平成 14 年度 新世代研究所 研究助成報告書 概要版 原子間力顕微鏡を用いたタンパク質の一分子粘弾性計測 東京工業大学 大学院生命理工学研究科 岡嶋 分子生命科学専攻 孝治 原子間力顕微鏡(AFM)を用いた分子延伸測定法(フォーススペクトロスコピー)は、1 分子の相転移挙動を調べるための有用な方法の1つになりつつある。この方法では、AFM のカ ンチレバー探針と基板表面との間に1分子を挟み込み、分子を延伸または収縮させるときの張力 と延伸距離との関係から、分子の構造変化に関する知見が得られる。例えば、タンパウ質のよう に固有な折り畳み構造をもつ分子を延伸させると、構造転移(アンフォールディング)の振る舞 いがカンチレバーに働く張力の変化として観察される。 この手法を拡張して構造転移の緩和過程を1分子レベルで計測することが本研究の主たる目 的である。そこで、摂動的な調和振動下の1分子の力学的応答をミリ秒領域で測定できるAFM 装置を試作し、静的な延伸特性が比較的よく分かっているタンパク質分子をターゲットとし、そ の1分子挙動を測定した。 図1は、試作した粘弾性計測装置の概略図である。市販の AFM 装置(SPM-9500、島津製作 所)をベースに、光検出部とピエゾ制御部を改変している。この装置は、走査用のチューブスキ ャナーと小型円板状のピエゾを用いている。前者は、分子の延伸距離を変化させる目的にもちい ており、後者は分子を振動させるために用いている。測定では、円板状のピエゾを用いて基板を 約 10nmpp 振動させた状態にし、延伸測定を行う。各々の延伸位置におけるカンチレバー変位 の時系列データを取得し、延伸に対する動的挙動を計測する。 分子としてウシ由来炭酸デヒドラターゼ II 型の変異体を用いた。この変異体は、天然型構造 で活性があるタンパク質分子(Type I と呼 ぶ)と僅かに構造が変化し活性がないタン パク質分子(Type II と呼ぶ)の2つのコ ンフォーマーをもつ。従って、構造と動的 挙動との関係を調べる上で良好な試料で ある。 振動周波数を 50Hz-100Hz で測定をし た結果、Type I と Type II とでは異なる動 的挙動を示すことが分かった。つまり、 Type I では逆位相の応答を示すことがあ るのに対し、Type II では常に同位相の応 答を示すことが分かった。そして、構造転 移近傍の振る舞いの測定から、このような 構造と力学応答との関係が明確に示された。 図1 1分子粘弾性測定用 AFM 装置の概念図
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