシンなどがほとんど全域に出現している。
ミズナラ群落は,しばしぱブナ群落の下部に発達するものといわれるが,ここ男三瓶山北
斜面はかなりの急斜面で40o∼45o前後の傾斜をもつことから,急斜地に群落を形成するシデ
類の侵入をみ,ミズナラーイヌシデ群落が発達している。
ミズナラーイヌシデ群落の北側斜面は大きな谷もみられず,やや単純な傾斜地(傾度30o
∼35◎前後)で,ミズナラが欠如したイヌシデ優占群落となっている。高木層は,イヌシデ’
についで,ミズキ⑧ウリハダカェデ・オニグノレミ⑧ツクシトネリコ⑧クリ⑧クマシデ⑧アカ
シデ⑧ホウノキ⑧イタヤカェデ⑧ヤマザクラなどが出現する。また,このイヌシデ群落内に
は,天然生と思われるスギがかなり出現し,山麓から遠望しても,その侵入のようすが明ら
かに認められる。低木層,草本層ともミズナラーイヌシ’デ群落内とほぼ同様な状態で,クロ
モジ⑧ハイイヌガヤ⑧ハイアジサイ⑧ハナイカダ⑧ニシノホンモンジスゲ⑧カンスゲ⑧ミヤ
マカニ■スゲりヨウメンシダ⑧クサソテツ⑧ミヤマカタバミなどが全域に出現している。
摘 要
1.男三瓶山北斜面の植生調査をおこなった。
2.男三瓶山斜面の植生は標高850m附近より高所はブナ群落であり,ブナ群落の下部には
ミズナラーイヌシデ群落とミズナラの欠如したイヌシデ群落が形成されていることが確
認された。
3.三瓶山北斜面のブナ群落はブナークロモジ群集の範曉に入れらるものと思われる。
4.男三瓶山北斜面のイヌシデ群落内には天然生のスギがかなり分布していることが判明し
た。
三瓶山の自然.VI
117
第4表 男三瓶山北斜面ブナ群落の組成表
調査地
高木層ブナ
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ミズナラ
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クマシデ
亜高木層ブナ
アズキナシ
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秋村喜則
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ヌカボシソウ
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タチツボスミレ
シシウド
サラシナショウマ
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シコクフウロ
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十
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クマシデ
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タニウツギ
ミズキ
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アズキナシ
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ホウノキ
ヤマツツジ
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トウゲシバ
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