血液培養における「嫌気培養ボトル」併用の有効性評価 -費用効果分析

血液培養における「嫌気培養ボトル」併用の有効性評価
-費用効果分析と迅速陽性判定の解析から-
○比嘉 美也子 1), 山根 誠久 2), 木佐貫 京子 1), 仲宗根 勇 1)
1) 琉球大学・医病・検査部, 2) 同 医・臨床検査医学
【目的】血液培養は菌血症診断の gold standard であり、その臨床的意義は極めて大きい。
現在、血液培養では、画一的に好気培養ボトルと嫌気培養ボトルを用いているが、血液培
養からの偏性嫌気性菌の検出率は激減し、事実、琉球大学医学部附属病院でもその陽性率
は 0.2%(2007 年)に過ぎなかった。今回、本院で実施された血液培養を後方視的に解析し、
すべての血液培養検査で嫌気培養ボトルを併用することの有効性を評価したので報告する。
【材料と方法】
解析対象は、
2007 年 1 月から翌年 2 月までの期間、
好気培養ボトル(BACTEC
Plus Aerobic/F Culture Vial)と嫌気培養ボトル(BACTEC Plus Anaerobic/F Culture
Vial)が“対”で提出された 2,799 件と、2008 年 2 月から 5 月までの期間、好気培養ボトル
(BacT/ALERT 3D/FA)と嫌気培養ボトル(BacT/ALERT 3D/SN)が“対”で提出され
た 985 件とした。血液培養ボトルは、それぞれの専用血液培養システム、 BACTEC
9120(Becton, Dickinson Co., USA)と BacT/ALERT 3D (bioMerieux, France)にて 7 日間
振盪培養して菌発育の有無を判定した。
【結果】菌発育陽性に判定され件数は BACTEC で
2,799 件中 401 件(14.3%)、BacT で 985 件中 102 件(10.4%)であった。2 種類の培養ボトル
共に陽性が、BACTEC で 255 件、BacT で 64 件であった。これら共に陽性となった事例
で、BACTEC で陽性判定に要した培養時間は、好気培養ボトルが嫌気培養ボトルに比べ平
均 2.02 時間短く、BacT でも好気培養ボトルが平均 2.85 時間早く陽性を判定した。好気培
養ボトルでの陽性判定が、嫌気培養ボトルに比べ 2 時間以上早く出力された件数は、
BACTEC で 81 件(31.8%)、BacT では 14 件(21.9%)であった。逆に嫌気培養ボトルがより
早く陽性判定した件数は BACTEC で 47 件(18.4%)、BacT で 10 件(15.6%)であった。そ
れぞれの血液培養システムでの陽性判定の内、“嫌気培養ボトルのみ陽性”は BACTEC 63
件(2.3%)、BacT 10 件(1.0%)であった。これら嫌気培養ボトルのみで菌発育を認めた 63 件、
10 件中、偏性嫌気性菌が検出された頻度は 4 件(0.14%)、1 件(0.10%)であった。【考察】2
種類の培養ボトルを併用する標準的な血液培養の手順を評価したが、嫌気培養ボトル併用
による付加的な有効性を確認できなかった。偏性嫌気性菌の分離頻度が激減した結果、1 件
の偏性嫌気性菌の検出に 60_80 万円の経費を必要とする。加えて、嫌気培養ボトルでの陽
性判定がより短時間の培養で得られるという成績も得られなかった。以上の結果は、嫌気
培養ボトルの盲目的な併用に否定的な立場を支持し、症例を正しく選別して嫌気培養ボト
ルを適宜使用する手順が勧められる。