平成 26 年度 人間情報工学領域 修 士 論 文 要 旨 6625035 中岡 広志 物理機能モデルによる三次元人体-シート系の 振動モデルの開発に関する研究 1 諸 言 自動車の走行において,快適性を損なう一つの 要因として振動が挙げられる.これらの振動は, 乗員の疲労や腰痛などに影響を及ぼす.このため, 運転手に影響する振動を調査するために多くの人 体のモデル化に関する研究が行われている.古庄 ら[1]は,三次元の数学モデルを用いて,乗員の衝突 時の挙動について数値計算によりシミュレーショ ンすることを試みているが,人体とシートの接触 が考慮されていない.また,西山[2]は,車両および 乗員の動的特性を把握するために車両-乗員系の 連成振動モデルを構築し,振動解析を行っている が二次元の振動モデルのため上下・前後方向の解 析しか行うことができない.そこで,本研究の目 的は上下・前後・左右方向の振動解析が可能な三 次元人体-シート系の振動モデルを構築ることで ある。 2 三次元両端質量柔軟はりモデル 2.1 物理機能モデル 物理機能モデルは,機能を表現した特性,作 用,状態を視覚的に理解するためにブロック線 図を基本とし,解析や処理を行うための数学モ デルを伴う.扱われる物理量は,状態量,特性 および変換子の 3 種類である.機能とエネルギ ーは,工学分野や物理単位系を超えた働きをす ることから,これらの分野に縛られない同一規 則に従ってモデル化することができる. 2.2 三次元両端質量柔軟はりモデル 人体の振動モデルを構築していく上で,三次元 両端質量柔軟はりモデルを人体モデルの要素モデ ルとして適用する.図 1 に三次元両端質量柔軟は りモデルの構造を示す.三次元両端質量柔軟はり モデルの構造は,両端に質量を有し,それらを連 結するためにばねとダンパが存在するモデルであ る.三次元両端質量柔軟はりモデルは人体をモデ ル化するにあたり,両端の質量の比を自由に変え ることができ,人体内部の弾性と減衰の特徴を表 すことができる.また,三次元両端質量柔軟はり モデルは並進系,回転系の運動を考慮している. 図 1 三次元両端質量柔軟はりモデルの構造 2.3 三次元両端質量柔軟はりモデルの検証 妥当性を検証するため,過渡応答特性と周波数 応答特性の検討を行う.図 2 に過渡応答特性の解 析結果を示す.変位 0.1m,周期 10s の単一正弦波 状突起を入力したとき,入力変位と出力変位がほ ぼ一致した.これは,非常に低速で進むため入力 変位と出力変位が同じ軌跡を示したものだと考え られる. 図 3 に周波数応答特性の解析結果を示す. 振幅 0.001m の正弦波を周波数が 1~20Hz までを 90s 対数掃引し,出力加速度を入力加速度で除した ものをフーリエ解析する.また,一自由度の固有 振動数の式から固有振動数 4Hz を満たすばね定数, 質量を設定し検証を行う.図 3 から 4Hz 付近にお いて加速度比のピークがみられる.よって,過渡 応答特性と周波数応答特性の解析結果から三次元 両端質量柔軟はりモデルは妥当性があるといえる. 図 2 過渡応答特性 図 3 周波数応答特性 3 三次元人体シート系モデル 3.1 三次元人体シート系モデルの構築 図 4 に三次元人体-シート系の物理機能モデ ルを示す.人体各部を頭部,胴体部,左右の上 腕部,前腕部,大腿部,下腿部の 10 個に分け三 次元両端質量柔軟はりモデルを要素モデルとし て適用し,それらをつなぎあわせることにより 三次元人体モデルを構築する. 図 5 人体各部の過渡応答特性 図 4 三次元人体モデルの構造 図 6 人体各部の周波数応答特性 3.2 振動モデルの検証 図 5 に人体各部の上下方向の変位の解析結果 を示す.入力波形は,変位 0.2m,周期が 20s の 一波長正弦波状突起を用いた.また,シート下 の 4 カ所,左右のペダルおよびステアリングホ イールの計 8 点から同時に入力を行った.図 5 から,入力に対して,頭部,胴体部,大腿部, 下腿部,上腕部および前腕部の左右に関わらず 出力の変位はほぼ 0.2m となり,入力と出力は同 じ特性を示した.これは,入力変位に対して非 常に遅い速度で進むため入力変位と人体の各部 位の出力変位が一致したものと考えられる. 図 6 はシート,ペダル,ステアリングホイール の計 8 点から同時に入力を行ったときの人体各部 の周波数応答特性の解析結果を示す.人体の各部 においておよそ 5.0Hz において加速度比のピーク 値がみられた.ピーク値はそれぞれ,頭部は 2.78, 胴体部は 2.66,上腕部は 2.29,前腕部は 1.82,大 腿部は 2.34 そして, 下腿部は 1.41 であった.次に, 構築した人体モデルの有用性を検証するため,実 測による結果と比較を行う.図 7 は,頭部の比較 を示す.解析値が 4.95Hz でピーク値 2.78,実測値 が 4.08Hz においてピーク値 2.72 がみられた.解 析結果と実測の結果から,共振点とピーク値に少 し違いはみられたが傾向はよく似ているものと思 われる.共振点とピーク値に違いはみられた原因 として人体およびシート系振動モデルのパラメー タの精度に問題があったと考えられる.このため, パラメータの値は修正の必要はあるが,構築した 三次元人体-シート系のシミュレーションシステ ムには妥当性があると考えられる. 図 7 頭部の解析値と実測値の比較 4 結言 本研究で明らかになったことを以下に示す. (1) 要素モデルとして,三次元両端質量柔軟はりモ デルを提案し,構造,運動方程式および物理機 能モデルによるモデル化手法を示した. (2) 人体各部に開発した要素モデルを適用して,上 下・前後・左右の振動解析が可能な三次元人体 -シート系の振動モデルを構築した. (3) 過渡応答特性,周波数応答特性の振動解析を行 い,三次元人体-シート系の振動モデルの妥当 性を検証した. 参考文献 [1] 古庄宏輔,横家和男,藤木総,追突時の乗員 挙動の解析(第1報, 乗員の動きのシミュレー ション),自動車技術,Vol.23, No.4(1969), pp.346-353. [2] 西山修二,車両-乗員系連成振動シミュレー ションシステムの開発(第 1 報,理論解析及び システム検証) ,日本機械学会論文集 C 編,Vol. 59, No.568 (1993), pp.3613-3621.
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